デジタル大辞泉
「膳」の意味・読み・例文・類語
かしわ‐で︹かしは‐︺︻▽膳/▽膳▽夫︼
︽古代、カシワの葉を食器に用いたところから。﹁で﹂はする人の意︾
1 古代、宮中で食膳の調理をつかさどった人々。
﹁水(みな)戸(との)神(かみ)の孫(ひこ)、櫛(くし)八(やた)玉(まの)神(かみ)、―となりて﹂︿記・上﹀
2 中世、寺院で食膳調理のことをつかさどった職制。
3 食膳を供すること。また、食膳。︿色葉字類抄﹀
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ぜん【膳】
(一)[1] 〘 名詞 〙
(一)① ととのえられた飲食物。でき上がった料理。
(一)[初出の実例]﹁招二于庫倉之内一。密密羞レ膳勧レ酒﹂(出典‥吾妻鏡‐治承四年︵1180︶八月二六日)
(二)[その他の文献]︹仲長統‐楽志論︺
(二)② 料理をのせて供する台。折敷(おしき)。多くは、脚のあるものをいう。
(一)[初出の実例]﹁一度一度におさえて、酒ぶりかたし、膳(ゼン)をすゆる事、たびたびにしてやかまし﹂(出典‥浮世草子・好色一代男︵1682︶三)
(二)[2] 〘 接尾語 〙
(一)① 椀に盛った料理を数えるのに用いる。
(一)[初出の実例]﹁けふ、饗百膳ばかりぞつかうまつる﹂(出典‥宇治拾遺物語︵1221頃︶九)
(二)② 箸二本を一対として数えるのに用いる。火箸などにもいう。
(一)[初出の実例]﹁永運坊香箸︿二せん﹀持来了﹂(出典‥言経卿記‐慶長八年︵1603︶正月一七日)
かしわ‐でかしは‥︻膳・膳夫︼
(一)〘 名詞 〙 ( ﹁で︵て︶﹂は、する人の意 )
(二)① 古代、宮中で食膳の調理をつかさどった人。柏の葉を食器として用いたところからいう。→膳部(かしわでべ)。
(一)[初出の実例]﹁櫛八玉神、膳夫と為りて、天の御饗を献りし時に﹂(出典‥古事記︵712︶上)
(三)② 中世、寺院で、食膳調理のことをつかさどった職制。
(一)[初出の実例]﹁又膳職掌来云。近年諸国無二所済一之間。仏供調備無二後償一。為レ膳無二為術一事也﹂(出典‥養和二年後七日御修法記︵1182︶)
(四)③ 食膳を供すること。また、その食膳。︹色葉字類抄︵1177‐81︶︺
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
膳 (ぜん)
食器に盛った料理を食事や宴席に供するための盤や台。律令制下の大膳職︵だいぜんしき︶,内膳司︵ないぜんし︶あるいは︽延喜式︾にみられる膳部︵かしわでべ︶などが飲食をつかさどる官名であることによっても知られるように,膳は本来,料理や食事そのものをさす言葉であったが,しだいに食事をそなえた盤,台の類を意味するようになり,やがてそれが転じて食台一般をさすようになったとされる。その時期はつまびらかでないが,1295年︵永仁3︶以降の成立とされる︽厨事類記︵ちゆうじるいき︶︾には,膳と食台とをなお明確に区別しており,膳が食台を意味するようになるのは,本膳料理が儀礼の料理として完成する南北朝以後であると考えられる。しかも一般化するのは近世に入ってからであろう。食台としての膳は,古くは机︵つくえ︶,食机︵おしき︶と呼ばれた。机は坏︵つき︶をおく︿坏居︵つきすえ︶﹀の意,︿おしき﹀は天子などの︿食︵おしもの︶﹀をのせる机の意とされる。ついで台盤や折敷︵おしき︶が記録に現れるようになる。台盤は台つきの盤で︽延喜式︾にも盤面を方形,長方形,円形にかたどり,しかも大・小さまざまのものが見いだされる。高坏︵たかつき︶の類もこの中に含まれると想定される。
膳は,現在一般に会席膳と呼ばれる方1尺2寸︵約36cm︶の折敷を除いては,ほとんどが足をつけるか,台に載せた形態のものである。板を折り回した足を折敷の下につけたものを衝重︵ついがさね︶といい,足の前面と左右両側の3面に繰形︵くりかた︶をつけたものを三方︵さんぼう︶,4面につけたものを四方と呼んだ。これに対して,大きく格狭間︵こうざま︶を透かせた台に折敷を載せたものを懸盤︵かけばん︶といい,藤原氏の氏長者︵うじのちようじや︶がその地位の標識として朱器とともに伝領した台盤も,この形式のものであった。
近世に入って,足つきの膳にはさまざまなものがつくられた。足の形によって,蝶足,宗和︵そうわ︶足,猫足,銀杏︵いちよう︶足,胡桃︵くるみ︶足などの名があり,蝶足膳は足がチョウの羽を広げたような形をし,外黒内朱塗りで祝膳に用いられた。宗和︵足︶膳は茶人金森宗和の好みに始まるもので,内外とも朱または黒塗りで客用とされた。猫足膳は中足膳ともいい,ネコのそれに似た足をつけた黒塗りのものが多く,イチョウの葉のような足をつけた銀杏足膳とともに,略式の場合に用いられた。胡桃足膳は二つ割りにしたクルミの殻を足にしたもので,箱膳とともに商家その他の奉公人用とされた。箱膳は蓋のついた箱形のもので,食事の際は蓋を裏返して椀類を置き,食後はそれらをふきんでぬぐって内部に納める構造になっており,収納部を引出しにしたものもあった。江戸では武家の中間︵ちゆうげん︶が多く用いたため折助︵おりすけ︶膳とも呼ばれ,京都や大坂では飯台︵はんだい︶といった。
