パナマ文書についてのあれこれ
パナマ文書なるものが、世界を騒がせております。
パナマに拠点を持つ巨大法律事務所モサック・フォンセカ法律事務所から流出した︵内部リーク説と、ハッキング説があり、同法律事務所は当然ながらハッキング説を主張︶1150万件、2.6テラバイトに及ぶ膨大な資料のことです。
誤解があるようですが、もちろん、これらのデータの大半は、合法的な投資のためのものであり、同社が脱税やマネーロンダリングといった非合法活動を大々的に展開していたというわけではありません。実際に、金融ファンドを運営するにあたっては、こういったタックスヘイブン制度を使わないと、ファンドの収益の大半が税金で持って行かれてしまって、運用に支障をきたすことから、タックスヘイブンそのものが悪というわけでもありません。 http://mossfonmedia.com/wp-content/uploads/2016/04/Statement-Regarding-Recent-Media-Coverage_4-1-2016.pdf
とはいえ、一部にでも、脱税や資産隠し、マネーロンダリングの疑いがあれば、各国がこぞって調査を始めるのは当然でしょうし、たとえ違法でなかったとしても、政治家などが資産を公開する義務がある国でその資産を正確に報告していなかったり、明らかに通常の政治活動で得られるとは考えられない金額の資産を運用していたとすれば、道義的責任は免れないでしょう。 だからこそ、各国では、調査が始まっているというわけです。
税逃れ監視強化を協議…﹁パナマ文書﹂でG20︵読売新聞︶ http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160409-00050179-yom-bus_all
そして、現段階では、日本の企業や個人に関しては、公表されていません。 日本の企業や個人名として、以下で検索されるとして、現段階でネットで上がっているのは、2013年のオフショア・リークスの件ですので、デマではありませんが、﹁パナマ文書﹂のものではありませんので、ご注意。
それにしても、タックスヘイブンと呼ばれる地域は世界各所にあるものの、これがパナマって言うのが、いろんな意味で良かったですね。﹁パナマ文書﹂にしても、﹁Panama Paper﹂と呼ぶにしても、わかりやすくて、書きやすい。 これがこれが同じ租税回避地でも、アンティグア・バーブーダとかセントビンセント・グレナディーンだったりしたらと思うと、舌を噛みそうでわかりにくくてしょうがありません。
とはいえ、このモサック・フォンセカ、本社がパナマにあるといえ、実際には、各国に40以上の支社を持ち、英領バージン諸島のタックス・ヘイブンで登録している30万社に及ぶ取引先を持っているのですから、単なる﹁法律事務所﹂という言葉でイメージされるような﹁オフィス﹂ではなく、日本の巨大法律事務所をもはるかに凌駕する、ちょっとした大会社です。
ですから、同社から﹁流出した﹂データというのも、単に、パナマのカンパニーに資産を預けている会社や個人のデータだけではないというところが、今回のミソとなっているわけですね。 http://www.theguardian.com/news/2016/apr/03/what-you-need-to-know-about-the-panama-papers
もっとも、パナマ文書については、すでに興味深い記事がいくつも出ておりますし、すべての文書が公開されるのは5月になりますので、ここではちょっと、雑学程度のメモを記しておきます。
この事件までは、パナマと言えば、運河か帽子しか思いつかなかったという方もおられたかもしれませんが、じつは、パナマ帽というのは、南京玉すだれと同じで、パナマで作っているのではなく、隣国のコスタリカで作っています。 で、パナマが国際金融都市になったのは、実は割合新しく、1970年代以後のことです。
それまでのパナマは文字通り、運河しかないようなところで、しかもその運河はアメリカ合衆国の所有、という状態でした。というより、もともとコロンビア領だったところを、運河利権のためにアメリカに独立﹁加勢﹂されて、独立したようなものだったのです。
そのパナマ運河をアメリカから取り戻し、さらに、パナマを国際金融都市として発展させたのが、いまでも、パナマで圧倒的人気を持つ、故オマール・トリホス大統領でした。
このオマール・トリホス大統領、じつは軍事クーデターで大統領になった将軍です。 中南米で軍事クーデターというと、チリやブラジルのクーデターのせいで﹁極右ファッショ系﹂のイメージが圧倒的に強いのですが、実は、このような例外もあるのです。
︵※このような例外としては、ペルーのベラスコ政権や、1992年のベネズエラのチャベスによる軍事クーデターの試みなどがあります︶
