概説
HD DVDはDVD規格をベースにしてハイビジョン放送時代に対応するために開発された光ディスクの規格である。CDやDVDと同様、直径12 cm / 8 cm、厚さ1.2 mmのプラスチック製の円盤であるが、読み取りに使われるのは波長405 nmの青紫色レーザーである。DVDよりも波長の短いレーザーを用いることでより高密度の記録が可能となっている。HD DVDの直径12 cmディスクは1層で15 GBの容量を持ち、2層で30 GBの容量を持つ。直径8 cmディスクでは1層で4.7 GB、2層で9.4 GBの容量を持つ。保護層の厚さがDVDと同じ0.6 mmであるため、DVD製造ラインの一部を流用することが可能であるとされ、また振動によるレンズとディスクの衝突の回避に使用する接近検知システムの一部流用が可能であるとされた。
HD DVDはほぼ同時期に規格が策定されたBDと第3世代光ディスク規格の地位を争っていたが、市場︵消費者と、その動向を受けた映画配給会社︶はBDを選択。2008年2月19日の東芝の撤退発表で規格争いは終結した。
なお2004年12月には、HD DVDのコンテンツや商品開発の促進や普及を目的としたHD DVDプロモーショングループがメモリーテック、日本電気、三洋電機、東芝の4社が中心に設立された。だが2008年2月の東芝のHD DVD終息表明を受け関連各社もHD DVD事業の撤退方針を打ち出しており、同グループも約3年以上に規格争いの歴史に終止符を打つこととなり2008年3月28日に公式に解散した。
HD DVDは製品として展開されることはなくなったものの、物理規格や再生機器設計などの技術の一部がCBHDに流用されている。
規格
メディアの種類
HD DVDにはDVDと同様に読み取り専用型と記録型の規格が存在する。書き換えができる記録型HD DVD規格はランドグルーブ記録を採用しているHD DVD-Rewritable (HD DVD-RW) の規格策定が行われていたが、2層化が困難なことなどからHD DVD-Rの基本構造を継承したHD DVD-ReRecordable規格を策定しHD DVD-Rewritableの名称をHD DVD-RAMに変更、HD DVD-ReRecordableの名称をHD DVD-RWと決定した。
HD DVD-RWはデータ用が2007年7月からPCメーカー等に向けてサンプル出荷されており、2007年12月に製品化された。ビデオ用は2008年2月に製品化が発表された[4]が東芝の撤退により対応するビデオレコーダーは発売中止となりメディアの発売も中止された[5]。しかしその後、磁気研究所、あきばんぐダイレクトが台湾RiTEK社製のHD DVD-RWメディアの販売を開始した。この製品はAACSに対応しており、書き込みに対応したQosmioシリーズの一部で地上デジタル放送のムーブが可能である。日本国内で入手可能なHD DVD-RWメディアはRiTEK社製のものだけであった。
HD DVD-RAMは製品化されていない。
多層化に関しては2005年5月に片面3層 45 GB︵1層15 GB︶HD DVD-ROMの開発発表が行われ[6]、2007年のCESにて片面3層 51 GB︵1層17 GB︶HD DVD-ROMの発表が行われた。また片面3層 51 GBのHD DVD-ROMについては2007年9月12日にDVDフォーラムによって規格化がなされ[7]、11月15日に正式にver.2.0として承認され規格化を完了した[8]が製品化はされていない。
規格は以下。
HD DVD-ROM
読み取り専用のHD DVD規格。12 cm 片面1層 15 GB / 片面2層 30 GB / 片面3層 51 GB、8 cm 片面1層 4.7 GB/片面2層 9.4 GB
HD DVD-R
1回だけ書き込み可能な記録型HD DVD規格。片面1層 15 GB / 片面2層 30 GB
HD DVD-RW
繰り返して書き込みおよび消去が可能な記録型HD DVD規格。片面1層 15 GB / 片面2層 30 GB
HD DVD-RAM
繰り返して書き込みおよび消去が可能なPC用途向け記録型HD DVD規格。ランドグルーブ記録を採用。片面1層 20 GB︵2層に関しては未策定︶
片面にDVDとHD DVDの両方の記録層を持つツインフォーマットディスクは記録層の深さが現在のDVDと同じであることからピックアップ用のレンズ共用が可能なため、設計製作上のハードルが低いとされる。一部のHD DVDソフトで採用された。
