デジタル大辞泉
「直」の意味・読み・例文・類語
ただ︻▽直︼
﹇名・形動ナリ﹈
1 曲がっていないこと。また、そのさま。まっすぐ。
﹁春霞井の上(へ)ゆ―に道はあれど﹂︿万・一二五六﹀
2 隔てるもののないこと。また、そのさま。直接。じか。
﹁―に逢(あ)はば逢ひかつましじ石川に﹂︿万・二二五﹀
3 時間を置かないこと。また、そのさま。すぐ。
﹁今宵は―に臥し給へれ﹂︿落窪・二﹀
﹇副﹈
1 まっすぐに。
﹁磐城山―越え来ませ磯崎の﹂︿万・三一九五﹀
2 直接に。じかに。
﹁―今日も君には逢はめど人言を繁み逢はずて恋ひ渡るかも﹂︿万・二九二三﹀
3 よく似ているさま。さながら。まるで。
﹁御(みぐ)髪(し)のかかりたるさま…―かの対の姫君にたがふ所なし﹂︿源・賢木﹀
ひた︻▽直︼
1
㋐動詞や動詞の連用形名詞の上に付いて、いちずに、ひたすら、の意を表す。﹁直走る﹂﹁直隠し﹂
㋑同じ動詞を重ねた句の、上の動詞の上に付き、﹁ひた…に…する﹂の形で、もっぱらその行為をする、はなはだしく…する、の意を表す。﹁直隠しに隠す﹂﹁直押しに押す﹂﹁直謝(あやま)りにあやまる﹂
2 名詞の上に付く。
㋐直接である、じかにそれが接している、の意を表す。﹁直おもて﹂
㋑まっすぐ、一方的、の意を表す。﹁直道﹂
㋒ある物の全面にわたっている、の意を表す。﹁直黒﹂﹁直青﹂
㋓純粋な、他のものを交えない、の意を表す。﹁直兜﹂
なお︹なほ︺︻直︼
﹇副﹈
1 取り立てて言うべき事もないさま。ありきたりに。
﹁天の下の色好みの歌にては、―ぞありける﹂︿伊勢・三九﹀
2 特に何もしないさま。そのまま。
﹁かうやうに物もて来る人に、―しもえあらで﹂︿土佐﹀
あたえ︹あたへ︺︻▽直/▽費︼
古代の姓(かばね)の一。朝廷に服した地方の国(くに)造(のみやつこ)に多く与えられた。5、6世紀ごろ成立。あたい。
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ただ【直・徒・只・唯・但】
(一)[1] 〘 形容動詞ナリ活用 〙
(一)[ 一 ] ( 直 )
(一)① 間に介在する物がなく、直結するさま。直接であるさま。
(一)[初出の実例]﹁嬢子(をとめ)に 多陀(タダ)に逢はむと 我が開(さ)ける利目(とめ)﹂(出典‥古事記︵712︶上・歌謡)
(二)② 曲折がなく、まっすぐなさま。遠まわしでないさま。
(一)[初出の実例]﹁大坂に 遇(あ)ふや嬢子(をとめ)を 道問へば 多陀(タダ)には告らず 当芸麻道(たぎまち)を告る﹂(出典‥古事記︵712︶下・歌謡)
(二)[ 二 ] ( 徒・只 )
(一)① 格別に扱うような状態ではないさま。取り立てるほどのことのないさま。普通なさま。並のさま。
(一)[初出の実例]﹁まだいと若うて、后のただにおはしける時とや﹂(出典‥伊勢物語︵10C前︶六)
(二)﹁兵共は只の様にて一人づつ其の家に行て隠れて居たりける﹂(出典‥今昔物語集︵1120頃か︶二九)
(二)② 取り立てるほどの行為を含まないさま。漫然たるさま。そのまま何もしないさま。むなしいさま。
(一)[初出の実例]﹁ただに病み死ぬるよりも人聞き恥づかしく覚え給ふなりけり﹂(出典‥竹取物語︵9C末‐10C初︶)
(二)﹁阿彌陀仏を念じ奉るは、口のあればただに唱へ居たるか、耳のあればただに聞ゐたるか、あな浅増のやすさや﹂(出典‥海道記︵1223頃︶極楽四方に非ず)
(二)[2]
