二十年後
表示
﹃二十年後﹄︵にじゅうねんご、仏: Vingt ans après︶は、アレクサンドル・デュマ・ペールによるフランスの連載小説。1845年刊行。
﹃ダルタニャン物語﹄三部作の第二部。第一部﹃三銃士﹄の続編、第三部﹃ブラジュロンヌ子爵﹄の前編に当たる。第一部﹃三銃士﹄から﹁二十年後﹂の時代の話になることから、題名がつけられた。ダルタニャンと三銃士︵アトス、アラミス、ポルトスの3人︶が、1648年-1649年のフランスとイギリスを股にかけて活躍する。史実の事件フロンドの乱とイングランド内戦を舞台にする。第一部から20年が経過しており、﹃三銃士﹄時点で20歳の青年であったダルタニャンも40歳の壮年になっている。
概要[編集]
ルイ13世が崩御し、フランス王国はルイ14世の治下になった。かつての仇敵であり、後の理解者になった枢機卿リシュリューも亡くなった。ルイ14世はまだ幼く、かつてのルイ13世の妻であり、ときのフランス太后アンヌ・ドートリッシュとその愛人であるイタリア人マザラン枢機卿が実権を握っていた。 その頃のフランスではフロンド派が興隆し、王室転覆の危機となっていた。マザランは敵対するものを片っ端から逮捕し、牢獄に入れていた。リシュリューの忠実な部下であったロシュフォール卿も、入獄されてしまっていた。そのためマザランには敵が多く、頼りになる味方を探していた。マザランはロシュフォール卿を仲間に引き入れようと画策するが失敗。マザランは銃士隊のダルタニャンを利用しようとし、さらにダルタニャンと三銃士の過去の活躍をロシュフォール卿から聞き及び、是非とも召し仕えたいと考える。そこで銃士隊の副隊長であるダルタニャンを呼びつけて懐柔すると、三銃士を連れてくるように命じる。ところが三銃士アトス・アラミス・ポルトスは銃士隊を除隊していたため、ダルタニャンにも行方が分からなかった。そこでダルタニャンは少ない手がかりを頼りに探し始める。 最初に会えたのはアラミスで、従者バザンと共にイエズス会の神父になっていて、見込みがなかった。ポルトスは裕福だが、爵位が無いことに引け目を感じていたので、活躍すれば男爵の位をマザランから与えてもらえると誘う。アトスは元の領地に戻り、隠居して子息ラウルと一緒に暮らしており、アラミスと同じく見込みがなかった。結局ポルトスのみを連れてマザランのもとに戻ると、ちょうどボーフォール公爵の脱獄の知らせが入ってきた。ダルタニャンは逮捕の役目を買って出て、ポルトスと共にボーフォール公を追跡する。 馬を何頭も潰しながらも追いつき、ボーフォール公に追いつき、その護衛と対決する事になる。ところがボーフォール公の護衛はアトスとアラミスであった。実は彼らはフロンド派であり、だからこそ国王に︵しかし現段階では、実質マザランに︶仕えようというダルタニャンの誘いにけんもほろろであったのだ。 ここに永遠の友情を誓い合った4銃士は敵味方に別れてしまうことになった。4銃士はそれぞれの立場を理解するために、後日再会することを約束した。ダルタニャンとポルトスは逮捕を諦め、マザランのもとに戻った。約束の日が来て再会はしたが、血気盛んなダルタニャンとアラミスが仲違いし、あわや決闘という事態になる。そこを最年長であるアトスが自ら武器を捨てると共に、アラミスにも武器を捨てさせる。ダルタニャンとポルトスもこれには感動し、仲直りする。そして、敵味方に別れはしても、かつての友情は永遠に変わらず、決して友の身体を剣で貫くことはないだろうと4銃士は誓い合うのだった。 当時、イングランドでは清教徒革命により、クロムウェル率いる反国王派に対し国王チャールズ1世は不利な形成にあった。国王一家はバラバラになっており、フランス王女であったイギリス王妃はフランスに逃れてきていたものの、マザランやフランス太后は冷たい態度をとった。それに対し、アトスは貴族の義務として他国の王であっても助けるべきと、アラミスと共にチャールズ1世がいるスコットランドへ向かった。その途中、モードントと出会う。モードントは前作でダルタニャンと三銃士が私刑で殺したミレディの遺児であり、伯父のウィンター卿によって地位や財産を剝奪され、クロムウェルに近づいて側近となっていた。