大地の歌
音楽・音声外部リンク | |
---|---|
全曲を試聴する | |
![]() | |
![]() | |
![]() |
概要
編集作曲の経緯
編集ウィーン歌劇場辞任
編集アメリカ・デビュー
編集- 翌1908年1月1日、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』でニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の指揮者としてデビュー、フィラデルフィア、ボストンにも客演する。
- 5月、ヨーロッパに戻る。6月から南オーストリア、ドロミーティ・アルプスに位置するトプラッハ(現イタリア)近郊のアルト・シュルーダーバッハの別荘で夏の休暇を過ごす。
『大地の歌』の作曲
編集初演
編集オーケストラとソリスト稿
編集ピアノとソリスト稿初演
編集出版
編集オーケストラとソリスト稿
編集1912年、ウィーンのウニヴェルザール出版社から出版。1964年には国際マーラー協会による「全集版」が同社から出版。1990年には「全集版」の改訂版が出版された。
ピアノとソリスト稿
編集1989年、ウニヴェルザール出版社からピアノ稿が出版。
楽器編成
編集声楽
編集管弦楽
編集- ピッコロ、フルート 3(ピッコロ持ち替え 1)、オーボエ 3 (コーラングレ持ち替え 1)、クラリネット 3、小クラリネット 1、バスクラリネット 1、ファゴット 3 (コントラファゴット持ち替え 1)
- ホルン 4、トランペット 3、トロンボーン 3、テューバ
- ティンパニ、バスドラム、タンブリン、シンバル、トライアングル、銅鑼、グロッケンシュピール
- ハープ 2、マンドリン、チェレスタ
- 弦五部合計88
ピアノとソリスト稿
編集アルトとバリトンの選択について
編集楽曲構成
編集第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」
編集第2楽章「秋に寂しき者」
編集Etwas schleichend. Ermüdet(やや緩やかに、疲れたように) ニ短調 3/2拍子
詩は銭起「效古秋夜長」とされてきたが、近年は疑問視されており、張籍もしくは張継との説がある(これについては第2楽章「秋に寂しき者」の問題を参照)。ソナタの緩徐楽章のようである。アルト独唱。
第3楽章「青春について」
編集第4楽章「美について」
編集コモド・ドルチッシモ ト長調 3/4拍子
詩は李白「採蓮曲」に基づく。アルト独唱。ピアノ稿の題名は「岸辺にて」であり、ベートゲの題名をそのまま使っている。蓮の花を摘む乙女を描く甘美な部分と馬を駆ける若者の勇壮な部分が見事なコントラストを作っている。
第5楽章「春に酔える者」
編集第6楽章「告別」
編集『大地の歌』の詩について
編集「第九」のジンクス
編集歌詞
編集1. Das Trinklied vom Jammer der Erde | 第1楽章 大地の哀愁に寄せる酒の歌 |
---|---|
Li-Tai-Po (701-762) | 李白の詩「悲歌行」による |
Schon winkt der Wein im gold'nen Pokale, |
なんと美しくあることか、黄金の杯を満たすこのうま酒は、
しかし飲むのを待たれよ、まずは歌でも一つ歌おうぞ!
憂愁を誘うこの歌を
君たちの心に哄笑として高鳴らせよう。
憂愁が迫り来ると、
心の園も荒涼でいっぱい。
歓びの情もその歌う声もしおれ果て消えゆくかな。
生は暗く、死もまた暗い。
この家の主よ!
君が酒蔵には黄金の酒が満ちている!
ここにある琴を、私の琴としよう!
この琴をかき鳴らし、盃を尽くすことこそ
最もふさわしいだろう。
ほどよき時に、なみなみと注がれた一杯の盃は、
この大地の全ての王国にも優る!
生は暗く、死もまた暗い。
天空は永久に蒼あおく、しかも大地は
永遠に揺るがずにあり、春ともなれば花咲き乱れる。
だが人間たる君よ、君はどれだけ生き長らえていくものか?
君は百歳とは慰なぐさむことは許されぬ、
全てこの大地の儚はかなき戯れの上では!
そこかしこを見下ろしたまえ!
月光を浴びた墓の上に
座してうずくまる者は荒々しくも不気味な物影、
それは猿一匹!聴け、その叫びが
この生の甘美な香りに甲高く絶叫する様を!
いまこそ酒をとれ!
いまこそ、その時だ、友よ!
この黄金なる盃を底まで飲み尽くせ!
生は暗く、死もまた暗い!
|
2. Der Einsame im Herbst | 第2楽章 秋に寂しき者 |
Tchang-Tsi ? (765? - 830?) | 銭起の詩「效古秋夜長」による? |
Herbstnebel wallen bläulich überm See; Mein Herz ist müde. Ich weine viel in meinen Einsamkeiten. |
秋の霧が青らみ湖面を渡り、
霜がすべての草草を白く包み
あたかも匠たくみの手が玉光のこまやかな粉を
美しく咲き誇る花の上に
まき散らしたかのようだ。
花のかぐわしき香りは、すでに飛び流れ去り、
その茎は冷たい秋の北風がうち吹かれ横たえた
枯れしぼみ金色に染まった睡すい蓮れんの花も
ことごとくやがては池の面に浮かび出すだろう
私の心は疲れ果て
私のささやかな灯も幽かな音とともに消え
私は一人想い寝の眠りに誘われる心安らぐ憩いの場所
私はそなたのもとへ行こう
そう今こそ私に憩いを与えておくれ
私はささやかに回復を欲するだけだ
私は一人孤独のうちに涙ぐみ、
心の奥にひそむこの秋は
果てしなく広がりわたる太陽よ!