両面ディスクの片面にHD DVD、もう片面にBDの記録層を持つTotal Hi Defが、2規格が店頭に並び混乱を生じることへの解決策としてワーナー・ブラザースにより独自に開発され、製品化が進められていたが2007年秋に開発中止された。ワーナーは2008年1月にBD一本化を表明している。
HD DVD-Video
主に市販ビデオソフトを収録するために策定された規格。従来のDVD-Video規格のHD DVD版とも言えるものだが、コピープロテクションなどではAACS (Advanced Access Content System) とよばれる新技術が使用されている。各プログラムデータの多重化︵コンテナフォーマットを参照︶にはMPEG2 PSシステムが採用されている。
DVD-VideoのContent Scramble System (CSS) が破られ違法コピーが蔓延していることから、CSSに代わる新たな著作権保護機構としてより強固なAACSが採用されている。このAACSは再生専用メディアに限らず、記録型メディアにも対応している。
HD DVDではHDiとよばれる対話型操作機能が必須機能となっており、すべてのHD DVDプレーヤーで利用可能。HDiはマイクロソフトが中心となって開発されXMLやECMAScript、SMILといったWWW関連技術からなるものであった。全てのプレーヤーにネットワーク端子の搭載が必須のため、インターネットを通じて対応ソフトの追加コンテンツの配信が可能。
なお、映画会社などからリージョンコード導入に対する要望により導入に向けて検討が行われていたものの、最後までHD DVD-Videoではリージョンコードによる制御は行われていなかった。
映像コーデックは下記。
●MPEG-2
●VC-1アドバンスドプロファイル
●H.264/MPEG-4 AVCハイプロファイル
音声コーデックは下記。
HD DVD-VR
DVDでのDVD-VRに相当する規格である。映像コーデック、音声コーデック、インタラクティブ機能、著作権保護機構、リージョンコードについては前述のHD DVD-Videoに準拠している。
DVDにてDVD-VRがビデオ用アプリケーションであるDVD-Videoより後に策定されたためDVD-Video用プレーヤーと再生互換が無かったことの反省としてHD DVDではHD DVD-VideoとHD DVD-VRのフォーマット構造を多くの部分で共通化し、HD DVD-VRフォーマットのディスクもHD DVD-Videoプレーヤで再生可能な設計とした[9]。従ってDVDと異なり市販レコーダーにHD DVD-Videoフォーマットの記録機能とHD DVD-VRの記録機能を併載する必要が無い。
エンコード録画用︵DVD-VRに相当︶のVideo Object (VOB) モードと放送ストリーム︵TS信号︶をそのまま記録するStream Object (SOB) モードの2種類がある。
●VOBモード:MPEG2-PSシステムを採用し、MPEG2のほかMPEG4 AVC (H.264) やVC-1 (WMV) などの各映像コーデックに対応していた。またVOB (VR VOB) モードで録画したものはHD DVD-ROMのアプリケーションフォーマットであるHD DVD-VideoのVOB (standard VOB) とサブセット扱いとなるため、同モードで記録したディスクは通常のHD DVDプレーヤーでも再生可能である。
●SOBモード:デジタル放送のMPEG2-TSをそのまま記録するためのモード︵MPEG2-TSシステムを採用︶。SOBモード録画の映像はHD DVD-Video専用プレーヤーでは再生が出来ない。
このHD DVD-VRを利用して、記録型DVDにHD DVDと同様の形式でデジタルハイビジョン放送を記録できる規格としてHD Recが製品化された。これはDVD-R/RW/RAMメディアにMPEG-4 AVCなどのコーデックでHDやSDの映像を記録する規格である。
このHD Recと直接は無関係ではあるが、同じくDVDメディアにHD DVD-VRで映像を入れる規格としてHD DVD9がワーナー・ブラザースにより提案されていた。ただしHD DVD9の製品化はなされなかった。
BDでも同様のコンセプトでBD9が考えられており、HD DVD9とあわせて3x DVDの総称でもよばれた。
