移民
概要 編集
国際的に合意された移民(migrant)の定義はまだ無い。最も引用されている定義は、国際連合(UN)の国連統計委員会への国連事務総長報告書(1997年)に記載されているもので、「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12か月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」を言う。この定義によると長期留学生、仕事での長期赴任者、長期旅行者も「移民」である。
While there is no formal legal definition of an international migrant, most experts agree that an international migrant is someone who changes his or her country of usual residence, irrespective of the reason for migration or legal status. Generally, a distinction is made between short-term or temporary migration, covering movements with a duration between three and 12 months, and long-term or permanent migration, referring to a change of country of residence for a duration of one year or more.
国際移民の正式な法的定義はまだないが、多くの専門家は国際移民とは、その理由や法的地位に関わらず、通常の居住国を変更する人であるという点で一致している。一般的には3-12カ月とされる短期・一時的移民と、1年を超える長期・永住移民に区別される。
また、国籍に関する要件が含まれていないため、日本で出生した外国籍の保持者は通常の居住国は日本であるため、移民ではない。
国際移住機関(IOM)は「国内移動を含め、自発的に他の居住地に移動すること」と定義している。「非自発的な移住」として自分の意思に反して強制的に移動を余儀なくされる場合で戦争や内乱・武力紛争、人権侵害、自然災害などによって起こる難民、あるいは避難民、また人身取引の被害者、研修生や留学生で搾取を受けている人、自分の意思で移動してもその後に紛争に巻き込まれてしまったというケースなどを国際的な人道支援の対象としている。
通常、統計上の移民は、外国からの(外国への)移住者と同義だが、社会的問題としての「移民」には、文字どおり「民」すなわち特定の出身国から来る「大勢の人々」という意味合いが含まれている。そのため、一般的に移民は、巨視的な移住現象(社会全体に影響しうる程度のもの)、又はそれを構成する個々の移住者を意味している(場合によってその子孫が含まれることもある)。
一方、相対的に移住者数が少数である国籍等の場合、移民ではなく、単なる移住者とみられる。例えば、日本には欧州諸国(欧州文化地域)からの移住者が多少居住するが、日本の人口に比してその規模が非常に小さく、通常の社会・政治論ではこれを移民現象として捉えない。なお、より経済力のある豊かな国へ裕福な生活を求めることが多数の移民の動機になっていることから、移民が「経済的移民」を指すことも少なくない。
さらに、英訳の「イミグレーション」(Immigration)は、国の入国管理事務も意味しているため[15]、日本語の「移民」より、語義が広範(曖昧)な言葉になっている。こうした定義の曖昧さが移民問題の議論を難しくする要因の一つである。
統計 編集
法制度 編集
アメリカ合衆国 編集
