有坂銃の設計者、有坂成章
有 坂 銃 は 有 坂 成 章 大 佐 ︵ 後 年 中 将 に 昇 進 ︶ に よ り 設 計 さ れ 、 1 9 0 7 年 、 彼 は こ の 功 績 に よ り 明 治 天 皇 か ら 男 爵 位 を 与 え ら れ た 。 有 坂 銃 は 様 々 な 戦 争 の 間 に 幾 多 の 改 良 や 派 生 型 の 開 発 が 行 わ れ た 。 そ の 1 つ が 6 . 5 m m 実 包 の 三 八 式 か ら 、 よ り 大 口 径 の 7 . 7 m m 実 包 の 九 九 式 へ の 移 行 で あ り 、 も う 1 つ は 、 2 つ の 主 要 部 分 に 分 解 可 能 な 、 空 挺 兵 が 空 挺 作 戦 に 携 行 す る 為 の テ イ ク ダ ウ ン ラ イ フ ル の 開 発 で あ っ た 。
有 坂 銃 の 改 良 者 、 南 部 麒 次 郎
戦 後 の 素 材 調 査 に よ り 、 有 坂 銃 の ボ ル ト ( 槓 桿 ) と レ シ ー バ ー ( 機 関 部 ) は 、 S A E 鋼 材 規 格 ︵ 英 語 版 ︶ N o . 1 0 8 5 に 類 似 し た 0 . 8 0 % か ら 0 . 9 0 % の 炭 素 、 0 . 6 0 % か ら 0 . 9 0 % の マ ン ガ ン を 含 む 炭 素 鋼 で あ る 事 [ 1 ] が 判 明 し 、 破 壊 試 験 に お い て 有 坂 銃 は ス プ リ ン グ フ ィ ー ル ド M 1 9 0 3 、 リ ー ・ エ ン フ ィ ー ル ド 、 モ ー ゼ ル の ど れ よ り も 強 度 が 高 い 事 が 証 明 さ れ た [ 2 ] 。 初 期 に 生 産 さ れ た 九 九 式 は 、 伏 撃 ち で の 命 中 精 度 を 高 め る 目 的 で ワ イ ヤ ー 製 の モ ノ ポ ッ ド ( 単 脚 ) が 装 備 さ れ 、 リ ア サ イ ト ( 照 門 ) に は 航 空 機 へ の 対 空 射 撃 に 適 し た 角 度 を 執 る 為 の 水 平 照 尺 が 装 備 さ れ た 。 第 二 次 世 界 大 戦 末 期 の 終 末 ( 代 用 ) 型 ( ラ ス ト デ ィ ッ チ ・ モ デ ル ) は 製 造 コ ス ト の 削 減 の 為 に 様 々 な 変 更 が 行 わ れ 、 旧 日 本 軍 の 末 期 の 装 備 を 象 徴 す る 物 と な っ た 。 例 え ば 、 初 期 生 産 型 の 卵 形 の ボ ル ト ハ ン ド ル は よ り 小 さ く 実 利 的 な 円 筒 形 に 変 更 さ れ 、 銃 身 ( バ レ ル ) の 上 の ハ ン ド ガ ー ド は 省 略 さ れ た 。 ま た 、 照 門 は 固 定 式 の オ ー プ ン サ イ ト と さ れ た 。
菊 花 紋 章 が 完 全 に 残 る 三 八 式
菊 花 紋 章 が 完 全 に 残 る 九 九 式
軍 用 ボ ル ト ア ク シ ョ ン の 機 構 を 持 つ 有 坂 銃 は 、 大 日 本 帝 国 陸 軍 と 大 日 本 帝 国 海 軍 に て 用 い ら れ 、 第 二 次 世 界 大 戦 以 前 に は イ ギ リ ス 海 軍 、 ロ シ ア 帝 国 陸 軍 、 フ ィ ン ラ ン ド 陸 軍 [ 3 ] 、 ア ル バ ニ ア 陸 軍 ︵ 英 語 版 ︶ で も 使 用 さ れ た 。 中 で も 、 ロ シ ア 革 命 時 の チ ェ コ 軍 団 は ほ ぼ 全 軍 が 三 十 年 式 や 三 八 式 で 武 装 し て い た 。 第 二 次 大 戦 中 に 鹵 獲 さ れ た 多 く の 有 坂 銃 が 戦 後 も 大 韓 民 国 、 中 国 、 タ イ 王 国 、 カ ン ボ ジ ア な ど で 使 用 さ れ た が 、 1 9 4 5 年 の 日 本 の 降 伏 と 共 に 突 如 と し て 全 て の 小 銃 と 実 包 の 生 産 が 停 止 し た 事 か ら 、 有 坂 銃 は す ぐ に よ り 新 し い 銃 に 置 き 換 え ら れ る 形 で 姿 を 消 し て い っ た 。 ほ と ん ど の 日 本 軍 の 兵 器 が 東 京 湾 に 投 棄 さ れ た 事 か ら 、 予 備 の 弾 薬 も す ぐ に 枯 渇 す る 事 と な っ た 。 し か し 、 中 国 で は 鹵 獲 し た 有 坂 銃 を 使 用 す る 為 に 6 . 5 × 5 0 m m S R 弾 と 7 . 7 × 5 8 m m 弾 の 製 造 が 続 け ら れ た 。
菊 花 紋 章 が 完 全 に 削 り 落 と さ れ た 九 九 式
制 式 採 用 さ れ た 全 て の 軍 用 有 坂 銃 に は 、 イ ン ペ リ ア ル ・ シ ー ル ( I m p e r i a l O w n e r s h i p S e a l ) ま た は 、 16 花 弁 の キ ク 属 を 模 し た 十 六 八 重 表 菊 ( 菊 花 紋 章 、 欧 米 で は ク リ サ ン セ マ ム ま た は 単 に マ ム と も ) が 、 レ シ ー バ ー 上 部 に 刻 印 さ れ て い た が 、 し ば し ば こ の 紋 章 は 鑢 掛 け 、 削 取 り 、 圧 搾 等 の 手 段 に よ り 毀 損 さ れ た 状 態 と な っ て い る 。 こ れ に は 、 武 装 解 除 に 当 た っ て 日 本 軍 側 か ら 有 坂 銃 の 引 き 渡 し 条 件 と し て 提 示 さ れ た と す る 説 、 或 い は ア メ リ カ 兵 が 戦 利 品 と し て 戦 場 よ り 持 ち 帰 る 際 に 削 り 取 る よ う に ア メ リ カ 軍 内 で 指 導 さ れ た と す る 説 の 相 反 す る 主 張 が 存 在 す る が 、 公 的 に は 日 本 軍 、 米 軍 双 方 と も 紋 章 の 毀 損 を 要 求 し た 公 文 書 は 残 さ れ て い な い 。 紋 章 が 現 存 す る 有 坂 銃 の ほ と ん ど は 日 本 国 内 の 展 示 施 設 に 現 存 す る も の で 、 ご く 少 数 が 武 装 解 除 前 に 戦 利 品 と し て 獲 得 さ れ た も の や 、 中 国 軍 に よ り 鹵 獲 さ れ た 経 歴 を 持 つ も の と し て 海 外 の 銃 器 市 場 に 残 さ れ て い る 。 中 国 で 鹵 獲 さ れ た 有 坂 銃 の い く ら か は 、 そ の 後 ア メ リ カ 合 衆 国 へ 輸 出 さ れ た 。 そ の 中 に は 薬 室 を 7 . 6 2 x 3 9 m m 弾 に 改 造 さ れ た 三 八 式 騎 銃 と 四 四 式 騎 銃 な ど も 含 ま れ て い た 。 こ の 改 造 を 施 さ れ た 三 八 式 騎 銃 と 四 四 式 騎 銃 は 非 公 式 に T y p e 3 8 / 5 6 カ ー ビ ン と 呼 ば れ て い る [ 4 ] 。 一 方 、 国 民 党 軍 に よ り 鹵 獲 さ れ た 三 八 式 と 九 九 式 の い く ら か は 、 7 . 9 2 × 5 7 m m マ ウ ザ ー 弾 用 に 改 造 さ れ た 。 こ の 改 造 を 施 さ れ た 三 八 式 騎 銃 は レ シ ー バ ー が 幾 ら か 切 り 取 ら れ た 事 で 元 の 刻 印 が 無 く な っ た 為 、 新 た に 七 九 二 式 な る 型 式 が 刻 印 さ れ て い る 。
菊 花 紋 章 は 多 く は 完 全 に 削 り 落 と さ れ た が 、 い く つ か は 単 に 鑢 で 表 面 を 荒 ら さ れ た り 、 鑿 で 引 っ 掻 き 傷 を 付 け ら れ た だ け か 、 ま た は 鏨 で 何 度 も 菊 花 の 外 周 を 打 ち 付 け ら れ て 0 の 数 字 を 描 く よ う な 模 様 を 上 書 き さ れ た も の も 存 在 し た 。 後 者 は 通 常 、 日 本 軍 の 軍 務 か ら 退 役 し た ( 即 ち 、 皇 室 財 産 で 無 く な っ た ) 有 坂 銃 に 対 し て 用 い ら れ た 手 法 で 、 学 校 教 練 向 け に 貸 与 さ れ た り 他 国 向 け に 販 売 さ れ た 銃 に も 適 用 さ れ て お り 、 実 際 に 英 国 海 軍 の 陸 上 部 隊 は 第 一 次 世 界 大 戦 に て S M L E M k . I が 配 備 さ れ る ま で は こ の よ う な 三 八 式 を 用 い て い た 。