HD DVD9はDVD-Videoの3倍の帯域幅を持ち、MPEG-2のかわりにVC-1やH.264といったより高圧縮のコーデックを用いることでハイビジョン規格の映像をDVDメディアに保存することが可能。DVDメディアであるため記録容量がHD DVDに比べて少なく、記録時間や画質の面ではHD DVDに劣る。片面2層 8.5 GBのDVDに平均ビットレート13 Mbpsで85分のハイビジョン映像の収録でき、HD DVDプレーヤーにのみ対応する。当初ワーナー・ブラザースが想定していた物は片面2層 8.5 GBのDVDに平均ビットレート8 Mbpsで120分のハイビジョン映像を収録し、青紫色半導体レーザーを用いない3x DVD対応のDVDプレーヤーで再生可能にする事であった。
HD Rec、HD DVD9ともDVD-Video規格とは全く異なるため一般的なDVDプレイヤーで再生することはできず、再生には特に対応した機器が必要である。
不正コピー問題
2006年12月18日、Muslix64というクラッカーが著作権保護機構であるAACSで用いられているキーを取り出すことに成功、これによりHD DVDの映画などが暗号解除されてBitTorrentなどのネットワークに流出するという事件がおきた。またHD DVDのバックアップツールであるBackupHDDVDが公開され、原理的に2007年1月までのコンテンツは全てコピーが可能となった。これに対しAACSのライセンス管理団体である米AACS LAでは想定済み問題であり必要手段を講じるとしたため、今後発売されるコンテンツに関してはこの方法でコピーできなくなる。しかし限定的とはいえAACSが策定されて1年もかからずにコピーが可能となったことがハリウッドを代表とするコンテンツ供給側の方針などに影響を与えるとする懸念がある。また同じAACSを採用しているBlu-ray Discは著作権保護機構としてAACSの他にROM MarkやBD+の実装があるのに対し、HD DVDはAACSのみであるために今回の問題による第3世代光ディスク規格競争に与える影響が指摘されている︵ただしBD+搭載コンテンツは2007年3月からの出荷であったため、2007年1月までのBDコンテンツはHD DVD同様不正コピーされている︶[10][11]。
BDとの比較
構造
HD DVDが読み取りに用いるレーザーはBDも同じく405 nmの青紫色レーザーである。HD DVDはDVDと同様に記録面から0.6 mmの深さに記録層がある(BDは0.1 mmの深さに記録層がある)ことから、DVDとHD DVDの片面2層ツインフォーマットディスクはDVDとBDの2層ディスクより製造が容易であった。このためHD DVD陣営においては「DVDからHD DVDへの橋渡し的役割を果たす」としてコンテンツホルダーに対して採用を呼びかけていた。しかしDVD層を不要と感じる一部の消費者[誰?]は無駄なコストを払うことに抵抗を持っており、賛否両論があった。
容量
一般的なDVDと同じ12 cmディスクにおいてHD DVDは片面1層 15 GB、2層 30 GBである。対するBDは片面1層 25 GB、2層 50 GBである。
映画スタジオ各社は当初30 GBで十分な容量があると感じ、2層HD DVDの30 GBと1層BDの25 GBをターゲットにコンテンツを制作していた。しかしBD陣営はDVDとの差別化を図るためBDに豊富な特典コンテンツを収録するようになり、また画質の要求も高まって映像ビットレートを高く取るようになったため2層 50 GBをフルに活用し始めた。
録画メディアとしても容量の差が大きな要因となっていた。BSデジタルハイビジョン放送の最大24 Mbpsで換算し片面1層HD DVD-R (15 GB) の収録可能時間は75分、片面1層BD-R/RE (25 GB) は130分と表示されている。地上デジタルハイビジョン放送︵最大17 Mbps︶ではより長時間の記録が可能であるものの115分と表示され、2時間を切る短さであった。
保護層と記録層を取り違えて﹁BDは記録層が0.1 mmでディスク厚が1.2 mmなので多層化が可能になり、理論上12層まで可能﹂﹁HD DVDは記録層が0.6 mmでディスク厚が1.2 mmなので、理論上2層までしか実現できない﹂といった誤った情報が流布することもあった[12][13]。
コスト
記録メディアおよびROMの製造においてHD DVDはDVDの製造機器を一部流用することが可能でありコスト面で有利と言われてきたが、一定の流通量が見込まれるようになった無機型BDメディアの方が結果的に低コストとなった。またBDにおいても有機素材を用いることでDVD等の設備を流用出来る技術が開発された事から、有機素材を用いたBD-R LTHメディアの発売を国内外の各社が発表し、2008年2月下旬から発売した。これによりさらなるBDの低価格化が進んだ。
