出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
十八番︵じゅうはちばん、おはこ︶とは、もっとも得意な芸や技のこと。転じて、その人がよくやる動作やよく口にすることば。その人のくせ[1]。数字は常に漢数字表記にするのが正しく、アラビア数字表記は誤り。
語源には複数の説があるが、それぞれが相互に関係している。
(一)歌舞伎で、初代團十郎・二代目團十郎・四代目團十郎がそれぞれ得意としていた荒事の演目18種を七代目市川團十郎が選んで﹁歌舞伎十八番﹂と呼んだ。ここから、得意とする芸という意味で広く用いられるようになった[2]。なぜ18という数になったのかについては、歌舞伎界では特別の演目を十八番とよんでいた説、﹁十八界﹂﹁十八般﹂のごとき総称・代表の意による説、荒事の主人公の年齢との関係の説など、複数の説があるが、どの説が正しいのかは明らかではない。選ばれた18種は、﹃勧進帳﹄、﹃不破﹄、﹃鳴神﹄、﹃暫﹄、﹃不動﹄、﹃嫐﹄、﹃象引﹄、﹃助六﹄、﹃押戻﹄、﹃外郎売﹄、﹃矢の根﹄、﹃関羽﹄、﹃景清﹄、﹃七つ面﹄、﹃毛抜﹄、﹃解脱﹄、﹃蛇柳﹄、﹃鎌髭﹄である[3]。
(二)阿弥陀如来が仏になる修行をしている時に立てられた48種類の誓い︵弥陀の四十八願︶の18番目が﹁念仏をする人達を必ず救済する﹂というものであり、これ︵生けとし生けるもの全てを救う︶が他の諸仏の立てられた誓いより突出していることから、十八番が得意なものの代名詞となった[4]。
(三)武士が身に着けるべき武芸の種類︵刀、弓、組みなど︶が、全部で18︵武芸十八般︶ある事から来ている。この場合は﹁とっておきのひとつ﹂ではなく、18種類全てに優れた﹁多才﹂の意味も含まれる。こちらは別に﹁武芸百般﹂とも呼ばれる。
(四)江戸時代では、高価な書画や茶器などを丁重に箱に入れて、﹁真作である﹂ことを示す鑑定者の署名である﹁箱書き﹂を添えた。ここから、﹁本物の芸であると認定された﹂という意味で、﹁おはこ﹂と言うようになった。
なお、十八番と書いて﹁おはこ﹂と読ませた初出は、柳亭種彦が文化12年︵1815年︶から天保2年︵1831年︶にかけて書いた﹃正本製﹄︵しょうほんじたて︶。また七代目團十郎が歌舞伎十八番を初めて公表したのは天保3年︵1832年︶のことで、この頃から広まった流行表現だったことが分かる。
(一)^ 日本国語大辞典第二版編集委員会 小学館国語辞典編集部﹃日本国語大辞典﹄2001年、小学館、第二版、第二巻。
(二)^ 山口佳紀﹃暮らしのことば新語源辞典﹄2008年、講談社。
(三)^ 下中邦彦﹃歌舞伎事典﹄1984年、平凡社、第2版。
(四)^ 瓜生中﹃あなたを守る菩薩と如来と明王がわかる本﹄2009年、PHP研究所、119頁。
外部リンク[編集]