終 戦 後 の 1 9 4 9 年 に 中 国 で 製 造 が 継 続 さ れ て い た 6 . 5 m m × 5 0 S R 弾 の 包 装 。 名 称 も 三 八 式 機 関 銃 ・ 小 銃 弾 と な っ て い る
ご く 少 数 で は あ る が 、 三 八 式 は 1 9 1 0 年 に メ キ シ コ 合 衆 国 へ の 輸 出 向 け に 製 造 さ れ 、 菊 花 紋 章 の 替 わ り に メ キ シ コ の 国 章 が 刻 印 さ れ た 。 し か し 、 そ の 多 く は メ キ シ コ 革 命 に は 間 に 合 わ ず 、 余 剰 分 は 第 一 次 世 界 大 戦 期 に 帝 政 ロ シ ア へ と 売 却 さ れ た 。 輸 出 総 数 は メ キ シ コ へ 50 万 挺 、 ロ シ ア へ は 60 万 挺 余 り と さ れ る [ 5 ] 。 帝 政 ロ シ ア に は 三 八 式 以 外 に も 三 十 年 式 や 三 十 五 年 式 も 幾 ら か 売 却 さ れ た と 見 ら れ 、 ソ ビ エ ト 連 邦 と な っ た 後 に 勃 発 し た ス ペ イ ン 内 戦 に て 、 ス ペ イ ン 人 民 戦 線 側 に 7 . 9 2 × 5 7 m m マ ウ ザ ー 弾 に 改 造 さ れ て 供 給 さ れ た も の が 現 存 し て い る [ 4 ] 。 ま た 、 1 9 2 3 年 か ら 1 9 2 8 年 に 掛 け て 、 タ イ 王 国 向 け に 8 × 5 2 m m R 弾 仕 様 の 三 八 式 歩 兵 銃 で あ る 66 式 小 銃 が 、 約 5 万 挺 輸 出 さ れ た [ 6 ] 。 66 式 の レ シ ー バ ー に は タ イ 王 国 軍 の 紋 章 で あ る チ ャ ク ラ が 刻 印 さ れ て い る 。
有 坂 銃 は 日 中 戦 争 ( 支 那 事 変 ) 勃 発 以 降 、 中 国 国 内 の 武 器 工 廠 で コ ピ ー 製 造 さ れ た も の も 若 干 存 在 し 、 米 国 市 場 に 比 較 的 程 度 の 良 い 物 が 現 存 し て い る 。 中 で も 日 本 軍 支 配 地 域 の 工 廠 で 製 造 さ れ た 北 支 一 九 式 小 銃 は 、 大 戦 末 期 の 武 器 不 足 を 補 う 為 、 後 備 部 隊 に 配 備 さ れ た と い う 証 言 が 残 っ て い る [ 7 ] 。
有 坂 銃 は 、 駐 留 し て い た 旧 日 本 軍 の 武 装 解 除 が 行 わ れ た 国 や 地 域 で は 、 そ の ま ま の 状 態 も し く は 弾 薬 変 更 の 為 の 薬 室 改 造 な ど を 経 て 軍 用 銃 と し て 配 備 さ れ て い た 例 も あ っ た が 、 冷 戦 体 制 下 で は 多 く の 国 が 西 側 諸 国 ま た は 東 側 諸 国 の 軍 事 援 助 を 受 け た 為 、 有 坂 銃 は 東 西 両 陣 営 の 新 鋭 の 自 動 小 銃 や 突 撃 銃 に 急 速 に 置 き 換 え ら れ 、 或 い は 有 坂 銃 と 共 に 接 収 さ れ た 実 包 の 枯 渇 と 共 に 退 役 し 姿 を 消 し て い っ た 。 イ ギ リ ス 連 邦 下 の S M L E 小 銃 や 旧 共 産 圏 諸 国 に お け る モ シ ン ・ ナ ガ ン 小 銃 の よ う に 、 現 在 で も 組 織 的 に 制 式 小 銃 と し て 実 戦 部 隊 に 配 備 さ れ て い る 例 は 皆 無 で あ り 、 ご く 僅 か に 東 南 ア ジ ア の 反 政 府 武 装 勢 力 が 実 戦 で 使 用 し て い る 例 が 残 る に す ぎ な い [ 8 ] 。
日 本 の 自 衛 隊 も 警 察 予 備 隊 時 代 の 一 時 期 に . 3 0 - 0 6 弾 用 に 改 造 さ れ た 九 九 式 口 径 . 3 0 小 銃 を 配 備 し て い た 。 1 9 5 0 年 の M 1 カ ー ビ ン 、 1 9 5 1 年 の M 1 ガ ー ラ ン ド の 供 与 に 次 い で 、 約 7 万 5 千 挺 が G H Q に よ り 日 本 側 へ の 返 還 が 行 わ れ 、 薬 室 改 造 を 施 し た 上 で 予 備 装 備 と し て 1 9 5 2 年 よ り 運 用 が 始 ま っ た が [ 9 ] 、 九 九 式 口 径 . 3 0 小 銃 は 制 式 型 、 戦 時 型 [ 注 釈 1 ] 、 二 式 小 銃 な ど の 部 品 が 入 り 混 じ り 互 換 性 を 失 っ て い た 事 、 弾 薬 統 一 の た め [ 11 ] に . 3 0 弾 薬 M 2 を 使 用 で き る よ う に 改 造 し た 事 で 、 そ の 重 量 の 軽 さ ︵ M 1 ガ ー ラ ン ド に 比 べ 1 2 % 軽 い ︶ も 相 ま っ て 反 動 が 増 加 し て お り 、 銃 身 側 に 特 に 改 造 を 加 え ず に 本 来 よ り も 口 径 の 小 さ な 弾 頭 を 発 射 す る 事 に よ り 、 弾 道 特 性 や 集 弾 性 も 悪 化 し た [ 13 ] 。 カ ー ビ ン や ガ ー ラ ン ド で す ら も 幾 多 の 戦 闘 を 経 て 老 朽 化 し て お り 、 様 々 な レ ベ ル で の 故 障 が 発 生 し た [ 11 ] が 、 こ れ は 九 九 式 口 径 . 3 0 小 銃 も 例 外 で は な く 、 後 年 に は ﹁ 安 全 装 置 を 掛 け て い て も 、 引 き 金 を 引 く と 発 火 す る ﹂ ﹁ 発 砲 中 に 銃 身 が 割 れ る ﹂ と い っ た 問 題 が 多 発 し た 。 新 小 銃 ︵ 後 の 64 式 ︶ の 開 発 が 行 わ れ て い る 最 中 の 1 9 6 1 年 に は 、 検 査 の 為 に 5 0 0 挺 の 九 九 式 口 径 . 3 0 小 銃 が 豊 和 工 業 に 持 ち 込 ま れ 、 九 九 式 の 開 発 に 関 わ り 、 64 式 の 開 発 を 手 掛 け て い た 岩 下 賢 蔵 も 加 わ っ て 行 わ れ た 検 査 の 結 果 、 遊 底 、 撃 針 ( 撃 茎 ) 、 安 全 子 ( 撃 茎 駐 胛 ) の 合 格 点 数 は ゼ ロ 、 尾 筒 は 2 個 、 撃 針 止 バ ネ 37 個 が 合 格 す る に 留 ま る と い う 有 様 で 、 銃 と し て 満 足 で き る も の は 1 挺 も な か っ た 。 こ の 結 果 を 報 告 さ れ た 陸 上 幕 僚 監 部 は 、 即 刻 九 九 式 口 径 . 3 0 小 銃 の 射 撃 禁 止 措 置 を と っ た 。
こ う し た 事 情 も あ り 、 64 式 小 銃 配 備 を 前 に し て 有 坂 銃 は 速 や か に 退 役 さ せ ら れ 、 64 式 小 銃 配 備 後 も 儀 仗 用 と し て は M 1 ガ ー ラ ン ド が 選 択 さ れ 、 旧 日 本 軍 の 色 濃 い 有 坂 銃 を 組 織 内 に 残 す 事 を し な か っ た 為 、 ア メ リ カ 軍 に お け る M 1 9 0 3 小 銃 の よ う に 儀 仗 銃 と し て 母 国 の 軍 事 ・ 公 安 機 関 で 現 用 品 と し て 余 生 を 送 る 機 会 も 与 え ら れ な か っ た 。