また、ROM規格のディスク製造コストでもBDは不利と言われてきたが、松下電器産業が試験製造ラインをハリウッドに建設するなどして映画スタジオ各社にコストの不安を払拭するよう努めたことがBD支持の拡大につながった。
ビデオやインターネットの普及の牽引役となってきたアダルトビデオ業界[要出典]においても当初はHD DVDのほうが低コストであったことで多くのAVメーカーがHD DVDを支持してきたが、BDとHD DVDとのコスト逆転現象や業界内のBD支持の拡大によりAVメーカーも殆どがBD支持に転向してしまい、HD DVD陣営は孤立無援の状態へと陥った。
ビデオ規格
HD DVDではHDi︵旧:iHD︶と呼ばれるインタラクティブ機能が採用されている。XML、CSS、SMIL、ECMAScriptなどの技術が使われている。当初マイクロソフトが中心となっており、BDでもiHDを採用する提案がなされていたが見送られた。BDではJavaを基礎技術とするBlu-ray Java (BD-J) の採用によりインタラクティブ機能をサポートしている。
著作権保護機構は、HD DVDとBDの両方でAACSと呼ばれるコピープロテクト機能が採用されている。BDではこれに加え、AACSが無効化されたことを検知して再生を停止することの出来るBD+が採用されている。
沿革
ハードウェアの歴史
●2006年
●3月31日:日本国内でHD DVD再生専用機﹁HD-XA1﹂が東芝より発売された︵HD DVD-RやCPRM対応DVD-RAM・DVD-RWの再生には非対応︶。当初は2005年内にHD DVDプレーヤーを発売する予定としていたが同年9月に米国の映画産業の意向により米国内での発売を翌年春に延期すると発表し、同年12月には著作権保護規格・AACSのライセンスの発行が遅れているとして日本国内での発売も年明けへ延期していた。
●5月:東芝のQosmioG30/697HSを皮切りに、HD DVD-ROMドライブ搭載PCが数社から発売された。HD DVD-ROMドライブはDVDスーパーマルチドライブも兼ねている。再生専用規格に対応したドライブの発売はBDよりも1ヶ月先行したものの、記録型ドライブの投入はBDの方が早かった。このためHD DVD陣営のNECも2006年秋発売の機種でBDドライブを採用する結果を招いた。
●7月14日:東芝が録画再生機の﹁RD-A1﹂を発売する予定だったが、生産が遅れているとして7月28日発売に延期となった。記録メディアはHD DVD-Rのみ対応。フロントパネルに﹁VARDIA﹂のロゴが入っているほか、デジタルとアナログのチューナーを1つずつ搭載していた。
●10月10日:NECエレクトロニクス株式会社がBD、HD DVD両規格の記録と再生に対応し読み込みや書き込みが技術的には可能になるドライブ向けシステムLSIセットのサンプル出荷を開始。
●11月22日:マイクロソフトよりXbox 360用HD DVD-ROMドライブ﹁Xbox 360 HD DVDプレーヤー﹂が20,790円︵税込︶で発売。Xbox 360との組み合わせでHD DVDプレーヤーとして機能する。既にXbox 360を購入済みのHDTVユーザーには当時のHD DVDプレーヤーに替わる魅力的で安価なHD DVD導入の選択肢であった。発売当初のXbox 360はHDMIに対応していなかったためデジタル転送ができなかったが、2007年以降に市場で出回ったHDMI端子搭載のXbox 360ではデジタル転送が可能。
●12月下旬
●世界初のPC用内蔵ファイルベイ用HD DVD-ROMドライブ﹁HDV-ROM2.4FB﹂がバッファローより37,000円で発売された。HD DVD-ROM 2層/HD DVD-R 1層/CD・DVDの各種メディアの再生に対応した。
●東芝より新型プレーヤー﹁HD-XA2﹂が11万円前後︵翌年1月下旬に延期︶、﹁HD-XF2﹂が5万円前後で発売。再生メディアやCPRM未対応等は既存のプレーヤーと同等であったが、ローディング時間の短縮や上位バージョンの﹁HD-XA2﹂でのHDMI Ver.1.3相当に対応等の機能向上がみられた。また、NECエレクトロニクスは12月27日に東芝と協力して開発していたHD DVDレコーダー/プレーヤー用システムLSI﹁EMMA3﹂のサンプル出荷を開始した。CPU/映像デコーダー/エンコーダー/音声デコーダー/ストリーム処理/グラフィックスエンジン/ビデオスケーラーの第3世代光ディスク向け機能を1チップにしたLSIであり今回はHD DVDに特化した物で﹁HD-XA2﹂と﹁HD-XF2﹂に採用されているが、BDにも対応可能なため先に開発されていたドライブ向けシステムLSIと同じくコスト削減と両対応の用途への使用も可能であった。