(一)① ( 形動 ) 代償・祝儀などを与えたり受けとったりしないこと。代価が不要なこと。無料。また、無償であるさま。
(一)[初出の実例]﹁今日はかならずさるべき使ひぞと、心ときめきして来たるに、たたなるは誠にすさまじ﹂(出典‥能因本枕︵10C終︶二二)
(二)﹁無銭(タダ)でも貰(もらほ)と云(い)やせまいシ﹂(出典‥滑稽本・浮世風呂︵1809‐13︶四)
(二)② 何もないこと。
(一)[初出の実例]﹁されば、葉では合点がいかぬが、只(タダ)には増だろう﹂(出典‥咄本・蝶夫婦︵1777︶初夢の大吉)
(三)[3] 〘 副詞 〙
(一)[ 一 ] ( 直 )
(一)① 間に介在する物事がなく、直接に。
(一)(イ) 距離的なへだたりがなく、じかに。
(一)[初出の実例]﹁之乎(しを)路から多太(タダ)越え来れば羽咋(はくひ)の海朝なぎしたり舟梶もがも﹂(出典‥万葉集︵8C後︶一七・四〇二五)
(二)(ロ) 時間的なへだたりがなく、すぐに。また、時間的経過の短いことを限定する。
(一)[初出の実例]﹁直(ただ)今夜(こよひ)逢ひたる児らに言問ひもいまだせずしてさ夜そ明けにける﹂(出典‥万葉集︵8C後︶一〇・二〇六〇)
(三)(ハ) 多く命令文や物事を要請することばの上にあって、その意を強める。ともかく。何はともあれ。
(一)[初出の実例]﹁更に不可呑ず。只乗せ給へ﹂(出典‥今昔物語集︵1120頃か︶五)
(二)② ある事柄が、まっすぐに他の事柄に結びついて一致する、またはそっくりであると認める気持を表わす。まさしく。あたかも。
(一)[初出の実例]﹁神な月しぐれにぬるるもみぢばはただわび人のたもとなりけり︿凡河内躬恒﹀﹂(出典‥古今和歌集︵905‐914︶哀傷・八四〇)
(二)[ 二 ] ( 唯・只 )
(一)① それ一つを取り立てて限定する。それよりほかのことなく。もっぱら。いちずに。ひたすら。ただに。
(一)(イ) 限定の助詞を伴う。
(一)[初出の実例]﹁我が所生之(うめる)国唯(タダ)朝霧のみ有りて薫満てるかな﹂(出典‥日本書紀︵720︶神代上︵水戸本訓︶)
(二)﹁笙は、調べおほせて持ちたれば、ただ吹くばかりなり﹂(出典‥徒然草︵1331頃︶二一九)
(二)(ロ) 限定の助詞は伴わない。
(一)[初出の実例]﹁いかん方もしらずおぼえしかど︿略﹀ただむなしき風にまかせてありく﹂(出典‥竹取物語︵9C末‐10C初︶)
(二)﹁合戦の勝負必しも大勢小勢に不レ依、只士卒の志を一にするとせざると也﹂(出典‥太平記︵14C後︶六)
(二)② 事柄の単一さ、数量の少なさを強調する気持を表わす。わずかに。たった。ほんの。
(一)[初出の実例]﹁数多(あまた)は寝ずに多
(タダ)一夜のみ﹂(出典‥日本書紀︵720︶允恭八年二月・歌謡)
(二)﹁日日にをもり給てただ五六日の程にいと弱うなれば﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶桐壺)
(三)③ ﹁ただ+動詞連用形+に﹂の形で、ひたすらその行為を推し進めるさまを表わす。あとに同じ動詞をくり返すのが普通。
(一)[初出の実例]﹁大伴の 御津の浜びに 多太(タダ)泊(はて)に み船は泊てむ﹂(出典‥万葉集︵8C後︶五・八九四)
(二)﹁馬のうへにて只ねぶりにねぶりて﹂(出典‥俳諧・更科紀行︵1688‐89︶)
(四)④ 前文に対して、例外的にその事柄だけが成り立ったり派生したりする意を表わす。後文の内容全体の成立・派生を示すときは接続詞に近づく。
