銀行を媒介とする貨幣市場で貨幣の貸付けが利子を生むという関係が成立していると,規則的に反復して生み出される貨幣収入の源泉も遊休貨幣による売買の対象となり,その利回りを利子率に一致させるような価格が形成される。そこで定期的な収入はこの収入源泉の価格に対して利子という外観を与えられ,その背後に利子を生む資本の存在が想定されることになる。この資本はあくまで架空のものであるから,一般に擬制資本あるいは架空資本と呼ばれる。
すなわち株式会社の普及と株式(証券)の流動化によって株式価格が形成されると,株式価格に対する配当の比率としての利回りが利子率に均等化するようになり,この〈配当の利子化〉が利子を生む独自な商品としての株式資本の存在を擬制することになる。そして,この関係(観念)が社会的に一般化されるようになると,資本ははじめから利子を生むものと考えられ,継続して収入をもたらすものは逆に資本とみなされるようになるのである。こうして,いっさいの定期的な収入はなんらかの利子を生む母体(資本)の果実とみなされ,それらの収入を利子率で除した商が擬制資本で,その計算過程が資本還元ということになる。擬制資本はもともと資本ではないものが利子を生む資本とみなされているだけにすぎず,それゆえ資本還元される収入の源泉は何であろうとかまわない。そこで,貸借取引に基づく確定利付債権(国債や社債等)や,資本取引に基づく配当請求権としての株式,そして地代を生む土地所有など,互いに異質なものが含まれる。
執筆者:小池田 冨男
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