デジタル大辞泉
「西」の意味・読み・例文・類語
にし︻西︼
2 西洋。
﹁―に航せし昔の我ならず﹂︿鴎外・舞姫﹀
3 西風。﹁西が吹く﹂
4 西方浄土。
5 相撲の番付で、向かって左側の称。
6 歌舞伎劇場内で、江戸では舞台に向かって左側、京坂では右側をいう。
[類語]東・南・北
にし︻西︼﹇浜松市の旧区名﹈
区の一部・中区・東区・南区と統合され中央区となった。
にし【西】[福岡市の区]
福岡市の区名。昭和57年(1982)城南・早良の2区を分区して現在の区域となる。
にし【西】[神戸市の区]
神戸市の区名。昭和57年(1982)垂水区の北西部が分離して成立。
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
にし【西】
(一)[1] 〘 名詞 〙 ( ﹁し﹂は風の意。風位からその方角をもいう。﹁に﹂は﹁去(い)に﹂の﹁い﹂の脱落で、日の入る方角の意という )
(一)① 方角の名。日の沈む方向。十二支では酉(とり)の方角にあたる。
(一)[初出の実例]﹁葛城の 寺の前なるや 豊浦の寺の 西なるや おしとど としとど﹂(出典‥続日本紀‐光仁即位前︵770︶歌謡)
(二)② 西風をいう。
(一)[初出の実例]﹁大和へに 爾斯(ニシ)吹き上げて 雲離れ 退そき居りとも 我忘れめや﹂(出典‥古事記︵712︶下・歌謡)
(三)③ 仏語。西方(さいほう)の極楽浄土。
(一)[初出の実例]﹁老ぬれは南おもてもすさましやひたおもむきに西を頼む﹂(出典‥安法集︵983‐985頃︶)
(四)④ 歌舞伎劇場で、京坂では舞台に向かって右側、江戸では左側の称。
(一)[初出の実例]﹁けふは嵐がにしの二軒目の桟敷に、提たばこ盆の火入に初瀬といへる名の木を焼ば﹂(出典‥浮世草子・嵐無常物語︵1688︶下)
(五)⑤ 相撲などの左右対称に記された番付で、左側の称。﹁東﹂より半枚格が下がる。
(六)⑥ 義太夫節の竹本派の称。豊竹派を﹁東﹂というのに対していう。
(一)[初出の実例]﹁竹本を西といひ豊竹を東といふ﹂(出典‥洒落本・煙華漫筆︵1750頃︶供唱)
(七)⑦ ﹁にしのうちがみ︵西内紙︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁みのにしろ西(ニシ)にしろ、破れた日にゃあ反故同然﹂(出典‥歌舞伎・処女翫浮名横櫛︵切られお富︶︵1864︶中幕)
(八)⑧ 西洋のこと。西欧。
(一)[初出の実例]﹁泰西(ニシ)の国々の文章にもいまだ知られざる旨趣(うまみ)あれども﹂(出典‥小説神髄︵1885‐86︶︿坪内逍遙﹀下)
(九)⑨ =にしがわ︵西側︶②
(二)[2]
(一)[ 一 ] 大坂の新町遊郭の俗称。
(一)[初出の実例]﹁実(げ)に新町を西々と彌陀の、御国をいふ如く、救ひ取られて粋となり﹂(出典‥浄瑠璃・双蝶蝶曲輪日記︵1749︶三)
(二)[ 二 ] 京都の島原遊郭の俗称。
(一)[初出の実例]﹁うけだそも西は三ねんふさがりて﹂(出典‥雑俳・三国市︵1709︶)
(三)[ 三 ] 西本願寺、または、西本願寺派のこと。お西。
(四)[ 四 ] 東京・名古屋方面の取引市場で、大阪市場をいう。︹取引所用語字彙︵1917︶︺
(五)[ 五 ] 札幌市の行政区の一つ。新川運河から西側の区域。商業地区の琴似を含み、住宅地と工業地域を形成している。昭和四七年︵一九七二︶成立。平成元年︵一九八九︶手稲区を分区。
(六)[ 六 ] 横浜市の行政区の一つ。横浜港の西部に面する。横浜駅があり、中区とともに横浜市の都心部を形成。昭和一九年︵一九四四︶中区から分離して成立。
(七)[ 七 ] 名古屋市の行政区の一つ。名古屋市の北西部に位置。明治四一年︵一九〇八︶成立。