有 坂 銃 の 現 存 の 状 況 は 、 戦 前 に 民 間 に 払 い 下 げ ら れ た 為 に 村 田 式 散 弾 銃 と し て 現 在 も 往 時 の 姿 を 僅 か に 日 本 国 内 に 残 す 村 田 銃 と も 異 な る 。 敗 戦 時 に 日 本 国 内 で 進 駐 軍 に 接 収 さ れ た 膨 大 な 数 の 有 坂 銃 は ほ と ん ど 全 て 廃 棄 処 分 さ れ た 為 、 旧 イ タ リ ア 王 国 の カ ル カ ノ M 1 9 3 8 ほ ど 多 く 欧 米 の 銃 器 市 場 に も 現 存 し て い な い 。 有 坂 銃 を 製 造 し て い た 砲 兵 工 廠 や 関 連 す る 軍 需 産 業 も 敗 戦 と 共 に ほ と ん ど が 解 体 ・ 消 滅 さ せ ら れ 、 僅 か に 生 き 残 っ た 後 裔 企 業 [ 注 釈 2 ] や 、 そ の 他 の 銃 器 メ ー カ ー [ 注 釈 3 ] も 有 坂 銃 の 構 造 的 な 特 徴 ︵ 有 坂 ア ク シ ョ ン ︶ を 引 き 継 が な か っ た 。 こ の こ と か ら 、 旧 ド イ ツ 第 三 帝 国 の モ ー ゼ ル ・ K a r 9 8 k ( モ ー ゼ ル ・ モ デ ル 98 ) や 、 旧 オ ー ス ト リ ア ・ ハ ン ガ リ ー 帝 国 の ス テ ア ー ・ マ ン リ ッ ヒ ャ ー ・ シ ョ ウ ナ ワ ー ( ス テ ア ー ・ マ ン リ ッ ヒ ャ ー ク ラ シ ッ ク ) の 様 に 、 当 時 の 軍 用 ア ク シ ョ ン を そ の ま ま 製 品 化 し た 民 生 向 け ラ イ フ ル ( シ ビ リ ア ン モ デ ル ) が 製 造 さ れ る 事 も な く 、 南 部 式 拳 銃 の 系 譜 共 々 、 有 坂 銃 の 技 術 的 な 系 譜 は 完 全 に 断 絶 し た ま ま 現 在 に 至 っ て い る 。
た だ し 、 民 間 の 狩 猟 ・ 標 的 射 撃 向 け と し て は 、 現 在 で も 民 間 弾 薬 メ ー カ ー に よ る 6 . 5 m m 及 び 7 . 7 m m 実 包 の 市 場 供 給 が 続 い て い る 為 、 海 外 で は 愛 好 家 の 手 に よ り 多 く の 有 坂 銃 の 現 存 品 が 現 役 の 猟 銃 と し て 使 用 さ れ 続 け て い る 。 銃 刀 法 の 規 制 に よ り 、 そ の ま ま の 姿 で の 日 本 へ の 里 帰 り は 無 可 動 実 銃 を 除 い て は 難 し い 状 態 で あ る が 、 着 剣 装 置 の 除 去 や 銃 床 交 換 な ど に よ る 外 見 の ス ポ ー ツ ラ イ フ ル 化 、 或 い は 4 1 0 ゲ ー ジ 散 弾 銃 へ の 改 造 な ど を 経 て 許 可 銃 と し て の 逆 輸 入 を 果 た し 、 日 本 国 内 で 運 用 さ れ て い る 例 も 散 見 さ れ る [ 要 出 典 ] 。
有 坂 銃 は 90 度 の 開 閉 角 度 を 持 つ コ ッ ク オ ン ・ ク ロ ー ジ ン グ 方 式 の 回 転 式 ボ ル ト ア ク シ ョ ン で 、 構 造 上 は 1 ピ ー ス 構 造 で 先 端 に 2 つ の 閂 子 ( ロ ッ キ ン グ ラ グ ) を 有 す る 遊 底 ( ボ ル ト ) を 持 つ 為 に モ ー ゼ ル 系 列 に 分 類 さ れ る 。 コ ッ ク オ ン ・ ク ロ ー ジ ン グ 方 式 で は あ る が 、 実 際 は 槓 桿 ( ボ ル ト ハ ン ド ル ) を 起 こ す と 1 / 3 程 撃 茎 ( ス ト ラ イ カ ー ) が コ ッ キ ン グ ( ハ ー フ コ ッ ク ) さ れ 、 一 度 薬 室 を 開 放 し て 遊 底 を 再 び 閉 鎖 す る 際 に コ ッ キ ン グ が 完 了 ( フ ル コ ッ ク ) す る 、 コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ 方 式 と の 中 間 的 な 動 作 で あ る 。 槓 桿 は 一 部 の 狙 撃 銃 版 を 除 い て 、 ス ト レ ー ト タ イ プ が 採 用 さ れ て い る 。 弾 倉 は フ ロ ア ー プ レ ー ト 方 式 の 箱 形 五 発 内 蔵 弾 倉 で 、 装 填 は 薬 室 を 開 放 し て 排 莢 口 か ら 1 発 づ つ 押 し 込 ん で 行 う が 、 ス ト リ ッ パ ー ク リ ッ プ 式 の 挿 弾 子 を 用 い る 事 で よ り 素 早 い 装 填 が 行 え る 。 フ ロ ア ー プ レ ー ト は 残 弾 が 無 い 際 に は 包 底 面 に 干 渉 し て 遊 底 の 閉 鎖 を 阻 止 す る 為 、 こ れ に よ り 射 手 に 残 弾 が 無 く な っ た 事 を 知 ら せ る 仕 組 み で あ る 。 弾 倉 か ら の 脱 包 は 用 心 金 ( ト リ ガ ー ガ ー ド ) 内 に 設 け ら れ た フ ロ ア ー プ レ ー ト の ス ト ッ パ ー を 解 除 し て 、 フ ロ ア ー プ レ ー ト を 開 放 す る 事 で 行 わ れ る 。 銃 床 は 桜 材 を 用 い て お り 、 銃 尾 部 は 上 下 2 分 割 構 造 と す る 事 で 、 木 材 の 有 効 活 用 を 図 っ て い る 。
前 身 の 村 田 銃 と の 比 較 で は 、 十 三 年 ・ 十 八 年 式 村 田 単 発 銃 は 槓 桿 を 起 こ し た 時 に コ ッ キ ン グ が 完 了 す る コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ 方 式 で 、 槓 桿 と 機 関 部 ( レ シ ー バ ー ) の 嵌 合 部 以 外 に 閉 鎖 機 構 を 持 た ず 、 抽 筒 子 ( エ キ ス ト ラ ク タ ー ) こ そ 備 え ら れ て い る も の の 、 蹴 子 ( エ ジ ェ ク タ ー ) を 有 さ な か っ た 為 に 排 莢 を 完 了 す る に は 手 で 直 接 薬 莢 を 排 除 す る 必 要 が あ っ た 。 し か し 有 坂 銃 は 包 底 面 ( ボ ル ト フ ェ イ ス ) に 閂 子 や 可 動 式 の 蹴 子 が 設 け ら れ 、 槓 桿 自 体 も 補 助 的 な 固 定 式 閂 子 ( リ ア ラ グ ) の 機 能 を 果 た す 事 で 、 よ り 強 力 な 弾 薬 の 使 用 や 素 早 い 排 莢 を 実 現 で き た 。 ま た 遊 底 止 ( ボ ル ト ス ト ッ パ ー ) は 、 村 田 単 発 銃 の マ イ ナ ス ネ ジ に よ る も の か ら ラ ッ チ 式 に 変 更 さ れ た の で 、 部 品 の 紛 失 の リ ス ク が 無 く な り 、 遊 底 の 脱 着 も よ り 迅 速 に 行 え る よ う に な っ た 。 さ ら に 二 十 二 年 式 村 田 連 発 銃 は 、 銃 身 と 平 行 し て 管 形 八 発 弾 倉 を 有 し て い た が 、 装 填 の 作 業 性 に 難 が あ り 重 量 バ ラ ン ス が 悪 く [ 注 釈 4 ] 、 詰 め 込 ま れ た 弾 頭 が 実 包 底 部 の 銃 用 雷 管 を 突 く 事 に よ る 弾 倉 内 で の 弾 薬 の 誘 爆 事 故 を 防 ぐ 為 に 、 平 頭 弾 頭 し か 使 用 で き な い 事 か ら 弾 道 特 性 や 集 弾 性 の 悪 化 を 招 い て い た 。 こ れ に 対 し 有 坂 銃 は 一 般 的 な 箱 形 弾 倉 を 採 用 し た 事 で 装 弾 数 は 減 っ た も の の 、 挿 弾 子 に よ る 素 早 い 装 填 や よ り 良 い 重 量 バ ラ ン ス の 獲 得 、 尖 頭 弾 頭 の 採 用 に よ る 高 い 集 弾 性 能 を 実 現 で き た 。 こ れ ら の 構 造 の 相 違 か ら 、 有 坂 銃 は 村 田 銃 と 比 較 し て は る か に 高 い 射 撃 性 能 を 持 つ と 見 な さ れ て い る 。