モードントは母のミレディを私刑で殺した人物たちの復讐のために動いていた。アトスとアラミスはモードントの目的を知り、今のうちに殺すべきか逡巡するが、結局はそのまま船で海を渡った。 一方でダルタニャンとポルトスは相変わらずマザランの下でそれぞれの望みを遂げるために働く。その頃、パリはフロンド派により不穏な空気となっており、マザランと太后アンヌ・ドートリッシュはパリ脱出を図る。ダルタニャンは獅子奮迅の働きで、奇策を使い無事に国王ルイ14世と太后、そしてマザランをパリから脱出させることに成功した。マザランはダルタニャンとポルトスにもうひと働きさせるべく、イングランドへ行き、クロムウェルへ手紙を届けるように命じた。2人はこれを果たせば望みが果たされるとの約束を取り付け、モードントと共にイングランドへ向かう。ダルタニャンとポルトスもモードントの正体を知るが、クロムウェルに会うため仕方なく同行した。 チャールズ1世は、スコットランド王家の出身であるが、スコットランド人の裏切りによってクロムウェル率いるイングランド軍に捕虜となる。アトスとアラミスは合流してチャールズ1世の脱出の手助けをしていたが、そこへ襲撃してきたイングランド軍と同道していたダルタニャンとポルトスの捕虜となる。チャールズ1世の忠実な家臣であったウィンター卿はモードントによってその際に殺されてしまった。 ダルタニャンとポルトスは、モードントがクロムウェルからアトスとアラミスの身柄を自由にする了承をとりつけ、2人を引き渡すように要求されたが、隙を突いて2人を連れイングランド陣営を脱出した。4人︵とその従者達︶は敵の裏をかいて、ロンドンへ護送されるチャールズ1世の一行に入り込み、隙を突いて国王を連れて逃げ出そうとしたが、間一髪でクロムウェルの命を受けたモードントが現れ、なんとか逃げ出し、さらに敵の裏をかいてロンドンへ潜入した。 ロンドンではなんとか国王と接触に成功し、さらに首切り台を作る大工とその徒弟になりすまして脱出路を作り、さらに首切り役人を誘拐して日にちを稼ごうとした。しかし覆面をしたモードントが代役を名乗り出ると、チャールズ1世は処刑されてしまう。予想外の事態に処刑台の下でなすすべないアトスであるが、国王の隠し財産のありかを教えられ、それを有効に活用にするように言われた。 ダルタニャンは国王を処刑し、彼らの計画を狂わせた覆面の男がモードントであることを突き止め、三銃士たちと共にモードントをとらえた。モードントは正々堂々と決闘で勝負をつけることを要求し、4人はそれを受け入れたが、モードントは隠し通路を使ってまんまと逃げてしまった。4人とその従者達は慌てて用意の船を使ってフランスへ逃げ出そうとするが、実はクロムウェルとモードントは彼らの逃走路を察知しており、その船には火薬樽が詰められて爆殺してしまう計画となっていた。ダルタニャン達が船にたどりつくと、あまりの無警戒さに怪しむも、予定通りに船に乗った。幸運なことに彼らの従者達が火薬樽の存在に気づき、ダルタニャン達はモードント達が脱出用に船に綱でつなげていた艀を見つけて、先に英仏海峡上で船から脱出した。そうとは知らないモードント達は導火線に火をつけた後にそのことに気づいたが時遅かった。しかし悪運の強いモードントは生き残り、ダルタニャン達の艀のそばで助けを求めた。アトス以外の全員がそのまま見捨てるように言ったが、アトスだけはモードントを引き上げるように主張した。しかしそれはモードントが1人でも敵を道連れにしようという最後のあがきであった。アトスとモードントは海中に沈むが、アトスはモードントを刺し命は助かった。 フランスにつくと、ダルタニャンはアトスとアラミスとは別れて、それぞれの道でパリへ向かうことにした。クロムウェルではなくジェームス2世のために動いたダルタニャン達はマザランの命令にそむいたことになっているため、むしろフロンド派のアトスとアラミスよりも危険であった。 アトスとアラミスはパリへ無事につくが、ダルタニャンとポルトスが到着しないため、ダルタニャンに告げられた予定の経路を逆にたどり、ついにはダルタニャンとポルトスがマザランの手下に捕獲されたことを知った。アラミスはフロンド派の味方を頼って兵を借りて助けるべく動き、アトスは太后アンヌ・ドートリッシュの元へ向かった。