(一)(イ) わずかに。やっと。
(一)[初出の実例]﹁人みなまだねたれば、海のありやうも見えず、ただ月を見てぞ西ひんがしをば知りける﹂(出典‥土左日記︵935頃︶承平五年一月一一日)
(二)(ロ) けれども、ちょっと。それはそれとして。
(一)[初出の実例]﹁口つき愛敬づきて、少しにほひたる気つきたり。清げなりけり。ただ眉の程にぞおよずけのあしげさも少し出で居たりと見る﹂(出典‥落窪物語︵10C後︶一)
(三)[ 三 ] ( 徒・只 )
(一)① 取り立てた事をしないで。
(一)(イ) ありきたりに。なんでもなく普通に。
(一)[初出の実例]﹁二日許ありて、ただことばにて、﹃侍らぬほどにものしたまへりけるかしこまり﹄などいひて﹂(出典‥蜻蛉日記︵974頃︶下)
(二)(ロ) 何もせずそのまま。
(一)[初出の実例]﹁今宵ばかりにてこそあれ。御忌日なれば、猶ただ臥し給へれ﹂(出典‥落窪物語︵10C後︶二)
(二)② 代償なしに。無料で。
(一)[初出の実例]﹁舟にただ乗を、さつまのかみと云は、ただのりといはふがためじゃ﹂(出典‥虎明本狂言・薩摩守︵室町末‐近世初︶)
(四)[4] 〘 接続詞 〙 先行する事柄に対して、例外を認めたり、その他の事柄を追記する場合。しかし。ただし。
(一)[初出の実例]﹁衣・袴の着様、すべて私ならず。尋べし。たた、世の常の女懸りは、常に見馴るる事なれば、げには輙かるべし﹂(出典‥風姿花伝︵1400‐02頃︶二)
じきヂキ︻直︼
(一)[1] 〘 名詞 〙
(一)① ﹁じきとりひき︵直取引︶﹂の略。
(二)② ﹁じきい︵直位︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁京職大夫(みさとのつかさのかみ)直(チキ)大参(たいさん)巨勢の朝臣辛檀努卒﹂(出典‥日本書紀︵720︶天武一四年三月︵北野本南北朝期訓︶)
(三)③ ﹁じきせん︵直銭︶﹂﹁じきまい︵直米︶﹂﹁じきもの︵直物︶﹂などの略。
(一)[初出の実例]﹁右件田畠、乗薀房七間二面房一宇為レ直、限二永代一所二沽却一也﹂(出典‥高野山文書‐久安二年︵1146︶六月二八日・阿闍梨寂然田畠売券)
(二)﹁そりゃ当り前のことやないか、定期を張ったかて直(ヂキ)を張ったかて、客はちゃんと口銭を払ふとる﹂(出典‥金︵1926︶︿宮嶋資夫﹀一一)
(二)[2] 〘 形容動詞ナリ活用 〙
(一)① まっすぐであるさま。一直線であるさま。
(一)[初出の実例]﹁両の耳は竹を剥で直(ヂキ)に天を指し﹂(出典‥太平記︵14C後︶一三)
(二)② 時をあまりおかないで物事が実現するさま。→じきに[ 一 ]。
(三)③ 間に人や物などを入れないでするさま。直接であるさま。じか。
(一)[初出の実例]﹁ぢきの御返事を承はらで帰りまいらん事こそ、よに口おしう候へ﹂(出典‥平家物語︵13C前︶六)
(二)﹁お奉行様にぢきに差し上げる書付があるのだな﹂(出典‥大塩平八郎︵1914︶︿森鴎外﹀一)
(四)④ 関係が近接しているさま。また、兄弟姉妹などで、すぐ上または下であるさま。
(一)[初出の実例]﹁第一の姉が医学士さね、直(ヂキ)の妹の縁付いて居るのが理学士。其の次のが工学士﹂(出典‥婦系図︵1907︶︿泉鏡花﹀前)
(五)⑤ 性質などがすなおであるさま。正直であるさま。
(一)[初出の実例]﹁其の女、遂に心直(ぢき)なる故に、神仙此を哀て、神仙に仕ふ﹂(出典‥今昔物語集︵1120頃か︶二〇)