最 初 に 登 場 し た 三 十 年 式 は 同 時 期 の モ ー ゼ ル M 1 8 9 6 ( ス ウ ェ デ ィ ッ シ ュ ・ マ ウ ザ ー ) を 参 考 に し た と み ら れ 、 村 田 銃 や 同 時 期 の 他 国 の ボ ル ト ア ク シ ョ ン 同 様 に 、 ボ ル ト 後 端 に コ ッ キ ン グ と 共 に 後 退 す る 撃 茎 ( コ ッ キ ン グ ピ ー ス ) を 有 し て お り 、 撃 茎 の 前 進 を 阻 止 す る 事 で 撃 発 を 防 止 す る セ ー フ テ ィ ( 安 全 装 置 ) が 備 え ら れ て い た が 、 全 面 改 良 型 の 三 八 式 で は 遊 底 内 部 の 構 造 が 大 き く 改 め ら れ 、 こ れ を も っ て 有 坂 銃 は 完 成 形 と な っ た 。 そ れ に 先 だ っ て 三 十 年 式 の 一 部 改 良 型 で あ る 三 十 五 年 式 海 軍 銃 で は 、 日 露 戦 争 で の 砂 塵 に よ る 作 動 不 良 の 戦 訓 を 踏 ま え 、 手 動 式 の 遊 底 覆 ( ダ ス ト カ バ ー ) が 備 え ら れ た 。 こ の 構 造 は 続 く 三 八 式 に も 受 け 継 が れ 、 遊 底 と 一 体 化 し て 前 後 す る 自 動 式 の 遊 底 覆 へ と 発 展 し た が 、 も し 遊 底 覆 が 銃 に 適 合 し て い な い と 、 遊 底 の 開 閉 時 に 若 干 の 金 属 音 を 発 す る 為 、 隠 密 行 動 を 執 る 用 途 で は 任 意 で 取 り 外 さ れ る 場 合 も あ っ た 。
三 八 式 初 期 型 の 撃 茎 駐 胛 、 側 面 の 突 起 ︵ の ち に 溝 ︶ は 安 全 位 置 で は 上 方 を 指 す
三 八 式 で は 遊 底 後 端 の 可 動 式 の 撃 茎 が 露 出 す る 構 造 を 廃 し 、 代 わ り に 撃 茎 を 直 接 押 さ え る 回 転 式 の 撃 茎 駐 胛 ( げ き け い ち ゅ う こ う 、 セ ー フ テ ィ ノ ブ ) が 撃 茎 後 端 を 覆 い 隠 す よ う な 形 状 で 備 え ら れ た 。 こ の 構 造 変 更 に よ り 、 コ ッ キ ン グ さ れ て い る か 否 か を 銃 の 外 側 か ら 目 視 確 認 す る 事 や 、 不 発 な ど の 緊 急 時 に 撃 茎 を 外 部 か ら 直 接 引 く 事 で 再 コ ッ ク を 行 う 事 な ど は 不 可 能 と な っ た も の の 、 可 動 部 分 が 減 っ た 為 に 部 品 点 数 が 減 り 、 G e w 9 8 [ 16 ] と 比 較 し て も 極 め て 簡 素 な 構 造 と な っ た [ 17 ] 他 、 撃 茎 駐 胛 が 遊 底 後 端 の 栓 の 役 割 も 果 た す 事 で 、 万 一 弾 薬 の 異 常 高 圧 で 包 底 面 が 破 壊 さ れ 撃 針 側 に 発 射 圧 が 吹 き 抜 け た 際 に 、 撃 針 が 撃 茎 ご と 射 手 の 顔 面 へ 吹 き 飛 ば さ れ る 可 能 性 [ 注 釈 5 ] も 大 き く 減 じ ら れ る 事 と な っ た 。 撃 茎 駐 胛 は 外 見 は 肩 胛 骨 に 類 似 し た 形 状 で 、 掌 や 指 で 押 し 回 す 事 に よ り 操 作 す る 。 三 十 年 式 で は 引 金 状 の レ バ ー を 引 い て 右 に 回 す 事 で 撃 茎 を 固 定 す る 構 造 で あ っ た が 、 酷 寒 の 満 州 で 分 厚 い 防 寒 手 袋 を は め た 状 態 で の 操 作 に 難 が あ る と い う 戦 訓 [ 注 釈 6 ] に よ り 、 右 に 押 し 回 す 操 作 方 法 に 変 更 さ れ た が 、 こ れ に よ り 寒 暑 に 関 係 な く 迅 速 な 操 作 が 行 え る よ う に な っ た [ 18 ] 。 撃 茎 駐 胛 を 安 全 位 置 ( 右 方 向 ) に 回 転 さ せ た 際 に は 突 起 が 銃 身 上 方 に 立 ち 上 が り 、 射 手 に 安 全 位 置 を 明 瞭 に 示 す も の と な っ て お り 、 こ の 際 に 撃 茎 側 の 切 り 欠 き に 撃 茎 駐 胛 側 の 切 り 欠 き が 噛 み 合 う 事 で 撃 茎 の 前 進 を 阻 止 す る 。 同 時 に 、 機 関 部 側 の 溝 に 撃 茎 駐 胛 側 の 突 起 が 噛 み 合 う 事 で 遊 底 の 固 定 も 行 わ れ る 。 G e w 9 8 の 旗 安 全 器 と 異 な り 、 安 全 状 態 で 遊 底 の 固 定 の み を 解 除 す る ポ ジ シ ョ ン は 存 在 し な い 2 ポ ジ シ ョ ン 式 で あ る 。 な お 、 こ の 際 に 引 鉄 ( ト リ ガ ー ) は 固 定 さ れ な い の で 、 引 鉄 を 引 く 事 自 体 は 可 能 で あ る 点 が 、 後 世 の ス ポ ー ツ ラ イ フ ル と の 違 い で あ る [ 5 ] 。 撃 茎 駐 胛 は 遊 底 開 放 状 態 で ノ ブ の み を 取 り 外 す 事 が 出 来 る の で 、 撃 針 折 損 時 の 交 換 作 業 は 遊 底 を 銃 に 付 け た ま ま の 状 態 で 行 う 事 が で き た 。 操 作 性 自 体 も 極 め て 良 好 で 、 他 の 日 本 軍 の 小 火 器 と 異 な り 、 安 全 解 除 は 銃 を 構 え た 状 態 で 親 指 の み で 行 う 事 が で き た [ 注 釈 7 ] [ 5 ] 。
引 鉄 側 の 安 全 機 構 と し て は 逆 鈎 ( シ ア ー ) の 先 端 に 避 害 筍 ( ひ が い じ ゅ ん ) と 呼 ば れ る 突 起 が 設 け ら れ て お り 、 槓 桿 を 完 全 閉 鎖 の 位 置 に 降 ろ し た 時 の み に 遊 底 側 の 溝 と 避 害 筍 が 噛 み 合 う よ う に な っ て い る た め 、 僅 か で も 槓 桿 が 開 放 側 に 開 い て い る と 引 鉄 を 引 く 事 が 不 可 能 と な る 。 ま た 、 撃 茎 は 遊 底 の カ ム で 後 方 に 押 し 下 げ ら れ る 構 造 と な っ て い る が 、 約 30 度 槓 桿 が 開 く と ( 閂 子 噛 み 合 い が 約 7 0 % 以 下 と な る と ) 撃 茎 は 万 一 逆 鈎 が 破 損 し て 前 進 し た 場 合 で も こ の カ ム に 当 た っ て 撃 針 先 端 が 包 底 面 か ら 出 る 事 は 無 く な る [ 19 ] 。 有 坂 銃 は 前 者 と 後 者 の 組 み 合 わ せ に よ り 不 完 全 閉 鎖 時 の 発 射 不 能 を 実 現 し て お り 、 前 者 の 構 造 に よ り 引 鉄 を 引 い て い る 際 に は 槓 桿 の 回 転 も 行 え な く な る 為 、 発 射 瞬 時 の 薬 室 開 放 不 能 を も 実 現 し て い る [ 5 ] 。 こ の 為 、 有 坂 銃 は 今 日 の ボ ル ト ア ク シ ョ ン と 比 較 し て も 高 い 安 全 性 を 有 し て い る と さ れ て い る 。
上 記 の 安 全 策 に 加 え て 、 薬 室 の 上 面 ︵ 後 述 ︶ と ボ ル ト の 下 面 ︵ 三 十 年 式 で は 右 上 面 ︶ に は そ れ ぞ れ ガ ス 抜 き 用 の 小 穴 が 設 け ら れ 、 ま た 撃 茎 ︵ ス ト ラ イ カ ー ︶ は 後 半 分 が 太 く な る よ う 加 工 さ れ て お り 、 も し 異 常 腔 圧 が 発 生 し た 際 に 、 高 圧 ガ ス が 後 方 へ 吹 き 抜 け る の を 予 防 す る よ う 配 慮 さ れ て い る 。 ボ ル ト ハ ン ド ル の 基 部 は 閉 鎖 状 態 で レ シ ー バ ー 側 と か み 合 っ て お り ︵ た だ し 接 触 せ ず 僅 か な す き 間 が あ る ︶ 、 万 一 ボ ル ト 先 端 の ロ ッ キ ン グ ラ グ が 破 断 し た 場 合 に 、 ボ ル ト が 後 方 へ 抜 け 出 る の を 防 止 す る セ ー フ テ ィ ー ラ グ を 兼 ね て い る 。
