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[[File:Fullerene Nanogears - GPN-2000-001535.jpg|thumb|ナノマシン]] |
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[[File:Eight Allotropes of Carbon.svg|thumb|[[フラーレン]]や[[カーボンナノチューブ]]などの新素材は多くの分野で利用されている。]] |
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'''ナ |
'''ナノテクノロジー'''({{lang-en-short|nanotechnology}})は、[[物質]]を[[1 E-9 m|ナノメートル]] ('''nm''', 1 nm = 10{{sup-|9}} [[メートル|m]])の領域すなわち[[原子]]や[[分子]]のスケールにおいて、自在に制御する[[技術]]のことである。'''ナノテク'''と略される。そのようなスケールで新素材を開発したり、そのようなスケールのデバイスを開発する。 |
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ナ |
ナノテクノロジーは非常に範囲が広く、[[半導体素子]]を[[分子セルフアセンブリ法]]という全く新たなアプローチで製造することや、ナノスケールの[[ナノマテリアル|ナノ素材]]と呼ばれる新素材を開発することまで様々な技術を含む。 |
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いまだに一部の新素材や[[コンピュータ]]のプロセッサに応用されている程度の段階だが、将来はこの技術によりナ |
いまだに一部の新素材や[[コンピュータ]]のプロセッサに応用されている程度の段階だが、将来はこの技術によりナノサイズの[[ロボット]]で治療を行ったり、さらには自己増殖能を持たせて[[建築]]に利用することができるようになると予想されている。21世紀をかけて大きく発展する分野と考えられている。 |
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ナ |
ナノテクノロジーの将来については議論もある。ナノテクノロジーによって様々な便利な新素材やデバイスが生まれることが期待される一方で、環境や人体への影響が懸念されている<ref>{{cite journal|url= http://avspublications.org/biointerphases/resource/1/bjiobn/v2/i4|author= Cristina Buzea, Ivan Pacheco, and Kevin Robbie|title=Nanomaterials and Nanoparticles: Sources and Toxicity|volume=2|year=2007|page=MR17|journal=Biointerphases}}</ref>。また世界経済への影響や[[ナノマシン]]が制御不能となる危険性なども懸念されている。このため、ナノテクノロジーに対する特別な規制の要否についても議論が続いている。
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== 目的 == |
== 目的 == |
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物質をナ |
物質をナノメートルレベルで制御する利点は幾つかある。例えば、現在コンピュータなどで利用されている[[電子回路]]の[[トランジスタ]]は、だいたい数十nm程度の大きさであるが、これを1/10にすることができれば、コンピュータを現在よりもずっと小型化し、必要な電力や発熱を抑えることが可能となる。同様に、[[記憶装置]]などでも小型化・高機能化が期待される。 |
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また、物質を数ナノメートルの大きさにすると、[[量子効果]]と呼ばれる特殊な現象が発現する。例えば、近年の電子デバイスで利用されている、[[電子]]の閉じこめによる[[エネルギー準位]]の離散化があらわれる大きさや、[[トンネル効果]]があらわれる距離は、ナノメートルの領域である。電子材料以外にも、[[ドラッグデリバリーシステム]]に代表されるような医療への展開もさかんに試みられている。 |
また、物質を数ナノメートルの大きさにすると、[[量子効果]]と呼ばれる特殊な現象が発現する。例えば、近年の電子デバイスで利用されている、[[電子]]の閉じこめによる[[エネルギー準位]]の離散化があらわれる大きさや、[[トンネル効果]]があらわれる距離は、ナノメートルの領域である。電子材料以外にも、[[ドラッグデリバリーシステム]]に代表されるような医療への展開もさかんに試みられている。 |