米国政府が発給する外国人へのビザは、大きく﹁移民ビザ︵Immigrant Visa︶﹂と﹁非移民ビザ(Non Immigrant Visa)﹂に分けられる [17]。 移民ビザは﹁Permanent resident Visa︵永住権︶﹂とも呼ばれ、滞在期限や活動︵就業︶に一切の規制がない。一方で﹁非移民ビザ﹂は、滞在期限や滞在中の活動︵就業可・不可やその職種・条件など︶に制限があり、非移民ビザによる滞在の外国人は住居の有無・就労・滞在期間に関わらず全てVisitor︵訪問者︶として扱われる。 すなわち、米国政府は移民とは﹁永住権所持者﹂と定義している。なお、日本の自民党特命委員会が提案している﹁入国時に在留期間の制限がない者﹂は、この定義に近い。︵ただし、米国永住権は期間だけではなく在留中の活動にも制限がない︶ 対して、一般市民の認識では﹁永住権所持者﹂と﹁帰化米国籍者︵他国で出生した後に米国へ移住し米国籍を取得した者︶﹂の両方を含めて﹁移民﹂と呼ぶ事が多い。フィリピン 編集
フィリピン政府が移民法に基づき発給するビザには、割当移民ビザ︵Quota Immigrant Visa︶や非割当移民ビザ︵Non-Quota Immigrant Visa︶がある[18]。 割当移民ビザは、移民法13条に基づき、対象国ごとに一年あたり定められた人数まで発給されるビザである[18]。 非割当移民ビザは、移民法13条に基づき、フィリピン人と結婚した者などを対象として発給されるビザである[18]。歴史 編集
国民と移民 編集
植民 編集
帝国主義時代の下、ヨーロッパ諸国がアメリカ大陸・アジア・アフリカ大陸で獲得した植民地では、植民地経営のために政策的にヨーロッパからの植民がなされた。アフリカからの奴隷貿易も行われた。その後、世界的な奴隷制度廃止に伴い、鉱山や農園︵プランテーション︶開発や鉄道建設のため、アジアでも人口が多い地域︵中国大陸など︶からの労働移民が東南アジアやアフリカ大陸に渡った。 東南アジアにおける植民地経営を支えていたのはイギリス領マレー半島のゴムや錫、オランダ領インドネシアの農業生産などであり、そこで必要とされた労働力は中国南部やインド南部から調達された。彼らの多くは契約労働者であったが、現地に定住する者も少なくなかった。これに伴い商業活動に進出する者も増え、これらの中国系移民︵華僑・華人︶とインド系移民︵印僑︶は、その後、東南アジア各地で大きな影響力を持つこととなった。 アフリカへの移民としては南アジアとりわけインドからの人々が多く、イギリス帝国の下ではイギリス領植民地相互の植民も行われた。19世紀・移民の世紀 編集
18世紀までのヨーロッパからの移民が主に年季契約の形をとった労働移民であったのに対し、19世紀には自由移民が主流となった。19世紀のヨーロッパでは、産業革命の影響等による人口の増大や交通機関の発達などにより大規模な人口移動がおこった。各国では人口の都市への集中が見られた一方で、海外移民も増加した。第一次世界大戦までの100年間に新大陸に渡ったヨーロッパ人は6000万人に達し、19世紀は正に﹁移民の世紀﹂であった。 最大の移民受け入れ国はアメリカ合衆国であり、その数は1821年から1920年までの100年で約3300万人とされる。その前半には北・西ヨーロッパから、その後半は南・東ヨーロッパからの移民が到来し、これは各国の工業化の進展の時期のずれを示している。人口増加や貧困などの経済的な要因だけでなく、迫害を受けたユダヤ人のように政治的・宗教的な要因からの移民も行われた。また19世紀半ばにアフリカからの黒人奴隷が解放されると、中国やインドから労働者を雇い入れ、不足する労働力を補った。 なお、アメリカ大陸・オーストラリア・南アフリカにおける黄色人種︵モンゴロイド︶のアジア系移民はヨーロッパ系の白人労働者と競合したため、﹁黄禍﹂として排斥されたり、移民を制限されたりすることもあった。1870年代にはカリフォルニア州で中国人︵中国系アメリカ人︶排斥の動きが高まり、1882年には中国人移民禁止法がアメリカ合衆国議会で成立した。1924年にはアメリカ合衆国でとりわけ日本人移民︵日系アメリカ人︶を制限する﹁排日移民法﹂が制定され、日本で﹁アメリカ政府は人種差別的である﹂とする反米感情が生まれた。 オーストラリアではアジア系移民の市民権を容認しない﹁白豪主義﹂が採用された。南アフリカではこの後、厳しい人種隔離政策である﹁アパルトヘイト﹂が長い間継続された。 冷戦終結、東欧革命による共産圏国家の崩壊以降の近年[いつ?]は欧州連合︵EU︶統合とシェンゲン協定加盟国内の旅行が自由となった影響で、旧東側諸国の東ヨーロッパから旧西側諸国の西ヨーロッパへの移民が増加している。ヨーロッパにおける移民 編集