●2007年
●6月12日:東芝は新型HD DVD/HDDレコーダー﹁RD-A600﹂600 GB HDDと﹁RD-A300﹂300 GB HDDの2機種を6月末に発売と発表した。同年2月に発売したDVDレコーダーを改良しHD DVDの録画再生機能を搭載した物だが、HD DVD-RWには非対応。月産1万台で第3世代レコーダーのシェア7割を目標にしており、国内の販売目標はHD DVD製品総計で30-40万台としていた。
●12月17日:東芝は12月21日に世界初のHD DVD-RW対応ドライブ︵HD Recにも対応︶を搭載したノート型パソコンを発売すると発表[15]。
●2008年
●1月14日:東芝は2007年9月以降北米で発売した﹁HD-A3﹂、﹁HD-A30﹂、﹁HD-A35﹂の3機種の価格を同13日より最大で半額に値下げしたことを発表した。値下げの理由として、年末に実施していた期間限定割引プロモーションでの販売が好調だったためとしている。同時に、ユーザーに対しHD DVDプレイヤーの操作方法やHD DVDプロモーション情報などを電話で提供する﹁HD DVD Concierge﹂サービスを1月よりスタートすることも明らかにした。
●2月16日:東芝がHD DVD機器すべての生産中止を決定した︵販売は継続︶とNHKが報道[16]。
●2月19日:東芝がHD DVDレコーダ/プレーヤの開発、生産を直ちに停止し3月末をめどにHD DVD関連事業から撤退すると発表[17]。
●9月17日:3層 51 GBのHD DVD-ROMのファイルシステム仕様バージョン2.0がDVDフォーラム 第43回 Steering Committee Meetingで承認された。
●2016年2月29日:東芝HD DVD製品の修理受付を3月31日をもって終了することが発表[18]。
参入企業の変遷
達成されなかった規格統一
2005年4月21日の日本経済新聞朝刊には、東芝とソニーの間でHD DVD・BDの両者の長所を生かした規格を共同開発することで合意したと報道した。これにより第3世代光ディスクは一つに統一された規格となり、ユーザーやコンテンツ製作者のメリットは大きなものになることが期待された。しかしこの交渉は難航した末に中断された。以降は互いに譲歩することなく交渉が再開されないまま2005年8月末には両陣営共に﹃交渉は時間切れ﹄として自陣営規格の本格的な製品化へ動き出した。
家庭用AV分野やノートPC分野に強い東芝、DVDドライブシェア世界一でありPCやMPEGといったデバイスに強いNECの2社で規格争いの主導権を握ろうとしており、BD陣営と対立した。積極的に支持する企業はHD DVDの方が少なかったが、DVDフォーラムの権威を借りて業界標準にふさわしいフォーマットであると主張する構図となっていた。これによりベータマックス対VHS戦争の再来が不可避となり、2006年に規格争いが本格化。この顛末にユーザーは失望し、HD DVD陣営への反感と第3世代光ディスクの普及の遅れにつながった。
当初形勢がはっきりしなかったため2006年には両規格への対応を決めるメーカーが増え、趨勢が決まる前に両規格対応のドライブが主流となる可能性も考えられた。2007年のCESでは、韓国のLG電子からBDとHD DVD両方のディスクに対応できるプレーヤーの発売が発表された。すでにリコーやNECといった企業が両規格対応のための安価な部品開発に成功していたため他のメーカーからも両規格対応のプレーヤーが発売されることも予想されたが、片方のみのプレーヤーに比べて割高なため普及は進まなかった。ただしパソコン向けにはHD DVD-ROM再生およびBD-R/RE記録再生の両対応ドライブ︵HD DVD-Rへの記録は非対応︶が比較的普及した。
またワーナーからはHD DVDとBDを1枚のディスクの裏表に記録することでどちらのプレーヤーでも再生可能なTHD (Total Hi Def) ディスクが発表されたものの製造コストが極めて高く、第3世代光ディスクの規格争いは混迷を極めた。
ユニバーサルピクチャーズ・ホームエンターテイメント社長のクレイグ・コンブローは2006年はHD DVDプレーヤー、対応PC、Xbox 360向けHD DVDドライブなど北米市場全体で17万5000台のHD DVD機器が普及したと発表した。またユニバーサルスタジオの発言やHD DVDプロモーショナルグループのプレスリリース[29]では北米のアタッチレート︵プレーヤーあたりのビデオタイトル販売数︶が4:1でHD DVDがBDに比べ1台のハードに対するタイトル販売数が多いと発表されたが、アタッチレートが4:1となる根拠であるそれぞれのハードウェア販売数とタイトル販売数のデータは示されていない。
