海底二万里
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(海底二万マイルから転送)
海底二万里 Vingt mille lieues sous les mers | ||
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著者 | ジュール・ヴェルヌ | |
イラスト |
エドゥアール・リュー A・D・ヌヴィル | |
発行日 | 1870年 | |
発行元 | P-J・エッツェル | |
ジャンル | 海洋冒険小説 | |
国 | フランス | |
言語 | フランス語 | |
形態 | 上製本(2冊) | |
前作 | グラント船長の子供たち | |
次作 |
月世界へ行く ( Autour de la Lune) | |
ウィキポータル 文学 | ||
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﹃海底二万里﹄︵かいていにまんり、仏‥Vingt mille lieues sous les mers︶は、ジュール・ヴェルヌが1870年に発表した冒険小説である。日本語タイトル表記は表題のほか多数ある︵後述︶。初版の挿絵はエドゥアール・リウーとアルフォンス・ド・ヌヴィル。
ビーゴ湾の沈没船[注 2]
※以下の日本語表記は﹃海底二万里﹄江口清訳 集英社版に従う。
この物語は、ネモ船長と名乗る人物により極秘裏に建造された新鋭潜水艦、ノーチラス号の海洋冒険譚である。
船舶が巨大な角のようなもので喫水線下に大穴をあけられるという海難事故が多発していた。フランスの海洋生物学者アロナックスは、イッカクのような巨大なクジラ類の仕業という仮説を立て、助手のコンセイユや銛打ちの名手ネッド・ランドとともにアメリカ合衆国の軍艦﹁エイブラハム・リンカン号﹂で調査に向かうが、艦は謎の怪物の襲撃を受け、3人は海に投げ出される。
3人は、幸運にもその怪物こと潜水艦ノーチラス号の甲板に打ち上げられ、ネモと自称する男に救助される。彼らは捕虜としての扱いを受けるが、ネモとその仲間とともに海中の旅に出発し、紅海の本物のサンゴ礁やビーゴ湾の海戦の残骸、沈んだアトランティス大陸の遺跡などを目にする。
しかし、ネモには謎めいた言動があり、アロナックスは不審に思う。どうやらネモはどこかの国でひどい迫害を受け、その復讐のために海中に潜んでいるらしかった。ある日ノーチラス号は国籍不明の軍艦から攻撃を受けるが、反撃しその軍艦を撃沈する。これを機に、以前からネモに不信感を抱いていたネッドは2人にノーチラス号からの脱出を持ちかけ、彼らは艦がスカンディナヴィア半島沖の﹁魔の大渦︵メイルストローム︶﹂に巻き込まれた隙に逃亡する。
ストーリー[編集]
登場人物[編集]
解説[編集]
本作で読者が誘われるさまざまな海洋の場面の描写は、ヴェルヌ自身の見聞と創作とを組み合わせたものである。
ヴェルヌが海底の物語を書くことになったきっかけは、ジョルジュ・サンドがヴェルヌの﹃気球に乗って五週間﹄や﹃地底旅行﹄を読んで感心し、作家に潜水艦が活躍する物語を需める書簡を書き送ったことが始まりとされており[1]、1867年のパリ万国博覧会に設置された水族館や電気に関する展示にも触発されている。なお、主人公のアロナックスの風貌は25歳時のヴェルヌ自身がモデルとなっている[1]。
ノーチラス号は本作が書かれる60年以上前にフランスで建造︵技師はアメリカ人︶された同名の潜水艦が存在する[注 5]。このロバート・フルトンによって建造されたノーチラスはナポレオンの要請によって造られた水雷装備の軍艦で、動力は水中では人力、水上では帆船としても移動でき、外洋でも使用できるように錨が付いていた。フルトンは1801年にセーヌ川でテストを行ったものの、結局試作にとどまっている[2]。
ヴェルヌのノーチラス号のような電機駆動の潜水艦は本書の出版の20年後、1888年9月8日に、スペイン海軍に所属していた科学者イサアク・ペラルによって設計され、2,995,000ペセタの開発費がかけられて実現した。こちらは電機潜水艦で、ペラル魚雷潜水艦と命名された[注 6]。
ヴェルヌの他作品との関係[編集]
本作品に登場するネモは﹃神秘の島﹄︵1874年︶にも登場し、アロナックスについても言及している。﹃神秘の島﹄には﹃グラント船長の子供たち﹄︵1868年︶のエアトンや、﹁グラントとネモの双方の物語にまたがって登場するすべての人たち﹂が登場する場面もあり、前記三つの物語を三部作とすることがある[3]。 ただし、﹃神秘の島﹄本編︵1865年-1869年[注 7]︶内で述べられているほか、2作内のエピソードの年代の記述は下記のように異なる。事例 | 本来の作品中の年代 | 『神秘の島』での年代 |
