デジタル大辞泉
「色覚」の意味・読み・例文・類語
しき‐かく【色覚】
視覚の一。光の波長の違いを色彩として識別する感覚。色神。
[補説]色覚は、網膜にある錐体で光の刺激が電気信号に変換され、大脳の視覚中枢に伝達されることによって起こる。ヒトの場合、長い波長の光︵赤~黄~緑︶に対して感度の高いL錐体、中くらいの波長︵緑~青︶に感度の高いM錐体、短い波長︵青~紫︶に感度の高いS錐体の3種類の錐体があり、それらの反応の割合で色を感じる。
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しき‐かく【色覚】
(一)〘 名詞 〙 視覚のうち光の波長の違いに基づいて色を見分ける感覚。ヒトが識別できるのは波長約四〇〇ミリミクロンの紫から約七六〇ミリミクロンの赤までの範囲で、赤外線や紫外線は識別できない。脊椎動物では網膜の円錐細胞︵錐体︶によって色を感じるとされる。色神。色視。色感。
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色覚
しきかく
異なる波長の光、またはその混合によっておこる視覚の質的差をいう。ヒトは太陽光線スペクトルのうち約800~400ナノメートルの波長の光線を見ることができ(可視光線)、波長の範囲に応じて大別して約7種の色を感じることができる。
[市岡正道]
色覚は、網膜中の視細胞である錐状体(すいじょうたい)︵錐体︶を通しておこる。ヒトには青、緑、黄の波長に対してそれぞれもっとも感受性の高い色素をもった3種の錐状体がある。このうち黄に対して最大感度を示す錐状体は、赤の部分の光に対しても十分感度がよい。このようにヒトの網膜には、﹁光の三原色﹂にほぼ相当する青、緑、黄‐赤という3種の色光によく感ずる機構が備わっているといえる。さらに大脳皮質視覚領には青、緑、橙(だいだい)‐赤の波長に対して最大の反応をする細胞が多数あることがわかっている。色は、三つの錐状体系からの求心性神経インパルス︵活動電位︶のパターンpatternと皮質視覚領の3種の神経細胞群の興奮パターン等によって認知されるものと考えられる。
﹇市岡正道﹈
色覚には、色相︵または単に色、あるいは色調︶、明度、飽和度︵または彩度︶の三つの属性がある。色相は刺激光の波長によって決められる属性で、太陽光線のスペクトルではおおよそ赤︵約723~647ナノメートル︶、橙、黄、緑︵約575~492ナノメートル︶、青︵約492~450ナノメートル︶、藍(あい)、紫の7種に大別される。しかし、色相に対応する太陽光線の波長は研究者のデータに若干の違いが認められる。色相の総数は弁別できる最小波長差の数の多少によるわけで、ヒトの場合で約165種とされている。
明度とは明るさの度合いで、黒から白まで11段階に分けられている。また、飽和度とはある色に白の混じる度合いをいい、白が多く混じるほど鮮やかさは失われて飽和度が低くなる。165種の色相のそれぞれを明度と飽和度とで細区分すると、﹁色合い﹂の種類は数十万に達することになる。
﹇市岡正道﹈
二つ以上の単色光で網膜の同一部位を刺激すると、刺激光とは異なった混合色を感じる。これは二つ以上の生理学的過程が重なっておこった色の感覚である。このような単色光の混合においては次のことが知られている。
(1)すべての単色光を混合すると白になる。
(2)混合する2色がスペクトルのうえで離れているほど混合色の飽和度が低下し、ついにはある2色を混ぜると白になる。このような2色を互いに他の補色という。たとえば赤‐青緑、黄‐インディゴ青、緑黄‐紫などである。
(3)スペクトルの両端にある紫と赤とを混ぜると、スペクトル中にはない紫紅(しこう)ができる。
(4)少数の単色光をいろいろな割合で混ぜると任意の色が得られる。こうした任意の色をつくるには少なくとも赤、緑、青の3色が必要とされるため、これを﹁色の三原色﹂という。
﹇市岡正道﹈
色覚においては残像や対比という現象がみられる。残像とは光刺激が消失したあとに残る光の感覚をいい、対比とは比較によって二つの性質の特徴が目だつことをいう。残像のうち、同色の残像を陽性残像、補色の残像を陰性残像とよぶ。また、対比では補色がみられたり、飽和度が変化したりする。