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物質を[[原子]]レベルの大きさで制御し[[装置|デバイス]]として使うという考えは、[[リチャード・P・ファインマン]]が[[アメリカ物理学会]]の[[カリフォルニア工科大学]]での会合で1959年12月29日におこなった講演"[[ゼアーズ・プレンティ・オブ・ルーム・アット・ザ・ボトム|There's Plenty of Room at the Bottom]]"<ref> [http://www.zyvex.com/nanotech/feynman.html "There's Plenty of Room at the Bottom"]</ref>にすでにみられている。その中でファインマンは、スケールを小さくしていくにあたって様々な物理現象を利用することになるとした。例えば[[重力]]は対象が小さくなるにつれて重要ではなくなっていき、表面張力や[[ファンデルワールス力]]が強く働くようになる。スケールが小さくなれば並列性が増し、短時間に多数の素材なりデバイスなりを作成できると考えられ、この考え方は有効と思われた。かつては[[メゾスコピック]]と呼ばれていた研究分野である。「ナノテクノロジー」という用語は1974年に元[[東京理科大学]]教授の[[谷口紀男]]が提唱した用語である<ref>{{cite book|author=N. Taniguchi|title=On the Basic Concept of 'Nano-Technology|publisher=Proc. Intl. Conf. Prod. London, Part II British Society of Precision Engineering|year= 1974}}</ref>。谷口は「ナノテクノロジーは主に、原子1個や分子1個の単位で素材を分離・形成・変形するプロセスから成る」としている。このような定義を1980年代にさらに発展させたのが[[K・エリック・ドレクスラー]]で、彼はナノスケールの現象やデバイスの技術的重要性を説き、『創造する機械 - ナノテクノロジー』(1986) や ''Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation''<ref>{{cite book|url= http://www.e-drexler.com/d/06/00/Nanosystems/toc.html|title=Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation. MIT PhD thesis|year=1991|isbn=0471575186|author=Eric Drexler|publisher=Wiley|location=New York}}</ref> といった本を出版し、それによって「ナノテクノロジー」という用語が世界的に使われるようになった。1980年代にはナノテクノロジー分野の2つの重要な研究が行われた。1つは[[クラスター (物質科学)|クラスター]]の研究で、もう1つは[[走査型トンネル顕微鏡]] (STM) の発明である。これにより1985年には[[フラーレン]]が発見され、数年後には[[カーボンナノチューブ]]が発見された。また、半導体の[[ナノ結晶]]の特性や合成の研究が進み、そこからさらに金属および金属酸化物のナノ粒子や[[量子ドット]]の研究へと発展した。STMの6年後には[[原子間力顕微鏡]] (AFM) が発明された。 |
物質を[[原子]]レベルの大きさで制御し[[装置|デバイス]]として使うという考えは、[[リチャード・P・ファインマン]]が[[アメリカ物理学会]]の[[カリフォルニア工科大学]]での会合で1959年12月29日におこなった講演"[[ゼアーズ・プレンティ・オブ・ルーム・アット・ザ・ボトム|There's Plenty of Room at the Bottom]]"<ref> [http://www.zyvex.com/nanotech/feynman.html "There's Plenty of Room at the Bottom"]</ref>にすでにみられている。その中でファインマンは、スケールを小さくしていくにあたって様々な物理現象を利用することになるとした。例えば[[重力]]は対象が小さくなるにつれて重要ではなくなっていき、表面張力や[[ファンデルワールス力]]が強く働くようになる。スケールが小さくなれば並列性が増し、短時間に多数の素材なりデバイスなりを作成できると考えられ、この考え方は有効と思われた。かつては[[メゾスコピック]]と呼ばれていた研究分野である。「ナノテクノロジー」という用語は1974年に元[[東京理科大学]]教授の[[谷口紀男]]が提唱した用語である<ref>{{cite book|author=N. Taniguchi|title=On the Basic Concept of 'Nano-Technology|publisher=Proc. Intl. Conf. Prod. London, Part II British Society of Precision Engineering|year= 1974}}</ref>。谷口は「ナノテクノロジーは主に、原子1個や分子1個の単位で素材を分離・形成・変形するプロセスから成る」としている。このような定義を1980年代にさらに発展させたのが[[K・エリック・ドレクスラー]]で、彼はナノスケールの現象やデバイスの技術的重要性を説き、『創造する機械 - ナノテクノロジー』(1986) や ''Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation''<ref>{{cite book|url= http://www.e-drexler.com/d/06/00/Nanosystems/toc.html|title=Nanosystems: Molecular Machinery, Manufacturing, and Computation. MIT PhD thesis|year=1991|isbn=0471575186|author=Eric Drexler|publisher=Wiley|location=New York}}</ref> といった本を出版し、それによって「ナノテクノロジー」という用語が世界的に使われるようになった。1980年代にはナノテクノロジー分野の2つの重要な研究が行われた。1つは[[クラスター (物質科学)|クラスター]]の研究で、もう1つは[[走査型トンネル顕微鏡]] (STM) の発明である。これにより1985年には[[フラーレン]]が発見され、数年後には[[カーボンナノチューブ]]が発見された。また、半導体の[[ナノ結晶]]の特性や合成の研究が進み、そこからさらに金属および金属酸化物のナノ粒子や[[量子ドット]]の研究へと発展した。STMの6年後には[[原子間力顕微鏡]] (AFM) が発明された。 |
