日本大百科全書(ニッポニカ) 「遊戯衝動」の意味・わかりやすい解説
遊戯衝動
ゆうぎしょうどう
Spieltrieb ドイツ語
ドイツの劇作家・詩人のシラーの提唱した美学的概念。﹁遊戯﹂という人間の根本衝動のうちに美的・芸術的活動の基礎を置く立場から、シラーはカント哲学における自然と自由の二元論的対立を美の領域において克服しようとした。書簡形式の論文﹁人間の美的教育に関する書簡﹂︵1795︶で彼は、感性と理性という人間の二つの本性から発する相対立する要求を、感性的衝動︵素材衝動︶と形式衝動と名づける。前者は絶えず変化する生成の状態を目ざし、後者は統一的、不変的な人格の確立を目ざす。そしてこの二つの衝動の理想的な交互作用が遊戯衝動とよばれる。両衝動がそれぞれ﹁生命﹂と﹁形態﹂をその対象とするのに対して、遊戯衝動の対象は﹁生ける形態﹂であり、これはもっとも広い意味における美にほかならない。ここに現実と形式、偶然性と必然性、受動と自由の融和が実現されるのであり、美とともにある遊戯を通してのみ人間は全き人間へと陶冶(とうや)されうるのである。
﹇長野順子﹈
﹃シラー著、石原達二訳﹃人間の美的教育について﹄︵﹃美学芸術論集﹄所収・冨山房百科文庫︶﹄
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