そなたは慈悲深く、再び輝きあらわれて
私の苦きこの涙をやさしく拭い去ってはくださらぬか?
|
3. Von der Jugend | 第3楽章 青春について |
Li-Tai-Po (701-762) | 李白の詩「宴陶家亭子」による |
Mitten in dem kleinen Teiche Steht Wie der Rücken eines Tigers Wölbt In dem Häuschen sitzen Freunde, Ihre seidnen Ärmel gleiten Rückwärts, Auf des kleinen Teiches stiller Alles auf dem Kopfe stehend Wie ein Halbmond steht die Brücke, |
ささやかな池のその真ん中に 虎の背に 小さな家に その絹地の袖は背中にすべりきくずれて ささやかな池の面の 逆さまに映り立たないものはない 半月のごとき太鼓橋はかかり |
4. Von der Schönheit | 第4楽章 美について |
Li-Tai-Po (701-762) | 李白の詩「採蓮曲」による |
Junge Mädchen pflücken Blumen, Goldne Sonne webt um die Gestalten, O sieh, Gold'ne Sonne webt um die Gestalten, |
うら若き乙女たち 自然にわく水のその池に
花摘む その蓮の花を
岸辺の茂みの中、葉と葉の中に座して
茗荷の花を手折り、膝に集め
嬉嬉たる声をあげ、一緒に交わし合った。
金色の陽は差し照りて、
その乙女たちを包んで
きらめく水面に映し出している
陽は乙女たちのたおやかな肢体と
愛らしい瞳とを逆さまにして映し出している
そしてさらに微風は
乙女たちの袂たもとを揺らし
魅惑に満ちた乙女の香りを
日射しの中に振りまいた。
見よあれを
凛々しい少年たちが猛り勇ましい駿馬にまたがり、
駆けめぐる、いかなる者たちよ?
陽の差す光にも似て、きらめき遠ざかり、
はやくも緑なす柳葉の
茂れる枝の木の間より
若人が群がり、現れ走り行く
ひとりの少年の馬は 歓びに嘶いななきて
怖じけながら猛り走り行き
草花の咲く野原の上を越えて
土音たてて馬蹄はよろめき去る
たちまちに嵐のように、落花を踏みしだく
そのたてがみは 熱に浮かれて靡なびきひるがえり
その鼻孔は熱い息吹き出しぬ
金色に輝く太陽がそこにあるものを光で包み
静かで清らかな水面にあらゆる影を映し出し
その中でも美しき乙女が顔をあげ、少年へ
送るのは憧憬の眼差し、ながながと追いかける
乙女の誇らしき物腰態度、上辺だけの見せかけに過ぎぬもの
つぶらな瞳の閃きながら火花の中に
熱いその眼差しによぎる暗き影の中にも
心のどよめき、なおも長引き哀しく憧れ秘めている
|
5. Der Trunkene im Frühling | 第5楽章 春に酔える者 |
Li-Tai-Po (701-762) | 李白の詩「春日酔起言志」による |
Wenn nur ein Traum das Leben ist, Und wenn ich nicht mehr trinken kann, Was hör ich beim Erwachen? Horch! Der Vogel zwitschert: Ja! Ich fülle mir den Becher neu Und wenn ich nicht mehr singen kann, |
人生がただ一場の夢ならば
努力や苦労は私にとって何の価値があろうか?
それゆえ私は酒を飲む 酔いつぶれて飲めなくなるまで
終日酒に溺れようぞ。
喉も魂までも溺れ酔いしれて
ついに酔いつぶれて飲めなくなったら
よろめきながら家の戸口にたどり着き
そのままそこに眠り込んでしまうのだ
目覚めて何を聞くのか さあ聞くがよい
前庭の樹の花 その花の中で鳴くは鶯一羽
私は鶯に尋ね聞く。<もう春になったのか>と
私はいまだに夢心地まどろむ
鶯さえ囀ずり、︽そうです。春はすでにやって来た。
闇夜を渡り、春はここにやって来た︾と
そうして私は聞き惚れ感じ入り、見つめれば
鶯はここぞとばかりに歌い、笑うのだ
私は新たに手ずから酒杯を満たし
盃傾け、飲み尽くす底までも、そして歌うのだ
明月が黒き帳の下りた夜空に昇り、輝き渡るまで
もし私がもはや歌えなくなったなら
その時、私はもう一度眠り込む
いったい春は私に何の役に立つのか
だから、このまま酔わせてくれ!