フォーマット戦争の終了
HD DVDの記憶容量はBDの約6割でしかなく、過去のベータマックス対VHS戦争と同じように記憶容量で劣るHD DVDは苦戦を強いられるという向きが強かった。これを打開すべく東芝はHD DVDプレーヤの大幅値下げで対抗したが、逆に海外メーカーの参入尻込みやHD DVDソフトの売れ行き不振露呈を招いてしまった。
NECエレクトロニクスは﹁米国では、映画ソフトでHD DVDがBDの3倍売れている。﹂と発言していたが、2006年末時点でBDと拮抗した。また東芝の藤井美英執行役上席常務は2006年3月にBDとの規格争いに負けたらその時は土下座すると発言[30]、そして2006年度内100万台を販売目標とし﹁年末に売れてしまえばそこで決まる﹂と発言したが、同年末にHD DVDプレーヤーの年内販売台数が世界計で約10万台になるとの見通しを発表。その後2007年6月12日の東芝のHD DVDレコーダー発表会にて専用プレーヤーの生産台数累計が国内で1万台以下、北米で15万台であり、北米の専用プレーヤー累計シェアが6割であることが発表された。この発表会を睨んだとものと思われるキャンペーンでさらなる低価格とバンドル戦略︵5本無料クーポンも別途継続︶を行った結果、5月に一時的に専用プレーヤーの単月のシェアで7割程度になったことも発表。しかしこうした低価格戦略にもかかわらず、2006年末の発表時の北米の専用プレーヤー10万台から5万台しか上積みできなかった事から東芝は、2007年初めの北米プレーヤーの販売計画を180万台から下方修正し100万台とした。
2007年第1四半期のBDソフトのシェアはHD DVDの倍以上となり差を広げていった。同年の年末商戦でHD DVDの国内シェアは1割未満まで落ち込む。2008年1月頃にはドライブ開発メーカーはかつてのベータマックス対VHSの時のように勝ち馬に乗る形でBD規格に流れ、米大手映画会社のワーナー・ブラザースやスーパーマーケットチェーン大手のウォルマート等が相継いでBD支持を表明するなどBD支持の動きが広がり、HD DVD陣営は苦境に立たされた。
2008年2月16日にはNHKなどでHD DVDを主唱する東芝が撤退を検討しており、同月中にも決定を発表する見込みと報じられた[16][31]。そして2月19日、東芝はHD DVD事業についての記者会見を開催。東芝社長の西田厚聰は﹁HD DVD事業を終息する﹂と正式発表[32]し、﹁異なる規格が併存することによる自社事業への影響、消費者への影響の長期化をかんがみ、早期に姿勢を明確にすることが重要と判断した﹂と説明した。HD DVDレコーダーならびにプレーヤーの開発/生産を中止の上で出荷も縮小し同年3月末には事業を終息させる。PCやゲーム機向けのHD DVDドライブについても量産中止すると発表。出荷されたHD DVD関連製品についてはサポートを継続し、補修用部品は最低保有期間[33][34]を満たす製造終了後8年間について保有しサポートするほか、HD DVDドライブを搭載した同社製ノートPCについては﹁今後の市場ニーズをふまえて、PC事業全体の中での位置づけを検討する﹂と発表[35]、HD DVDドライブ搭載モデルの生産を打ち切った。HD DVD記録用メディアはメディアメーカーに継続した製造と販売を要請し調整を図るとした[36]。2002年のHD DVDの誕生から6年弱︵製品化からは2年弱︶で第3世代光ディスクの規格争いに終止符が打たれ、BDへの完全一本化が決定した[17]。
東芝の撤退発表後の各業界の動き
ソフトメーカー側の動きとしては規格争いの終結に伴い、各メーカーがBD参入を発表した。ユニバーサル映画の初参入やパラマウント映画の再参入の他、ワーナーやパラマウントはHD DVDのみで発売されていたタイトルのBlu-ray化も行った。日本のソフトメーカーは2009年に日活やショウゲートがソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに販売を委託する形でBlu-rayに参入し、松竹も同年秋に参入した。一方既発売HD DVDソフトの生産は中止され、以降に発売予定だったタイトルも発売中止や初回限定生産となることが多く見られた。
既にHD DVDにムーブされたコピーワンスのデジタル放送コンテンツはBDなど他のメディアへの再ムーブが現状では出来ないため、ドライブの修理が出来なくなった時点で再生が困難となる。