アトスはかつて彼らが太后のために働いたことを思い出させてダルタニャン達を解放するように言うが、太后は昔の話を蒸し返されたことを不快に思い、逆にアトスも逮捕させてしまった。マザランはアトスもダルタニャンとポルトスのいる牢獄に連れていく。ダルタニャンとポルトスはアトスも捕まったことを知る。そしてポルトスの活躍で兵の制服を手に入れた上で脱獄に成功すると、マザランが隠し財産をこの街においてあることを確認したうえでマザランをとらえ、アトスと共に牢獄を出ると、兵を集めてきたアラミスとも合流に成功した。 ダルタニャン達は捕虜としたマザランと交渉を始めた。マザランは最初は強気であったが、ダルタニャン達がいざとなったら刺し違える覚悟であること、また太后にはすでに資金がないという報告をしておきながら自らの隠し財産がまだあることを知ったことを交渉材料にし、ダルタニャンは出世、ポルトスには爵位、他にもフロンド派の人物たちの要求などを飲ませることに成功した。ダルタニャンはこの交渉内容を正式なものとすべく、太后アンヌ・ドートリッシュの元へ向かった。太后はマザランをとらえたことに激怒し、最初は頑として署名を拒んだものの、ダルタニャンの巧みな交渉でついには署名に応じた。 一方でアトスやアラミスもマザランと太后が批准した交渉内容をついにはフロンド派の要人たちに認めさせ、ついには国王派とフロンド派はとりあえずの和解に合意する。太后とマザランは改めてその実力を認めさせられたダルタニャンとポルトスに側を固めるように命じ、パリへ帰還した。危惧された通り貴族に率いられた一団と、乞食たちの一団から襲撃を受けたが、ダルタニャンがその貴族で友人でもあるロシュフォール卿を刺し殺し、ポルトスも乞食たちの頭目を殺すと、その一団は逃げ去った。乞食たちの頭目は、かつてダルタニャンが下宿していた家の主人のボナシューであった。登場人物[編集]
フランス[編集]
マザラン派[編集]
ダルタニャン ガスコーニュ地方、タルブ生まれの40歳。﹃三銃士﹄の最後でリシュリュー枢機卿から銃士隊副隊長の位を授かってから、その職を務め続ける。マザラン派︵とは言っても、銃士隊副隊長の職務として王室に忠誠を誓っているのであり、個人的にはマザランを﹁ピッシーナの大泥棒﹂とこき下ろしたりしている︶。実在の人物。 ポルトス・デュ・ヴァロン・ド・ブラシュー・ド・ピエールフォン かつての三銃士の一人。銃士隊を除隊後に金持ちの未亡人と結婚する。その未亡人も今はなく、広い土地と年金4万リーブルもの収入を相続する。爵位がないのを気にして、手柄を立てて男爵の位をもらおうと、マザラン派に就く。 ムースクトン ポルトスの従者。本名はボニファス。ポルトスに付き従っている。ポルトスが金持ちになったため、ムースクトンも出世し、領民から尊敬される人物になっている。 ジュール・マザラン 太后アンヌの愛人にして、枢機卿。フランスの全実権を握る。元はイタリア人だが、帰化してフランス人になる。権勢を振るい、貴族と対立している。極度の吝嗇家。ダルタニャンと三銃士を懐柔し、仲間を増やそうとする。 アンヌ・ドートリッシュ フランス太后。幼い国王ルイ14世の摂政も務めるが、マザランのいいなりになっている。﹃三銃士﹄から浮気性なのは変わらず、マザランを愛人にしている。 ルイ14世 フランス国王。まだ幼く、母アンヌと枢機卿マザランに実権を握られている。フロンド派[編集]
アトス ︵ラ・フェール伯爵︶ かつての三銃士の一人。元々高貴の出であったが、身分を隠して銃士隊に所属していた。除隊後は身分を隠す必要もないので、本名を名乗っている。三銃士で最年長であり、最も理知的な人物。自分の名前を告げた際にそれは山の名前ではないかと言われる場面がある。ミレディを処刑した事に罪の意識をも持っている。ひょんなことからシュヴルーズ夫人と通じ、一男をもうける。シュヴルーズ夫人が子どもを神父宅に預けたことを知り、引き取って育てる。 グリモー アトスの従者で無口。アトスに命じられて、ヴァンセンヌ監獄の獄吏になり、ボールフォール公爵の脱走を手助けする。 シュヴルーズ夫人 ラウルの実母。