なお、色覚異常のうち赤緑色覚異常は伴性潜性の遺伝で、欧米では男性の約8%、女性の約0.5%、日本では男性の約4~5%、女性の約0.2%を占めている。2型三色覚︵旧称は緑色弱︶、次いで2型二色覚︵旧称は緑色盲︶が多く、1型二色覚︵旧称は赤色盲︶、1型三色覚︵旧称は赤色弱︶が順に続いている。
﹇市岡正道﹈
ヒト以外の動物でも、異なる波長の光を識別する能力すなわち色覚︵色感覚(いろかんかく)ともいう︶をもつものがある。しかし、その色覚の内容は、動物によってかなり異なっている。脊椎(せきつい)動物の場合、色彩視に関係するのは網膜中の錐状体(すいじょうたい)であり、桿状体(かんじょうたい)は明暗視のみにかかわっている。このため、網膜にある錐状体と桿状体の割合を調べることによって、その動物がどの程度の色覚をもつかおおよその見当をつけることができる。
錐状体による視覚がもっとも発達しているのは鳥類である。昼行性の鳥類の網膜、とくにその中央部分には錐状体が密集しており、弱い光にも感じうる桿状体はほとんどない。そのため、多くの鳥は薄暗がりの中で視力を失ういわゆる鳥目である。しかし、フクロウのような夜行性の鳥には、発達した暗所視をするがほとんど錐状体をもたないため色覚がないものがある。ヘビ、カメ、トカゲなどの爬虫(はちゅう)類にも色彩視がよく発達している。硬骨魚類に色覚があることは、網膜中に錐状体があり、また異なる波長の光に異なる応答をする細胞があること、さらに特定の色に対する行動などからも示されている。しかし、サメ、エイを含む軟骨魚類には、いくつかの例外を除いて錐状体がなく、色覚はない。カエル、イモリなどの両生類には錐状体があり、色覚があるが発達の程度は低い。一般的にいって夜行性の動物には色覚がない。哺乳(ほにゅう)類は原則として色覚がないとされるが、それは哺乳類の祖先が夜行性であったためといわれる。ヒトやサルなどの霊長類は発達した色覚をもつが、これはむしろ例外であり、イヌ、ネコ、ブタなど幾種かの哺乳類に弱い色彩視が認められるにすぎない。
無脊椎動物にも発達した色彩視をするものがある。節足動物、とくに昆虫類には高度の色覚があり、行動の解析や電気生理学的な多くの研究により、ミツバチやショウジョウバエなどの色覚がよく知られている。ミツバチなどの可視光の範囲は、ヒトのものよりも短波長側にずれており、ヒトの目に見えない紫外部を含む3色を区別することができるが、ヒトには赤色に見える長波長側の光を見ることができない。しかし、アゲハチョウには6種類もの分光感度の異なる視細胞があり、赤色を見ることができる。夜行性の昆虫には、色覚をもたないものがある。イカやタコなど軟体動物の頭足類は、よく発達した目をもち、周囲の色に応じてすばやく体色変化をする。しかし、網膜から記録される電気的反応や、行動を調べた研究の結果は、頭足類が色覚をもたないことを示している。
﹇村上 彰﹈
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色覚 (しきかく)
color sensation
光の波長の違いにより生じる感覚。脊椎動物中,最も色覚が発達しているのは霊長類,鳥類,硬骨魚類などで,これらの動物の網膜を微小電極を使って調べてみると,それぞれ赤や緑や青の波長域に最大感度を示す3種類の錐体が網膜に存在することが明らかにされている。しかし,動物の中にはハツカネズミやハムスター,コヨーテ,アシナシトカゲ,アフリカツメガエルのように色覚がないことが確かめられたものや,リスのように二原色からなる色覚をもっていることが確かめられたものもある。また,無脊椎動物では昆虫類のなかにチョウやハチのように色覚をもつものがある。昆虫類の色覚は脊椎動物より短波長側にずれていて,視細胞はそれぞれ緑や青や紫外部の波長域に最大感度を示す3種類に分けられる。ヒトでは,長波長の赤と短波長の青を混ぜると紫purpleという色として感じられ,これは緑と補色関係になるが,ミツバチでも紫外線と緑を混ぜると︿ミツバチすみれ﹀と呼ばれる色になり,これは青と補色関係にあることが行動実験で確かめられている。われわれが見ている自然界の花,例えば白い色の花でも,紫外線の反射,吸収の程度が異なるものは,昆虫には異なる色の花として見えているに違いない。みつを出す花の中央部は,紫外線をよく吸収し,昆虫はこれに誘われてみつを探すのでみつ標と呼ばれる。
執筆者‥立田 栄光
ヒトの色覚