なお終息宣言直後の2008年2月には東芝社長の西田が﹁BDへの参入予定はない﹂と明言していた[40]が、2009年6月の株主総会の席では﹁SDメモリーカードの将来的な規格開発においてBD陣営との協力が重要になる﹂[41]としてBD参入に含みを持たせる表現に変わった。
東芝は2009年7月18日に、現行DVD機に加えて新たにBD再生専用機の年内の発売を発表。再生専用機を先行発売する理由は、海外でテレビ番組のインターネット配信が進んでおり、日本で主流の録画再生機の需要増大が見込めないためとしていた。しかし後に需要状況を鑑みてBDレコーダーも発売した。当初はOEM供給だったが、2010年にレグザブルーレイを自社開発し発売している。
支持企業一覧
HD DVDの販売促進目的で2004年12月22日にメモリーテック、日本電気、三洋電機、東芝の4社が中心となりHD DVDプロモーショングループ[42]が設立された。その後北米や欧州へ展開されたものの、2008年2月19日に東芝がHD DVDから完全撤退することを発表したため同年3月28日解散。
解散の時点で一般会員・準会員合計で135社が加盟していた[43]。
以下の支持企業リストは東芝の撤退が決まる前のもの。太字はHD DVDの幹事企業[43]。※印はBlu-ray Disc Association(BDA)にも参入を表明している企業[44]。
- ハードウェア・ソフトウェア関連企業
-
- エンタテインメント関連企業
-
発売された製品
以下に記載するのは2008年2月19日までに発売された代表的な製品である。全機種とも東芝の撤退により生産完了している。
何れも3波長化しておりCDやDVDも使用可。
HD DVDレコーダー
2006年に最初の製品が登場した。大容量︵DVD比︶の記録型HD DVDにデジタルハイビジョン放送を、ハイビジョン画質︵水平解像度1080本︶のままで長時間記録できるのが最大の特徴であった。
光ディスクへの記録方式としてはデジタル放送をそのままの形式 (MPEG-2 TS) で記録型HD DVDに記録するのが代表的だが一部の機種を除きDVDレコーダーと同様、記録型DVDに標準画質︵水平解像度480本、MPEG-2形式︶に変換して記録できる。またMPEG-4 AVC圧縮することにより、記録型Blu-ray Discにより長時間記録することができる機種や記録型DVDにMPEG-4 AVC圧縮形式で記録 (HD Rec) 可能な機種も登場している。
ハイビジョン画質対応のテレビ受像機︵日本国内では主に薄型テレビ︶が一般家庭に普及しはじめ画面の大型化が進んでいるのに伴いHD DVDレコーダーの普及も期待されていたがBDレコーダーの台頭、東芝の撤退により消滅。
なお従来型のDVDレコーダーではデジタルハイビジョン放送を記録型DVDに記録する際に標準画質に劣化させなければならず、このことがBD/HD DVDを含む第3世代光ディスクレコーダーとの大きな差異となっていたが2007年からAVCRECおよびHD Rec機能搭載のDVDレコーダーが登場したことにより現在では記録型DVDにもハイビジョン放送をハイビジョン画質のままで記録することが可能となっている。
デジタルテレビ放送チューナーと300 GB / 600 GBのハードディスクドライブ (HDD) を搭載し、地上・BS・110度CSデジタル放送をHDDに録画できる。さらに記録型HD DVD-Rに品質を損なわずに保存できる。HD DVDへの直接録画も可能。
片面1層 15 GBのHD DVD-RにBSデジタル放送︵24Mbps︶で約81分、地上デジタル放送︵17 Mbps︶で約115分の記録が可能とされているが地上デジタルのハイビジョン放送は連動データ放送を除くと概ね13 - 14 Mbps程度であり︵放送局によって異なる︶その場合は片面1層で2時間30分近くの記録が可能となる。
デジタルチューナー内蔵DVDレコーダーのVARDIA・RD-Sシリーズと同等の機能を搭載している。機能の詳細はVARDIAを参照。記録型DVDの規格争いの名残がHD DVDレコーダーにも引き継がれており、発売された全機種でDVD+R/+RWへの録画は不可能。
東芝はHD Recに対応した機種を発売した。
多数のメディア規格が混在するDVDと異なり、録画用メディアは追記型のHD DVD-Rの1種類のみであった。なお、書き換え型のHD DVD-RWはレコーダーとしては対応機種及び録画用メディア未発売のまま終焉を迎えた。