移民政策の歴史 編集
フランス 編集
イギリス 編集
移民統合と多文化主義の問題 編集
異郷の地において同郷の者たちが一つの地区に居住することによってコミュニティが形成される場合もある。日系人による日本人街・リトルトーキョーや中国人による中華街︵チャイナタウン︶、朝鮮半島︵主に韓国︶出身者によるコリア・タウンなどがある。これらは数ブロック程度の﹁一区画﹂であることが多いが、規模が大きくなって村や市がまるごと移民によるコミュニティになっている場合も、しばしばある。例えば、ボリビアにおけるサンフアン・デ・ヤパカニ市は集団移民した日本人が作り上げた市である。フランス 編集
フランスは東欧からの移民の統合には成功しているとされる︵元大統領のニコラ・サルコジはハンガリー移民2世である︶が、旧宗主国として北アフリカ諸国から受け入れた移民の統合はうまくいっていない。移民の多い大都市の郊外では治安の悪化・暴動︵2005年パリ郊外暴動事件など︶が頻発するなどの問題が深刻化している。 2015年1月に首都パリで勃発したシャルリー・エブド襲撃事件では17人の犠牲者を出した[24]。 この事件はフランスの過去50年で最悪の事件であった。犯人は全てフランス生まれのムスリム︵イスラム教徒︶だった。フランスの人口の12%がフランス国外生まれであり、またイスラム系の全人口に占める割合は西欧州一である[25] 2005年のパリ郊外暴動事件はイスラム系移民とフランス国民との溝の深さを示したものである[誰?]。 2015年以前からフランス国民の約74%が、イスラム教はフランス社会の価値観と相容れないと述べている[26]。 元来植民地時代から独立・建国以来の国家形成が移民によって成立しているアメリカでも同様のことは起こりうるが、アメリカは欧州などキリスト教国家からの移民を中心に受け入れており、それらの移民は宗教的アイデンティティーをアメリカ政府から抑圧されることがないのである[25]。ドイツ 編集
ドイツの首都ベルリンの移民集住地区ノイケルン区では2006年3月に、全校生徒の約80%を移民子弟で占めるリュトリ基幹学校︵Rütli-Schule︶では、教師が生徒に暴力を振るわれ、強盗が日常茶飯事になるなど学校崩壊が進んだため、全教員が廃校要望書をベルリン市教育長に送付した事件が発生。ドイツにおける移民統合や多文化主義の失敗としてドイツのメディアでは報道された[29]。2010年にはアンゲラ・メルケル首相が﹁多文化主義は失敗﹂と公言した[30][31]。 2010年代以降、シリア内戦などを理由にアラブ・イスラム系移民・難民が増加しており、2015年には大規模な難民受け入れが行われたが、これにより欧州難民危機が引き起こされた。その後も比較的貧しい旧東ドイツ地域を中心にドイツ各地で反移民活動が行われており、反移民を掲げた政党ドイツのための選択肢︵AfD︶の躍進の要因となっている。スイス 編集
EU諸国からスイスへの移民の数は毎年8万人であり、この数は当初2007年に見積もられていた数の10倍であることがスイス国民党によって指摘されている。そして移民超過の結果、教育システムや交通、公的医療システムに負荷をかける事態になっており、健康保険・年金など移民への社会保障のためのコストを誰が負担するかについての議論がある。そしてスイス国内労働者の賃金の下方硬直性が移民労働者の低賃金と競争にさらされることで脅かされる状態になっている。この状況を受け、2014年スイスは、EU諸国からの移民の数を制限する是非についての国民投票を行い[32]、移民規制強化への賛成が過半数を占めた。スイス国民党代表のトニー・ブルンナーは、この国民投票の結果はスイスの移民政策のターニングポイントだとする声明を出した[33]。 これをうけてスイス政府は2017年からEU諸国からの移民の数を制限する声明を発表した[34]。EU側は先行する条約に反すると批判したが[35]、﹁もしスイス有権者が我々を信頼しなくなったら、民主主義の危機となってしまう﹂とスイス司法・警察担当の連邦参事会員シモネッタ・ソマルーガは述べた。その移民制限法は﹁スイス国内に4か月以上在住する全ての外国人﹂が対象となり[34]、またスイス在住ではないが国境を越えて通勤しスイスで労働に従事する外国人も対象となる。イギリス 編集
