改訂新版 世界大百科事典 「ベーダ語」の意味・わかりやすい解説
ベーダ語 (ベーダご)
Vedic
![](/image/dictionary/sekaidaihyakka/block/81315401.png)
︿彼女は私をとがめず,怒りもしなかった。彼女は友だちにも私にも親切だった。1余りの骰子︵さいころ︶︵割り切れず1を余す最悪の目︶のために,私は貞淑な妻を離別した﹀ これから明らかなように,ベーダ語は典型的な屈折語である。名詞は3性,3︵単・両・複︶数,8格を区別し︵例文中ではsakhibhya,akṣasya-ekaparasya-hetor,anuvratām-jāyām︶,前置詞的な要素はふつう用いない︵インド語派は一貫して後置詞使用︶。apaはarodhamという動詞形にかかる副詞である。動詞は一般に時制が5︵現在・未完了・アオリスト・完了・未来︶,法が5︵直説法・命令法・接続法・願望法・準接続法injunctive︶,それに各動詞は原則として能動と中動︵行為の結果が再帰的に自らに及ぶ︶の2態,それに二次的に受動態も加えられる。この形の複雑さは,すでにベーダ語の歴史の中でも,接続法の後退など簡略化の方向に向かっている。 語彙は,文献の性格が主として神話,祭式,哲学に関係しているとはいえ,非常に豊富である。インド・ヨーロッパ語の伝統的な形のほかに,ドラビダ語などからの借用と思われる形も少なくない。またインド全域の特徴であるそり舌音はすでにあらわれているが,lはほとんどみられない。この点はイラン語の古層に共通する特徴であるが,lをもつサンスクリットとは方言的な違いを示している。逆に摩擦音はvと三つのs︵s,ṣ,ś︶の音とh︵ḥは語末のみ︶で,イラン語にくらべてはるかに少ないが,有声・無声の帯気音︵p,ph,b,bhなど︶をもつ点は特徴的である。母音体系はi,a,u︵e,oは常に長い︶で,これはセム系の言語のそれに似ている。ただ子音間で音節を担ったrとl︵ṛ,ḷと表記︶を音素化している点は注目に値する。 →サンスクリット 執筆者‥風間 喜代三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報