劇を上演するために必要な登場人物たちの言葉や行動,人物たちの生きる世界や状況を具体的に文字化した書きもの。略して〈本〉ともいう。いわば音楽演奏のスコアに相当する。したがって劇上演前の準備台本といえるが,上演後の記録台本の場合もある。書き方としては,まず人物たちの行動する場所や時などを記し,その行動をせりふとト書きに分けて書く方法が一般的である。近代以前には,せりふが中心で,ト書きの占める役割は少なかった。しかし近代以降は,写実劇の展開とともに舞台装置や人物の動き,心理描写のためのト書きの役割が重視されるようになった。日本でも近代以前の能,狂言,歌舞伎などの脚本は,役者の技芸を生かすことに主眼がおかれ,読物としての性格は薄かった。しかし明治以降は,作者個人による文学的自立性,完結性を強調する西欧近代演劇の影響もあり,〈戯曲〉概念が導入された。そして上演を直接的に意図しない文学的な,読むための戯曲も書かれるようになった。
また映画芸術の発展につれ,映画用脚本をシナリオと直訳的に呼ぶ習慣も生まれた。放送やテレビ界でも,脚本,シナリオ,台本が併用されている。現在では演劇界においても,〈脚本〉の語が使用され,脚本,台本,戯曲の語の厳密な区別はなくなりつつある。なお,小説などの劇化を脚色という。
→戯曲 →シナリオ
執筆者:石沢 秀二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報