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エアトンがタボル島に追放 | 1866年3月7日[4] | 1855年3月18日[5] |
アロナックス教授がノーチラス号に収容 | 1867年11月7日[6] | 1852年頃[7] or1866年11月6日[8] |
脚注で各作品の日付について﹁やがてなぜ正確な日付が記されなかったか、おわかりいただけると思う。﹂﹁ここでも︵中略︶日付の食い違いが見られるが﹂と説明があるが[9]、最後までこのずれについては説明されずに終わっている。
日本語訳[編集]
本作の原題は“Vingt Mille Lieues Sous Les Mers”︵海底二万リュー︶である。英語での題名もその直訳“Twenty Thousand Leagues Under the Sea”︵海底二万リーグ︶である。日本では、リューやリーグという単位になじみが薄いことから、当初は﹃海底六万哩︵マイル︶﹄と単位を換算して訳されたが、これと原題の﹁二万﹂とが混同されて﹃海底二万マイル﹄という題名が広まった。﹃海底二万里﹄という訳題は、日本の里とリューがほぼ同じ距離であり、語感も似ているために採られたものである[10]。そのほか、﹃海底二万海里﹄、﹃海底二万哩﹄、﹃海底二万リュー﹄、﹃海底二万リーグ﹄、﹃海底二万マイル﹄などの題名も用いられる。主な日本語訳版[編集]
●﹃二万里海底旅行﹄鈴木梅太郎訳、京都山本 1880年 ●﹃六万英里海底紀行﹄井上勤訳、博聞社 1884年 ●﹃五大州中海底旅行﹄太平三次訳、四通社 1884年 ●﹃海底二万里﹄石川湧訳、岩波書店︿岩波少年文庫﹀1956-1957年 上下巻 - 向井潤吉挿絵 ●﹃海底二万リーグ﹄村上啓夫訳、早川書房︿ハヤカワ・SF・シリーズ﹀1962年 ●﹃海底二万海里﹄花輪莞爾訳、角川書店︿角川文庫﹀1963年 ISBN 4-04-202204-9 ●﹃海底二万マイル﹄波多野完治訳、旺文社 1970年 ●﹃海底二万海里﹄清水正和訳、福音館書店︿福音館古典童話シリーズ﹀1973年 ISBN 4-8340-0400-7 - 原書の挿絵を収録 ●﹃海底二万里﹄荒川浩充訳、東京創元社︿創元SF文庫﹀1977年 ISBN 978-4-488-51704-5 ●﹃海底二万里﹄江口清訳、集英社︿集英社文庫―ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀1993年 ISBN 978-4087602173︵改版2009年 ISBN 978-4087605709︶ ●﹃海底二万里﹄大友徳明訳、偕成社︿偕成社文庫﹀1999年 ISBN 978-4-03-652360-3︵上巻︶、ISBN 978-4-03-652370-2︵中巻︶、ISBN 978-4-03-652380-1︵下巻︶ - 原書の挿絵を収録 ●﹃海底2万マイル﹄加藤まさし訳、講談社︿青い鳥文庫﹀2000年 ISBN 4-06-148530-X ●﹃海底二万里﹄私市保彦訳、岩波書店︿岩波少年文庫﹀2005年 ISBN 4-00-114572-3︵上巻︶、ISBN 4-00-114573-1︵下巻︶- 原書の挿絵を収録 ●﹃海底二万マイル﹄南本史訳、ポプラ社︿ポプラポケット文庫﹀2005年 ISBN 4-591-08850-2 ●﹃海底二万里﹄朝比奈美知子訳、岩波書店︿岩波文庫﹀2007年 ISBN 4-00-325694-8︵上巻︶、ISBN 4-00-325695-6︵下巻︶ - 原書の挿絵を収録 ●﹃海底二万里﹄村松潔訳、新潮社︿新潮文庫﹀2012年 ISBN 978-4-10-204402-5︵上巻︶、ISBN 978-4-10-204403-2︵下巻︶ - 原書の挿絵を収録 ●﹃海底二万マイル (10歳までに読みたい世界名作)﹄芦辺拓訳、学研︿学研プラス﹀2016年4月5日。 ISBN 978-4052044021 ●﹃海底二万里﹄渋谷豊訳、角川書店︿角川文庫﹀2016年 ISBN 978-4041013847︵上巻︶、ISBN 978-4041013854︵下巻︶ ●﹃海底二万マイル﹄山本知子訳、ポプラ社︿ポプラキミノベル﹀2022年 ISBN 978-4591174302関連作品[編集]
本作は過去何度か映画化されており、なかでもディズニーによる﹃海底二万哩︵マイル︶﹄︵1954年︶が有名である。
●1981年、NHK-FMで﹃連続ステレオ小説﹄としてラジオドラマ化された。音楽を宇野誠一郎が担当した。声の出演は以下の通り︵役名の表記は劇中での発音に従う︶。
●アロンナックス教授‥臼井正明
●助手コンセイユ‥八木光生
●ネッドランド親方‥立沢雅人
●ファラガット艦長: 高桐真
●ノーチラス号艦長ネモ: 若山弦蔵
●ナレーター: 川久保潔