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== 基本 == |
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1ナノメートル (nm) は1メートルの1000000000分の1、10<sup>−9</sup>メートル (m)である。例えば、炭素原子同士の[[結合距離]]または分子内の原子間の間隔はおおよそ0.12 nmから0.15 nmである。また[[デオキシリボ核酸|DNA]]の二重らせんの直径は約2 nmである。一方、最小の[[細胞]]である[[マイコプラズマ]]の全長は約200 nmである。 |
1ナノメートル (nm) は1メートルの1000000000分の1、10<sup>−9</sup>メートル (m)である。例えば、炭素原子同士の[[結合距離]]または分子内の原子間の間隔はおおよそ0.12 nmから0.15 nmである。また[[デオキシリボ核酸|DNA]]の二重らせんの直径は約2 nmである。一方、最小の[[細胞]]である[[マイコプラズマ]]の全長は約200 nmである。 |
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その大きさを別の観点で見てみると、メートルとナ |
その大きさを別の観点で見てみると、メートルとナノメートルの比は、[[地球]]と[[おはじき]]の大きさの比とほぼ等しい<ref name="NationalG">{{cite journal|last =Kahn| first =Jennifer |title=Nanotechnology|journal=National Geographic |volume=2006 |issue=June |pages=98-119 |year=2006}}</ref>。また、平均的な男性が髭を剃ろうと剃刀を持ち上げる時間に髭が伸びる長さがだいたい1ナノメートルである<ref name="NationalG"/>。 |
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ナノテクノロジーの手法は大きく2つにわけることができる。1つは、物質を[[原子論]]的にみた集団的変化の方法論を利用して、微細にこれを再編成する技術を'''トップダウン方式'''という。もう1つは、[[原子]]や[[分子]](おおよそ 0.1 - 10 nm 程度)をひとつひとつ正確に'''組み合わせる'''ことで新しい機能を持った材料を作っていく方法で、これを'''ボトムアップ方式'''という<ref>{{cite journal|journal=Nature Nanotechnology|author=Rodgers, P. |year=2006|title=Nanoelectronics: Single file|doi=10.1038/nnano.2006.5}}</ref>。トップダウン方式は主に機械・電子系の分野で、ボトムアップ方式は化学系の分野で研究が行われている。 |
ナノテクノロジーの手法は大きく2つにわけることができる。1つは、物質を[[原子論]]的にみた集団的変化の方法論を利用して、微細にこれを再編成する技術を'''トップダウン方式'''という。もう1つは、[[原子]]や[[分子]](おおよそ 0.1 - 10 nm 程度)をひとつひとつ正確に'''組み合わせる'''ことで新しい機能を持った材料を作っていく方法で、これを'''ボトムアップ方式'''という<ref>{{cite journal|journal=Nature Nanotechnology|author=Rodgers, P. |year=2006|title=Nanoelectronics: Single file|doi=10.1038/nnano.2006.5}}</ref>。トップダウン方式は主に機械・電子系の分野で、ボトムアップ方式は化学系の分野で研究が行われている。 |
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== 外部リンク == |
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{{Commons|Nanotechnology}} |
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* [http://www.nanonet.go.jp/ 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター] |
* [http://www.nanonet.go.jp/ 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター] |