2014年、EU加盟国からの移民は、2004年以降、当時の労働党トニー・ブレア政権が中・東欧8カ国の労働者を受け入れたこともあり、ポーランドを中心に約150万人の移民が英国に入国したとみられる。政府統計では、過去1年間で移民が実質26万人増えた。英国は独仏などに比べても、とりわけ移民に対する社会福祉が手厚いとされ、﹁ベネフィット・ツーリズム︵失業手当など福祉目当ての移住︶﹂も一部で問題になっている[36]。イギリス国内では、過去2年間においてEU市民による犯罪は5万4千件以上となった。最多の犯罪者は、主に東欧出身者で、過去2年において、︵全ての︶外国人による犯罪件数も2倍に増加した[37]。 2014年、保守党デイヴィッド・キャメロン英首相は、﹁欧州連合(EU)からの移民に対する社会福祉の制限などを柱とする移民制限措置﹂を導入すると発表した。﹁移民が職を奪ったり福祉予算を圧迫したりしている﹂とする国内の不満に対応する狙いだ。キャメロン首相は演説で﹁移民は現代のオープンな英国社会と経済にとって不可欠なものだ﹂﹁英国に来る移民の数を適正にコントロールし、社会福祉の悪用を防止するための追加の手段が必要だ﹂と語った。制限措置では、EU移民が英国で職をみつけても、4年間は公営住宅への入居や税額控除などの対象外とする。現在は就職後、数か月後には申請できる。6か月以内に職を探せなかった移民は国外退去を求めるほか、新規EU加盟国からの移民も制限する考えだ[36]。 2019年には合法的に移住したグループであるウィンドラッシュ世代が国外に追放、NHSサービスの提供停止、職場から追放と国民としての権利侵害が起こっていたことが判明し社会問題となった。この問題は政府の非正規移民の管理強化が原因であった。イギリスにいる人間は滞在資格や就労資格の証明などを証明する必要が出た、しかしウィンドラッシュ世代が移住した当時はそのような書類が不要であったため旅券を持っていない、さらに管理強化をした政権が入国の記録を破棄した事により証明をすることが出来なくなったためである[23]。 キャメロン政権から続く保守党政権は移民抑制を掲げていたが人手不足により抑制は出来ず[38]、EU離脱後は非EU圏からの流入が拡大している。2023年はウクライナ、香港から逃れた人々を多く受け入れたため過去最多60万6000人の移民が流入した[39]。日本における移民 編集
日本人移民 編集
第二次世界大戦前 編集
第二次世界大戦後 編集
第二次世界大戦後の日本では1950年︵昭和25年︶には復員や引揚者が600万人以上に達していたが、雇用機会が少なく、移民再開が待ち望まれていた[51]。サンフランシスコ講和条約締結後、1952年︵昭和27年︶末にブラジルへの移民が再開され、パラグアイ・ドミニカ共和国・ボリビアなどへの渡航が増加した[48]。 特に、1956年︵昭和31年︶に開始されたドミニカへの移民については、当時の日本政府の喧伝内容と実際の現地の状況・待遇にかなりの相違があり、事実上の﹁棄民[52]﹂ではなかったのかと、後年日本の国会などで議論されている。2007年(平成19年)以降、日本の失業問題や労働環境の悪化に伴い、世界に職を求めて流出する若者が増加している[53]。
日本への移住者 編集
社会問題・世論変化 編集
賃金への下方圧力 編集
移民と賃金格差増大 編集
移民労働者の増加で自国の労働者の所得格差が増大することがわかっている[73]。1965年に米国が移民政策を転換して以来、欧州からの比較的熟練した労働力とアジアやラテンアメリカからの比較的非熟練労働力の両方が米国に流入し続けた。全ての移民労働者に対する非熟練移民労働者の割合と全ての自国籍労働者に占める非熟練自国籍労働者の割合の比率はルイジアナ州、ワイオミング州、イリノイ州において高くそれぞれ10.4, 7.29, 7.23であった。この数字が10%増加すれば熟練労働者と非熟練労働者の賃金比率は0.22%増加する[73]。この数字の全米平均値は3.61であり、アラバマ州では3.58であった。この条件では自国籍の熟練労働者と非熟練自国籍労働者の平均賃金の比率は1.44であった。アラバマ州では、非熟練自国籍労働者の平均賃金は熟練自国籍労働者の平均賃金のおよそ0.694倍ということになる。賃金格差の増大は1970年代より始まり、NAFTAが発効された1990年代における所得格差の増大は顕著であった。移民と若年労働者の雇用 編集
