デジタル大辞泉
「小舞」の意味・読み・例文・類語
こ‐まい〔‐まひ〕【小舞】
1狂言方のまう舞で、小舞謡を地とする短いもの。狂言中の酒宴の場などに舞われるほか、黒紋付き袴(はかま)姿で地謡の謡によって、単独でも舞われる。狂言小舞。
2 歌舞伎の初期のころに演じられた舞踊の一。1が歌舞伎に入って発達したもの。→小舞十六番
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こ‐まい‥まひ【小舞】
(一)〘 名詞 〙
(二)① 狂言の中で舞われる短い舞。必ず地としての狂言謡(うたい)や小舞謡を伴い、それ自身単独でも演じられる独立性をもつもの。能の仕舞にくらべて写実的で、はでである。短い舞なので、近世、宴席などの座興にも舞われた。狂言小舞。
(一)[初出の実例]﹁うたふてこのほどこまいをけいこしたをまふて見せたけれ共﹂(出典‥虎明本狂言・樋の酒︵室町末‐近世初︶)
(三)② 初期歌舞伎の頃に盛んに演じられた舞踊の一種。はじめは①に近い性格をもっていたが、次第に歌舞伎舞踊としては狂言小舞と別の方向に発達した。なお、若衆歌舞伎時代にその基本的なものとして、﹁小舞十六番﹂が制定されている。
(一)[初出の実例]﹁鼓三味線をもて拍子をとり、小舞(コマヒ)をまひて歌を発す﹂(出典‥評判記・色道大鏡︵1678︶一四)
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小舞 (こまい)
︵1︶狂言方が舞う舞の一種。狂言小舞ともいう。狂言の中の酒宴の場面などで,相手に求められて舞う短い舞。詞章は自分で舞いながら謡うばあいと相手役が謡うばあいとある。この小舞の際に謡う曲を小舞謡という。いずれも単独に完結した小品舞踊曲なので,どの小舞をどの狂言に用いるかは流動的だが,現在では,たとえば︽七つに成子︵なるこ︶︾を︽棒縛︾に,︽海人︾を︽寝音曲︾に用いるというように,ある程度まで演出が固定して定型化したものもある。また,狂言の中ではなく,能の仕舞と同じ形式で狂言方が紋付・袴︵または裃︶で登場し,地謡︵じうたい︶に合わせて舞う短い舞をも小舞という。曲は上記の小舞を舞うこともあり,特定狂言の一部を舞うこともある。現在,大蔵流に59番,和泉流に71番の小舞謡があり,そのうち両流共有曲は38番ある。なお狂言の歴史で小舞の占める意義については,大蔵虎明︵とらあきら︶︽わらんべ草︾には,︿玄恵法印より以前も申楽狂言もありしかど,それは小舞,かたりなどにてありしとみえたり,一番とする事,是より始まるなり﹀とあるのが暗示するように,創成期の狂言においては,独立した代表的なレパートリーであったとも考えられる。
執筆者‥羽田 昶︵2︶初期歌舞伎における舞踊の様式の一つ。女歌舞伎時代に,猿若や狂言師の演じた︿業平躍﹀の系統が,若衆歌舞伎時代になると若衆役者の持ち芸となって伝承され,洗練されたもの。野郎歌舞伎時代から元禄期︵1688-1704︶にかけては,女方の舞の基本と考えられて流行し,小舞庄左衛門,小舞三左衛門などと,得意芸の︿小舞﹀を芸名に付ける役者が出るほどであった。歌舞伎の小舞は,狂言にならってこの名を称したものの,実態は歌舞伎化されて踊りに近いものだったらしい。歌は,狂言小舞と同じく民間の流行小歌を用いた。寛文・延宝︵1661-81︶のころ,社会一般の復古的風潮により,︿小舞﹀という名称に権威が生まれるとともに,初期歌舞伎の小舞が古典化して,︿小舞十六番﹀というものが選ばれ,歌舞伎役者の修業の初歩的階梯の教材となった。その歌は,︽業平躍十六番︾︽舞曲扇林︾︽歌舞妓事始︾など諸書に掲載されている。
執筆者‥服部 幸雄
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小舞(舞踊)
こまい
︹1︺狂言の舞の一種。初期歌舞伎(かぶき)の小舞と区別するため﹁狂言小舞﹂ともいう。舞の地(じ)である小舞謡(うたい)を伴い、単独で鑑賞できる独立性をもった舞で、1人で舞う。現在、小舞に指定されているのは、大蔵(おおくら)流は大蔵弥太郎(やたろう)編﹃大蔵流狂言名寄(なよせ)一覧﹄︵1960︶によると48番、和泉(いずみ)流は和泉保之(やすゆき)著﹃改訂小舞謡﹄︵1949︶によると71番である。本狂言のなかでは酒宴の場で使われることが多く、狂言尽くしの会などでは紋付袴(はかま)姿で舞われることがある。歌詞の内容によって、(1)庶民的感情を反映した情緒的な曲︵﹃暁(あかつき)の明星(みょうじょう)﹄﹃七つに成子(なるこ)﹄など︶、(2)謡曲の一部をとった曲︵﹃海人(あま)﹄﹃景清(かげきよ)﹄など︶、(3)祝言用の曲︵﹃福の神﹄﹃鶴亀(つるかめ)の舞﹄など︶に大別されるが、軽妙洒脱(しゃだつ)な小舞本来の特色は主として(1)に示されている。狂言の修業は小舞と小舞謡から始め、姿勢と発声の基礎を養う。