トリホス自身は共産主義者ではなく、実際に、トリホス政権下では共産党は非合法でしたが、︵ただし、それまでの政権下とは違って弾圧はなかった︶、いわゆる左派的な反米ナショナリストとして、貧困層への支援、国内産業の充実に力を注ぎ、その中で打ち出したのが、パナマシティを国際金融都市として、運河だけに依存しない国作りだったわけです。
この過程で、トリホスは、アドバイザーを務めていた詩人で数学者・哲学者で元パナマ大学教授のホセ・デ・ヘスス・︵チュチュ︶マルティネスの仲介でキューバにも接近します。この時期以後、アメリカの苛烈な経済制裁の一方で、キューバはパナマのフリーゾーンを利用して、諸国と貿易を行うことができたというわけです。 その後、トリホスは﹁謎の飛行機事故﹂で死亡し、これはCIAによる暗殺とほぼ見なされています。
後の、1989年の米軍のパナマ侵攻事件は、米国がパナマ運河の返還を目前に、トリホスの後を継いだ、反米的なノリエガ将軍を追放し、パナマに親米傀儡政権を作ろうとしたということと、このキューバの重要な貿易ルートを断つという意味合いもあったわけですね。
というような歴史的経緯もあって、話題のモサック・フォンセカ法律事務所も1977年創立というわけです。
パナマ文書については、当座は、5月の全文書公開や、各国での調査がどうなっていくかをゆっくり見据えていったほうが良いと思いますが、とりあえず、興味深い記事をいくつかご紹介しておきます。
南ドイツ新聞によるパナマ文書ポータル︵英文ですが、似顔絵が秀逸です︶ http://panamapapers.sueddeutsche.de/en/ 国際調査報道ジャーナリスト連合︵ICIJ︶によるパナマ文書ポータル︵英文︶ https://panamapapers.icij.org/ ロイター通信によるパナマ文書特設ページ http://jp.reuters.com/news/world/panama-papers 朝日新聞によるパナマ文書特設ページ http://www.asahi.com/topics/word/パナマ文書.html パナマ文書はどうやって世に出たのか|ニューズウィーク日本版 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4850.php ﹁どうも。名無しです。情報興味ある?﹂パナマ文書をリークした人物の最初のコンタクト︵GIZMODE︶ http://www.gizmodo.jp/2016/04/panama_papers.html
誤解があるようですが、もちろん、これらのデータの大半は、合法的な投資のためのものであり、同社が脱税やマネーロンダリングといった非合法活動を大々的に展開していたというわけではありません。実際に、金融ファンドを運営するにあたっては、こういったタックスヘイブン制度を使わないと、ファンドの収益の大半が税金で持って行かれてしまって、運用に支障をきたすことから、タックスヘイブンそのものが悪というわけでもありません。 http://mossfonmedia.com/wp-content/uploads/2016/04/Statement-Regarding-Recent-Media-Coverage_4-1-2016.pdf
とはいえ、一部にでも、脱税や資産隠し、マネーロンダリングの疑いがあれば、各国がこぞって調査を始めるのは当然でしょうし、たとえ違法でなかったとしても、政治家などが資産を公開する義務がある国でその資産を正確に報告していなかったり、明らかに通常の政治活動で得られるとは考えられない金額の資産を運用していたとすれば、道義的責任は免れないでしょう。 だからこそ、各国では、調査が始まっているというわけです。
税逃れ監視強化を協議…﹁パナマ文書﹂でG20︵読売新聞︶ http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160409-00050179-yom-bus_all
そして、現段階では、日本の企業や個人に関しては、公表されていません。 日本の企業や個人名として、以下で検索されるとして、現段階でネットで上がっているのは、2013年のオフショア・リークスの件ですので、デマではありませんが、﹁パナマ文書﹂のものではありませんので、ご注意。
それにしても、タックスヘイブンと呼ばれる地域は世界各所にあるものの、これがパナマって言うのが、いろんな意味で良かったですね。﹁パナマ文書﹂にしても、﹁Panama Paper﹂と呼ぶにしても、わかりやすくて、書きやすい。 これがこれが同じ租税回避地でも、アンティグア・バーブーダとかセントビンセント・グレナディーンだったりしたらと思うと、舌を噛みそうでわかりにくくてしょうがありません。