移民の流入によって仕事が奪われるとし、移民の流入による職や雇用機会の減少という不安が持たれる場合がある。地域間の差を用いた研究では、外国人の流入が雇用に与える影響は存在しない、あるいは存在してもわずかな負の影響であることを示したものがほとんどであるが、Borjas(2003)の研究は移民流入が母国労働者に意味のある大きさの影響を与えることを示し、塗師本(2014)の研究は外国人比率の上昇は若年失業者割合および非労働力人口割合を高めることが結論付けられ、1990年 - 2010年の日本においては外国人労働者と若年労働者は代替関係にあることを示した[74]。すなわち、この時期の日本においては移民の流入によって若年層の雇用が奪われていたと言える。財政負担や治安悪化・世論変化 編集
米国では中途半端な移民政策が政治問題になっている。とりわけスペイン語圏の中南米︵ラテンアメリカ︶の国々から米国メキシコ国境付近へ、毎年多数の子供︵児童︶・未成年者たちが押し寄せてくる。彼ら彼女らは、祖国での暴力や貧困などから逃避するために米国への移民を希望している。米国大統領バラク・オバマ︵民主党︶は、政治的議論を捨てて、それら子供らを米国に受け入れる必要性を唱えた[75]。だが米国メキシコ国境付近へやってくる中南米の子供らの数は、年を追って増え続け、その対処は政治問題になっている[76]。 2013年10月から2014年6月までに間に、グアテマラやホンジュラスなど中米から米国へ逃亡してくる子供らの数は約5万2千人にのぼっている[77]。その収容負担を軽減するために、米国政府は移民の家族をテキサスや南カリフォルニアの都市などへ移送している。だが、その移民の移送先で新たな問題を引き起こしている。カリフォルニア州マリエータ市長であるアラン・ロングは、﹁米国政府がすべきことはその非正規移民をテキサスやカリフォルニアに留めておくことではなく粛々と法に基づいて強制送還させることだ﹂と述べる[77]。ニューメキシコ州では、現地住民が、その移民が米国で就業し現地住民の仕事を奪ってしまうことを恐れ、移民に住居を与え留めておくことに反対の声をあげた[77]。8年間続いた共和党ジョージ・ブッシュ政権下での非正規移民の国外追放者数は200万人であったが、オバマ政権では6年目にして既にほぼ同等数の非正規越境者の国外追放を実施している[75]。また国外追放するにしても、アメリカ合衆国憲法に基づいて検査官らの法的聴取が先行されなければならない。その法的聴取には人員と時間がかかる。 米国政府は2014年度に米国へ流入する子供達の数は6万人から8万人に達すると見込んでおり、それら子供達の宿泊場所を手配する政府の負担が急増している。テキサス州知事リック・ペリーは、﹁バラック・オバマがこの問題に十分対処できていない﹂と述べる[78]。﹁オバマは国境地域の治安確保維持を軽視しているために[78]、彼は集中してこの問題に取り組んでおらず、結果としてそれら子供達への施設提供が不足しているのだ﹂とペリーは述べた。 その他の共和党議員は、﹁国境地帯にやってくる中南米の子供達にオバマ政権がそれらの国外追放に猶予期間を与えたことで、他の中南米の子供達に誤った希望をあたえてしまい、それが彼らの越境に拍車をかけているのだ﹂とオバマ政権を非難した。移民政策の専門家は[76]、オバマ政権の移民容認姿勢が中南米の子供達の越境をあおってしまったことを示唆する強い証拠があると述べた。 これをみたオバマ政権は方針を転換し、それら子供達の国外追放のための法的聴取の検査員や国境警備隊の拡充に37億ドルの資金を出すと声明を出した[79]。その37億ドルのうち、子供達を本国に無事に送還するための移送費として約1.16億ドルが計上されている。また本国送還のサポートなどに3億ドルが使われることになっている。テキサス州の国境の治安向上には3000万ドルが使われる。それら子供達は法的聴取の間に施設に拘留されるが、その衛生・健康状態をケアするのに18億ドルがアメリカ合衆国保健福祉省によって費やされる[79]。 2024年3月には、トランプ政権時代にも不法移民寛容世論が強かったブルーステート(民主党の強い地域)でも、不法移民支援への財政負担・治安悪化・住民施設の不法移民施設への転換を機に、支援者からでさえも共和党への支持転換も発生する事態となっている[14]。移民と住宅バブル 編集
