装甲兵員輸送車
装甲兵員輸送車︵そうこうへいいんゆそうしゃ、Armored Personnel Carrier, APC︶は、車内に人員を乗せて走行する軍用車両。歩兵を載せることが多いため装甲兵員輸送車と訳されるが、民間人を乗せることもあることや原語のPersonnelから、装甲人員輸送車と訳されることもある。類似する歩兵戦闘車︵IFV︶が積極的な戦闘参加を想定している事に対し、装甲兵員輸送車︵APC︶はあくまで輸送が主任務である。
装輪式のBTR-80
やがて冷戦中には、戦車とともに随伴歩兵を搬送し機甲部隊を構成するAPCは、強力な武装を搭載し積極的に戦闘参加する歩兵戦闘車︵IFV︶へと発展する。一方で比較的軽装備の機械化歩兵部隊など向けに、IFVよりもコストを抑えたAPCの開発配備も並行して続けられ、フクスやBTRのような装輪装甲車が注目され始める。
冷戦後に大幅な軍事費縮減の傾向があったことで、高コストの装軌車を維持する必要性が薄いと判断され、より取得・運用コストが低い装輪装甲車が急速に普及した。実際にピラーニャ︵デンマーク、ルーマニア、スペイン︶やパトリアAMV︵クロアチア、スロベニア、ポーランド ポーランド︶や ボクサー装輪装甲車︵ドイツ、オランダ︶をはじめとした装輪式APCが大半のNATO加盟国で採用されている[注 1]。しかし、M113装甲兵員輸送車︵アメリカ、ノルウェー、トルコ、リトアニア︶やFV103 スパルタン︵ラトビア︶の様に旧式装軌式APCの採用例は少なくない。アメリカ陸軍では緊急展開部隊のストライカー旅団戦闘団で運用されているストライカー装輪式APCと並行してM113の後継となるAMPVを、イギリス陸軍は装軌式APCのFV432の後継となるエイジャックスを開発しており装軌式APCの系譜も断絶していない。装輪車は摩擦抵抗の少ない車輪の物理的定性から舗装された道路を走る分には効率が良い反面、不整地を苦手とするため本格的な野戦には向いていないとされるが、近年の装輪式APCは普及に後押しされて重装化の発展が著しく、旧式IFVの火力を凌駕する30mm機関砲を装備するものや、2010年代までには重量が装軌式IFV並みかそれ以上の30トン級の重装甲なものも現れてきている。
また、その大きな積載能力から指揮通信車両や自走迫撃砲など同一の車体を流用した様々な用途の車両が生み出され、数多くの派生型からなるファミリーを構成するようになり、ピラーニャやAMVが有名である[注 2]。
装軌式のM113装甲兵員輸送車の後継となるAMPV
近年の地域紛争の非対称戦環境下においては市街地を行動する装甲兵員輸送車も対戦車ロケット弾や地雷、即席爆発装置︵IED︶の攻撃にさらされることが多く、防御力の向上が図られている。BTR-Tやアチザリットなどのように、旧式戦車を改修することで高い生存性を持つAPCとした車両も登場している。また、テロ・ゲリラ攻撃から重装備の正面部隊よりも標的にされやすい後衛の非装甲車両︵ソフトスキン)を装甲化する意図のもと、低コストで対爆発防御に特に重点を置いた新しいAPCのグループであるMRAPのような歩兵機動車が増えてきている。