Hi-Fi
(ハイファイから転送)
Hi-Fi︵ハイファイ︶とは、字義的には、High Fidelity︵高忠実度、高再現性︶の略語であり、音響機器などにおいて﹁原音や原画に忠実な再現﹂という意味を持つ。また、録音や録画し再生する場合に発生するノイズやひずみが、最小限に抑えられている、といったことをいう。映像において同様に情報量が多いことについては高精細度︵﹁ハイデフ﹂とも︶と言う。アナログオーディオが主流であったかつての時代と違い、21世紀には一般的なオーディオ装置でも明瞭でテンポが正確な音は当たり前に実現できるようになったため、あまり使用されなくなった言葉である。
1950年代以降、オーディオ事業が世界的に発展していく流れの中で、レコードプレーヤーやコンポーネントステレオなど、特に高音質を目指す家庭用オーディオシステムの商品カテゴリーをハイファイ・オーディオと呼び、その他一般的なオーディオ商品カテゴリーを﹁ゼネラル・オーディオ﹂と呼んだ[要出典]。その名残りで、現在でも家庭用高音質オーディオシステムをハイファイ・オーディオと呼ぶことが多い。その場合は当社比で高音質と言っているだけの場合もあり、プロ目線やマニア目線で見て高音質であるかは必ずしも重要ではない。かつてのアナログ・オーディオの時代に言われていた程度のHi-Fiであれば、デジタル・オーディオの時代に入ってからワウフラッターが無くなり、SN比が大幅に向上したこともあって、一般大衆向けのゼネラルオーディオでも満たせるようになっており、2010年代以降はハイレゾが高忠実度を示す新たなキーワードになっている。
東芝製Hi-Fi真空管(6BM8)
1920年代に電気的信号変換による音声信号の記録再生が発明されてから、円盤式レコードなど新しい技術が多く導入され続けてきた。またラジオの普及と共に、真空管アンプとスピーカーによる音声の再現が一般的になってきた。それにつれ、音楽などを電気的に記録したレコードを、より高音質で再生しようという試みが盛んになり、まず1930年代に米国RCAビクター社︵日本での発売元は日本ビクター蓄音器︶が、従来のSP録音より遥かに音質のよい﹃RCA Victor High Fidelity Recording﹄を発表し、他社に先駆けてハイファイ録音のレコードを売り出すに至った。当時はコロムビアやポリドールなど、他社も各々﹃Viva-Tonal Recording﹄や﹃Polyfar Recording﹄など高音質の録音方法を開発し発売していたが、結局﹁High Fidelity﹂という語が世間に定着するようになった。1950年代以降、様々なオーディオメーカーが﹁原音により忠実﹂という意味の﹁ハイ・フィデリティー︵High Fidelity︶﹂という言葉をマーケティングに使用するようになり、さらに一般的になった。
黎明期は蓄音機の高音質化などから始まり、音響機器がステレオ化するとハイファイの代名詞として﹁ステレオ﹂の語が装置に対して使われるようになり︵安価な音響機器はモノラルが当然だった︶、スピーカーまでを一体としたアンサンブル型ステレオやスピーカーを分離したセパレート型ステレオといった装置があった。次にオーディオマニアはより原音に忠実な音の再現を追求し、アンプ、チューナー、テープデッキなどを、それぞれ別々に買いそろえるコンポーネントステレオの時代が続いた。各社の製品の電気的特性︵感度、出力電圧、入出力インピーダンス等︶やコネクタが概ね共通しており、例えばどのメーカーのアンプを購入しても、他のメーカーのプレーヤーやテープデッキに接続できた。レコードに飽き足らないマニアは、高音質の市販録音テープを求め、更には自ら録音機材を背負って生録音に励んだ。また、FMステレオ放送のエアチェックも身近なハイファイソースとして大きな位置を占めた。
1960年代から1970年代にかけてはオーディオ専業メーカだけではなく、日本の大手電機メーカーもハイファイ市場に参入し、これらの商品の輸出は海外市場で評判となった。ソニーをはじめとする大手の総合音響メーカーは、カートリッジからスピーカーまで自社製品を揃え、システムコンポ︵略して﹁シスコン﹂︶と称して自社の単品コンポーネント製品をグレード別に組み合わせる前提としたステレオシステムをこぞって販売した。これに対し単品を前提としたコンポをバラコンと呼んだ。
ところが1980年代に入って、レコードに代わりCDが登場するとブームは様変わりするようになる。こういったデジタルオーディオ機器を用いると、誰でも比較的簡単且つ安価に十分高音質な音楽が楽しめるようになった。さらに、1980年代半ばには、VTRやレンタルビデオの普及によって、﹁AVブーム﹂が起きるものの、1990年代に入ると、バブル崩壊後の景気低迷などでオーディオにはお金をかけにくくなっていった。これにより次第に消費者の関心は、手軽なCDラジカセやミニコンポ︵以下区別のため従来のコンポをフルサイズコンポとする︶へと移っていった。このような流れの中で、多くの人々が高価なフルサイズコンポを買い揃え原音再生を目指した﹁オーディオブーム﹂は、1980年代半ば頃には終焉することになる。しかし、逆にダイナミックレンジの広いCDを本格的に高音質で再生するためには、レコード以上に上質な再生装置を要求するため、フルサイズコンポの需要は常に一定した割合で存在した。
フルサイズコンポのデメリットの一つに、占有スペースの大きさがあった。このため、1980年代からミニコンポが人気を集めていたが、その音質はフルサイズコンポに大きく劣るものであった。しかし、1990年代に入ると半導体技術の向上等により、ミニコンポサイズにフルサイズコンポの品質を詰め込むことが可能となり、DENON﹃PRESTA﹄シリーズ︵1990年発売︶、ケンウッド﹃K's﹄シリーズ︵1993年発売︶、ONKYO﹃INTEC185﹄シリーズ︵1995年発売︶など、従来のミニコンポがシスコンであったのに対して、一段格上のバラコンと︵メーカー的には︶位置付けしたミニコンポが出現し始め、﹁うさぎ小屋﹂とも言われている日本の狭い住宅環境でもハイファイ・オーディオに準じたステレオ装置を所有することが容易になった。
近年、ベビーブーマー、日本では﹁団塊の世代﹂が定年、引退するにつれ可処分所得が増え、ハイファイ・オーディオ機器を買い求めるケースが多くなっていると共に、DVDの普及により若年層もホームシアター機器を購入することが多くなっており、一部家電メディア誌[要出典]などでは、﹁新たなハイファイ時代の到来﹂を予見、期待されている。