スイス政府統計によれば、住居を有しているスイス居住者は全体の3割しかない。スイスでは住宅所有は少しの贅沢である。だが超低金利、移民の増加、そしてスイスが投資家達にとっての金融避難所としての魅力的な国家であることから、スイスでは不動産抵当の貸付が急上昇している[80]。スイス政府は2014年2月以降、資産価格の急激な上昇を抑えるべく努力している。スイス政府は2014年6月、新規に住宅を購入する者が年金基金をその住宅の頭金として使うことを認めない声明を出した。スイス連邦参事会員であるヨハン・シュナイダー=アマンは、この政策によって住宅価格高騰が鈍化することを期待すると述べた[80]。 他方、金融政策の観点ではスイス国立銀行は既に対ユーロでの為替ターゲットを維持しているために、政策金利を上げることができず、スイスの住宅価格高騰に対して有効な術を喪失している[80]。そしてスイス銀行は抵当ローンへの条件を厳しくすると表明した。移民と差別 編集
移民は差別を受けることが多く、アイスランドでは雇用主との共通点︵職歴、学歴、宗教など︶を強調すれば、移民は比較的採用されやすいという調査結果もある[81]。フィンランドでの調査では、実務経験を2年増やしても採用されやすくなるわけではないことが判明している[82]。移民と犯罪・旧来貧困層との対立 編集
移民、特に貧困層の移民は、移民元では余剰人口の排出、移民先では安価な低賃金未熟練労働力の供給源となる一方、文化摩擦や失業などを背景に犯罪集団を形成し各種犯罪を起こすことも各国で発生しており、両方にプラスマイナスともに様々な影響を与える。一般に移民問題とは移入民に関する問題を指すが、移民による頭脳流出が移出国で問題となることもあり、特に医療従事者の流出による医療崩壊は発展途上国で深刻な社会問題となっている[83]。 移民による﹁差別﹂を理由にした暴動が起きている。逆に移民による地域社会変化を不満とし白人至上主義による反イスラム思想によるケースだけでなく、黒人貧困層による移民労働者への不満での暴動や襲撃も起きている。移民だけでなく元々のマイノリティに対する攻撃の増加、現地の貧困層から移民が襲撃されるなど様々な国で起こっている[22][84][85][86]。移民船 編集
脚注・参考文献 編集
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(十)^ 20241057 研究成果報告書 国立情報学研究所
(11)^ “﹁みんなの文化を尊重﹂かえって溝広げた? ﹁多文化主義﹂問い直すヨーロッパ‥朝日新聞GLOBE+”. 朝日新聞GLOBE+ (2020年12月9日). 2023年7月2日閲覧。
(12)^ “多文化共生政策、欧米の﹁失敗﹂から日本は何を学ぶべきか | Forbes JAPAN 公式サイト︵フォーブス ジャパン︶”. forbesjapan.com. 2023年7月2日閲覧。
(13)^ “慶應義塾大学出版会|月刊 教育と医学|巻頭随筆”. www.keio-up.co.jp. 2023年7月2日閲覧。
(14)^ ab““もしトラ”に現実味?最大争点﹁移民﹂がトランプ氏に追い風 米大統領選”. テレ朝news. 2024年3月10日閲覧。
(15)^ 大辞泉を参照
(16)^ ﹁世界の移民労働者1.6億人/ILO調べ17年、4年で9%増﹂﹃日本経済新聞﹄夕刊2018年12月6日︵3面︶2018年12月13日閲覧。
(17)^ “ビザサービス”. 在日アメリカ大使館. 2020年3月22日閲覧。
(18)^ abc“フィリピンにおける駐在員及び長期出張者用ビザ取得手続”. 日本貿易振興機構マニラ事務所. 2020年7月4日閲覧。
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(21)^ Charlie Hebdo attack: French values challenged in schools H. Astier, BBC News, Europe, 30 Jan 2015
