匿名
匿名(とくめい)とは、自分の名前を隠すこと[1][2]。本名を伏せたペンネームなどの別名を使うこと[1][2]。
概説[編集]
匿名性のレベル[編集]
一口に「匿名」といっても、強い匿名性から弱い匿名性までさまざまなレベルがある。
Unlinkability[編集]
任意のA,Bに対し、Aをおこなった人物とBをおこなった人物が同一人物であるかどうかを判定することはできないことをUnlinkability(直訳すれば「非連結性」)という。
各人にPseudonym(偽名、例えばペンネームやハンドルネーム)を割り振れば一応の匿名性を確保できるが、この場合にはUnlinkabilityは満たされない。Aをおこなった人物のPseudonymとBをおこなった人物のPseudonymが同じかどうかを調べることで、Aをおこなった人物とBをおこなった人物が同一人物であるか判定できるからである。
強い匿名性が要求される場合は、Unlinkableであることが望ましい。
「匿名」という言葉には細かくいえば2つの意味があり、Unlinkablityを満たさないと「匿名」といわない場合と、Unlinkablityを満たさなくても「匿名」という場合がある。
Unlinkablityを満たす場合の「匿名性」と区別するため、Unlinkablityを満たさない場合の「匿名性」をPseudonymity(直訳すれば「偽名性」)ということがある。
Undeniability[編集]
Aを行ったのが自分でないという事を第三者に証明できるとき、deniable(直訳すれば「否認可能」)であるといい、そうでないときundeniable(直訳すれば「否認不能」)であるという。
今Aをおこなった可能性がある人物が100人いるとする。このうち、99人が自分はAをおこなっていないことを証明したならば、最後の一人がAをおこなったのだと結論づけることができてしまう。
強い匿名性が要求される場合には、undeniableであることが望ましい。
Escrow Agent[編集]
しかし、完全に匿名性を保証してしまうと、匿名性を悪用する者が現れかねない。そこで、Escrow Agent(追跡者、開示者)と呼ばれる一部の権限者にのみ、誰が誰であるのかを特定する権限を与える場合がある。
暗号理論と匿名性[編集]
電子投票方式[編集]
電子投票方式では、投票者のプライバシーを保証するため、匿名性が要求される。 次の2つの要件が数学的に保証されるとき、電子投票方式は安全であるという。 ●どの投票者が誰に投票したのかは誰にもわからない。 ●投票結果は正しく集計される。電子入札方式[編集]
電子入札方式においても、入札者のプライバシーを保証するため、匿名性が要求される。 次の2つの要件が数学的に保証されるとき、電子入札方式は安全であるという。 ●落札者と入札者の入札金額だけが公知となる。その他の入札者がどの金額で入札したのかは誰にもわからない。 ●入札結果を偽ることはできない。暗号[編集]
普通の公開鍵暗号の場合、送信者の匿名性は保証されるが受信者の匿名性は保証されない。 しかし、受信者の匿名性に考慮した暗号方式の研究もなされている。グループ署名方式[編集]
各ユーザは発行者という権限者と通信することでグループに加わることができる。グループのメンバーは署名文を作成できる。 この署名文は署名者がグループに属することを保証するが、署名文から署名者がどのメンバーであるのかを特定することはできない。ただし、追跡者という権限者のみは例外的に署名者を特定する権限が与えられている。 グループ署名方式ではUnlinkabilityとUndeniabilityが保証されている。 グループ署名方式では、追跡者に署名者を特定できる権限を与えることで、グループメンバーが匿名性を悪用することを抑止できているという利点がある。しかしグループ署名方式では、追跡者に対しては一切の匿名性が保てないので、追跡者は信頼できる人物でなければならない。グループ署名方式には、追跡者に対しては一切の匿名性が保てないという欠点がある。より匿名性を高めるため、署名者が指定回数以上の署名をおこなった場合にのみ、追跡者が署名者を特定できるグループ署名方式も存在する。報道における匿名[編集]
報道においては、たとえば﹁情報発信源を明らかにしない﹂という約束で、記者が実力者・役職者らから談話をもらうことがある︵詳細はオフレコを参照︶。 事件・事故報道では、被害者となった人物の氏名が明かされることにより、暴力的・攻撃的な取材︵メディア・スクラム︶がおこなわれ、また、名が世間に広まることによって、従来の静謐な生存環境が破壊されるという現象が、広範に発生している。これらを、二次被害という。とくに、子供など何らの反論手段を持たない社会的弱者にとって、二次被害によって受ける心理的な傷は甚大なものである。二次被害を防止するため、捜査当局が報道側に対して被害者の個人情報を漏洩することを禁止すべきだ、という論議が近年、急速に高まっている。 加害者に目を移すと、被疑者・加害者少年の匿名報道が少年法61条で義務付けられている少年犯罪など一部を除けば、日本では実名報道がほとんどである。マスメディアの多くは、被疑者が警察などの公権力から人権侵害を受けるのを防ぐために、実名報道は必要だと主張している。 これらの主張に対しては、実名報道はプライバシーを侵害することがあり、被害者やその家族を苦しめるだけでなく、仮にそれが冤罪であることが分かった場合には、被疑者に取り返しのつかないダメージを与える・また刑に服した後の元犯罪者の更生の機会を奪っている、という批判がある。 逆に警察などの公権力に対しては、被疑者に対し匿名性を高くして報道する傾向がある。﹁*県警の調べで分かった[3]﹂、﹁*日までに逮捕した﹂という言い回しが代表的であるが、これでは﹁県警﹂の﹁誰﹂からの情報なのか・いつ発生した事なのかは分からず、マスメディアが権力チェック機構となり得ていない、との批判がある。また、公権力からの情報操作に見舞われやすいとの指摘もある。新聞社は、警察から情報を得るために警察官個人が特定される表現を避ける傾向があり、ある新聞社が広報担当者である副署長を﹁副署長によると﹂との表記にしたところ、それでさえ﹁話さない﹂と言い出し、記述の変化でも警察の現場では拒否反応が強いという[3]。 スウェーデンでは、事件報道において一般市民は原則匿名で、政治家・上級公務員・警察幹部・大企業経営者・労働組合幹部[要出典]など社会的に大きな影響力のある﹁公人﹂が事件に関与したとされる場合に限って、実名で報道される。スウェーデン以外の国でも、たとえば、﹁**警察の*警部が話したところによると﹂と発表した者の実名・階級・役職を詳細に報道することが多い。 上智大学教授の田島泰彦は、基本的に、記事の正確性、信頼性、透明性の観点から、情報の出所の明示が最も大事な原則であり、とりわけ、公権力を行使する政治家や官僚が情報源である場合、明示は当然であり、取材源秘匿は、取材源の生命にかかわる・重大な不利益になるといった場合の例外とすべきであると主張している[3]。民主主義の基礎としての匿名[編集]
ネットワークにおける匿名[編集]
匿名の例[編集]
- ミスターX
- バケットヘッド卿
- アラン・スミシー - アメリカで名前を公表したくない映画監督が使用する全米監督協会によって使用許可が行われていた偽名
- アノニマス (集団)