(三)[3] 〘 副詞 〙 あまり時間や距離をおかないさまを表わす語。すぐ。すぐに。まもなく。
(一)(イ) ( 体言を修飾して ) 空間的に隔たりの少ないさまを表わす。
(一)[初出の実例]﹁ぢきとなりのむら田の内へあがる﹂(出典‥洒落本・南極駅路雀︵1789︶)
(二)(ロ) ( 動詞を修飾して ) 時間的に隔たりの少ないさまを表わす。
(一)[初出の実例]﹁かう手をかけて、ヤ、かうねぢるとぢきはなれらア﹂(出典‥滑稽本・八笑人︵1820‐49︶二)
直の語誌
(1)漢語﹁直﹂の呉音に由来する。現在は、和語の﹁すぐ︵直︶﹂が即刻を表わすのに対して、﹁じき﹂はいくらか時間があるという差異がある。
(2)﹁すぐ﹂﹁じき﹂とも、本来、時間的な意味はなかったが、即刻・即時の意味を表わす﹁やがて﹂に代わって用いられた。﹁すぐに﹂は中世に入って発生したが、﹁じきに﹂は江戸時代中期ごろから使われたか。江戸時代前期の近松作品では、﹁じき︵に・の︶﹂を直接・じかにの意味に、﹁すぐに﹂を即刻・即時の意味に使用している。
すぐ︻直︼
(一)[1] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 まっすぐで曲がっていないさま。
(一)① ものが図形的に直線的で曲がっていないさま。
(一)[初出の実例]﹁麻の中の蓬は、撓(た)めざるにすぐなり﹂(出典‥平仮名古活字三巻本宝物集︵1179頃︶中)
(二)② 比喩的に、まっすぐで、曲がっていないさま。
(一)(イ) 心がまっすぐで正しいさま。すなお。正直。
(一)[初出の実例]﹁おほやけの御ため、すぐならぬうれへをおひ給ひて﹂(出典‥浜松中納言物語︵11C中︶三)
(二)﹁古代の人に見るやうなあの直(ス)ぐな心は﹂(出典‥夜明け前︵1932‐35︶︿島崎藤村﹀第一部)
(二)(ロ) 政治や世の中などが公平で正しいさま。
(一)[初出の実例]﹁梓弓心のひくにまかせずは今もすぐなる世にやかへらん︿平宗宣﹀﹂(出典‥新後撰和歌集︵1303︶雑中・一四三五)
(三)(ハ) 倫理的に正しいさま。
(一)[初出の実例]﹁すぐなるだいもくありとても、ゆみやをとるべからず﹂(出典‥どちりなきりしたん︵一六〇〇年版︶︵1600︶七)
(四)(ニ) 物事のでき具合、姿が、まっすぐで正しいさま。
(一)[初出の実例]﹁いかなる人も堪能の座に身を置かずしてはすぐなる方に入がたし﹂(出典‥古今連談集︵1444‐48頃︶下)
(三)③ やり方に曲折がなく、まっすぐなさま。
(一)(イ) やり方に変化が少なく、自然で、すなおなさま。いやみのないさま。
(一)[初出の実例]﹁すぐなる能には︿略﹀音曲の懸りだに確やかならば、これよかるべし﹂(出典‥風姿花伝︵1400‐02頃︶六)
(二)(ロ) 変化を加えず、ありのままのさま。そのまま。
(一)[初出の実例]﹁すぐにしらせ奉てはあしかりなんとやおもひけむ﹂(出典‥平家物語︵13C前︶二)
(三)(ハ) 簡単で手間がかからないさま。通り一遍なさま。多く、打消の形で用いる。
(一)[初出の実例]﹁村上左衛門義清直(スグ)では行かぬ頬(つら)魂﹂(出典‥浄瑠璃・本朝二十四孝︵1766︶一)
(二)[2] 〘 副詞 〙 ( ﹁と﹂﹁に﹂﹁の﹂﹁から﹂を伴って用いることもある。→すぐと・すぐに )
(一)① 時間を置かないさまを表わす。ただちに。即刻。