RD-A301にはMPEG-2形式のデジタル放送をより圧縮効率の高いMPEG-4 AVCで再圧縮し、ハイビジョンのままでより長時間の記録ができる機能を搭載している。同時期以降に発売された殆どのBDレコーダーや一部のDVDレコーダーにも同等の機能が搭載されている。
3種類の画質モード︵約3.6, 8.2, 15 Mbps︶及び47段階のマニュアルレート設定が用意され、片面1層のHD DVDに最大で7時間程度のハイビジョン記録が可能となる。地上デジタル放送の画質を大きく損なわずに保存するためには8 Mbps程度が必要とされる︵映像の内容や再生環境・見る人の主観によって異なる︶が上記のように地デジのビットレートは13 - 14 Mbps程度であるため、それを12 Mbpsなどのモードで再圧縮しても記録効率がさほど上がるわけではない。
●RD-A1︵HDD:1000 GB︶
●RD-A600︵HDD:600 GB、Wチューナー︶
●RD-A300︵HDD:300 GB、Wチューナー︶
●RD-A301︵HDD:300 GB、Wチューナー、HDRec対応︶
レコーダーは日本で約2万台が販売。
HD DVDプレーヤー
HD DVD-Videoを再生する単体の機器で、2006年に最初の製品が登場した。対抗規格のBDプレーヤーとともにテレビ番組を録画保存する習慣が殆どない海外諸国での普及が見込まれていた。しかしBDプレーヤーの台頭、東芝の撤退により消滅。日本ではわずか3機種が発売されただけであった。なお日本国外ではLG電子とサムスン電子からBD/HD DVD両対応プレーヤーが販売されていた。
国内発売モデルのみ記載。
●HD-XA1
●HD-XA2
●HD-XF2
対応メディアは以下。HD DVD-Rの再生は後期の製品で対応した。
●HD DVD-ROM
●HD DVD-R︵HD-XA2/XF2のみ︶
●DVD-ROM
●DVD-R︵HD-XA1はVRモード非対応︶
●DVD-R DL
●DVD-RW
●DVD-RAM︵HD-XA1のみ︶
●音楽CD
●CD-R︵HD-XA1のみMP3/WMA対応、他はCD-DAのみ︶
●CD-RW︵HD-XA1のみMP3/WMA対応、他はCD-DAのみ︶
プレーヤーは日本市場で約1万台、海外を含めて約70万台が販売。
PC用HD DVDドライブ
- 東芝
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- SD-H802A
- TS-L802A(初のノートPC搭載用薄型HD DVD再生ドライブ[47])
- SD-L902A(初のノートPC搭載用薄型HD DVD記録ドライブ[48])
- SD-H903A(初のデスクトップPC搭載用HD DVD記録ドライブ[49])
- SD-L912A(初のノートPC搭載用薄型HD DVD-RW記録ドライブ[50])
- LG
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- GGC-H20N(HD DVD/BD両対応再生ドライブ[51])
- GGW-H20N[52](GGC-H20NにBD-R/REへの記録を可能にしたもの)
- BUFFALO
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- HDV-ROM2.4FB(SD-H802AのOEM製品[53])
- BHC-6316FBS-BK(GGC-H20NのOEM製品[54])
- BHC-6316U2[55](BHC-6316FBS-BKの外付けモデル)
- BRHC-6316FBS-BK(GGW-H20NのOEM製品[56])
- BRHC-6316U2[57](BRHC-6316FBS-BKの外付けモデル)
- アイ・オー・データ
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- BRD-SH6B[58](GGW-H20NのOEM製品)
- BRD-UXH6[58](BRD-SH6Bの外付けモデル)
PC用ドライブは日本で約2万台、海外を含め約30万台が販売。
ゲーム機
マイクロソフトが発売しているゲーム機であるXbox 360は、別売のHD DVDプレーヤーを接続する事によりHD DVDを再生する事ができた。このプレーヤーはWindows XP SP2以降のPC(但しすべてのPCで動作するわけではない)に接続すればHD DVDドライブとして使用可能であった[59]。
脚注
参考文献
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
HD DVDに関連するカテゴリがあります。