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深紫︵ふかむらさき、こきむらさき︶は色の一種で、濃い紫色である。黒紫︵くろむらさき︶とも書く。それぞれ、浅紫、赤紫と対になる語である。平安時代から濃き紫の意味で﹁こきむらさき﹂と呼ばれるようになり、単に深︵こき︶、深色︵こきいろ︶とも呼ばれた[2]。古代の日本で高貴な色とされた。
古代日本の服制における深紫[編集]
日本の服制で深紫が現われるのは、大化3年︵647年︶制定の七色十三階冠である[3]。これに先立つ推古天皇11年12月5日︵604年1月11日︶の冠位十二階で、大徳の冠の色を深紫とする説も行なわれているが[4]、それは七色十三階冠からの類推で、格別の証拠はない。服制において紫を深紫と浅紫に分けるのは日本だけで、同時期の隋・唐・新羅などにはない[5]。
七色十三階冠では、大織・小織・大繡・小繡という上位4つの冠位について、深紫の服を用いるよう定めた。服色は大化5年︵649年︶の冠位十九階、天智天皇3年︵664年︶の冠位二十六階にも踏襲されたと考えられる。ただ大繡・小繡の冠位名は天智3年にそれぞれ大縫・小縫と変更になった。冠の色は不明である。
天武天皇14年︵685年︶1月21日に冠位の名を一新した冠位四十八階では、7月21日に正位の朝服を深紫とした。皇族の浄位が着る朱華に次ぎ、臣下では最高である。ただ、天武天皇の時代には全体的に冠位が低く抑えられており、正位の人はいなかった。
持統天皇4年︵690年︶4月の改訂で朱華がなくなり、黒紫は浄大壱から浄広弐までという皇族の上層に限られた。黒紫は名が異なるだけで深紫と同じ色とされる。太政大臣の高市皇子など、皇子数名に限られた高貴な色である。
大宝元年︵701年︶制定の大宝令は、親王と、一位の諸王・諸臣の服を黒紫と定めた[6]。この区分は養老令でも踏襲され、ただ名称が深紫に改められた[7]。諸王というのは親王を除く皇族で、親王を一世と数えて四世までの者、諸臣は皇族以外の者である。天皇の白と皇太子の黄丹に次ぐ色で、臣下として望みうる最高の色である。
時代は下るが﹃延喜式﹄は染色用の材料を規定している。それによると深紫の綾一匹の原材料は、紫草︵ムラサキ︶30斤、酢2升、灰2石、薪360斤である。帛や羅を作る場合、他の原材料は同じで酢を1升にした。これに対して浅紫で用いる紫草は5斤で、この差が色の違いとなる[8]。
深紫・黒紫を服色とする冠位・位階[編集]
●七色十三階冠・冠位十九階・冠位二十六階。647年から685年
●大織・小織・大繡・小繡
●冠位四十八階。685年から690年
●臣下の正大壱、正広壱、正大弐、正広弐、正大参、正広参、正大肆、正広肆
●冠位四十八階。690年から701年
●皇族の浄大壱、浄広壱、浄大弐、浄広弐
●大宝令・養老令。701年以降
●親王の一品・二品・三品・四品
●諸王の正一位・従一位
●諸臣の正一位・従一位
(一)^ “深紫 ふかむらさき #493759”. 原色大辞典. 2013年5月16日閲覧。
(二)^ 竹内淳子﹃紫﹄16-17頁。﹃日本史色彩事典﹄は﹁こきむらさき﹂で項目をたて、﹁ふかむらさき﹂に言及しない。新編日本古典文学全集﹃日本書紀﹄は﹁ふかむらさき﹂である。
(三)^ ﹃日本書紀﹄巻第25、大化3年是歳条。新編日本古典文学全集版﹃日本書紀﹄3の166-167頁。以下、冠位に冠する事実は説くに注記がない限り﹃日本書紀﹄の当該年月条による。大化3年を色彩名の初見とするのは内田正俊﹁色を指標とする古代の身分の秩序について﹂43頁。
(四)^ 江戸時代に谷川士清が﹃日本書紀通証﹄で唱えてから流布した︵巻27、臨川書店版第3冊1521頁︶。この説への批判は、冠位十二階#色とその脚注にある諸文献を参照。
(五)^ 内田正俊﹁色を指標とする古代の身分の秩序について﹂37頁、40頁。内田は、中国で色に深浅をつける呼び方のはじまりが上元2年︵674年︶8月以降になることから、﹃日本書紀﹄が記す七色十三階冠制の服色は事実に相違すると考えた︵同論文29頁︶。
(六)^ ﹃続日本紀﹄巻第2、大宝元年3月甲午︵21日︶条。
(七)^ ﹃養老令﹄﹁衣服令﹂諸王礼服条・諸臣礼服条、日本思想大系﹃律令﹄新装版351-352頁。﹁継嗣令﹂凡皇兄弟皇子条、日本思想大系﹃律令﹄新装版281頁。
(八)^ 増田美子﹃古代服飾の研究﹄259頁。
参考文献[編集]
●小島憲之・直木孝次郎・西宮一民・蔵中進・毛利正守校訂・訳﹃日本書紀﹄3、小学館︵新編日本古典文学全集4︶、1998年。
●井上光貞・関晃・土田直鎮・青木和夫校注﹃日本思想大系 律令﹄、岩波書店、新装版1994年。初版1976年。
●谷川士清著、小島憲之解題、﹃日本書紀通證﹄臨川書店、1978年。
●内田正俊﹁色を指標とする古代の身分の秩序について﹂、﹃日本書紀研究﹄第17冊、塙書房、1988年。
●増田美子﹃古代服飾の研究﹄、源流社、1995年。
●丸山伸彦﹃日本史色彩事典﹄、吉川弘文館、2012年。