ダゴンの鐘
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﹃ダゴンの鐘﹄︵ダゴンのかね、原題‥英: Dagon's Bell︶は、イギリスのホラー小説家ブライアン・ラムレイによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話作品の1つで、﹃ウィアードブック﹄1988年の第23号に掲載された。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの﹃インスマスの影﹄の後日談。ラムレイ作品の範囲内では他作品の知識を必要とせずに独立性が高い一編となっている。
東雅夫は﹃クトゥルー神話事典﹄にて﹁ラムレイのホームグラウンドというべきハーデン一帯を舞台に[注 1]、熱のこもった筆致で物語られる英国版<インスマス物語>。作者の成長ぶりを窺わせる力作だ﹂と解説している[1]。
あらすじ
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英国ダーラムの炭鉱地帯ホーデンの、ケトゥルトープの地には、築数百年はあろう古い屋敷が建っていた。250年前の家族は魚じみた容貌をしていたといい、150年前にはアメリカのウェイト家が渡って来る。周辺では巨大な霧状の半人半魚の姿が目撃され、また奇怪な鐘の音が、幽霊話として伝わる。1930年ごろにはカーペンターという男が移住してくる。
同地で子供時代の友人同士だったビルとデイヴィッドは、青年時代に疎遠となるが、成人後に再会して交流を再開する。1953年9月、海岸に大量の海藻ケルプが流れ着き、石炭の採掘ができなくなる。また同時期、ケトゥルトープ農場に住んでいたカーペンター老人が失踪する。
1954年の夏、デイヴィッドが結婚し、妻の提案でケトゥルトープ農場に引っ越す。デイヴィッドは農場に伝わる幽霊譚や考古物について興味を持ち、調べる。だが土地の悪影響か、夫妻は憔悴していき、また鐘の音を聞いた等と証言し、ビルは不安になる。デイヴィッドは、カーペンターの文書を調べ、彼が深きものどもに恨みを抱き、彼らを殺すためにケトゥルトープにやって来たということを知る。農場の地下にはダゴンの神殿があり、鐘が鳴る季節が来るとカーペンターは地下に降りて深きものどもを虐殺していたのである。ジェーンの衰弱は、血が理由であった。
デイヴィッドが状況をビルに説明したころ、霧のダゴンが顕現し、鐘の音が響く。デイヴィッドはけりをつけてやると決意し、ショットガンとダイナマイトで武装して地下に降り、ビルも同行する。地下には、失踪したカーペンター老と犬の遺体と、人間もどきの死体と、薬莢が転がっていた。地底湖にはダゴンの神殿が築かれ、悪臭放つ海藻に満ち、鐘がぶら下がっている。2人はダイナマイトを設置するが、深きものどもの群れが現れ、2人は銃で応戦しつつ退却する。ビルは脱出に成功するが、デイヴィッドは犠牲となる。ダイナマイトで神殿は破壊され、霧状の顕現も霧散する。
入院したジェーンは、肉体が変異して精神は幼児退行したまま、子供を早産して共に死ぬ。以来、海岸に漂着するケルプの量は減る。ビルは内陸部に引っ越して、二度とホーデンに近づこうとは思わなかった。
主な登場人物
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●ウィリアム・トラフォード︵ビル︶ - 子供のころに一家でヨークシャーから越してきた。新聞雑誌販売店を経営する。
●デイヴィッド・パーカー - 鉱夫の息子。知的好奇心旺盛な性格。ロンドンの大学で学び帰郷した。
●ジェーン・アンダースン - 弁護士の娘で、デイヴィッドの新妻。農場の毒気にあてられて衰弱する。先祖にインスマスの人物がおり、血の作用でケトゥルトープの地に引き寄せられた。
●ジェイスン・カーペンター老 - 農場に住んでいたが失踪する。犬を飼っていた。インスマス出身で、深きものどもによって娘を失い、復讐を決意している。
●老婆 - デイヴィッドの結婚式に鳴る鐘を聴いて、﹁ケトゥルトープに鐘は鳴るかな﹂などとつぶやく。
●ダゴン - 半人半魚の神。ケトゥルトープの地下神殿に祀られ、霧状に顕現する。
収録
[編集]関連作品
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●インスマスの影 - ラヴクラフト作品。作中時1927年で、前日譚にあたる。
●タイタス・クロウ・サーガ - ラムレイの長編版。相互参照しなくても内容は理解できるが、こちらにもダゴンが登場する。父なるダゴンと母なるヒュドラは、クトゥルフの娘﹁クティーラ﹂を護衛している。