三 八 式 以 降 の 銃 身 側 の 特 徴 と し て は 、 極 め て 分 厚 い 薬 室 と 銃 身 内 部 の ク ロ ー ム メ ッ キ 処 理 が 挙 げ ら れ る 。 有 坂 銃 の 薬 室 の 肉 厚 は 64 式 小 銃 の 開 発 者 の 一 人 で も あ っ た 伊 藤 眞 吉 の 資 料 [ 20 ] で は 、 九 九 式 は 62 式 機 関 銃 ( 8 . 6 m m ) や G e w 9 8 ( 1 0 . 7 m m ) を 凌 駕 す る 1 1 . 4 m m の 厚 さ [ 注 釈 8 ] を 備 え て お り 、 異 常 高 圧 時 に 発 射 ガ ス を 銃 身 上 方 に 抜 く 為 の ガ ス 抜 き 孔 が 1 つ ま た は 2 つ 設 け ら れ て い た 。 九 九 式 か ら は 銃 身 内 部 に も 末 期 型 を 除 い て 銃 身 命 数 を 延 長 す る 目 的 で 分 厚 い ク ロ ー ム メ ッ キ が 施 さ れ 、 施 条 ( ラ イ フ リ ン グ ) が 保 護 さ れ て い る 事 に よ り 、 今 日 で も 良 好 な 集 弾 性 能 を 発 揮 す る 要 因 と な っ て い る 。 包 底 面 に 備 え ら れ た 抽 筒 子 も 極 め て 大 き な 鈎 爪 状 の も の が 採 用 さ れ て お り 、 こ れ ら の 構 造 上 の 特 徴 か ら 、 有 坂 銃 は 極 め て 簡 素 か つ 堅 牢 な 構 造 を 有 し て い る と も さ れ て い る 。
ま た 、 有 坂 銃 は 多 く は 1 m を 超 え る 長 い 全 長 を 持 ち 、 3 0 c m か ら 4 0 c m も の 刃 渡 り を 持 つ 銃 剣 を 組 み 合 わ せ る 事 で 、 銃 剣 術 を 極 め て 強 く 意 識 し た 運 用 が 行 わ れ た 。 有 坂 銃 の こ の 設 計 思 想 は 銃 剣 道 に お け る 木 銃 の 寸 法 [ 注 釈 9 ] の み な ら ず 、 今 日 の 陸 上 自 衛 隊 や 日 本 の 警 察 の 小 銃 の 運 用 思 想 や 白 兵 戦 術 に 至 る ま で 強 い 影 響 力 を 残 し 続 け て い る 。
上 述 の 通 り 、 有 坂 銃 は ボ ル ト ア ク シ ョ ン 小 銃 と し て は 極 め て 堅 牢 な 構 造 と 多 重 の 安 全 機 構 を 持 ち 、 モ ー ゼ ル の M 9 8 ア ク シ ョ ン と 並 ん で ボ ル ト ア ク シ ョ ン の 横 綱 と 評 さ れ る 事 も 多 い が 、 上 述 の 技 術 的 特 徴 が 表 裏 一 体 で ( モ ー ゼ ル M 9 8 ア ク シ ョ ン を 下 敷 き と し た ) 現 代 的 な 設 計 の ボ ル ト ア ク シ ョ ン と 比 較 し た 際 の 有 坂 銃 の 短 所 と も な っ て い る 。
コ ッ ク オ ン ・ ク ロ ー ジ ン グ 方 式 は 薬 室 開 放 時 の 槓 桿 の 操 作 力 の 低 減 の 面 で は 、 モ ー ゼ ル の コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ 方 式 と 比 較 し て 分 が あ る が 、 閉 鎖 時 の 操 作 力 は コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ 方 式 と 比 較 し て 大 き な 力 が 必 要 と な り 、 開 閉 操 作 の ス ム ー ズ さ に も や や 欠 け る と さ れ 、 不 発 の 際 の 素 早 い 再 コ ッ キ ン グ も 行 え な い 短 所 が あ る 。 撃 茎 を 覆 い 隠 し て し ま う 撃 茎 駐 胛 に よ る 2 ポ ジ シ ョ ン 式 安 全 装 置 は 、 頑 丈 で は あ る も の の 射 撃 場 に お い て は コ ッ キ ン グ の 状 態 を 外 見 か ら 目 視 確 認 で き な い 安 全 上 の 不 安 要 素 と な り 、 モ ー ゼ ル の 3 ポ ジ シ ョ ン 式 旗 安 全 器 の よ う に 撃 針 を 固 定 し た 状 態 で の 薬 室 開 放 が 不 可 能 な 為 、 極 め て 低 い 確 率 で は あ る が 脱 包 の 際 の 薬 室 解 放 前 の 引 鉄 の 誤 操 作 、 或 い は 薬 室 開 放 中 の 逆 鈎 の 破 損 に 起 因 す る 暴 発 を 阻 止 で き な い 欠 点 が あ る [ 21 ] 。 現 在 コ ス ト 上 の 理 由 で 2 ポ ジ シ ョ ン 式 を 採 用 す る 場 合 、 豊 和 M 1 5 0 0 ( ウ ェ ザ ビ ー ・ バ ン ガ ー ド ) や レ ミ ン ト ン M 7 0 0 の よ う に 、 ﹁ 逆 鈎 を 固 定 す る 方 式 ﹂ と し て ボ ル ト の 固 定 機 能 を 廃 し て で も 薬 室 解 放 時 の 安 全 性 を 優 先 す る の が 基 本 で あ る [ 22 ] [ 注 釈 10 ] 。
避 害 筍 に よ る 引 鉄 の 安 全 機 構 は 、 上 記 の 2 ポ ジ シ ョ ン 式 安 全 装 置 の 欠 点 を あ る 程 度 補 う 効 果 こ そ 期 待 で き る も の の 、 時 と し て 撃 茎 駐 胛 の 安 全 解 除 ( 左 回 転 ) の 際 に 槓 桿 が 動 い て 発 射 が 不 能 と な る 不 具 合 を も た ら し 、 運 用 上 も コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ の 多 く の 銃 で 可 能 な ﹁ 引 金 を 引 き な が ら ゆ っ く り ボ ル ト を 開 閉 す る 事 で 、 撃 針 を 安 全 に デ コ ッ キ ン グ す る ﹂ 操 作 が 行 え ず 、 必 ず 空 撃 ち [ 注 釈 11 ] か 発 射 を 行 わ ね ば な ら な い [ 23 ] 。 モ ー ゼ ル を 始 め と す る コ ッ ク オ ン ・ オ ー プ ニ ン グ 式 は 、 コ ッ ク オ ン の カ ム の 構 造 上 、 た と え 槓 桿 が 多 少 上 が っ た 状 態 で 撃 針 を 落 と し た と し て も 、 撃 針 が カ ム に 衝 突 し て 槓 桿 を 強 制 的 に 閉 鎖 方 向 へ 動 か す 動 作 を 行 う 為 、 避 害 筍 の よ う な 安 全 対 策 を 採 る 必 要 が な い [ 23 ] 。 ま た 、 ﹁ 発 射 瞬 時 の 開 放 不 能 ﹂ と い う 機 能 性 に 関 し て は 、 53 式 信 号 拳 銃 な ど の 元 折 式 の 鉄 砲 で 発 射 瞬 時 に 完 全 解 放 に 至 る 事 故 事 例 が 数 例 あ り [ 24 ] 、 1 9 8 0 年 代 初 頭 ま で の ウ ィ ン チ ェ ス タ ー ブ ラ ン ド の 散 弾 銃 [ 注 釈 12 ] で は こ う し た 事 故 を 防 ぐ 対 策 が 採 ら れ て い た 例 も あ っ た が 、 元 よ り 極 め て 発 生 頻 度 の 低 い 事 例 で あ る 為 に 、 今 日 販 売 さ れ る 民 生 銃 器 で は こ う し た 構 造 は ほ と ん ど 省 略 さ れ て い る [ 25 ] 。
極 め て 分 厚 い 薬 室 と 銃 身 の ク ロ ー ム メ ッ キ は 、 制 式 採 用 後 1 0 0 年 近 く を 経 過 し た 現 在 で も 良 好 な 射 撃 性 能 を 発 揮 す る 要 素 の 一 つ と は な っ て は い る も の の 、 ( 兵 士 の 寿 命 と 一 体 で あ る 事 を 前 提 と し た ) 消 耗 品 と し て の 軍 用 銃 、 ( 短 い ラ イ フ サ イ ク ル で の モ デ ル チ ェ ン ジ を 前 提 と し た ) 商 品 と し て の 民 生 小 銃 と し て は 過 剰 性 能 で も あ る 。 ま た 、 純 粋 な 静 的 射 撃 用 ラ イ フ ル と し て は ラ イ フ リ ン グ の 均 一 性 を 損 ね る 要 素 と な る た め 、 銃 身 内 へ の ク ロ ー ム メ ッ キ は 忌 避 さ れ る 事 が 多 い [ 26 ] 。
大日本帝国陸海軍に制式採用されたもののみを列挙する。試製銃や模造銃等については各型式の個別項目を参照されたい。
有坂銃の最初のモデル。6.5×50mmSRの三十年式実包 を使用。製造数554,000挺。
三十年式のカービン (騎兵銃)版で、300mm銃身が短い。製造数45,000挺。