かつてフランスから亡命する途中で、神父︵実はアトス︶に家を一夜借り入れ、出来心からアトスと知らずに誘惑する。旅先でラウルが産まれたが、亡命の邪魔になるため、神父宅に置手紙付きで預ける。亡命する必要がなくなって、自分の手で育てようと消息を尋ねるが、既にアトスが引き取っており、それ以来息子は行方知れずとなっていた。 ケティ かつてのミレディの従者。﹃三銃士﹄後はシュヴルーズ夫人に仕える。アトスは神父宅でケティを見て、自分が情を交わした相手がシュヴルーズ夫人と悟る。 ラウル︵ブラジュロンヌ子爵︶ アトスとシュヴルーズ夫人の実子。近所に住んでいる貴族の娘ルイズと将来を誓い合う。自分がアトスとシュヴルーズ夫人の実子ということは知らない。シュヴルーズ夫人の伝手で出兵する。 ルイズ ラウルと将来を誓い合う。 アラミス ︵デルブレー神父︶ かつての三銃士の一人。男性、43歳。第一部﹃三銃士﹄のときからの念願が叶い、僧籍に身を置く。かつては﹁アラミス﹂と偽名を名乗っていたが、神父になったため本名を名乗っている。﹃三銃士﹄では、シュヴルーズ夫人の恋人だったが、本作までに破局する。ロングヴィル夫人の恋人。 バザン アラミスの従者。念願叶い、アラミスと共に僧籍に身を置いている。アラミスを再び銃士に誘い、現在の平穏を壊そうとするダルタニャンを恐れる。 ロングヴィル夫人 アラミスの恋人。フロンド派。 ボーフォール公 アンリ4世とガブリエル・デストレの孫で公爵。ルイ13世の崩御後に権勢を振るったが、次第に実権をマザランに奪われ、マザランと対立してヴァンセンヌ監獄に投獄される。牢獄の中でマザランを馬鹿にする歌を唄ったり、絵画を描いたりするが、脱獄してマザランに復讐することを夢見る。 ロシュフォール伯爵 亡きリシュリュー枢機卿の腹心。﹃三銃士﹄ではダルタニャンと対立するが、その後友情を深める。マザランによってバスチーユ監獄に投獄される。ダルタニャンと三銃士の活躍をマザランに進言し、その登用を勧めた人物。マザランからボーフォール公を監視する役目を言いつけられるが、恩人を裏切ることはできないと断わる。バスチーユ牢獄へ送還される途中で、プランシェによって助け出される。 プランシェ ダルタニャンのかつての従者。従者を辞めてからは菓子屋を営んでいた。ピカルディー生まれ。マザランを快く思っていないローシュフォール卿の脱走に荷担し、フロンド派の市民兵の士官として活躍する。フロンド派のアトス、アラミスにはもちろんのこと、敵対している王室派ではあっても、かつての主人ダルタニャンには妨害は行わず、便宜を図ってくれる。その他[編集]
リールの首切り役人 ﹃三銃士﹄にてミレディーを私刑に処したことを後悔する。命尽きる前に神父に扮したモードントに懺悔をする。イングランド[編集]
議会派[編集]
オリバー・クロムウェル イングランド議会派の長であり護国卿。チャールズ1世と敵対する。 モードント クロムウェルの忠実な部下。﹃三銃士﹄のミレディーとウィンター卿の実弟の間に産まれた息子。家督を継げず、無一文で投げ出したウィンター卿を恨む。後にリールの首切り役人により、母の死の真相を知り、ダルタニャン、三銃士、ウィンター卿への復讐を誓う。王党派[編集]
チャールズ1世 イングランド王。政権を奪還しようとクロムウェルと敵対する。 ウィンター卿 チャールズ1世に仕える。﹃三銃士﹄でダルタニャンと仲良くなる。モードントの叔父。日本語訳[編集]
第一部﹃三銃士﹄とは違い、第二部﹃二十年後﹄の日本語訳は鈴木力衛訳のみ。 復刊ドットコムにて再版。詳しくは﹁ダルタニャン物語#日本語版について﹂も参照。 ●﹃ダルタニャン物語﹄ 講談社文庫 全11巻 絶版、※初版は講談社の単行本、1968-1969年 ●﹃ダルタニャン物語﹄ 復刊ドットコム 全11巻。※講談社文庫を一部表記修正した選書版︵新版2011年︶ ※第二部﹃二十年後﹄は三部構成、第3巻﹃我は王軍、友は叛軍﹄、第4巻﹃謎の修道僧﹄、第5巻﹃復讐鬼﹄。関連項目[編集]
- フロンドの乱 - 物語に深く関わる史実の事件
- ピューリタン革命 - 物語に深く関わる史実の事件。
- 新・三銃士/華麗なる勇者の冒険 - 原作と異なり、モードントにあたる人物は女性の設定。