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* [http://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/nano-materials/nanomaterials-tutorial.html ナノテクノロジーとその材料] - シグマアルドリッチ |
* [http://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/nano-materials/nanomaterials-tutorial.html ナノテクノロジーとその材料] - シグマアルドリッチ |
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* [https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kitamori/CHEMINAS/ 化学とマイクロ・ナノシステム研究会] |
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* [http://www.cilas.com/nanoparticle-aerosol-monitor.htm Nanoparticle aerosol monitor] |
* [http://www.cilas.com/nanoparticle-aerosol-monitor.htm Nanoparticle aerosol monitor] |
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* [http://www.vega.org.uk/video/programme/3 What is Nanotechnology?] (A Vega/BBC/OU Video Discussion). |
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* [http://nanohub.org/resources/6583 Course on ''Introduction to Nanotechnology''] |
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* [http://www.thenanoage.com The Nano Age] |
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* [http://weblearningplaza.jst.go.jp/cgi-bin/user/top.pl?next=lesson_list&type=simple&field_code=36&course_code=488 ナノマテリアル](技術者Web学習システム) |
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* [http://weblearningplaza.jst.go.jp/cgi-bin/user/top.pl?next=lesson_list&type=simple&field_code=36&course_code=343 環境・エネルギー分野におけるナノテクノロジー](技術者Web学習システム) |
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* [http://weblearningplaza.jst.go.jp/cgi-bin/user/top.pl?next=lesson_list&type=simple&field_code=36&course_code=486 ライフサイエンス分野におけるナノテクノロジー](技術者Web学習システム) |
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* [http://weblearningplaza.jst.go.jp/cgi-bin/user/top.pl?next=lesson_list&type=simple&field_code=36&course_code=487 ナノテクノロジーとエレクトロニクス・情報](技術者Web学習システム) |
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* [http://ion.ee.tut.ac.jp/ 国立大学 豊橋技術科学大学 松田・武藤・河村ナノテク研究室] |
* [http://ion.ee.tut.ac.jp/ 国立大学 豊橋技術科学大学 松田・武藤・河村ナノテク研究室] |
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* [http://www.nanomirror.co.jp/ ナノテク鏡面加工 ナノミラー®] |
* [http://www.nanomirror.co.jp/ ナノテク鏡面加工 ナノミラー®] |
2024年3月10日 (日) 15:06時点における最新版
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b6/Fullerene_Nanogears_-_GPN-2000-001535.jpg/220px-Fullerene_Nanogears_-_GPN-2000-001535.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c8/Eight_Allotropes_of_Carbon.svg/220px-Eight_Allotropes_of_Carbon.svg.png)
目的[編集]