︹2︺初期歌舞伎の舞踊の一種。若衆歌舞伎、野郎歌舞伎の時代にとくに流行した。狂言を典拠とする歌舞伎において歌舞の行われる部分をこの様式で演じた。歌舞伎の成立には大和猿楽四座(やまとさるがくよざ)に属さない群小一座の狂言方が参加しており、初めは狂言小舞に近かったが、しだいに歌舞伎舞踊としての芸態を確立したと思われる。右近源左衛門(うこんげんざえもん)、小舞庄左衛門(しょうざえもん)らは小舞の名人として知られる。多くの小舞のうちから、若衆歌舞伎時代に、諸書によって異同はあるが、﹁小舞十六番﹂が制定され、後年まで舞の基礎技術を示すものとして舞踊の家柄で重視された。なお、この歌舞伎の小舞を取り入れて狂言小舞に仕立てた曲もあると推考されている。
﹇小林 責﹈
小舞(建築)
こまい
屋根や壁の下地で、竹や貫(ぬき)を縦・横に組んだもの。使用される竹や縄などの種類によって数寄屋真壁(すきやまかべ)小舞や真壁小舞などの名称がある。壁の小舞下地は和風真壁造の代表的構法で、通し貫をもとに間(ま)渡し竹を縦横に30センチメートル間隔で組み、これに小舞竹を3~4センチメートルぐらいの間隔で取り付ける。これらの接合には小舞縄(藁縄(わらなわ))を用いる。関東と関西では竹の種類や入れる本数が異なる。また、屋根裏板や杮板(こけらいた)などを取り付けるために、垂木(たるき)の上に横に渡す桟を屋根小舞という。軒先の垂木の上に横に渡した部材は小舞より幅が広く、広小舞とよび区別している。
[中村 仁]
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小舞
こまい
(1) 狂言小舞。狂言師が小舞謡を地に舞う舞。主として狂言の酒宴の場の余興として舞われるが,単独でも用いられる。能の仕舞が能の一部であるのに対して,狂言小舞は初めから独立した小品の舞踊曲であり,軽妙で写実的な型が多い。狂言修業の基礎でもある。﹃七つ子﹄﹃暁の明星﹄など。 (2) 初期歌舞伎の舞台で舞われた舞の一つ。若衆歌舞伎から野郎歌舞伎にかけて,狂言小舞を取入れて歌舞伎化したもの。右近源左衛門,小舞庄左衛門らが名人として知られていた。
小舞
こまい
木舞とも書く。屋根や壁の下地で,竹や貫を縦横に組んだもの。壁の小舞下地は真壁造りの代表的構法で,通し貫をもとに縦横に竹を 30cm程度の間隔で組み,これに小舞竹を3~4cmの間隔で小舞縄により取付ける。
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小舞【こまい】
狂言の中で,酒宴の場面などに舞う短い舞。また能の仕舞(しまい)のように,狂言方が紋付袴(はかま)姿で,前述の小舞または特定狂言の一部を,地謡(じうたい)によって演ずること。
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小舞
伝統的な木造真壁造りの土塗壁の下地の代表的な工法で、貫(ぬき)や細く割った竹などを縦横に組み、縄などで編んだもの。
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世界大百科事典(旧版)内の小舞の言及
【舞】より
…
﹇歌舞伎の舞﹈
舞の歴史は中世をもっていったん終止符を打ち,それに代わって,近世の黎明︵れいめい︶とともに踊りの芸能が舞踊史の主流となる。しかし,1629年(寛永6),[女歌舞伎]の禁止を契機として歴史の表面に現れた[若衆︵わかしゆ︶歌舞伎]は,再び舞に注目し,狂言系統の[小舞]︵こまい︶を介して新しい舞踊表現を生み出す。それは︿小舞十六番﹀という形に整備され,舞踊訓練の手ほどきとして重視されて,のちの[所作]事︵しよさごと︶の基礎となった。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」