●﹃海底大戦争 愛の20000マイル﹄ - タツノコプロが製作したアニメ作品。日本テレビにて1981年1月に90分の番組枠で放映された。﹃ジュール・ベルヌの海底大戦争﹄というタイトルが使われることもある。ノーチラス号やネモ船長などが登場するが、軍事独裁国家が支配する未来を舞台としている。脚本は佐々木守、監督は九里一平、演出は真下耕一、キャラクターデザインは高田明美。声の出演は井上純一などで、ネモ船長は黒沢良が演じた。
●日本のテレビアニメ﹃ふしぎの海のナディア﹄は本作と﹃神秘の島﹄を原案としたとされているが、潜水艦ノーチラス号やネモ船長など一部登場人物の名前や、殉職︵戦死︶した乗組員を海底の墓場に葬るなどの一部のエピソードを除き、ほとんど共通点がない。
●ディズニーの劇場アニメ映画﹃アトランティス 失われた帝国﹄も本作を原作としたとされている。
●東京ディズニーシーに本作が元になった﹃海底2万マイル﹄というアトラクションがある。こちらはノーチラス号に乗るのではなく、小型潜水艇に乗るという設定となっている。
●ドイツの作家ヴォルフガング・ホールバインにより、1990年代から続編﹃ノーチラス号の冒険﹄シリーズが書かれている。
●2017年夏、宝塚歌劇団雪組により﹃CAPTAIN NEMO…ネモ船長と神秘の島…﹄として舞台化。
脚注[編集]
注釈[編集]
(一)^ エドゥアール・リウーによる挿絵。
(二)^ abアルフォンス・ド・ヌヴィルによる挿絵。
(三)^ ヴェルヌは1860年代に知り合った潜水艦の開発者、ジャック=フランソワ・コンセイユ︵仏‥Jacques-François Conseil︶から命名している。
(四)^ デュドネ・ランスロによる版画。﹃ル・モンド・イリュストレ﹄誌に掲載された。
(五)^ ﹁ノーチラス﹂という名称は本作を問わず、軍艦・特に潜水艦によく使用される名前である。詳細はノーティラスを参照。
(六)^ 詳細はIsaac PeralとSubmarino Peralを参照。
(七)^ ﹁1865年﹂は冒頭部で明記︵南北戦争のリッチモンド陥落直前であることとも一致︶、﹁1869年﹂は第18章でこの年に突入の説明あり、20章ラストに同年3月24日で島を去って物語が終わる。
出典[編集]
(一)^ ab大友徳明﹃海底二万里﹄偕成社文庫版解説より。
(二)^ ﹃超発明博覧会 幻想メカニックガイド﹄司史生・原聖 著、ビー・エヌ・エヌ エクシード・プレス、1999年、ISBN 4-89369-719-6、p.26-29﹁皇帝陛下の潜航艇 フルトンのノーチラス﹂。
(三)^ ﹃ミステリアス・アイランド -神秘の島︵下︶﹄手塚伸一訳、集英社文庫︿ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀、1996年、ISBN 4-08-760296-6。p.423訳者あとがき
(四)^ ﹃グラント船長の子供たち︵下︶﹄大久保和郎 訳、ブッキング、2004年、ISBN 4-8354-4113-3。
物語では年月日が言及されないが、第3部第14章︵p.31︶で1866年に突入し、同22章︵p.339︶で3月18日を﹁︵エアトンを置いて︶タボル島を去ってから11日後﹂と明記。
(五)^ ﹃ミステリアス・アイランド -神秘の島︵下︶﹄手塚伸一訳、集英社文庫︿ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀、1996年、ISBN 4-08-760296-6。
第17章のエアトン本人の説明より。︵p.112︶
(六)^ ﹃海底二万里︵上︶﹄朝比奈美知子 訳、岩波書店︿岩波文庫﹀、2007年、ISBN 4-00-325694-8。
本文内で年月日が直接言われるところはないが、第1部第1章で﹁1867年4月13日﹂︵p.17︶に客船の衝突事故発生、しばらくしてアナロックス教授たちがこれの調査に向かい、同年11月6日︵第6章、p.88︶に海に転落し、日付をまたいでノーチラス号に収容されている。
(七)^ ﹃ミステリアス・アイランド -神秘の島︵下︶﹄手塚伸一訳、集英社文庫︿ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀、1996年、ISBN 4-08-760296-6。
ネモが﹃海底二万里﹄の事件を1868年時点の場面︵p.287︶で﹁16年前﹂としている。︵p.356︶
(八)^ ﹃ミステリアス・アイランド -神秘の島︵下︶﹄手塚伸一訳、集英社文庫︿ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀、1996年、ISBN 4-08-760296-6。
ネモの回想より。︵p.362︶、この後ネモはしばらく活動を続け﹁6年前に引退﹂としている。︵p.363︶
(九)^ ﹃ミステリアス・アイランド -神秘の島︵下︶﹄手塚伸一訳、集英社文庫︿ジュール・ヴェルヌ・コレクション﹀、1996年、ISBN 4-08-760296-6。p.115・357原注
(十)^ 岩波少年文庫﹃海底二万里﹄巻末﹁あとがき﹂による。