物質をナノメートルレベルで制御する利点は幾つかある。例えば、現在コンピュータなどで利用されている電子回路のトランジスタは、だいたい数十nm程度の大きさであるが、これを1/10にすることができれば、コンピュータを現在よりもずっと小型化し、必要な電力や発熱を抑えることが可能となる。同様に、記憶装置などでも小型化・高機能化が期待される。 また、物質を数ナノメートルの大きさにすると、量子効果と呼ばれる特殊な現象が発現する。例えば、近年の電子デバイスで利用されている、電子の閉じこめによるエネルギー準位の離散化があらわれる大きさや、トンネル効果があらわれる距離は、ナノメートルの領域である。電子材料以外にも、ドラッグデリバリーシステムに代表されるような医療への展開もさかんに試みられている。起源[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/41/C60a.png/175px-C60a.png)
基本[編集]
1ナノメートル (nm) は1メートルの1000000000分の1、10−9メートル (m)である。例えば、炭素原子同士の結合距離または分子内の原子間の間隔はおおよそ0.12 nmから0.15 nmである。またDNAの二重らせんの直径は約2 nmである。一方、最小の細胞であるマイコプラズマの全長は約200 nmである。 その大きさを別の観点で見てみると、メートルとナノメートルの比は、地球とおはじきの大きさの比とほぼ等しい[5]。また、平均的な男性が髭を剃ろうと剃刀を持ち上げる時間に髭が伸びる長さがだいたい1ナノメートルである[5]。 ナノテクノロジーの手法は大きく2つにわけることができる。1つは、物質を原子論的にみた集団的変化の方法論を利用して、微細にこれを再編成する技術をトップダウン方式という。もう1つは、原子や分子(おおよそ 0.1 - 10 nm 程度)をひとつひとつ正確に組み合わせることで新しい機能を持った材料を作っていく方法で、これをボトムアップ方式という[6]。トップダウン方式は主に機械・電子系の分野で、ボトムアップ方式は化学系の分野で研究が行われている。 ここ数十年の間に、ナノテクノロジーに科学的基盤を与えるべく、ナノエレクトロニクス・ナノ工学・ナノ光学といった学問分野が生まれた。大きいものから小さいものへ: 素材の観点[編集]
単純なものから複雑なものへ: 分子の観点[編集]
現代の化学合成技術は、小さな分子をほとんどどんな構造にでも配置することが可能な点にまで到達している。今ではその技術を使って様々な薬品や商用ポリマーなどの有益な化学物質を製造している。そこからさらに、単一分子を集めて超分子を望みの形に形成できるかという問題が提起される。 分子を自動的に所定の配置にして望みの組成を得るというボトムアップ方式を分子セルフアセンブリあるいは超分子化学と呼ぶ。そこで重要となるのが分子認識という概念である。分子をデザインするには、非共有分子間力を使って特定の配置や構成をとるように強いる。ワトソン・クリック型塩基対も同じ原理で形成されており、酵素が特定の基質にのみ作用するのも同じ原理によるもので、たんぱく質のフォールディングも同様である。したがって2つ以上の部分が互いにうまくかみ合うようにデザインすることで、全体としてより複雑で有益なものにすることができる。 こうしたボトムアップ方式は同時に多数のデバイスを生産できるためトップダウン方式よりもずっとコストが低くなるが、必要とされる分子の大きさと複雑さが増すと困難さも増すことが予想される。有益な構造のほとんどが、複雑で熱力学的にもあり得ない原子の配置を必要としている。しかし生体内では分子認識に基づくセルフアセンブリが様々な場面で行われており、塩基対や酵素と基質の相互作用が例として挙げられる。ナノテクノロジーの目標の一つは、そういった自然界の仕組みを応用して新たな有益なものを構築することである。分子ナノテクノロジー: 長期的展望[編集]
研究分野[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/cd/Rotaxane_cartoon.jpg/220px-Rotaxane_cartoon.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3a/Sarfus.DNABiochip.jpg/220px-Sarfus.DNABiochip.jpg)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c7/Achermann7RED.jpg/220px-Achermann7RED.jpg)
ナノ素材[編集]
ナノ素材の分野には、ナノスケールになったとき独特の特性が生じる素材を研究開発するという分野が含まれる[15]。 ●コロイドおよび界面化学は、カーボンナノチューブなどのフラーレン、各種ナノ粒子やナノロッドなど、ナノテクノロジーにおいて有益な様々な素材を提供してきた。高速イオン輸送が可能なナノ素材はナノイオニクスやナノエレクトロニクスとも関連している。 ●ナノスケール素材は様々な用途に使われる。現在商用化されたナノテクノロジーの多くはナノスケール素材に関連している。 ●ナノ素材を医療に応用する研究が進んでいる︵ナノメディシン︶ ●ナノスケール素材は太陽電池にも使われており、従来からのシリコンの太陽電池とコストを競っている。 ●半導体ナノ粒子の用途として、次世代のディスプレイ、照明、太陽電池、生体イメージングなどへの応用が開発されている。量子ドット参照。ボトムアップ的アプローチ[編集]
