法名 (浄土真宗)
浄土真宗における﹁法名﹂︵ほうみょう︶とは、仏弟子[1]となった名告り[2]である。故人に対して贈られる名前と誤解されることも多いが、正しくは生きている間に三宝に帰依し、仏弟子として生きていくことを誓い授かる名である。
﹁戒名﹂と混同して用いられる場合があるが、浄土真宗における仏弟子としての名は﹁戒名﹂ではなく﹁法名﹂である。その理由は、﹁戒を守り抜くことはできない凡夫たる一切衆生は、阿弥陀如来︵法蔵菩薩︶の誓願によってのみ救われる﹂という教義に基づいて受戒を行わないためである。
また浄土真宗は在家仏教であり、僧侶も在家であり出家の立場をとらない。
概要[編集]
一般門徒[3]は本山・別院・一般寺院などで行われる﹁帰敬式﹂︵ききょうしき︿﹁おかみそり﹂とも﹀︶において、本尊である阿弥陀如来の前で法主︵本願寺派は﹁門主﹂・大谷派は﹁門首﹂︶より授かる。法嗣︵ほっす︶が代行する場合もある。 僧侶は本山で行われる得度式において授かる。 帰敬式では、刃の無い儀式用の剃刀で頭をなでるだけで剃髪は行わない。 ﹁勝他[4]﹂・﹁利養[5]﹂・﹁名聞[6]﹂という、法然が﹁みつのもとどりそりすてよ[7]﹂と述べたことにちなむ。 得度式では剃髪[8]する。 近年では、手次寺︵他宗でいう菩提寺の事︶でも授かることができるようになったが、なるべく本山にて授かる事が推奨されている。起源[編集]
浄土真宗の宗祖とされる親鸞が、承元の法難により流罪・還俗となり、その後に自らを﹁愚禿釋親鸞﹂と名告り、非僧非俗の立場で教化[9]した事に基づく。法名の選定[編集]
法名は、仏弟子[1]となったことをあらわす﹁釋﹂の字を冠して、正依の聖教の中から2字が選ばれる︵本願寺手帳の﹁院号及び法名の授与に関する注意﹂というページがあり、法名は二字。歴代宗主・裏方の院号・法名と同一のもの、﹁如﹂の字を用いた物は許可にならないとされ、歴代宗主、お裏方の院号法名が一覧になって出ている。これは帰敬式以外で院号法名を内願するときの指針と思われる。また昭和60年版からはこの表は削除されている。︶ 宗派により異なるが、所属する手次寺の住職選定による法名であれば、法名に俗名から一文字用いることが可能である。また、事前に手次寺の住職からの内願の手続を受けていれば、本山授与の法名にも同様の扱いがされる宗派もある。 例…松下幸之助…﹁光雲院釋眞幸﹂・池波正太郎…華文院釋正業 本山選定による法名は、正依の聖教の中から2字とも選ばれる。浄土真宗各派における差異[編集]
浄土真宗本願寺派 男女ともに﹁釋○○﹂である[10]。 真宗大谷派 男性は﹁釋○○﹂、女性は﹁釋尼○○﹂である。﹁尼﹂の字は、女性をあらわすサンスクリット語の語尾が変化したもので、女性の出家者をあらわす尼・比丘尼の意ではない。 真宗高田派 ﹁釋+道号︵二字︶+法名︵二字︶﹂の形で﹁釋××○○﹂である。院号[編集]
法名の前に﹁院号[11]﹂を付ける場合もある。﹁院号﹂は本来、寺を建立する位の貢献をした者に送られる称号であった。現在は、本山や手次寺の護持に貢献した者へ送られる名である。 しかし、一切衆生は浄土では平等であるという教えから、院号を用いることに対して反対する意見が一部にある。位号・置き字[編集]
﹁位号﹂︵居士や大姉など︶、﹁置き字﹂︵不退転・正定聚など︶は、用いないのが正式である。 但し、宗門としては存じ得ぬ事であるが、手次寺が地域の習俗事情・故人の遺言・遺族の希望・慣習などにより付けている場合がある。脚注[編集]
(一)^ ab釈尊の弟子のこと。
(二)^ 浄土真宗では、法名を名告ると﹁告﹂の字を用いる。﹁名乗る﹂と﹁乗﹂の字は用いない。
(三)^ 浄土真宗は在家仏教であり、厳密には僧籍を持つ者も門徒であるため、ここでは﹁一般門徒﹂とする。
(四)^ 他人に自分を誇る。
(五)^ 自己中心に取り計らう。
(六)^ 名自分をよくみせようとすること。
(七)^ そのとき ︵法然︶聖人のたまはく 法師には みつのもととりあり いはゆる 勝他 利養 名聞 これなり この三箇年のあひた 源空か のふるところの法文を しるしあつめて 随身す 本国にくたりて 人をしえたけむとす これ勝他にあらすや それにつけて よき学生と いはれんとおもふ これ名聞をねかふところなり これによりて 檀越をのそむこと 所詮利養のためなり このみつのもととりを そりすてすは 法師といひかたし 仍さ申つるなりと云々﹃口伝鈔﹄
(八)^ 女性は剃髪を拒否することも可能。
(九)^ 衆生を仏道へと教え導くこと。︵﹃広辞苑﹄第五版︶
(十)^ 一切衆生は浄土では平等であるという教義から女性を表す﹁尼﹂の字を本願寺派では現在付けていない。
(11)^ 院号…正確には﹁院号法名﹂。
参考文献[編集]
- 菊池祐恭 監修『お内仏のお給仕と心得』真宗大谷派宗務所出版部、1981年改訂。ISBN 4-8341-0067-7。
- 『真宗門徒の生活』‐帰敬式を受けられる方へ‐、真宗大谷派宗務所