(八)[ 八 ] 大阪市の行政区の一つ。市の中西部にあり、土佐堀川、安治川、西横堀川︵埋立て︶、境川︵埋立て︶、西道頓堀川に囲まれる。中央を木津川が流れて区を二分し、その西岸には、明治初年に外国人居留地が置かれた。西船場は商都大阪の基盤となる商業地区の一部。明治二二年︵一八八九︶成立。
(九)[ 九 ] 神戸市の行政区の一つ。市の北西部にあり、大規模なニュータウン計画が進む。昭和五七年︵一九八二︶垂水区より分区成立。
(十)[ 十 ] 広島市の行政区の一つ。市の中南部にあり、中心市街の一部を成す。広島西飛行場、商工センターがある。昭和五五年︵一九八〇︶成立。
(11)[ 十一 ] 福岡市の行政区の一つ。市の西部にあり、博多湾に面する。海岸線の大部分は玄海国定公園の一部。昭和四七年︵一九七二︶成立。同五七年、城南区・早良区を分区。
(12)[ 十二 ] さいたま市の行政区の一つ。平成一五年︵二〇〇三︶成立。市西部、荒川沿いの地域。旧大宮市の西部にあたる。
せい︻西︼
(一)[1] 〘 名詞 〙
(一)① にし。夕方、太陽の沈んでゆく方角。
(二)② 西洋のこと。東洋に対して、ヨーロッパ地方をいう。︹中華大字典‐西部・西︺
(二)[2] ﹁スペイン︵西班牙︶﹂の略。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
西 (にし)
観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに,北……東,……南,南南西,南西,西南西,西……など16方位で呼ぶのが一般的である。西は,観測者から見て太陽の沈む方向にあたっており,英語のwestも,ギリシア語のhesperos,ラテン語のvesper︵ともに︿夕方﹀の意︶に由来している。古来,中国や日本では十二支︵干支︵かんし︶︶で方位を呼び,西は酉にあたる。
西と日本人
日本人の伝統的習俗のなかに,西︵西の方角︶に対してどのような宗教感情や価値意識が見いだされるだろうか。
まず語源に関する諸説をみるに,現在でもしばしば引用される3人の近世碩学の語源説は次のごとくである。貝原益軒︽日本釈名︵にほんしやくみよう︶︾︵1699︶は︿東︵ひがし︶ 日頭︵ひがしら︶なり。らの字を略す。日のはじめて出る所,かしら也。﹀︿西 いにし也。日は西へいぬる日のいにしと云意。いを略す﹀と説く。新井白石︽東雅︵とうが︶︾︵1719︶は︿東をヒムガシといひしは,ヒは日也。ムカとは向也。シと云ひしは語助也﹀︿西をニシといひしは,ヒ子シといひし詞にて,日没︵い︶る方をいふなるべし。……ヒ子シと云ふことばの転じて,ニシとなりぬるは。今試にヒネといふ詞を引合せて呼びぬれば,ニといふことばになりぬるなり﹀と説明する。本居宣長︽古事記伝︾︵1790-1822︶は,︿比牟加斯︵ひむかし︶爾斯︵にし︶と云ふハ,もと其の方より吹く風の名にて,比牟加斯ハ東風,爾斯ハ西風の事なりしが,転りて其の吹く方の名とハなれるなるべし。斯︵し︶ハ風にて,風神を志那都比古︵しなづひこ︶と申す志,又嵐飆︵つむじ︶などの志も同じ。又暴風︵はやち︶東風︵こち︶などの知も,通音にて同じきなるべし。さて東風︵ひむがし︶西風︵にし︶と云ふ名の意ハ,比牟加斯︵ひむがし︶ハ日向風︵ひむがし︶なり,爾斯︵にし︶ハ詳︵さだか︶ならねど,試に云はバ,和風︵なぎし︶ならむか,和︵なぎ︶とハ天︵そら︶の霽︵は︶れたるを云ふ﹀と解説する。
益軒および白石は,太陽の現れる場所ないし方向を︿東﹀と呼び,太陽の没するそれを︿西﹀と呼ぶ,という意味の語源説明をおこなう。宣長は,風の方位から︿東﹀︿西﹀の名称が生じたとの説明をおこなう。日没の方角や和風︵なぎかぜ︶の風位をもって︿西﹀という観念の起りとみなしたのである。