(一)[初出の実例]﹁一口いふ二口目にゃ速(ス)ぐ悪たれ口だ﹂(出典‥浮雲︵1887‐89︶︿二葉亭四迷﹀一)
(二)② 距離を置かないさまを表わす。
(一)[初出の実例]﹁店から直(ス)ぐの梯子を登れば﹂(出典‥門三味線︵1895︶︿斎藤緑雨﹀五)
(三)③ 間にほかのものをはさまないさまを表わす。直接。じか。→すぐに②。
(一)[初出の実例]﹁その男の子のすぐ上の姉で﹂(出典‥薄明︵1946︶︿太宰治﹀)
ちょく︻直︼
(一)〘 名詞 〙
(二)① ( 形動タリ ) まっすぐなこと。また、そのさま。
(一)[初出の実例]﹁君は輪を急に廻せ。余は毬を直に投げん﹂(出典‥小学読本︵1884︶︿若林虎三郎﹀二)
(二)﹁ここに長き橋の架したるはかのさびしき惣社の村より直(チョク)として前橋の町に通ずるならん﹂(出典‥純情小曲集︵1925︶︿萩原朔太郎﹀大渡橋)
(三)② ( 形動 ) 心、考えなどがまっすぐなこと。正しいこと。また、そのような人やさま。⇔曲。
(一)[初出の実例]﹁不レ諛二時勢一吐二直言一、感而有レ余、誠是諫諍之臣也。可レ謂レ直可レ謂レ直﹂(出典‥玉葉和歌集‐治承四年︵1180︶一二月三日)
(二)﹁一体の性根は直(チョク)なお方ぢゃナ﹂(出典‥滑稽本・浮世風呂︵1809‐13︶四)
(三)[その他の文献]︹書経‐舜典︺
(四)③ ( 形動 ) 安直なこと。手軽なこと。安価ですむこと。また、そのさま。
(一)[初出の実例]﹁余焔一条面北頬於二在家一火止了、事之次第非レ直也。天下之驚歎、只在二此事一者也﹂(出典‥師郷記‐応永三二年︵1425︶八月一四日)
(五)④ ( ━する ) 当番で任務につくこと。
(一)[初出の実例]﹁大宰府請、有二勲位一者作レ番直二軍団一﹂(出典‥続日本紀‐大宝三年︵703︶八月甲子)
(六)⑤ ⇒じき︵直︶
なおしなほし︻直︼
(一)〘 名詞 〙 ( 動詞﹁なおす︵直︶﹂の連用形の名詞化 )
(二)① なおすこと。まっすぐにすることや、正しくすること、修理すること、などをいう。
(一)[初出の実例]﹁造物所のものども御覧じては、なをしせさせ給へるを﹂(出典‥栄花物語︵1028‐92頃︶初花)
(三)② 広く器物の修理を業とする者を呼ぶ。﹁傘なおし﹂﹁錠前なおし﹂など。
(一)[初出の実例]﹁直しよとよべば錠まへはらをたち﹂(出典‥雑俳・柳多留‐一六︵1781︶)
(四)③ ﹁なおしざけ︵直酒︶﹂また﹁なおしみりん︵直味醂︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁盛り・朝っぱらから直しを引っかけ﹂(出典‥雑俳・歌羅衣︵1834‐44︶初)
(五)④ 江戸時代、芸娼妓をあげて、一定の時間遊んだあと、さらに遊びの時間を延長すること。普通﹁おなおし﹂という。
(一)[初出の実例]﹁昼仕舞のお客は暮迎に帰りそびれてぜひ直しになるものさ﹂(出典‥洒落本・部屋三味線︵1789‐1801頃︶)
(六)⑤ 歌舞伎で、狂言方が開幕前に知らせの拍子木を打ちながら舞台に行き、大道具その他が整ってから、下座の前で間を短く二つ打つことをいう。これを合図に開幕の音楽が始まる。
(一)[初出の実例]﹁此時うしろにて幕明きの、直(ナホ)しの拍子木聞えて﹂(出典‥歌舞伎・月梅薫朧夜︵花井お梅︶︵1888︶二幕)
(七)⑥ ﹁いろなおし︵色直︶﹂の略。
(八)⑦ 梓巫(あずさみこ)のことをいう。
(一)[初出の実例]﹁梓巫︿略﹀中国にて、なおしと云﹂(出典‥物類称呼︵1775︶一)