|
6. Der Abschied | 第6楽章 告別 |
Mong-Kao-Yen and Wang-Wei (701-761) | 孟浩然の詩「宿業師山房期丁大不至」と王維の詩「送別」による |
Die Sonne scheidet hinter dem Gebirge. Der Bach singt voller Wohllaut Die müden Menschen geh'n heimwärts, Die Vögel hocken still in ihren Zweigen. Es wehet kühl im Schatten meiner Fichten. Ich sehne mich, o Freund, an deiner Seite Ich wandle auf und nieder Er stieg vom Pferd und reichte Er sprach, seine Stimme war umflort: Ich suche Ruhe für mein einsam Herz. Ich werde niemals in die Ferne schweifen. Die liebe Erde allüberall Blüht auf im Lenz |
夕陽は西の彼方の向こうに沈み
日没過ぎて、しんしんと冷気満ち、
暗闇迫り、渓谷すっぽり包み込む
おお、あれを見よ。銀の小舟のように
月はゆらゆら蒼天の湖にのぼりゆき
私は松ヶ枝の暗き木陰にたたずんで
涼しげな風を身に受ける
美しき小川のせせらぎ 心地よく
この夕闇を歌い渡るぞ
花は黄たそ昏がれ淡き光に色失う
憩いと眠りに満ち足りて 大地は息づく
全ての憧れの夢を見ようとし始める
生きる苦しみに疲れし人々 家路を急ぎ
眠りの内に過ぎ去りし幸福と青春
再びよみがえらそうとするように
鳥は静かにすみかの小枝に休みいて
世界は眠りに就くときぞ
私のもとの松ヶ枝の木陰に夜陰は冷え冷えと
私はここにたたずんで君が来るのを待つばかり
最後の別れを告げるため、私は友を待ちわびる
ああ、友よ。君が来たれば傍らで
この夕景の美しさともに味わいたいのだが
君はいづこか。私一人、ここにたたずみ待ちわびる
私は琴を抱え、行きつ戻りつさまよいて
たおやかな草にふくよかな盛り土、
その道の上にあり
おお、この美しさよ、永久の愛に−
その命にー酔いしれた世界よ
友は馬より降り立ちて、
別れの酒杯を差し出した
友は尋ね聞く。︿どこに行くのか﹀と、
そしてまた︿なぜにいくのか︶と
友は答えたが、その声愁いに遮られ、包まれて
︿君よ、私の友よ、この世では私は薄幸なりし
一人今からいずこに行こうか
さまよい入るのは山中のみさ﹀
私の孤独な心 癒すべく憩いを自ら求めゆき
私が歩み行く彼方には、私が生まれし故郷あり
私は二度と漂泊し、さまようことはあるまいよ
私の心は安らぎて、その時を待ち受ける
愛しき大地に春が来て、ここかしこに百花咲く
緑は木々を覆い尽くし 永遠にはるか彼方まで
青々と輝き渡らん
永遠に 永遠に……
|
唐詩による原詩
編集原詩の特定について
編集『大地の歌』に使用された歌詞は、前述の通り原詩が特定されているものについては、全て盛唐の詩人の作品によるものである。原詩の特定はベートゲによる追創作や底本の誤訳によって容易ではなかったが、中国文学者の吉川幸次郎やドイツ文学者の富士川英郎、音楽学者の浜尾房子らの努力によって、7編のうち6編の原詩が確認されている。
第2楽章「秋に寂しき者」の問題
編集歌詞で唯一原詩が特定されていないのが「秋に寂しき者」である。
かつては銭起の「效古秋夜長(古の秋夜長に
しかし、遺された張籍の作品に該当するものが見当たらないことから、ベートゲによる追創作の可能性が指摘されている。
原詩の白文・書き下し文
編集悲歌行 (第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」) | 悲歌行 (前半部分、詩:李白) |
---|---|
悲來乎 |
悲しいかな |
宴陶家亭子 (第3楽章「青春について」) | 陶家の亭子に宴す (詩:李白) |
曲巷幽人宅 高門大士家 |
曲巷幽人の宅 高門大士の家 |
採蓮曲 (第4楽章「美について」) | 採蓮の曲 (詩:李白) |
若耶谿傍採蓮女 |
|
春日醉起言志 (第5楽章「春に酔えるもの」) | 春日醉より起きて志を言う (詩:李白) |
處世若大夢 胡爲勞其生 |
處世大夢の若く
胡爲ぞ其の生を勞する |
宿業師山房待丁大不至 (第6楽章「告別」前半部分) | 業師の山房に宿り、丁大を待てども至らず (詩:孟浩然) |
夕陽度西嶺 羣壑倏已瞑 |
|
送別 (第6楽章「告別」後半部分) | 送別 (詩:王維) |
下馬飲君酒 |
馬を下りて君に酒を飲ましむ |
脚注
編集- ^ “EAM: World Premiere of Krzysztof Penderecki's Symphony No. 6 with the Guangzhou Symphony Orchestra”. www.eamdc.com. 2020年7月14日閲覧。
- ^ 柴田 (1990), pp. 192-193.
- ^ ダイヤの玉
参考文献
編集外部リンク
編集- マーラー『大地の歌』の総譜 (PDF) - IMSLP: The International Music Score Library Project