日常生活的現実において︿西﹀をたいせつにしてきたという点でいえば,古代以来の日本人の宇宙観の一つとして陰陽五行︵いんようごぎよう︶説の影響力は,意外なほど大きい。平安貴族たちが方角や時刻や年回りなどをいちいち気に病んで陰陽師︵おんみようじ︶に相談した事例は,公家の日記や文学作品に頻繁に現れる。一方,大多数民衆の生活サイクルのなかでも陰陽五行説は規制力をもち,それが,近代以後までの日本の民間習俗を縛りつけた。もとより陰陽五行思想は,日本に渡来してからは一貫して国家権力によって掌握された科学技術の基礎原理としての役割を果たしたのであるが,十干十二支の享受のようなかたちで民衆生活のうちに根づいてしまったのである。五行のうち4番目に配当された︿金﹀の気は,色でいえば︿白﹀,方位でいえば︿西﹀,季節でいえば︿秋﹀,十干でいえば︿庚・辛﹀,十二支でいえば︿申・酉・戌﹀としての働きをもつ。結局,︿西﹀とは,万物が枯死に向かう秋そのままに︿殺﹀の時を意味するが,同時に万物が結実して生命が︿更新﹀する時をも意味する。縮んで滅びはするけれど,その瞬間,つぎの新たなる生命が始まる,というのが︿西﹀すなわち︿金﹀の本性である。
日本の民俗にとって,︿西﹀といえば,もはや遠い距離にある漠たる方角である以上に,自分のうつしみ︵現実存在︶と平面感覚的に連続する場所と考えられた。日本人の他界観念の代表といえる極楽︵ごくらく︶は西方の浄土であり,そのゆえに︿西﹀は浄土信仰にとって重要な方角となったが,この西方極楽浄土は大阪の四天王寺のすぐ先の海であると考えられ,また︿補陀落︵ふだらく︶﹀は紀州熊野のすぐ先の海であった。滅びた生命もただちに︿更新﹀するはずだった。
→西国
執筆者‥斎藤 正二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
西
にし
west
太陽の沈む方向。さまざまな語源説があるが、﹁日のイニシ︵往にし︶方﹂の意とする説もある。日の沈む方向は季節によって異なるので、漠然とその方向をいうこともあるが、正確にいう場合は北より左に90度離れた方向︵これは彼岸(ひがん)のときの日没の方向にあたる︶をいう。十二支名では西は酉(とり)の方角にあたる。南西諸島では本土で北を示す方向をニシとよぶ。これは、冬の季節風の方向が、本土では西寄りであるのに対し、南西諸島では北寄りとなるため、卓越風の方向の違いが、方角名にまで影響しているものと思われる。
地学上、西という方向は、(1)地球の自転の方向は西から東に向かう、(2)前記(1)の影響などで中緯度地方では上層で西寄りの風が卓越している、などの特徴をもっている。
﹇根本順吉﹈
語源的には、日の﹁いにし︵往︶方﹂とする﹃日本釈名(しゃくみょう)﹄﹃和訓栞(わくんのしおり)﹄などの説、日没する意の﹁ひねし﹂の転とする﹃東雅(とうが)﹄などや、﹁にぎし︵和風︶﹂の義とする﹃大言海﹄などの諸説がある。仏教で阿弥陀(あみだ)仏の極楽浄土をいうのをはじめとして、歌舞伎(かぶき)では舞台に向かって左側︵上方(かみがた)では右側︶半分をいい、相撲(すもう)などの左右対称に記された番付でも左側をさし、東方より一枚格が下とされる。太陽が沈む方向であるため、絶対にありえないことのたとえに﹁西から日が出る﹂の諺(ことわざ)があるほか、まったく分別のないことを﹁西も東も知らない﹂との諺もある。
﹇宇田敏彦﹈
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内の西の言及
【北】より
…観測点から見た地平面の方向を方位といい,東西南北の4基点をもとに北,北北東,北東,東北東,東……など16方位で呼ぶのが一般的である。北は,観測者が太陽の昇る方向(東)に向いたとき左手に当たる方向で,英語のnorthもインド・ヨーロッパ語系のner(on the leftの意)に由来している。…
※「西」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」