あたいあたひ︻直︼
(一)〘 名詞 〙 大化前代、県主(あがたぬし)などの地方豪族に与えられた姓(かばね)の一種。あたえ。あたいえ。
(一)[初出の実例]﹁大伴室屋大連、東漢掬直(やまとあやのつかのアタヒ)とに遺詔(のちのみことのり)して曰く﹂(出典‥日本書紀︵720︶雄略二三年八月︵前田本訓︶)
直の語誌
(1)五~六世紀と見られる和歌山県隅田八幡宮蔵人物画像鏡銘に﹁開中費直﹂とあり、﹁書紀‐欽明二年七月﹂に河内直の中に﹁百済本記﹂を引用して﹁加不至費直︵内閣本訓あたひ︶﹂が見えるところから、この語は遅くとも六世紀の初めまで遡ることができる。
(2)﹁書紀﹂では普通﹁直﹂が用いられるが、法隆寺金堂の四天王像の銘文には﹁費﹂ともあり、﹁続日本紀‐神護景雲元年三月乙丑﹂には﹁追注二凡費一。情所レ不レ安。於レ是改為二栗凡直一﹂と﹁費﹂の字を﹁直﹂に改めてほしいとの記述が見える。
(3)﹁書紀﹂では前田本、北野本など院政期の古訓に﹁あたひ﹂﹁あたひえ﹂が見られるが、﹁あたえ︵へ︶﹂の確例は時代がずっと下る。最近まで﹁あたえ﹂が主に用いられていたのは、あるいは本居宣長﹁古事記伝﹂によるものか。
なおなほ︻直︼
(一)[1] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 折れ曲がりや曲折のないさま。まっすぐなさま。→なおなお・まなお。
(二)[2] 〘 副詞 〙
(一)① とり立てて見るべき所のないさまを表わす。特にどうということなしに。平凡に。ありきたりに。
(一)[初出の実例]﹁天の下の色好みの歌にては猶ぞありける﹂(出典‥伊勢物語︵10C前︶三九)
(二)② とり立てて言うべき、言動や工夫をしないさまを表わす。何もしないでむなしく。まったく工夫をこらさないで。
(一)[初出の実例]﹁斯くしてや尚(なほ)や老いなむみ雪降る大荒木野の小竹(しの)にあらなくに﹂(出典‥万葉集︵8C後︶七・一三四九)
直の補助注記
[ 一 ]の実例は﹁万葉集﹂に﹁なおなお﹂﹁まなお﹂の形で見られ、これは形容詞﹁なほし﹂の形に発展した。
ひた︻直︼
(一)〘 造語要素 〙 名詞、またはこれに準ずる語、まれに動詞の上に付いて、それに徹したさまを表わす。
(二)① 直接であるさま、じかにそれが接しているさまをいう。﹁ひた土﹂﹁ひたおもて﹂など。
(三)② まっすぐであるさま、一方的であるさまをいう。﹁ひた使い﹂﹁ひた道﹂など。
(四)③ ある物の全面にわたっているさまをいう。﹁ひた白﹂﹁ひた黒﹂など。
(五)④ 純粋な、他のものをまじえないさまをいう。﹁ひたさお﹂﹁ひたかぶと﹂など。
(六)⑤ 主として、動詞連用形から変化した名詞の上に付いて、そのような動作がもっぱら行なわれているさまをいう。﹁ひた照り﹂﹁ひたおもむき﹂など。
(七)⑥ ⑤に、同じ動詞を重ね、﹁…に…する﹂の形で、もっぱらその行為をする、はなはだしくする意を表わす。﹁ひた押しに押す﹂﹁ひた泣きに泣く﹂など。また、これを動詞化して﹁ひた走る﹂﹁ひた泣く﹂などとも用いる。
直の補助注記
語源は﹁一(ひと)﹂の交替形という説が有力。
じかヂカ︻直︼
(一)〘 名詞 〙 ( ﹁じき﹂の変化した語 )
(二)① ( 形動 ) 間にへだてるものがないこと。他の語に付いて語素のように使われることが多い。﹁じか談判﹂﹁じかばき﹂など。→じかに。