ボトムアップ方式では、より小さいものから複雑なものを組み立てる。 ●DNAナノテクノロジーはワトソン・クリック型塩基対の特定性を利用し、DNAや他の核酸から明確な構造を構築する。 ●﹁古典的﹂な化学合成の分野からのアプローチでも分子を明確な形にデザインする研究が行われている︵例えば、ビスペプチド[16]︶。 ●分子セルフアセンブリは超分子化学の概念、特に分子認識を応用し、単一の分子部品が自ら自動的に有益な構造となるようにすることを目指している。トップダウン的アプローチ[編集]
トップダウン方式では、より大きなものからより小さなデバイスを作ろうとする。 ●マイクロプロセッサ製造のために発展した半導体工学の技法は100 nm未満の構造を形成できるようになっており、ナノテクノロジーと呼べるレベルに達している。巨大磁気抵抗効果を利用したハードディスクは原子層堆積法 (ALD) によって作られており、ナノテクノロジーの一種と言える[17]。ペーター・グリューンベルクとアルベール・フェールは巨大磁気抵抗を発見しスピントロニクスの分野に貢献したとして2007年のノーベル物理学賞を受賞した[18]。 ●半導体工学の技法はNEMS (Nano Electro Mechanical Systems) というデバイスの製造にも応用されている。NEMSよりややスケールが大きいものをMEMSと呼ぶ。 ●原子間力顕微鏡の先端を﹁ペン先﹂のように使い、固体表面に分子材料を配置する技法をディップペン・リソグラフィーと呼ぶ。これを含めた技術をナノリソグラフィーと呼ぶ。 ●集束イオンビームは、固体表面を微細に削ることができ、そのときに適当なガスを注入すれば材料を配置することもできる。例えば、透過型電子顕微鏡とこの技法を使った100nm未満の微細構造の解析が普通に行われている。機能的アプローチ[編集]
機能的アプローチとは、必要な機能がまずあって、それを何らかの手段で作り出そうとする研究である。 ●分子エレクトロニクスは、有益な電子特性を持つ分子を開発することを目的としている。そうした分子はナノエレクトロニクスのデバイスの単分子部品として応用される[19]。例えば、ロタキサンがある。 ●化学合成の技法を使ってナノカーなどの合成分子モーターを作る研究が行われている[20]。生体工学的アプローチ[編集]
●生体工学あるいは生体模倣技術では、自然界にある生物学的手法やシステムを模倣し、それらを工学システムやテクノロジーの設計に役立てることを研究している。例えば生体内鉱質形成のシステムを研究している。 ●バイオナノテクノロジーは生体物質をナノテクノロジーに応用することを研究している。ツールと技法[編集]
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5e/AFMsetup.jpg/296px-AFMsetup.jpg)
用途[編集]
Project on Emerging Nanotechnologies は2008年8月21日時点で800以上のナノテク製品が商品化されていると推定し、3週から4週に1つのペースで新製品が世に出ているとした[21]。同プロジェクトは一般に販売されている全製品の一覧をオンラインで公開している[22]。そのほとんどは﹁第一世代﹂の受動的ナノ素材を使うに留まっており、日焼け止め剤や化粧品や一部食品に使われている二酸化チタン、粘着シートに使われている炭素同素体、食品包装・衣類・殺菌剤・家電製品に使われている銀の微粒子、日焼け止め剤・化粧品・表面コーティング・塗料・屋外用家具の上塗りなどの酸化亜鉛、燃料触媒としての酸化セリウムなどが含まれる[23]。![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7c/Threshold_formation.gif/400px-Threshold_formation.gif)
投資状況[編集]
2001年にアメリカ合衆国のクリントン大統領がナノテクを国家的戦略研究目標としたことから、日本でも多くの予算が配分されるようになり、現在最も活発な科学技術研究分野のひとつとなっている。ニューヨーク州ではジョージ・パタキ知事の政策のもとに、これまでに3500億円強相当︵1ドル117円で 換算︶が投資され[26]、近年ではナノテクノロジーの産業の振興に力を入れており、テック バレーを形成している[27]。ニューヨーク州立大学オールバニ校を中心にCollege of Nanoscale Science and Engineering (CNSE)が設立され、数々のベンチャー企業が設立され、東京エレクトロン等、各国の企業が研究開発拠点を構える[28][29]。危険性についての懸念[編集]
人体や環境への影響[編集]
最近開発されたナノ粒子製品のいくつかが思いがけない結果を生む可能性もある。例えば、消臭靴下に使われている銀のナノ粒子が洗濯によって環境にばらまかれていることが判明し、それによって悪影響がある可能性も指摘されている[35]。銀のナノ粒子は制菌作用があるため、廃棄物処理場や農場などの有機物の分解に役立っている菌を殺す可能性があるという[36]。 ロチェスター大学での研究で、ネズミがナノ粒子を吸い込むと脳と肺に蓄積され、炎症やストレス反応を引き起こすことが判明した[37]。中国の研究では、無毛マウスをナノ粒子にさらすと皮膚の老化が早まるという結果が報告されている[38][39]。 UCLAでの2年間の研究によれば、ネズミのDNAが二酸化チタンのナノ粒子でダメージを受けることが示され、﹁ガン、心臓病、神経系疾患、老化など、人間にとっても死の危険性を増す可能性がある﹂とした[40]。 ﹁ネイチャー ナノテクノロジー﹂誌に掲載された研究によると、ある種のカーボンナノチューブを十分な量吸引すると石綿と同様の健康被害があるという。エジンバラの Institute of Occupational Medicine に勤める Anthony Seaton はその研究に関する記事の中で﹁カーボンナノチューブの一部が中皮腫を起こす可能性がある。したがって、そういった新素材は非常に慎重に扱う必要がある﹂と述べている[41][42]。政府によるナノテクノロジー規制がない現状に対して、人工ナノ粒子を食品に用いないよう要求する声もある[43]。塗装工場の作業員が肺に重い疾患を負い、調べてみると肺からナノ粒子が検出されたという報道もある[44]。規制に関する議論[編集]
