デジタル大辞泉
「ワイル病」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
ワイル病(レプトスピラ病)
ワイルびょう(レプトスピラびょう)
Weil's disease (Leptospirosis)
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)
ワイル病︵レプトスピラ病︶は病原性レプトスピラの感染により起こる人(じん)獣(じゅう)共通のスピロヘータ感染症です。レプトスピラによる感染症を総称してレプトスピラ病と呼びます。
病原性レプトスピラは、ドブネズミなどの保菌動物の腎臓に保菌され、尿中に排泄されます。ヒトには、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的、経口的に感染します。ヒトからヒトへの感染はありません。
1915年に稲田龍吉、井戸泰両博士により、世界で初めて病原体が発見されました。日本では、秋(あき)疫(やみ)、七(なの)日(かび)病(ょう)と呼ばれる地方病として農作業や土木従事者の間で発症していました。レプトスピラ病は2003年の感染症法の改正により4類感染症に位置づけられ、保健所への届出が必要になりました。それ以降4年間で93例の届出があり、うち87例の国内発症例の約半数が沖縄県での感染と推定されています。
国外では、現在でも全世界的にレプトスピラ病が流行しており、ブラジル、ニカラグアなどの中南米や、フィリピン、タイなどの東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の国々での大流行があげられます。
病原性レプトスピラの種類によって、症状は軽症から重症までさまざまです。急性発熱性の病気で、軽症型ではかぜのような症状だけで軽快します。
重症型の代表であるワイル病の主症状は、発熱、黄(おう)疸(だん)、出血、腎障害などで、感染後3~14日の潜伏期をへて悪(おか)寒(ん)を伴う発熱で発症します。ふくらはぎの筋肉痛、眼球結膜の充血が特徴的ですが、全身倦(けん)怠(たい)感(かん)、頭痛、腰痛などのさまざまな症状が現れます。第4~6病日に、黄疸や出血傾向が現れます。
症状だけで診断することは難しいのですが、症状と保菌動物の尿に汚染された水への接触、感染の流行地への旅行歴などが診断の助けとなります。発病初期から、蛋白尿、白血球増多、CRP陽性などがみられます。
確定診断には、血液、髄(ずい)液(えき)、尿からの病原体の分離、血清診断、遺伝子増幅検査が必要です。
抗生剤による治療が行われます。感染早期ではペニシリン系、テトラサイクリン系など多くの抗生剤の効果が認められますが、ストレプトマイシンが最も有効です。
レプトスピラ病の経過は極めて速く、ワイル病では治療開始時期が遅れるとしばしば重症化します。第2病日までに的確な治療を開始することが重要で、遅くとも第4病日までに治療を開始します。
感染の機会があり、ふくらはぎの筋肉痛や、眼球結膜の充血を伴う発熱が現れた場合には、早急に感染症内科のある医療機関を受診します。
東南アジアなどのレプトスピラ病の流行地域へ旅行した場合には、不用意に水のなかに入らないことが予防に重要です。海外ではトライアスロンなどのウォータースポーツによる集団発生が報告されています。水田作業、土木工事、野外調査などを目的に流行地域へ行く場合、可能ならワクチンを接種します。また薬物による予防として、ドキシサイクリンの効果が報告されています。
A型急性肝炎、B型急性肝炎、劇症肝炎、薬物性肝障害、胆道感染症
葛西 眞一, 紀野 修一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
ワイル病 (ワイルびょう)
Weil disease
レプトスピラによる感染症。1886年ドイツのワイルAdolf Weil︵1848-1916︶が初めて本病の4例を記載したため,︿ワイル病﹀と呼ばれているが,学術的には,本病の病原体発見者稲田竜吉︵いなだりようきち︶,井戸泰︵いどゆたか︶の命名に従って,︿黄疸出血性レプトスピラ病﹀と呼ぶのが正しい。病原体は1915年稲田と井戸によって発見され,現在はLeptospira interrogans subvar.icterohaemorrhagiaeと呼ばれるが,それと抗原構造が少し異なるsubvar.copenhageniによるものもある。病原レプトスピラはドブネズミなどが保有し,それらの尿中に排出されるので,それによって汚染された田,池,川などに入って経皮感染することが多い。汚染された食物により経口感染することもある。
症状
