AN/SPY-7
種別 | 3次元レーダー |
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目的 | 多機能 (捜索・捕捉・追尾) |
開発・運用史 | |
開発国 | アメリカ合衆国 |
送信機 | |
周波数 | Sバンド |
アンテナ | |
形式 | アクティブ・フェーズドアレイ(AESA) |
素子 | 窒化ガリウム(GaN)半導体素子 |
AN/SPY-7は、アメリカ合衆国のロッキード・マーティン︵LM︶社が開発しているフェーズドアレイレーダー。国土防空・ミサイル防衛用の対空捜索レーダーのほか、艦載用の多機能レーダーとしても用いられる予定である。
設計[編集]
LRDR︵長距離識別レーダー; 英語: Long Range Discrimination Radar︶は、地上配備型の弾道弾迎撃ミサイルであるGBI︵Ground Based Interceptor︶と組み合わせて運用される早期警戒レーダーとして開発された[1][2]。そして2019年11月、本機をAN/SPY-7(V)1と称することが決定された[3]。 LM社社内ではLMSSR︵Lockeed Martin's Solid State Radar︶とも称されていたとおり、窒化ガリウム︵GaN︶製の半導体素子を用いたアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナを採用しており[2][3]、試作版では日本の富士通製のGaN素子が採用された[4]。この素子の採用により、メンテナンス中でも継続的な観測が可能となったほか[5]、スケーラビリティを備えたシステムにもなっている[4]。また従来のAESA式レーダーでは垂直方向のみのエネルギー・パルスを送受信しているのに対して、本システムでは垂直・水平の両方向のエネルギー・パルスを送受信する二重偏波によって、目標をより立体的に認識することが可能になっており、レーダー反射断面積︵RCS︶が小さな目標に対する探知能力が向上している[6]。 また本システムは、イージス弾道ミサイル防衛システム︵ABMDシステム︶と連接して使用することもできる[7]。 従来のABMDシステムおよびイージスシステム︵AWS︶で用いられていたAN/SPY-1と同じLM社の製品であることから、他社の製品であるAN/SPY-6と異なり、新たなインターフェースを介することなく連接が可能であるというメリットがある[6]。艦載向けの多機能レーダー版であるAN/SPY-7(V)2は、アンテナを1⁄4に小型化して消費電力も低減しており[8]、カナダ海軍の水上戦闘艦とスペイン海軍のボニファス級フリゲートに使用される予定である[3]。またアメリカ海軍に対しても、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の寿命を2040年代以降に延ばすためのAN/SPY-1改装プログラムとして、売り込みが図られている[9][注 1]。運用史[編集]
アメリカ合衆国[編集]
2015年10月にアメリカミサイル防衛局と7億8400万ドルの契約を交わした[2]。 2019年、アラスカ中部のクリア空軍基地でLRDRの建設が開始された[11]。 2021年、アラスカ州で運用されるAN/SPY-7の納入及び初期作戦能力の獲得が実施される予定である[12]。日本[編集]
2018年7月30日、日本政府はイージス・アショア用にAN/SPY-7(V)1を2基購入する計画を承認し、山口県と秋田県への配備を計画していた。2025年から陸上自衛隊が運用を開始する予定であった[13]が、2020年6月15日、河野太郎防衛相︵当時︶がイージス・アショア導入計画の停止を発表した[14]。 2020年12月18日、日本政府は﹁新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について﹂と題する閣議決定を行い[15]、その中で、イージス・アショアの代替案について、﹁イージス・システム搭載艦﹂を2隻建造し、それらを海上自衛隊が運用すると決定した[16]。「イージス・システム搭載艦」も参照
2021年1月27日、アメリカミサイル防衛局と米海軍イージス艦の技術部門代表︵TECHREP︶は、米ニュージャージー州ムーアズタウンにおいて、AN/SPY-7を搭載したAWSベースラインJ7.Bのソフトウェアのリリースに伴う試験に成功した[12]。2018年にイージス・アショアの導入決定と同時に、AN/SPY-7の導入を決定して以来、AN/SPY-7に適合した日本向けイージス武器システムの開発が進められていたが、今回の試験によって、試験的に海上配備されたAN/SPY-7を搭載したAWSベースラインJ7.Bが、弾道ミサイル防衛︵BMD︶目標の捜索・追跡・識別を行う能力を有する事が確認された[12]。
AWSベースラインJ7.Bは、既に海上自衛隊のまや型護衛艦で運用されているベースラインJ7の改良型で、AN/SPY-7を搭載することができ、米海軍のイージス艦に搭載されるベースライン9及びベースライン10︵予定︶の機能を有する[12]。
次回の試験は2021年10月に、イージス武器システム全体の能力向上試験が実施され、システム完成後はAegis Production Test Center︵PTC︶にて、イージス武器システムの適合試験・認証取得が実施される予定である[12]。
カナダ[編集]
2020年11月、カナダ海軍はSPY-7を装備したフリゲートを発表した。本艦はイロクォイ級ミサイル駆逐艦4隻︵退役済︶とハリファックス級フリゲート12隻の後継艦調達プログラムの中で、複数提案された中から英海軍のフリゲート26型をベースに設計されたBAEシステムズとロッキード・マーティンの案を採用した。カナダ海軍が発表した詳細情報によれば次期フリゲートの基本仕様は全長151.4m、全幅20.75m、排水量7,800トン、航続距離7,000海里、速度27ノット、127mm砲×1門、30mm機関銃システム×2門、垂直発射システムMk.41×36セル、SeaCeptor専用垂直発射システム×6セル、対艦ミサイルNSM発射基×8基、対潜水艦用短魚雷Mk.54発射管、CH-148×1機である[17]。脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
(一)^ 香田 2021.
(二)^ abcJen Judson (16 August 2016), “Alaska's Long Range Discrimination Radar on Track for 2020”, DefenseNews.com
(三)^ abc多田 2022, p. 163.
(四)^ ab Lockheed Martin Demonstrates Next Generation Aegis Ashore Solution, Lockheed Martin, (Jan 11 2018)
(五)^ “Long Range Discrimination Radar (LRDR)”, MissileThreat (CSIS), (July 15, 2021)
(六)^ ab德丸 2021.
(七)^ JSF﹁日本向けイージスアショア用SPY-7レーダー契約締結﹂﹃Yahoo!ニュース﹄2019年11月28日。2020年4月4日閲覧。
(八)^ 石井 2024.
(九)^ “Lockheed Martin Advocates Accelerating Aegis, SPY-1 Upgrades”, USNI.org, (January 10, 2017)
(十)^ 多田 2022, pp. 162–163.
(11)^ Ellis, Tim (2019年6月5日). “Military celebrates milestone for radar system under construction at Clear Air Force Station” (英語). Alaska Public Media. 2020年4月4日閲覧。
(12)^ abcde“The SPY-7 Hybrid Defense Security Cooperation Project with Japan Completes Initial Engineering Demonstration of Capability” (英語). 2021年3月24日閲覧。
(13)^ 陸上配備型イージス・システム︵イージス・アショア︶の 構成品選定結果について 防衛省, 2018年7月30日
(14)^ “イージス・アショアの配備に関する河野防衛大臣臨時会見”. 防衛省. 2020年6月24日閲覧。
(15)^ “新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化について” (2020年12月18日). 2021年7月7日閲覧。
(16)^ “﹁イージス・システム搭載艦﹂は本当にベストな選択か? イージス・アショア代替問題”. 2021年3月24日閲覧。
(17)^ Trevithick, Joseph (2020年11月13日). “Canada's New Frigate Will Be Brimming With Missiles” (英語). The Drive. 2024年1月19日閲覧。