ナノテクノロジーの健康への影響に関する議論の中で、ナノテクノロジーをより強く規制すべきだという主張もなされている[45]。さらに、ナノテクノロジーを規制する責任があるのは誰かという議論も重要である。一般に毒物はいくつかの観点から法的に規制されているが、それらの法律でナノテクノロジーを規制できるかというと明らかにギャップが存在する[46]。"Nanotechnology Oversight: An Agenda for the Next Administration"[47] の中で元EPA副長官 J. Clarence (Terry) Davies は、次の大統領任期中の明確な規制のためのロードマップを提案し、ナノテクノロジーの監視についての現在の欠点を克服するための短期および長期のステップを解説している。 ウッドロウ・ウィルスン・センターの Project on Emerging Nanotechnologies で主任科学アドバイザーを務める Andrew Maynard は、健康と安全に関する研究への予算が不十分であるため、ナノテクノロジーの健康への影響や安全性への理解が今のところ限定的になっていると指摘した[48]。結果として一部の研究者は、たとえナノテクノロジーの発展が阻害されるとしても予防原則を厳密に適用すべきだと主張している[49]。 王立協会の報告書では[50]、商品の廃棄・破壊・リサイクルの間にナノ粒子やナノチューブが拡散する危険性があるとし、﹁生産者の責任において健康や環境への影響を最小限にするような製品ライフサイクル全体に対する施策を行うべきだ﹂と助言している。脚注[編集]
参考文献[編集]
●"Basic Concepts of Nanotechnology" History of Nano-Technology, News, Materials, Potential Risks and Important People. ●“About Nanotechnology - An Introduction to Nanotech from The Project on Emerging Nanotechnologies”. Nanotechproject.org. 2009年11月24日閲覧。 ●“Nanotechnology Introduction Pages”. Nanotech-now.com. 2009年11月24日閲覧。 ●Medicalnanotec.com, Introduction to applications of Nanotechnology in Medicine. ●Maynard, Andrew, “The Twinkie Guide to Nanotechnology • News Archive • Nanotechnology Project”. Nanotechproject.org (2007年10月22日). 2009年11月24日閲覧。 Woodrow Wilson International Center for Scholars. 2007. - "..a friendly, funny, 25-minute travel guide to the technology" ●Fritz Allhoff and Patrick Lin (eds.), Nanotechnology & Society: Current and Emerging Ethical Issues (Dordrecht: Springer, 2008). ●Fritz Allhoff, Patrick Lin, James Moor, and John Weckert (eds.) “Nanoethics: The Ethical and Societal Implications of Nanotechnology”. John Wiley & Sons (2007年). 2010年9月10日閲覧。 “Wiley”. 2010年9月10日閲覧。 ●J. Clarence Davies, EPA and Nanotechnology: Oversight for the 21st Century, Project on Emerging Nanotechnologies, PEN 9, May 2007. ●Carl Marziali, "Little Big Science," USC Trojan Family Magazine, Winter 2007. ●William Sims Bainbridge: Nanoconvergence: The Unity of Nanoscience, Biotechnology, Information Technology and Cognitive Science, June 27, 2007, Prentice Hall, ISBN 0-13-244643-X ●Lynn E. Foster: Nanotechnology: Science, Innovation, and Opportunity, December 21, 2005, Prentice Hall, ISBN 0-13-192756-6 ●Impact of Nanotechnology on Biomedical Sciences: Review of