潜伏期は約1週間。経過は3期に分けられ,第1病週を第1期︵発熱期︶,第2病週を第2期︵発黄期︶,第3病週以後を第3期︵回復期︶という。初発症状は,悪寒,発熱,頭痛,高度の全身倦怠,眼球結膜の充血,筋痛,関節痛,腰痛など。これらのうち,眼球結膜の充血は早期診断にとくに重要な症状である。第4~5病日になると,黄疸,出血傾向が現れ,第2病週に顕著となる。黄疸,出血,タンパク尿を本病の3主要徴候という。発病初期からみられる重要な臨床検査所見は,タンパク尿,赤血球沈降速度の促進,白血球増加などである。
治療と予後
経過がきわめて速やかなため,できるだけ早期に治療を開始することがたいせつである。薬剤としては,ストレプトマイシンが最も有効である。その他のアミノグリコシド系,テトラサイクリン系,マクロライド系,セファロスポリン系,ペニシリン系抗生物質も有効である。第5病日までに適正な治療を開始した場合の致死率は10%以下であるが,それ以後では20~30%におよぶ。
執筆者‥小林 譲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
わいるびょう【ワイル病 Weil Disease】
レプトスピラというらせん菌による感染症です。レプトスピラは動物・人の両方に感染し、人での発症は動物からの感染によります。
ワイル病はレプトスピラ感染症のなかでももっとも重症型で、発熱、黄疸︵おうだん︶、皮下出血︵ひかしゅっけつ︶を生じ、重症例では死亡する場合もあります。発病は夏~秋に多くみられます。
[症状]
約10日間の潜伏期を経て、悪寒︵おかん︶、戦慄︵せんりつ︶とともに、突然、高熱、全身の筋肉痛︵きんにくつう︶、眼球結膜︵がんきゅうけつまく︶︵白目︵しろめ︶の部分︶の充血︵じゅうけつ︶がおこります。発症2週目には皮下出血、黄疸も現われます。重症例では腎不全︵じんふぜん︶、心不全︵しんふぜん︶、意識障害を生じることがあります。黄疸を発症した場合の致命率は約10%です。
[原因]
ネズミの尿に排出されたレプトスピラが人の皮膚︵ひふ︶や粘膜︵ねんまく︶の傷口から、あるいは飲食物などを通じて口から体内に侵入し︵経口感染︵けいこうかんせん︶︶、発病します。九州地方、山陰地方、千葉県での発病の報告が多くみられます。
[検査と診断]
白血球︵はっけっきゅう︶の増加、血沈︵けっちん︶の亢進︵こうしん︶、CRP陽性︵﹁肝膿瘍﹂の検査・診断︶という炎症所見と、黄疸を示す血清︵けっせい︶ビリルビンの高値、腎機能障害︵じんきのうしょうがい︶がみられます。
レプトスピラ症は、血液や尿を培養︵ばいよう︶したり、血中抗︵けっちゅうこう︶レプトスピラ抗体︵こうたい︶が検出されるかどうかで診断されます。
[治療]
補液、抗生物質の注射剤や肝庇護剤︵かんひござい︶が使用されます。高度の腎不全をおこしている場合は血液透析︵けつえきとうせき︶が行なわれます。早期に治療を開始するほど効果的です。
[日常生活の注意]
農業、土木︵下水工事など︶、食肉解体などの従業者にはワイル病感染の危険があります。作業中は手袋やゴム長をつけて手足を保護し、汚水︵おすい︶や動物の血液が直接皮膚に触れないようにします。
[予防]
加熱死菌ワクチンの接種︵せっしゅ︶により予防が可能です。汚染地域では感染源であるネズミの駆除︵くじょ︶が行なわれます。
出典 小学館家庭医学館について 情報
ワイル病【ワイルびょう】
黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ病。ネズミの体内に存在するレプトスピラによる伝染病。ネズミの尿で汚染された水などでうつる。水産食品業者などに多い。発熱,頭痛,筋肉痛,黄疸をきたす。治療には免疫血清と抗生物質を使用する。
→関連項目稲田竜吉|予防接種
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のワイル病の言及
【井戸泰】より
…大正前期の内科医。[ワイル病]病原体発見者の一人。岡山県生れ。…
【稲田竜吉】より
…青山胤通に師事,ドイツに留学,京都帝大福岡医科大学(現,九州大学医学部)教授。1915年[井戸泰]︵いどゆたか︶とともに黄疸出血性レプトスピラ病([ワイル病])の病原体を発見。さらに同病の治療・予防にも論及した。…
【傷寒論】より
…ただしそれも北宋時代に校勘作業を受けているから,現行本にも唐代のものとのあいだに多少の違いのある可能性があり,巻によって内容量が大きく違っているから,完本でないことも明らかである。傷寒は急性の熱病で,発疹チフスとかワイル病などを含めた複数の病気の総称であろう。《傷寒論》は傷寒の発病から死亡までの全経過を6段階に分け,各段階のさまざまの病状を記述し,それぞれに応じた治療法を指示したものである。…
※「ワイル病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」