正 式 名 称 は 三 十 五 年 式 海 軍 銃 。 6 . 5 × 5 0 m m S R の 三 十 年 式 実 包 を 使 用 。
三 十 年 式 を ベ ー ス に 南 部 麒 次 郎 少 佐 が 海 軍 陸 戦 隊 向 け に 改 良 。 照 準 器 の 表 尺 板 を ス ラ イ ド 式 か ら 扇 転 式 に 、 ま た 手 動 開 閉 式 の 遊 底 覆 ︵ ダ ス ト カ バ ー ︶ を 追 加 し て い る 。 こ の ダ ス ト カ バ ー は 後 に 45 式 サ イ ミ ー ズ ・ マ ウ ザ ー で も 採 用 さ れ て い る 。 操 作 性 向 上 の 為 、 槓 桿 や 引 金 型 安 全 器 の フ ッ ク が 大 型 化 さ れ 、 雷 管 破 断 に よ る ガ ス の 吹 き 抜 け 防 止 策 と し て 遊 底 本 体 へ の ガ ス 抜 き 穴 の 追 加 、 包 底 面 の 改 良 が 行 わ れ た 。 ま た 薬 室 へ の 給 弾 を よ り 良 く す る 為 、 弾 倉 の 改 良 な ど が 行 わ れ た 。
南 部 麒 次 郎 少 佐 が 設 計 。 6 . 5 × 5 0 m m S R の 三 八 式 実 包 を 使 用 。 三 十 年 式 実 包 も 使 用 で き る 。 取 り 回 し の 改 善 の 為 の 三 八 式 短 小 銃 と 呼 ば れ る 短 小 版 も 存 在 し 、 全 長 は 歩 兵 銃 と 騎 兵 銃 の 中 間 程 度 で あ る 。
有 坂 銃 で 最 も 多 く 生 産 さ れ た 型 式 で 、 最 も 一 般 的 な 存 在 で あ る 。 設 計 さ れ た 1 9 0 5 年 か ら 1 9 4 2 年 ま で 約 3 , 4 0 0 , 0 0 0 挺 が 製 造 さ れ た 。
三八式の騎兵銃版で、300mm銃身が短い。主に輜重兵 などの後方要員により使用された。
三八式歩兵銃としての製造後に精度が優秀な物が選抜され、九七式狙撃銃と同様の改修が施されたもの。レシーバーに三八式 の刻印が刻まれている点を除けば、九七式との外見の差はほとんど無い。
三 八 式 を ベ ー ス に し た 騎 兵 銃 。 6 . 5 × 5 0 m m S R の 三 八 式 実 包 を 使 用 。 三 十 年 式 実 包 も 使 用 で き る 。 際 だ っ た 特 徴 は 折 り 畳 み 式 の ス パ イ ク 式 銃 剣 と 、 銃 床 内 に 収 納 さ れ た 2 本 継 ぎ の ク リ ー ニ ン グ ロ ッ ド で あ る 。 元 々 は 騎 兵 専 用 に 設 計 さ れ た が 、 輜 重 兵 な ど の 後 方 要 員 に も 使 用 さ れ た 。
旧 日 本 軍 の 2 つ の 主 要 な 軍 用 狙 撃 銃 の う ち の 一 つ 。 6 . 5 × 5 0 m m S R の 三 八 式 実 包 を 使 用 す る が 、 よ り 良 い 命 中 精 度 、 軽 い 反 動 、 銃 声 や マ ズ ル フ ラ ッ シ ュ の 抑 制 な ど の 為 に 、 十 一 年 式 軽 機 関 銃 や 九 六 式 軽 機 関 銃 向 け に 用 い ら れ た 減 装 薬 弾 を 使 用 し た 。 工 場 出 荷 時 に ゼ ロ イ ン 調 整 さ れ た 九 七 式 照 準 器 ( 2 . 5 倍 率 ) を 装 備 。
大 ま か に 2 2 , 5 0 0 挺 が 製 造 さ れ た 。
三 八 式 歩 兵 銃 の 後 継 小 銃 。 7 . 7 × 5 8 m m の 九 九 式 普 通 実 包 を 使 用 。 無 起 縁 式 化 さ れ た 九 二 式 普 通 実 包 や 九 七 式 普 通 実 包 も 使 用 で き た 。
1 9 3 9 年 に 銅 金 義 一 大 佐 ( の ち 少 将 ) [ 27 ] に よ り 設 計 さ れ 、 そ の 後 1 9 4 1 年 か ら 1 9 4 5 年 ま で に 約 2 , 5 0 0 , 0 0 0 挺 が 製 造 さ れ た 。 九 九 式 は 第 二 次 世 界 大 戦 で 最 も 一 般 的 な 日 本 軍 の 制 式 小 銃 で あ り 、 有 坂 銃 で 2 番 目 に 著 名 な 型 式 で も あ る 。 三 八 式 か ら の 大 き な 変 更 点 は 照 門 の V ノ ッ チ 型 か ら ピ ー プ 型 へ の 変 更 、 照 星 の ブ レ ー ド 型 か ら 三 角 型 へ の 変 更 、 銃 身 内 へ の ク ロ ー ム メ ッ キ 、 初 期 型 に お け る 対 空 照 尺 の 装 備 で あ る 。 他 に も 生 産 性 向 上 の 為 、 レ シ ー バ ー 後 部 の 槓 桿 収 納 部 分 の 縮 小 化 や [ 注 釈 13 ] 、 用 心 金 等 へ の プ レ ス 加 工 部 品 の 多 用 、 部 品 脱 落 の リ ス ク の あ っ た フ ロ ア ー プ レ ー ト へ の 蝶 番 追 加 な ど 、 三 八 式 か ら の 変 更 点 ・ 改 良 点 は 多 岐 に 渡 る 。
派 生 型 と し て 全 長 が 短 小 銃 の 1 1 1 8 m m か ら 1 2 5 8 m m に 延 長 さ れ た 九 九 式 長 小 銃 ( 製 造 総 数 3 8 , 0 0 0 挺 ) が 存 在 し た 。 短 小 銃 も そ の 品 質 に よ り 初 期 型 、 中 期 型 、 終 末 型 へ と 変 化 を 遂 げ た 。
旧日本軍のもう一つの軍用狙撃銃。後者の方が数が多いが、長小銃または短小銃の双方に基づいて製造された。7.7×58mmの九九式普通実包を使用。無起縁式化された九二式普通実包や九七式普通実包も使用できた。より大口径でパワフルとなった口径により、反動は強くなったものの風による影響を受けにくい弾道特性を得る事ができた。照準器は九七式照準器(2.5倍率)の他、九九式照準器(4.0倍率)が装備され、後に九九式照準器をベースに倍率調整機能を有する試作品の開発も行われた。それぞれの照準器には専用のホルスター が用意され、しばしば小銃と分離して携行された。
旧日本軍では狙撃兵 は各部隊から射撃技能の高い者が選出され、与えられる狙撃銃はその兵士が所属する部隊に配備されている小火器の口径に依存していた。即ち、所属部隊の配備小銃が6.5mmである場合には九七式狙撃銃、7.7mmである場合には九九式狙撃銃が与えられた。
製造は1942年5月より始まり、製造総数は約10,000挺。
陸 軍 挺 進 連 隊 及 び 海 軍 空 挺 部 隊 の 為 に 開 発 さ れ た テ イ ク ダ ウ ン ・ ラ イ フ ル で 、 唯 一 の 量 産 小 銃 で あ る 二 式 小 銃 は 二 式 テ ラ 銃 の 別 名 を 持 ち 、 九 九 式 短 小 銃 を ベ ー ス に 製 造 さ れ た 。 そ れ 以 前 に は 試 製 一 〇 〇 式 と 試 製 一 式 及 び 、 試 製 テ ラ 銃 の 3 つ の 試 作 品 が 存 在 し た 。 二 式 小 銃 は 7 . 7 × 5 8 m m の 九 九 式 普 通 実 包 を 使 用 。 無 起 縁 式 化 さ れ た 九 二 式 普 通 実 包 や 九 七 式 普 通 実 包 も 使 用 で き た 。
二 式 小 銃 は 銃 身 及 び ハ ン ド ガ ー ド と 、 機 関 部 及 び 銃 床 か ら な る 2 つ の 部 品 に 分 離 す る 事 で 、 コ ン パ ク ト に 携 帯 す る 事 が で き た 。 1 9 4 2 年 か ら 1 9 4 4 年 に 掛 け て お よ そ 1 9 , 0 0 0 挺 が 製 造 さ れ た 。
三十年式小銃と同時に制定された剣 型の三十年式銃剣は、三十年式騎銃と四四式騎銃、最末期に製造された一部の九九式短小銃を除く全ての有坂銃に着剣する事ができる。二十種類以上のバリエーションがあり、更には初期・中期・後期生産型に分類される。変わったところでは、軽機関銃 の九六式軽機関銃 や九九式軽機関銃 や、サブマシンガン の一〇〇式機関短銃 や試製二型機関短銃 にも装着する事ができた。なぜこうした仕様であるかについては研究者の間でも諸説あり、銃剣格闘が目的ではなく連射時の銃口を安定化させるバラストの役割を期待された[28] とも言われている。
製造総数は約8,400,000振。
三十五年式海軍銃用の銃剣。基本的な形状は三十年式銃剣と共通であるものの、駐爪が追加されている[29] 。