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(24)^ abParis Attacks Lead French to Reinforce Secular Values in Schools M. de la Baume, The New York Times, 23 Jan 2015
(25)^ abRefusing to look at immigration R. Lowry, New York Post, 12 Jan 2015
(26)^ Paris terror attacks: Europe must confront failed integration D. Murray, The Daily Telegraph, News, 14 Nov 2015
(27)^ Anti-Muslim, anti-immigrant rallies grow in Europe T. Talaga, Toronto star, 13 Jan 2015
(28)^ abcFrench attacks prompt East Europe calls for curbs on immigration Z. Simon, Bloomberg, 12 Jan 2015
(29)^ ドイツの移民政策における﹁統合の失敗﹂ 小林薫,東京大学﹃ヨーロッパ研究﹄第8号,2009年
(30)^ メルケル﹁多文化主義は失敗﹂発言の真意 ニューズウィーク日本版2010年10月28日
(31)^ 欧州で勢いを増す反移民感情・極右発言 - スラヴォイ・ジジェク、デモクラシー・ナウ、2010/10/18
(32)^ Switzerland votes to re-introduce curbs on immigration The Telegraph, 9 Feb 2014
(33)^ Europe elections: Swiss lessons for Brussels BBC News Europe, 9 Feb 2014
(34)^ abUPDATE 2-Swiss plan for immigration quotas denounced by EU Reuters, 20 June 2014
(35)^ 域内の移動の自由はEUの基本的政策の一つではある。だがスイスはシェンゲン協定には加盟しているもののEU加盟国ではない。
(36)^ abhttps://www.nikkei.com/article/DGXLASGM28H7I_Y4A121C1FF2000/
(37)^ http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/law-and-order/8439117/EU-migrants-commit-500-crimes-a-week-in-UK.html
(38)^ “再び無秩序に増加する移民問題で欧州の政治は大荒れ”. Newsweek. 2024年1月29日閲覧。
(39)^ “英国の移民流入、昨年は過去最多60万6000人 首相﹁多すぎる﹂”. ロイター通信. 2024年1月29日閲覧。
(40)^ ab熊谷公男 ﹁秋田城の成立・展開とその特質﹂﹃国立歴史民俗博物館研究報告﹄179 国立歴史民俗博物館、2013年11月、248頁。
(41)^ 小林昌二 ﹁未発見﹁渟足柵﹂の調査等をめぐって : ﹁前近代の潟湖河川交通と遺跡立地の地域史的研究﹂の中間報告など﹂﹃新潟史学﹄48巻 新潟史学会、2002年7月、14頁
(42)^ 小林昌二 ﹁﹁浅層地質歴史学﹂への展望と渟足柵研究の成果﹂﹃新潟史学﹄51巻 新潟史学会、2004年5月、71頁。
(43)^ 武廣亮平 ﹁古代のエミシ移配政策とその展開﹂﹃専修大学社会知性開発研究センター古代東ユーラシア研究センター年報﹄3 専修大学社会知性開発研究センター、2017年3月、127-128頁。
(44)^ 今津勝紀﹁人口動態よりみた日本の古代﹂﹃文明動態学﹄第1巻、岡山大学文明動態学研究所、2022年、16頁、NAID 120007188370。
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(46)^ 今津 2022, p. 16.