ヒトは波長が約400~800mμの光︵可視光線︶が網膜を刺激すると色を感じる。色を感じるのは,網膜にある2種類の視細胞,杆体,錐体のうち錐体のほうである。錐体は網膜の中心部に分布し,明るいところで感じる。したがって,色覚は明るいところでは良好であるが,暗いところでは不良となる。
色覚は,色調,明度および飽和度の3要素に分けることができる。色調は可視光線の波長の差によって生ずるもので,長い波長から赤,橙,黄,緑,青,青紫となり,青紫と赤の間に紫を加えて連続させたものを色相環という。紫は,実在の波長と対応しない感覚上の色であり,この色によって色相環が成りたっている。色相環で向かいあっている色はたがいに補色になっている。光の放射の多少によって明るい色と暗い色とになるが,この各色彩に対する自覚的な明るさを明度という。明るいところでは黄緑がもっとも明るく,たそがれ時には青緑がもっとも明るく感じる。この現象をプルキンエ現象Purkinje's phenomenonと呼んでいる。単純光線に白,灰色,黒などの無彩色を混ぜると白っぽくなったり,黒っぽくなったりする。このように色が薄められたような感じを不飽和になったといい,色調の純粋度の程度を飽和度という。色覚の学説としては,網膜の錐体には,赤,緑,紫の色によりそれぞれもっとも強く興奮する三つの要素があり,その興奮する割合によって色の感覚が生ずるというヤング=ヘルムホルツの三要素説が有力である。色覚の検査方法としては,異常の検出には仮性同色表である色盲検査表,異常の型の分類にはアノマロスコープおよび異常の程度の判定には色相配列検査であるパネルD-15,100hue検査などがある。異常の程度の判定には,色の名を答えさせるランターン試験もある。色覚の異常としては,先天性色覚異常は色覚の発育不全と考えられており,後天性色覚異常は,網膜や視神経の疾患により錐体の機能が低下した場合にみられる。
→視覚
執筆者‥久保田 伸枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
色覚【しきかく】
光の波長の差によって色を識別する感覚。硬骨魚類,鳥類,霊長類でよく発達するが,ハチやチョウなどの昆虫にも認められる。ヒトでは,個人差はあるが,波長約400〜800nmの光が色覚を起こさせる。おもな色調は波長の長い順から赤,だいだい,黄,緑,青,すみれであるが,約165の色調を識別することができる。色覚は網膜の錐体の働きによるもので,錐体の密度の高い網膜中心部で色の識別能が最もよい。色覚を生じるには光の強さがある程度︵色覚閾(いき)︶以上であることが必要で,それ以下では光覚は起こっても色覚は生じない。色覚は赤,緑,紫を最も強く感じる3種の錐体の働きによって生じるとするヤング=ヘルムホルツ説が広く認められている。→原色/色覚異常
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色覚
しきかく
colour sense; colour sensation
色感覚 (いろかんかく) 。光の波長の相違によって起る視覚の質的差異をいう。光の強さ,照射時間,面積,網膜の部位,順応状態などにも依存する。正常人に色の感覚を与える波長は 400nmの紫から 760nmの赤までで,約 165の色相の相違を区別できる。受容器はおもに網膜錐状体で,錐状体には赤,緑,青のいずれかに最も鋭敏な3種類が機能している。すべての色はこの3種の錐状体がいろいろな割合で興奮することによって三原色の混合として感じられる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の色覚の言及
【視覚】より
…光刺激によって生じる感覚で,明暗を感じる感覚を[光覚],色を感じる感覚を[色覚]という。おもな感覚器は[目]である。…
【目∥眼】より
…杆状体は視野の20度から30度にあたる周辺部に最も多く分布し,暗いところで働き,主として明暗を感じ,色を感じない︵図7︶。(1)色覚と光覚 視覚には色覚と光覚がある。色覚は色を感ずる目の機能のことで,色覚は錐状体の働きによることから,網膜の中心部でよく,周辺部では不良であり,明るいところではよく,暗いところでは悪い。…
※「色覚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」