四 四 式 騎 銃 に 固 定 装 備 さ れ た ス パ イ ク 型 の 銃 剣 で 、 折 り 畳 ん で ハ ン ド ガ ー ド に 収 納 す る 事 が で き る 。 展 開 時 も 銃 身 に 干 渉 し な い 。 馬 乗 す る 騎 兵 で の 運 用 を 第 一 に 考 え ら れ た 銃 剣 [ 30 ] で 、 製 造 時 期 に よ り 大 ま か に 3 種 類 に 分 類 さ れ る [ 31 ] 、 銃 へ の 取 り 付 け 部 が 段 階 的 に 強 化 さ れ て い る 。
四 四 式 騎 銃 以 外 で は 、 1 9 3 9 年 に 九 九 式 小 銃 の 制 定 と 共 に 四 四 式 騎 銃 の 7 . 7 m m 版 と し て 試 作 さ れ た 試 製 7 . 7 m m 騎 銃 第 二 案 [ 32 ] や 、 二 式 小 銃 の 直 接 の プ ロ ト タ イ プ と な っ た と み ら れ る 試 製 テ ラ 銃 ( 試 製 九 九 式 テ ラ 銃 と も ) に て 四 四 式 騎 兵 銃 剣 が 用 い ら れ た [ 33 ] が 、 い ず れ も 制 式 採 用 に は 至 ら な か っ た 。
三十年式銃剣は空挺兵 の個人携行品としては長すぎた為に、この問題に対処すべくナイフ 型の二式銃剣が開発された。全長は三十年式よりも約20cm短い32.3cmである。主に挺進連隊に配備された二式テラ銃や一〇〇式機関短銃にて用いられた。
製造総数は約25,000振。
全 て の 鹵 獲 さ れ た 外 国 製 の 銃 器 に 共 通 の 事 で あ る が 、 第 二 次 世 界 大 戦 後 期 、 特 に ラ ス ト デ ィ ッ チ ・ モ デ ル と 呼 ば れ る 終 末 型 は 製 造 品 質 が 大 き く 低 下 し て お り 、 そ れ ら の 銃 器 に 対 し て 米 国 内 の 銃 工 が 施 し た 加 工 も 要 因 と な り 、 今 日 こ れ ら を 発 射 す る 事 は そ れ な り 以 上 の 危 険 を 伴 う 。 有 坂 銃 の 弾 薬 は 多 く は 戦 場 で 拾 わ れ た 土 産 で あ り 、 終 戦 直 後 は 米 国 内 で も 容 易 に 再 入 手 が 可 能 な 状 況 で は な か っ た 。 そ の 為 、 当 時 多 く の 有 坂 銃 が 入 手 が 容 易 な 口 径 に 銃 腔 を 拡 大 さ れ る か 、 薬 室 加 工 を 施 さ れ て い た 。 ま た 、 時 に 米 国 へ 運 び 出 さ れ る 折 に 潜 在 的 な サ ボ タ ー ジ ュ と し て 、 有 坂 銃 を 動 作 不 可 能 な 状 態 に 毀 損 ( d e m i l l e d ) す る 事 も 行 わ れ て い た 。 そ れ は レ シ ー バ ー へ の 損 傷 や 一 部 の 部 品 の 除 去 な ど の 手 段 で 行 わ れ た 。
な お 、 こ の 時 期 の 米 国 内 で の 有 坂 銃 の 加 工 に 関 す る 逸 話 と し て 、 九 九 式 終 末 型 な ど に お け る 事 故 事 例 な ど の 悪 評 が 残 る 一 方 で 、 初 期 の 有 坂 銃 の 頑 丈 さ を 示 す 例 と し て 、 三 八 式 の 薬 室 の み を . 3 0 - 0 6 仕 様 に 拡 大 し 、 銃 身 は そ の ま ま の 状 態 で . 3 0 - 0 6 を 発 射 し た と こ ろ 、 . 3 0 8 の 弾 頭 が . 2 6 4 ま で 鉛 筆 の よ う に 細 長 く 押 し 潰 さ れ た 状 態 で 発 射 さ れ 、 銃 身 ・ 薬 室 共 に 異 状 が 見 ら れ な か っ た と い う 事 例 が 写 真 付 き で ア メ リ カ ン ・ ラ イ フ ル マ ン 誌 に 掲 載 さ れ た 事 が あ る [ 34 ] と い う [ 35 ] [ 36 ] 。
ま た 、 戦 後 の 米 国 で 独 自 の カ ス タ ム ラ イ フ ル や 様 々 な ワ イ ル ド キ ャ ッ ト ・ カ ー ト リ ッ ジ の 制 作 者 と し て 名 を 馳 せ た 伝 説 的 な ガ ン ス ミ ス 、 パ ー カ ー ・ オ ッ ト ー ・ ア ク レ イ ︵ 英 語 版 ︶ は 、 戦 後 間 も な く の 時 期 に モ シ ン ・ ナ ガ ン 、 リ ー ・ エ ン フ ィ ー ル ド 、 M 1 9 1 7 エ ン フ ィ ー ル ド 、 K a r 9 8 k 、 ス プ リ ン グ フ ィ ー ル ド M 1 9 0 3 小 銃 、 九 九 式 短 小 銃 を 収 集 し 、 自 身 が 製 作 し た 極 め て 強 力 な マ グ ナ ム 装 弾 を 用 い て ど の 国 の 制 式 小 銃 が 最 も 強 固 で あ る か を 検 証 ( 破 壊 試 験 ) し た と こ ろ 、 九 九 式 短 小 銃 が 列 国 の 制 式 小 銃 で 最 も 頑 強 な 構 造 を 持 つ 事 が 実 証 さ れ た と い う 。 米 陸 軍 は ア ク レ イ の 破 壊 試 験 に 協 力 し 、 ア ク レ イ か ら 上 申 さ れ た 報 告 に 基 づ き 、 旧 日 本 軍 か ら 接 収 し 保 管 さ れ て い た 九 九 式 短 小 銃 の 多 く を . 3 0 - 0 6 弾 仕 様 に 改 装 し 、 韓 国 軍 や 警 察 予 備 隊 に 供 給 す る 事 を 決 断 し た と さ れ る [ 37 ] 。 但 し 、 ア ク レ イ 自 身 は 有 坂 銃 自 体 に つ い て は ﹁ 極 め て 強 固 で は あ る が 、 ( カ ス タ ム ベ ー ス と し て は ) 望 ま し く な い 要 素 も 多 く 含 ま れ て い る 。 私 は 強 固 さ と 理 想 が 混 同 さ れ る べ き で な い と 考 え て お り 、 故 に 有 坂 銃 に 多 く の 投 資 を 行 う べ き で な い と も 考 え て い る 。 ﹂ と も 評 し て い た [ 38 ] 。 ア ク レ イ は 有 坂 銃 を 生 み 出 し た 日 本 の 製 銃 技 術 に 一 定 の 評 価 を 与 え 、 1 9 6 6 年 に は 日 本 の 銃 器 メ ー カ ー ( 何 処 で あ る か は 明 言 さ れ て い な い ) が 製 造 し た モ ー ゼ ル M 9 8 型 の ラ イ フ ル を 右 射 手 用 ・ 左 射 手 用 合 計 で 1 5 0 挺 程 を 輸 入 し 、 日 本 製 の テ レ ス コ ピ ッ ク ・ サ イ ト 共 々 、 自 身 の 名 を 冠 し て 販 売 し て い た [ 39 ] 。
対 空 照 尺 を 開 い た 九 九 式 の 照 門
ア ク レ イ ら に よ る 事 例 以 外 で は 、 米 国 内 の 三 八 式 は 6 . 5 × . 2 5 7 ロ バ ー ツ 弾 仕 様 に 薬 室 を 改 造 さ れ る 事 が 多 か っ た 。 こ の 弾 薬 は . 2 5 7 ロ バ ー ツ 弾 を 基 に 、 既 存 の 銃 身 を そ の ま ま 活 用 で き る よ う ボ ト ル ネ ッ ク 化 し 、 薬 莢 に 6 . 5 m m 弾 頭 を 取 り 付 け る 加 工 を 行 っ た ワ イ ル ド キ ャ ッ ト ・ カ ー ト リ ッ ジ で あ る 。 九 九 式 の 場 合 は 7 . 7 × 5 8 m m か ら . 3 0 - 0 6 ス プ リ ン グ フ ィ ー ル ド 弾 へ の 薬 室 改 造 が 行 わ れ る 事 が 多 か っ た 。 し か し 、 . 3 0 - 0 6 は 薬 室 を 5 m m 延 長 ( 5 8 m m か ら 6 3 m m へ ) す れ ば 利 用 で き た も の の 、 弾 頭 の 径 が 7 . 7 m m よ り も 僅 か に 狭 か っ た ( . 3 0 8 ) 為 、 良 い 弾 道 特 性 を 得 る 事 が 難 し か っ た 。 九 九 式 に 最 適 な 弾 頭 径 は . 3 1 0 か ら . 3 1 2 で あ る 。