(一)[初出の実例]﹁その仕方はづんどぢかな言語をつつしむと云様な上から仕て出ることにて候﹂(出典‥雑話筆記︵1719‐61︶上)
(二)﹁直(ヂカ)な畳の上に寝転んでゐる義男の姿が﹂(出典‥木乃伊の口紅︵1913︶︿田村俊子﹀八)
(三)② 鶏、また、鶏肉をいう。
(一)[初出の実例]﹁かしわ、じか﹂(出典‥当世花詞粋仙人︵1832︶)
あたいえあたひへ︻直︼
(一)〘 名詞 〙 ﹁あたい︵直︶﹂の古訓。→﹁あたい︵直︶﹂の語誌。
(一)[初出の実例]﹁大臣長直(アタヒエ)を使して大丹穂(おほにほ)山に桙削(ほこぬきの)寺を造る﹂(出典‥日本書紀︵720︶皇極三年一一月︵図書寮本訓︶)
直の補助注記
﹁あたひ‐え︵兄︶﹂と考えられるが、あるいは、﹁書紀‐神武即位前﹂﹁直部︵日本紀私記丙本・熱田本訓あたひへ︶﹂と関係があるか︵この﹁部﹂は﹁等(ら)﹂の意味とされる︶。
ひった【直】
- 〘 副詞 〙 ( 「と」を伴って用いることもある ) =ひたと(直━)
- [初出の実例]「是よりかかりを体にして、ひったと音曲にかかるべし」(出典:申楽談儀(1430)拍子の事)
- 「家内をひった見廻して、ヲヲ是はしたり」(出典:浄瑠璃・義経千本桜(1747)一)
じっきヂッキ【直】
- 〘 副詞 〙 「じき(直)」の変化した語。
- [初出の実例]「京女郎だと島田とはじっき切れ」(出典:雑俳・柳筥(1783‐86)二)
- 「直(ヂッキ)其処に御温習がありました故」(出典:団団珍聞‐五一八号(1885))
あたえあたへ【直】
- 〘 名詞 〙 =あたい(直)
- [初出の実例]「書直県(ふむのアタエあかた)を以て大き匠(たくみ)とす」(出典:日本書紀(720)舒明一一年七月(寛文版訓))
なお‐
しなほ‥【直】
- 〘 形容詞シク活用 〙 =なおし(直)〔形ク〕
- [初出の実例]「仏教をなをしく習ひうる事かたし」(出典:日蓮遺文‐三沢鈔(1278))
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
直
あたい
古代の姓(かばね)の一つ。直と記すのが普通だが、古くは費、費直とも記す。443年ないしは503年鋳造の和歌山県隅田八幡宮(すだはちまんぐう)所蔵の鏡銘に﹁費直﹂とあるのが初見。語源については諸説あるが、上長を意味する朝鮮語に由来するという説が有力。直姓氏族は210余を数え、大和(やまと)朝廷に服属した地方の国造(くにのみやつこ)に多く授与された。帰化人では漢(あや)氏に与えられた。684年︵天武天皇13︶の八色(やくさ)の姓(かばね)の制定に際し、直姓の有力氏族は第四位の忌寸(いみき)を賜姓された。
﹇前之園亮一﹈
﹃太田亮著﹃全訂日本上代社会組織の研究﹄︵1955・邦光書房︶﹄▽﹃阿部武彦著﹃氏姓﹄︵1966・至文堂︶﹄
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
直 (あたい)
日本古代の姓︵かばね︶の一つ。︿あたえ﹀ともよむ。費,費直とも表記され,主として大化改新以前の地方豪族である国造︵くにのみやつこ︶に授けられ,改新以後は,その国造の後裔である郡司とその一族とが,この姓を有している場合が多い。直の語義は諸説あるが,アタヒ︵値︶と同根で,匹敵するものの意で,かつて天皇と同等の権力を持って地方の政治を行っていた国造を︿あたひ﹀と呼んだことに由来するといわれている。︿癸未年﹀︵503︶の年紀のある隅田八幡人物画像鏡銘に︿開中費直穢人・今州利の二人を遣わし﹀とあるように,費直︵直︶の姓の用例がみえ,直の姓は6世紀の初葉にすでに存在していたことが知られる。
