秦豊吉
表示
秦 豊吉︵はた とよきち、1892年1月14日 - 1956年7月5日︶は、日本の実業家、演出家、翻訳家、随筆家、興行師。帝大出の商社マンから興行界に転身し、日本初のヌードショー﹁額縁ショー﹂の生みの親として知られる。
来歴・人物
東京府東京市牛込余丁町︵現・新宿区余丁町︶の裕福な薬商の家に生まれる。もともとは三重県東員町長深で土建業をしていた一家で、1878年に祖父・専治が上京し、饅頭屋を経て日本橋で生薬問屋﹁専治堂﹂を開業した[1][2]。豊吉の父親はその長男で、三男に秦家から養子に出て歌舞伎役者になった7代松本幸四郎がいる[3]。豊吉の妹の治子は三菱商事社長の槙原覚の妻となり、子の槙原稔は同社社長会長を務めた[4][5]。 東京府立一中を経て、一高では文芸部に。1917年に東京帝国大学法科大学独法科卒業後、三菱合資会社を経て三菱商事に勤めるが、文学趣味が強く、ドイツ文学を翻訳した。1917年から1926年まで社命でベルリンに滞在し、1923年結婚のためいったん帰国、その際関西に移住していた谷崎潤一郎を訪ね、谷崎は秦の様子が変わったのを見て﹁友田と松永の話﹂のモデルにしたと言われる。 帰国後、マルキ・ド・サドをもじった筆名﹁丸木砂土﹂で小説﹃半処女﹄︵1932︶やエロティック随筆を書き、ゲーテ﹃ファウスト﹄などの翻訳も行う。三菱合資会社勤務中、レマルクの﹃西部戦線異状なし﹄を翻訳、中央公論社から単行本として刊行し、ベストセラーとなる︵本書は同社初の単行本︶。1932年に三菱を退社。 1933年、東京宝塚劇場に勤務して日本劇場の運営に関わり、日劇ダンシングチームを育て上げる。1934年8月には支配人として東宝名人会を創設。1935年9月12日に同社の取締役に就任。その後1937年2月27日に江東楽天地が開業し取締役に就任。同年5月8日に東京宝塚劇場専務取締役を経て、1940年11月20日に同社代表取締役社長に就任。同年12月に株式会社後楽園スタヂアムの代表取締役社長に就任。1941年2月27日に東宝映画取締役に就任。1942年12月に後楽園スタヂアム代表取締役会長に就任︵1953年まで務めた︶。1943年12月10日に東宝代表取締役副社長に就任。1946年2月17日に現業重役制を廃止し新たに経営担当者制を布くために社長補佐に就任。同年3月13日に敗戦により公職追放に追い込まれ東宝の経営から離れるが、1947年より東京新宿の帝都座で日本初のストリップ・ショーを上演し成功を収め、1950年11月16日に帝国劇場社長になり、1952年9月20日に東宝取締役に復帰。国産ミュージカルの﹁帝劇ミュージカルス﹂上演で成功を収める。晩年は日本テレビ放送網の経営にも関わった。64歳で亡くなるまで50冊以上の著書・訳書を上梓した。著書
- 『好色独逸女』文藝春秋出版部 1928
- 『独逸文芸生活』聚英閣 1928
- 『青春独逸男』丸木砂土 文藝春秋社 1929
- 『世界艶笑藝術』武侠社 1930
- 『夜の話画の話』丸木砂土 明星書院 1930
- 『変な笑ひ顔で』丸木砂土 中央公論社 1930
- 『風変りな人々』丸木砂土 四六書院 1931
- 『女性西部戦線』丸木砂土 風俗資料刊行会 1931
- 『東京の女王』丸木砂土 文藝春秋社 1931
- 『処女学講座』丸木砂土 文藝春秋社 1932
- 『伯林・東京』岡倉書房 1933
- 『僕の弥次喜多』三笠書房 1934
- 『丸の内夜話』秋豊園 1937
- 『女の学校』丸木砂土 いとう書房 1947
- 『宝塚と日劇 私のレビュウ十年』いとう書房 1948
- 『甘つたれの研究』丸木砂土 ハンドブック社 1952
- 『丸木砂土随筆』東京文庫 1952
- 『夫婦愛し方読本』東南書房 1952
- 『ぐっど・ないと』出版東京 1952
- 『三菱物語』要書房 1952
- 『新丸の内夜話』小説朝日社 1953
- 『離れ座敷』要書房 1953
- 『芸人』鱒書房 1953
- 『菜の花漬』要書房 1953
- 『殿方草紙』丸木砂土 要書房 1953
- 『私の演劇資料』第1-4冊 1950-1953
- 『演劇スポットライト』朋文堂 1955
- 『わが粋筆』美和書院 1955
- 『秘密の文学』丸木砂土 住吉書店 1955
- 『劇場二十年』朝日新聞社 1955
- 『女の絵はがき』住吉書店 1956
- 『偉人粋人』学風書院 1956
翻訳
- ゲルハルト・ハウプトマン『馭者ヘンシエル』植竹書院 1914
- ルウドルフ・キエルレン『欧洲戦争と民族主義』富山房 1917
- フアンニイ・フアルクネル『ストリンドベルクの最後の恋』新潮社 1924
- ゴーリキイ『太陽の子』聚英閣, 1924
- 『ストリンドベルク小説全集第2巻 魂の発展史』新潮社 1925
- 『ストリンドベルク小説全集第5巻 地獄・伝説』新潮社 1925
- ギヨオテ『若きヱルテルの悲み』新潮社 1925
- ゲエテ『フアウスト』聚英閣 1926
- 『世界大衆文学全集第15巻 メトロポリス(テア・フオン・ハルボウ)/殿方は金髪がお好き(アニタ・ルウス)』改造社 1928
- ルマルク『西部戦線異状なし』中央公論社 1929 新潮文庫、1955
- アルツウル・シュニッツレル『西洋十夜』文藝春秋社出版部 1929
- ケッラアマン『世界文学全集 トンネル』新潮社 1930
- ドオデエ『世界大衆文学全集 獅子狩の人』改造社 1931
- ミユツセ『世界猟奇全集第1巻 歓楽の二夜』丸木砂土 平凡社 1931
- ジヤビダン妃殿下『世界猟奇全集第11巻 女の迷宮』丸木砂土,和田顕太郎共訳 平凡社 1931
- シラー『ウイルヘルム・テル』春陽堂 1932
- ゲーテ『ヘルマンとドロテア』春陽堂 1932
- シュニッツレル『恋愛三昧・アナトオル』新潮社 1937
- シルレル『群盗』新潮社 1938
- シュニッツレル『輪舞』三笠書房 1952
評伝
- 行動する異端-秦豊吉と丸木砂土 森彰英、TBSブリタニカ、1998
脚注
外部リンク
- 好色独逸女秦豊吉 (文芸春秋出版部, 1928)
- 東宝十年記 取締役社長 秦豐吉 『東宝十年史』(東京宝塚劇場, 1944)