執筆者‥河田 貞+西村 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
膳
ぜん
食器をのせる盤台。古代、カシワの葉に食物を盛ったことから、古語ではカシワデといった。転じて食事をのせる盤の名や、食膳調理をつかさどる人々をさすようになったものという。わが国では古くから檜(ひ)の片木板(へぎいた)を折り曲げてつくった折敷(おしき)、木具(きぐ)、三方(さんぽう)、懸盤(かけばん)などの曲物(まげもの)の角膳が使われていた。膳は折敷の変化したもので、食器をのせる盤台を膳とよぶようになったのは、のちに挽物(ひきもの)や指物(さしもの)の盤台が使われるようになってからであろう。木地師が木地をひいてつくる挽物膳は、丸膳とか木地膳とよばれる。スギ、ヒノキなどを材料とし漆を塗って仕上げる指物膳には、四足膳、両足膳、平膳、箱膳などの種類がある。四足膳は盤の四隅に足をつけたもので、この足の形によって蝶足(ちょうあし)膳︵内朱外黒の漆塗り、祝儀用︶、宗和足(そうわあし)膳︵茶人金森宗和好みの内外朱または黒漆塗り、客用︶、猫足(ねこあし)膳・銀杏足(いちょうあし)膳︵ともに黒漆塗り、略式︶などがある。二つ割りにしたクルミの殻を足とした胡桃足(くるみあし)膳は下人用であった。足なしで会席に用いる会席膳は、明治以降一般家庭で客膳として使用された。蓋(ふた)付き箱形の箱膳は、かつては町家や農家で普段の膳として広く使用され、家族各人がそれぞれ自分のものをもっていた。中に1人分の食器を入れておき、蓋を裏返して盤とし、その上に食器を並べて食事をする。食後はふきんでぬぐって食器を中に納める。なお膳ということばは、本膳、二の膳、三の膳など膳に供える食物や献立をもさしている。
﹇内田賢作﹈
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ぜん【膳】
➀食事のためにととのえられた料理をのせる台。特に、もてなしや祝いの席などで、一人分の食物や食器などをのせて各人に供するもの。多くは漆(うるし)塗りで、蝶足膳(ちょうあしぜん)、宗和膳、会席膳などがある。脚のあるものが多いが、懐石に用いる折敷(おしき)や半月膳など、ないものもある。
➁調えられた料理。また、食事。
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︵接尾︶
➀椀に盛った食物︵特に、ご飯︶を数えるのに用いる語。﹁1―のご飯﹂
➁箸(はし)2本をひとそろいとして数えるのに用いる語。﹁箸5―﹂
出典 講談社食器・調理器具がわかる辞典について 情報
膳
ぜん
食器を載せる盤または食卓をいう。日本料理独特のもので,古く平安時代から食事の際に使われた。種類も今日の食卓と同じような大きな4脚つきの台盤 (だいばん) ,1人用の懸盤 (かけばん) ,1人用で脚のない折敷 (おしき) ,あるいは高い脚のある皿様の高坏 (たかつき) などがあった。これらは主として会食用として用いられ,膳の上の食物の配置なども決められていた。この風習は近年まで伝えられ,1人用の膳は懐石料理,本膳料理などに欠かせないものとなっている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
膳【ぜん】
食器を載せる食事用の台。折敷(おしき)から発達。多く方形の漆器で,猫足(ねこあし),蝶(ちょう)足,茶人金森宗和が好んだという宗和足膳など足付きのものが作られたが,江戸末期から足なしの会席膳が流行,一般家庭でも使用された。宴席用には本膳,二の膳,三の膳などがあり,本膳を正として飯・汁・さかなを供し,二の膳,三の膳にその他の料理を添える。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
世界大百科事典(旧版)内の膳の言及
【家具】より
…︻鍵和田 務︼
︻日本︼
日本で︿家具﹀という言葉が現在のような意味で使われるのは,近代に入ってからである。言葉自体は鎌倉時代ころから使われているが,当時︿家具﹀という言葉は棟,梁,柱などの家屋の部材を指しており,江戸時代には建具あるいは椀︵わん︶家具(膳)のことを指していた。では現在︿家具﹀と総称している財を古くはなんと呼んでいたのか。…
※「膳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」