Current Concepts on Convergence of Nanotechnology With Biology by Herbert Ernest and Rahul Shetty, from AZojono, May 2005. ●Hunt, G & Mehta, M (eds)(2008) Nanotechnology: Risk, Ethics & Law, Earthscan, London. ●Andrew Schneider, The Nanotech Gamble, Growing Health Risks from Nanomaterials in Food and Medicine, First in a Three-Part Series, AOL News Special Report, March 24, 2010. ●Hari Singh Nalwa (2004), Encyclopedia of Nanoscience and Nanotechnology (10-Volume Set), American Scientific Publishers. ISBN 1-58883-001-2 ●Michael Rieth and Wolfram Schommers (2006), Handbook of Theoretical and Computational Nanotechnology (10-Volume Set), American Scientific Publishers. ISBN 1-58883-042-X ●Akhlesh Lakhtakia (ed) (2004). The Handbook of Nanotechnology. Nanometer Structures: Theory, Modeling, and Simulation. SPIE Press, Bellingham, WA, USA. ISBN 0-8194-5186-X ●Fei Wang & Akhlesh Lakhtakia (eds) (2006). Selected Papers on Nanotechnology—Theory & Modeling (Milestone Volume 182). SPIE Press, Bellingham, WA, USA. ISBN 0-8194-6354-X ●Jumana Boussey, Georges Kamarinos, Laurent Montès (editors) (2003), Towards Nanotechnology, "Nano et Micro Technologies", Hermes Sciences Publ., Paris, ISBN 2-7462-0858-X. ●The Silicon Valley Toxics Coalition (April, 2008), Regulating Emerging Technologies in Silicon Valley and Beyond ●Genetic Engineering & Biotechnology News (January, 2008), Getting a Handle on Nanobiotech Products Regulators and Companies Are Laying the Groundwork for a Predicted Bright Future ●Suh WH, Suslick KS, Stucky GD, Suh YH (2009). “Nanotechnology, nanotoxicology, and neuroscience”. Progress in Neurobiology 87 (3): 133-70. doi:10.1016/j.pneurobio.2008.09.009. PMC 2728462. PMID 18926873.関連項目[編集]
●ナノメートル ●分子力学法 ●量子ドット ●量子細線 ●ナノマテリアル ●ナノマシン ●カーボンナノチューブ ●リチャード・P・ファインマン ●飯島澄男 ●K・エリック・ドレクスラー ●化学とマイクロ・ナノシステム研究会 ●原子層堆積 ●分子エレクトロニクス(モレキュラーエレクトロニクス) ●超微細電子工学(ナノエレクトロニクス) ●NEMS(ナノエレクトロメカニカルシステム)外部リンク[編集]
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- 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター
- ナノテクノロジーとその材料 - シグマアルドリッチ
- 化学とマイクロ・ナノシステム研究会
- Nanoparticle aerosol monitor
- What is Nanotechnology? (A Vega/BBC/OU Video Discussion).
- Nanotec Expo - Fair and Congress Latin American of Nanotechnology
- "Nanotechnology Basics: For Students and Other Learners." Center for Responsible Nanotechnology. World Care. 11 Nov. 2008.
- Nanotechnology - Curlie(英語)
- Course on Introduction to Nanotechnology
- The Nano Age
- 国立大学 豊橋技術科学大学 松田・武藤・河村ナノテク研究室
- ナノテク鏡面加工 ナノミラー®