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(59)^ 複国籍PT - 自由民主党 外国人材交流推進議員連盟 日本型移民政策の提言︵6月12日︶
(60)^ “Protecting Japan from immigrants? An ethical challenge to security-based justification in immigration policy”. www.tandfonline.com. doi:10.1080/18692729.2018.1478938. 2018年12月5日閲覧。
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(62)^ 介護・地域包括ケアの情報サイトJoint 2014年4月14日 介護福祉士会が外国人受け入れに反対の声明、﹁介護は単純労働じゃない﹂
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(64)^ “安倍政権、業界圧力で外国人労働者の在留資格を緩和か”. BOLGS. 2020年2月2日閲覧。
(65)^ 建設通信新聞2014年3月19日 群馬建協が慎重論提言/外国人材拡大は両刃の剣/﹁国内若年者確保が本筋﹂
(66)^ “世帯主が外国籍の被保護世帯数、世帯主の国籍・世帯人員・世帯類型別”. 統計センター. 2024年1月29日閲覧。
(67)^ “世帯主が外国籍の被保護世帯の人員-平均年齢、世帯主の国籍・年齢階級別”. 統計センター. 2024年1月29日閲覧。
(68)^ 自民特命委﹁単純労働者﹂の受け入れ容認へ 外国人労働者受け入れに関する政府への提言案概要判明 - 産経ニュース
(69)^ 国家戦略特別区域諮問会議
(70)^ “衆議院議員奥野総一郎君提出外国人労働者と移民に関する質問に対する答弁書”. 衆議院. 2021年9月11日閲覧。
(71)^ ザ・ドキュメンタリー﹁“新移民”大国ニッポン~知られざる外国人留学生の実態~﹂ - テレビ東京
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(74)^ 塗師本(2014)﹁外国人の増加は若年の失業を増やすのか﹂OSIPP Discussion Paper、DP-2014-J-005(May)。
(75)^ abObama on immigration: I'm going to fix as much as I can, on my own CNBC, Immigration, 30 June 2014
(76)^ abNo permisos. Lawmakers, feds debate surge of immigrant kids CNN, 2014 Midterm Elections, June 26, 2014
(77)^ abcSix arrested as Southern California demonstrators clash over immigration US Immigration, theguardian, 5 July 2014
(78)^ abHomeland Security chief:‘We're going to stem this tide’of illegal immigration CNN Political Ticker, July 6, 2014
(79)^ abWhite House seeks $3.7bn in extra funding to address child migrant crisis The Guardian, World News, 8 July 2014
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(81)^ Kristinsson, Kari; Sigurdardottir, Margret Sigrun (2020-04-02). “Signaling Similarity in the Icelandic Labour Market: How Can Immigrants Reduce Statistical Discrimination?”. Migration Letters 17(2): 349–356. doi:10.33182/ml.v17i2.761. ISSN 1741-8992.
(82)^ Ahmad, Akhlaq (2022-08). “Does additional work experience moderate ethnic discrimination in the labour market?” (英語). Economic and Industrial Democracy 43(3): 1119–1142. doi:10.1177/0143831X20969828. ISSN 0143-831X.
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(84)^ “イスラム恐怖症は過激なステージへ NZモスク襲撃で問われる移民社会と国家の品格”. ニューズウィーク. 2019年12月5日閲覧。
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(86)^ “南アで移民襲撃、百人逮捕 ナイジェリア人ら標的”. 産経新聞. 2019年12月5日閲覧。
関連文献 編集
- 永吉希久子『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』中央公論新社〈中公新書2580〉、2020年2月19日。ISBN 978-4-12-102580-7。
関連項目 編集
外部リンク 編集
- 国際機関・研究
- Migration - OECD
- 国際移住機関(IOM)
- 『移住研究』掲載論文一覧、国際協力事業団
- 移民政策学会 Japan Association for Migration Policy Studies(JAMPS)
- 日本における移住者
- 日本からの移住者
- 海外移住資料館 - 国際協力機構
- 日系アメリカ人の歴史ポータル
- パラグアイにおける日本人移住の歴史
- あるぜんちな丸同船者寄稿集
- 海外移住情報
- 移民史講座 Historia de la emigración del Japón a México y Cuba.
- 誰が移民を送り出したのか 坂口満宏、立命館言語文化研究21巻4号
- ブラジル日報
- 施設