執筆者‥佐伯 有清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
直
あたい
﹁あたえ﹂とも。費・費直とも。古代のカバネ。貴人を意味する﹁アタヒエ(貴兄)﹂の訳か。5~6世紀頃,大和政権に服属した地方豪族である国造(くにのみやつこ)層に賜った。503年の紀年をもつ隅田八幡神社蔵の人物画像鏡に﹁開中費直﹂とあり,これが﹁カワチノアタイ﹂と読めることから,この頃には存在していたことが知られる。なお瀬戸内海沿岸地方には,広範囲を支配した国造に与えられた凡直(おおしのあたい)という姓もみられる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
直【なおし】
本直(ほんなおし),柳蔭(やなぎかげ)とも。味醂(みりん)と同じく,焼酎(しょうちゅう),麹(こうじ),蒸し米を混和,熟成した味醂醪(もろみ)に,さらに焼酎を加え,濾過(ろか)して造った酒。味醂より甘味が少なく,アルコール分が多い︵22%︶。もっぱら飲用。
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直
あたい
﹁あたえ﹂ともいい,古代の姓 (かばね) の一つ。﹁費﹂﹁費直﹂とも書く。大化以前の国造 (くにのみやつこ) に与えられた。6世紀前半にはすでにあったことが知られている。
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直
あたい
大和政権の姓 (かばね) の一つ
大化以前の国造 (くにのみやつこ) や部民統率者に与えられた。後に国造が郡司になったため,郡司に多い。
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世界大百科事典(旧版)内の直の言及
【直】より
…〈あたえ〉ともよむ。費,費直とも表記され,主として大化改新以前の地方豪族である[国造](くにのみやつこ)に授けられ,改新以後は,その国造の後裔である郡司とその一族とが,この姓を有している場合が多い。直の語義は諸説あるが,アタヒ(値)と同根で,匹敵するものの意で,かつて天皇と同等の権力を持って地方の政治を行っていた国造を〈あたひ〉と呼んだことに由来するといわれている。…
【氏姓制度】より
…連とは,大伴,物部,中臣,忌部︵いんべ︶,土師︵はじ︶のように,朝廷での職務を氏の名とし,天皇に従属する官人としての立場にあり,朝廷の成立に重要な役割をはたした豪族である。伴造とは,連とも重なり合うが,おもにそのもとで朝廷の各部司を分掌した豪族で,秦︵はた︶,東漢︵やまとのあや︶,西漢︵かわちのあや︶などの代表的な帰化氏族,それに弓削︵ゆげ︶,矢集︵やずめ︶,服部︵はとり︶,犬養︵いぬかい︶,舂米︵つきしね︶,倭文︵しとり︶などの氏があり,連,造︵みやつこ︶,直︵あたい︶,公︵きみ︶などの姓︵かばね︶を称した。百八十部は,さらにその下位にあり,部︵べ︶を直接に指揮する多くの伴︵とも︶をさし,首︵おびと︶,史︵ふひと︶,村主︵すくり︶,勝︵すくり︶などの姓︵かばね︶を称した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」