日本大百科全書(ニッポニカ) 「最低資本金」の意味・わかりやすい解説
最低資本金
さいていしほんきん
株式会社においては、株主有限責任の結果、対外的信用の基礎は会社財産のみに存するから、会社債権者を保護して会社の信用を維持するためには、会社債権者にとって唯一の担保となる会社財産の確保が図られなくてはならない。そこで、立法政策上、会社財産を確保するための基準となる計算上の金額を資本︵=資本金︶として定め、会社債権者のために一定の機能を果たさせるという制度が考案された。これが資本の制度である。そして日本では、1990年︵平成2︶商法改正により、株式会社の財産的基礎を確保するために、最低資本金制度が導入され、株式会社では1000万円︵旧商法168条ノ4︶、有限会社では300万円︵有限会社法9条︶とされた。しかし、2002年に改正された新事業創出促進法10条、中小企業新事業活動促進法3条により、創業者に該当することについて、経済産業大臣に申請して確認を受けた者が、株式会社または有限会社を設立する場合には、会社設立から5年間に限り、最低資本金規制を免除し、5年経過以降、商法の最低資本金規制にかからしめることとし、その結果、確認を受けた創業者が設立する株式会社︵確認株式会社︶または有限会社︵確認有限会社︶の資本金は1円でもよいこととされた。
最低資本金制度が果たしていた機能は、(1)設立時の出資額︵設立に際して払い込むべき金銭等の価額︶の下限規制、(2)配当規制における純資産額の下限規制、(3)資本金として表示する計数の下限規制の三つに分類でき、2005年に成立した会社法では、それぞれの機能ごとに見直しを行うこととされた。現実に、最低資本金制度は、債権者保護のために十分に機能せず、むしろ、会社形態を選択する際の規制として起業の障碍(しょうがい)となっていた。そして、前記の新事業創出促進法・中小企業新事業活動促進法の改正による特例の適用期間を勘案して、その恒久化を図る趣旨も含めて、会社法上、(1)と(3)の機能としての最低資本金制度を撤廃し、(2)の機能については別途の基準︵300万円の純資産規制、会社法458条︶を設けて対応することになった。なお、会社法により有限会社制度は廃止され、従来の有限会社は株式会社となった。
会社法上、株式会社は、会社財産を確保するための基準となる計算上の金額を資本︵=資本金︶として定め︵会社法445条1項︶、登記と貸借対照表とによって公示すべきものとし︵同法911条3項5号、定款には掲記されない︶、この資本金という一定額を基準として、さらに準備金制度を設け、これらに対応する会社財産を維持することは求めている。しかし、株式会社の設立に際して定款に﹁出資される財産の価額またはその最低額﹂を定めることを必要とするが、その下限額の制限を置かない︵同法27条4号︶。出資すべき額は定めることを要するが、最低資本金制度は廃止された。出資額は1円以上が必要であるが、資本金の額は設立費用等を差し引いて定めるので︵会社計算規則74条1項︶、その結果、ゼロないしマイナス額となった場合、資本金の計上額としては、会社設立時も成立後も、0円となる︵同規則74条4項︶。
﹇福原紀彦﹈
﹃中小企業経営実務研究グループ著﹃最低資本金の実務と対策――株式会社1000万円有限会社300万円﹄︵1995・日本実業出版社︶﹄▽﹃藤間事務所・鈴木智旦著﹃資本金1円会社の設立実務ハンドブック――特例による﹁確認﹂手続から登記・官庁届出・経営まで﹄︵2003・日本法令︶﹄
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