とはいえ、このモサック・フォンセカ、本社がパナマにあるといえ、実際には、各国に40以上の支社を持ち、英領バージン諸島のタックス・ヘイブンで登録している30万社に及ぶ取引先を持っているのですから、単なる﹁法律事務所﹂という言葉でイメージされるような﹁オフィス﹂ではなく、日本の巨大法律事務所をもはるかに凌駕する、ちょっとした大会社です。
ですから、同社から﹁流出した﹂データというのも、単に、パナマのカンパニーに資産を預けている会社や個人のデータだけではないというところが、今回のミソとなっているわけですね。 http://www.theguardian.com/news/2016/apr/03/what-you-need-to-know-about-the-panama-papers
もっとも、パナマ文書については、すでに興味深い記事がいくつも出ておりますし、すべての文書が公開されるのは5月になりますので、ここではちょっと、雑学程度のメモを記しておきます。
この事件までは、パナマと言えば、運河か帽子しか思いつかなかったという方もおられたかもしれませんが、じつは、パナマ帽というのは、南京玉すだれと同じで、パナマで作っているのではなく、隣国のコスタリカで作っています。 で、パナマが国際金融都市になったのは、実は割合新しく、1970年代以後のことです。
それまでのパナマは文字通り、運河しかないようなところで、しかもその運河はアメリカ合衆国の所有、という状態でした。というより、もともとコロンビア領だったところを、運河利権のためにアメリカに独立﹁加勢﹂されて、独立したようなものだったのです。
そのパナマ運河をアメリカから取り戻し、さらに、パナマを国際金融都市として発展させたのが、いまでも、パナマで圧倒的人気を持つ、故オマール・トリホス大統領でした。
このオマール・トリホス大統領、じつは軍事クーデターで大統領になった将軍です。 中南米で軍事クーデターというと、チリやブラジルのクーデターのせいで﹁極右ファッショ系﹂のイメージが圧倒的に強いのですが、実は、このような例外もあるのです。
︵※このような例外としては、ペルーのベラスコ政権や、1992年のベネズエラのチャベスによる軍事クーデターの試みなどがあります︶
トリホス自身は共産主義者ではなく、実際に、トリホス政権下では共産党は非合法でしたが、︵ただし、それまでの政権下とは違って弾圧はなかった︶、いわゆる左派的な反米ナショナリストとして、貧困層への支援、国内産業の充実に力を注ぎ、その中で打ち出したのが、パナマシティを国際金融都市として、運河だけに依存しない国作りだったわけです。
この過程で、トリホスは、アドバイザーを務めていた詩人で数学者・哲学者で元パナマ大学教授のホセ・デ・ヘスス・︵チュチュ︶マルティネスの仲介でキューバにも接近します。この時期以後、アメリカの苛烈な経済制裁の一方で、キューバはパナマのフリーゾーンを利用して、諸国と貿易を行うことができたというわけです。 その後、トリホスは﹁謎の飛行機事故﹂で死亡し、これはCIAによる暗殺とほぼ見なされています。
後の、1989年の米軍のパナマ侵攻事件は、米国がパナマ運河の返還を目前に、トリホスの後を継いだ、反米的なノリエガ将軍を追放し、パナマに親米傀儡政権を作ろうとしたということと、このキューバの重要な貿易ルートを断つという意味合いもあったわけですね。
というような歴史的経緯もあって、話題のモサック・フォンセカ法律事務所も1977年創立というわけです。
パナマ文書については、当座は、5月の全文書公開や、各国での調査がどうなっていくかをゆっくり見据えていったほうが良いと思いますが、とりあえず、興味深い記事をいくつかご紹介しておきます。
南ドイツ新聞によるパナマ文書ポータル︵英文ですが、似顔絵が秀逸です︶ http://panamapapers.sueddeutsche.de/en/ 国際調査報道ジャーナリスト連合︵ICIJ︶によるパナマ文書ポータル︵英文︶ https://panamapapers.icij.org/ ロイター通信によるパナマ文書特設ページ http://jp.reuters.com/news/world/panama-papers 朝日新聞によるパナマ文書特設ページ http://www.asahi.com/topics/word/パナマ文書.html パナマ文書はどうやって世に出たのか|ニューズウィーク日本版 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4850.php ﹁どうも。名無しです。情報興味ある?﹂パナマ文書をリークした人物の最初のコンタクト︵GIZMODE︶ http://www.gizmodo.jp/2016/04/panama_papers.html