こ う し た 改 造 を 施 さ れ た 九 九 式 と 適 合 す る 弾 薬 を 求 め る 場 合 、 . 3 0 - 0 6 の 薬 莢 に 大 き な 弾 頭 を 取 り 付 け る 為 の 加 工 を 施 し て 製 造 す る 。 ド イ ツ の 7 . 9 2 × 5 7 m m マ ウ ザ ー 弾 に 適 切 な . 3 1 1 径 の 弾 頭 を 取 り 付 け て 使 用 す る の も 良 い 方 法 で あ る 。 広 く 利 用 可 能 な . 3 0 3 ブ リ テ ィ ッ シ ュ 弾 の 弾 頭 は 、 有 坂 銃 の ラ イ フ リ ン グ に 適 合 し た も の で あ る 。 現 在 ノ ル ウ ェ ー の ノ ル マ 社 は 7 . 7 × 5 8 m m の 工 場 装 弾 及 び リ ロ ー ド 用 の 新 品 薬 莢 を 提 供 し て お り 、 ホ ー ナ デ ィ も 6 . 5 m m や 7 . 7 m m 双 方 の 工 場 装 弾 を 市 場 に 提 供 し て い る 。 7 . 7 m m の 薬 莢 は 底 部 が . 3 0 - 0 6 よ り も 若 干 広 い の で 、 既 に 薬 室 加 工 な ど を 施 さ れ た 履 歴 の あ る 有 坂 銃 で あ っ て も 、 所 有 者 に よ っ て は こ の よ う な 弾 薬 ま た は 薬 莢 を 使 用 す る 方 が 好 ま し い か も し れ な い 。 当 時 の 軍 用 装 弾 と 類 似 し た 弾 道 特 性 を 求 め る 場 合 、 弾 頭 及 び 装 薬 の 品 質 が 当 時 の 軍 用 装 弾 に 近 い . 3 0 3 ブ リ テ ィ ッ シ ュ 弾 の サ ー プ ラ ス ・ ア モ ( 払 下 げ 装 弾 ) か ら 、 弾 頭 と 装 薬 の み を オ リ ジ ナ ル の 日 本 軍 仕 様 の リ ロ ー ド デ ー タ で 7 . 7 × 5 8 m m 薬 莢 に 移 し 替 え る 事 も 行 わ れ る 。
先代村田銃
日本軍 制式小銃 1898-1945
次代 旧日本軍の終焉
九九式後期型の全景
遊底を閉鎖した九九式
閉鎖解除中の九九式
九九式の遊底の接写
九九式の銃身と施条
三十年式銃剣
九九式への三十年式銃剣の着剣
(一) ^ 戦 時 型 と 一 重 に 言 っ て も 、 戦 時 中 の 省 力 化 ・ 未 熟 な 作 業 者 に よ る 製 造 や 、 形 状 の 簡 略 化 、 材 質 寸 法 精 度 の 低 下 な ど 、 あ ら ゆ る 増 産 ・ 生 産 性 向 上 の 改 造 が 施 さ れ た こ と で 、 同 じ 部 品 で あ っ て も そ の 形 状 は 多 岐 に わ た っ て い た 。
(二) ^ 豊 和 工 業 が 代 表 格 で あ る が 、 同 社 が 製 造 を 手 掛 け た ボ ル ト ア ク シ ョ ン ラ イ フ ル は 、 サ コ ・ L 6 1 R " フ ィ ン ベ ア " を 直 接 の 下 敷 と し た 豊 和 ゴ ー ル デ ン ベ ア と 、 ウ ェ ザ ビ ー ・ マ ー ク Ⅴ を 参 考 と し た 現 行 の 豊 和 M 1 5 0 0 の み で あ る 。
(三) ^ 豊 和 以 外 で は 今 日 唯 一 残 る 民 間 銃 器 メ ー カ ー の ミ ロ ク も 、 ボ ル ト ア ク シ ョ ン は ブ ロ ー ニ ン グ ・ ア ー ム ズ 系 列 の ブ ロ ー ニ ン グ ・ A - ボ ル ト 及 び 、 そ の 散 弾 銃 版 の ミ ロ ク ・ M S S - 2 0 を 製 造 す る の み に 留 ま っ て い る 。
(四) ^ 今 日 の 自 動 式 散 弾 銃 や レ ピ ー タ ー 式 散 弾 銃 の よ う に 機 関 部 下 部 の 装 填 口 か ら 弾 を 前 方 へ 押 し 込 む 方 式 で は な く 、 有 坂 銃 同 様 に 排 莢 口 か ら 弾 を 挿 入 し た 後 、 更 に 前 方 へ 弾 を 押 し 込 む 工 程 が 付 加 さ れ る 為 、 8 発 の フ ル ロ ー ド に は 慣 れ と 時 間 を 要 し た 。 ま た 、 8 発 も の 弾 が 装 填 さ れ た 状 態 で は 銃 口 側 が か な り 重 く な り 、 弾 が 減 る 毎 に 銃 口 側 が 軽 く な っ て い く 為 、 ラ イ フ ル 射 撃 で 重 要 視 さ れ る 銃 口 の 安 定 性 の 面 で も 難 が あ っ た 。
(五) ^ 同 時 期 の 小 銃 で は 直 動 式 ボ ル ト ア ク シ ョ ン を 採 用 し た カ ナ ダ の ロ ス 小 銃 が 、 構 造 上 の 問 題 か ら 部 品 の 組 み 間 違 い や 異 常 高 圧 に よ り 撃 針 や 撃 茎 が 射 手 の 顔 面 を 直 撃 し 、 死 傷 者 を 多 発 さ せ た 事 例 で 知 ら れ て い る 。
(六) ^ 同 様 の 理 由 で 、 十 四 年 式 拳 銃 も 用 心 金 ( ト リ ガ ー ガ ー ド ) の 形 状 が 変 更 さ れ て い る 。
(七) ^ た だ し 、 他 物 に ノ ブ が 押 さ れ て 勝 手 に 安 全 解 除 さ れ る 事 例 も あ っ た よ う で 、 銅 金 義 一 と 共 に 九 九 式 小 銃 の 設 計 に 携 わ っ た 伊 藤 眞 吉 は 、 こ の 戦 訓 を 踏 ま え て 64 式 小 銃 で は あ え て 摘 ん で 引 っ 張 ら な け れ ば 回 せ な い 、 よ り 安 全 確 実 な 安 全 装 置 の 採 用 に 及 ん だ と し て い る 。
(八) ^ 伊 藤 は 三 八 式 も 厚 さ は 九 九 式 と さ ほ ど 変 わ ら な か っ た と し て い る 。
(九) ^ 三 八 式 歩 兵 銃 に 三 十 年 式 銃 剣 を 取 り 付 け た 長 さ が 基 準 と な っ て い る 。
(十) ^ な お 、 G e w 9 8 と 同 様 に 有 坂 銃 に も ア フ タ ー マ ー ケ ッ ト パ ー ツ と し て 引 鉄 の 重 さ ( ト リ ガ ー プ ル ) を 調 整 す る 為 の ト リ ガ ー セ ッ ト が 販 売 さ れ て お り 、 そ の 中 に は 逆 鈎 又 は 引 鉄 を 固 定 す る 2 ポ ジ シ ョ ン 式 安 全 器 が 併 設 さ れ て い る も の も あ る 為 、 こ う し た 部 品 を 撃 茎 駐 胛 と 併 用 し て 使 い 分 け る 事 で 薬 室 解 放 時 の 安 全 性 も あ る 程 度 は 担 保 さ れ る 。
(11) ^ 空 撃 ち ケ ー ス を 用 い な い 空 撃 ち は 多 く の 場 合 撃 針 の 摩 耗 を 促 進 さ せ る の で 忌 避 さ れ る 。
(12) ^ M 1 2 レ ピ ー タ ー 、 M 2 3 水 平 二 連 、 M 1 0 1 上 下 二 連 及 び 、 こ れ ら の ラ イ セ ン ス 生 産 を 受 託 し て い た オ リ ン 晃 電 社 の 日 本 国 内 向 け ブ ラ ン ド 、 ニ ッ コ ー の 元 折 散 弾 銃 な ど 。
(13) ^ リ ア ラ グ と し て 機 能 す る 最 低 限 の 大 き さ の み 確 保 し て 、 槓 桿 が 通 過 す る ガ イ ド と し て の 部 分 は 省 略 さ れ て い る 。
Hatcher, Julian, Major General, (U.S.A. Ret). Hatcher's Notebook. Stackpole Publishing, Harrisburg, PA U.S.A.; 1962. Library of Congress Number 62-12654.
伊藤眞吉「鉄砲の安全(その1)」『銃砲年鑑』05-06年版、266-285頁、2005年
伊藤眞吉「鉄砲の安全(その2)」『銃砲年鑑』06-07年版、249-268頁、2006年
伊藤眞吉「鉄砲の安全(その3)」『銃砲年鑑』08-09年版、158-181頁、2008年
伊藤眞吉「鉄砲の安全(その4)」『銃砲年鑑』10-11年版、104-123頁、2010年
津野瀬光男 『幻の自動小銃 : 六四式小銃のすべて』光人社 〈光人社NF文庫 〉、2006年5月。ISBN 4-7698-2490-4 。