適時開示
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適時開示︵てきじかいじ︶とは、公正な株価等の形成および投資者保護を目的とする、証券取引所に上場した会社︵以下、﹁上場会社﹂︶が義務付けられている﹁重要な会社情報の開示﹂のことをいう。
なお、東京証券取引所が適時開示制度をリードしてきたため、本稿は東京証券取引所を主に参考としている。
意義[編集]
投資者が自己責任により投資を行うため、また、証券取引所の機能が十分に活かされるためには、投資判断材料として、証券市場に上場されている株式等に関する重要な会社情報が適時・適切に提供される必要がある。 会社法では、決算公告をはじめとする公告や登記等により、会社の情報が開示される。また、金融商品取引法では、法定開示と呼ばれる有価証券報告書・四半期報告書・臨時報告書といった書類の提出が上場会社をはじめとする一部の株式会社に義務付けられているものの、日々刻々と変化する経済情勢下においては、法定開示のみを投資判断材料とするには不十分と考えられ、また、法定されることによる制度変更等の機動性低下を補う観点から、法定開示のギャップを埋める意義が適時開示にあり、その重要性が高まっているといわれている。 法定開示のギャップを埋める一例として四半期決算制度が挙げられる。四半期決算制度は、証券市場の自主規制下で法制度に先立ち試験的に開始され、一定期間を経た後、金融商品取引法で法制度化された。このように、法制度化のクッションとしての機能も、証券取引所の自主規制は担っているといえる。同様の事例としては、有価証券報告書等の適正性に関する確認書と、金融商品取引法の確認書が挙げられる。 なお、会社法・金融商品取引法のいわゆる法令を﹁ハード・ロー﹂、証券取引所の自主規制を﹁ソフト・ロー﹂と呼ぶことがあり、これは証券取引所の自主規制が持つ柔軟性・弾力性・機動性等を表した用語と言える。沿革[編集]
以下は、東京証券取引所のもの。 ●1974年6月‥﹁会社情報の適時開示に関する要請について(1974年6月7日東証上管第525号)﹂が上場会社宛に通知。 ●1989年4月1日‥証券取引法において内部者取引(インサイダー取引)規制が規定され実施。 ●1999年9月‥会社情報の適時開示﹁要請﹂を﹁規則﹂化。﹁上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)﹂として施行。 ●2006年6月22日‥﹁上場制度総合整備プログラム (PDF) ﹂が公表され、株式交換・株式移転・合併・会社分割に関する開示内容の充実、株式・新株予約権・新株予約権付社債の有利発行およびMSCB発行に関する開示内容の充実が制度改正される事項となる。 ●2007年4月24日‥﹁上場制度総合整備プログラム2007 (PDF) ﹂が公表され、MSCB等や第三者割当増資に関する開示および金融商品取引法における四半期報告書制度を踏まえた決算短信の見直しが制度改正される事項となる。 ●2007年11月‥﹁有価証券上場規程﹂の全面改定(適時開示規則は、有価証券上場規程に編入)。 ●2008年5月27日‥上場制度総合整備プログラム2007のフォローアップとして﹁2008年度上場制度総合整備の対応について (PDF) ﹂が公表され、連結ベースで重要性がある会社情報の開示要請および形式的に開示要件に該当しないものでも実質的に重要な情報である場合の積極的開示要請がなされることとなる。 ●2009年9月29日‥﹁上場制度整備の実行計画2009 (PDF) ﹂が公表され、最低限の適時開示事項の明確化・重要な欠陥または評価結果不表明の旨を記載する内部統制報告書の提出における開示等が制度改正される事項となる。 ●2009年10月29日‥株主総会における議決権の行使結果の公表について、上場会社に対する要請を実施。 ●2009年12月30日‥﹁上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項)の進捗状況 (PDF) ﹂が公表され、最低限の適時開示事項の明確化・重要な欠陥または評価結果不表明の旨を記載する内部統制報告書の提出における開示等のほか、コーポレート・ガバナンス報告書におけるコーポレート・ガバナンス状況の開示の明確化・独立役員届出書の提出が義務付けられる。 ●2010年6月29日‥﹁﹁四半期決算に係る適時開示の見直し、IFRS任意適用を踏まえた上場制度の整備等について﹂に基づく有価証券上場規程等の一部改正について (PDF) ﹂が公表され、﹁上場制度整備の実行計画2009﹂に基づき四半期決算の見直し等のほか、適時開示に係る軽微基準を原則として連結ベースとすること、適時開示に係る宣誓書制度の変更等が施行された。会社情報とは[編集]
適時開示が求められる会社情報とは、投資者の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営又は業績等に関する情報のことをいう。会社情報は﹁上場会社に関する情報﹂、﹁子会社に関する情報﹂および﹁非上場の親会社に関する情報﹂の各々﹁決定事実・発生事実・決算情報﹂に区分される。﹁投資判断に影響を与える﹂とは[編集]
投資判断に影響を与えるとは、﹁株価に影響を及ぼす(変動させる)﹂ことをいう。とはいえ、株価は人気投票的な側面もあり、既存の開示情報等に基づく判断によって株価形成が織り込み済みでなされることもあることから、﹁株価に影響を及ぼす可能性が﹃高い﹄﹂と考えた方が適切な場合もある。﹁適時・適切﹂とは[編集]
適時・適切とは適時開示の要諦となる要素で、これらが充足されることで適切な株価形成や市場の公正性が担保される。 ●適時(タイムリー) 即時性:会社が決定をしたタイミング、会社が事実認識をしたタイミング ●適切(フェア) 普遍性:提供する方法や内容に偏りのないこと 明瞭性:表現等が誤解を生じさせないこと 正確性:実態に即し必要・十分なものであること 公式性:裏付けを会社が行う会社情報の構成[編集]
証券取引所で定めている会社情報は、主に次のもので構成されている。 (一)インサイダー取引規制上の重要事実(金融商品取引法166条・167条、金融商品取引法施行令28条・28条の2・29条・29条の2) (二)臨時報告書提出義務のある事実(金融商品取引法24条の5・企業内容等の開示に関する内閣府令19条) (三)上記のほか、投資判断材料として有用なもの(定款変更等) なお、開示義務のある会社情報に関し報道等があった場合で証券取引所が必要と認めたときは、証券取引所が上場会社に対し照会を行うことができるようになっており、照会結果によっては開示を求めることができる。開示基準[編集]
会社情報の開示基準は、複数の要素で構成されている。発生プロセスによる区分[編集]
情報種別‥情報の発生プロセスにより、以下の3つに区分される。 (一)決定事実‥取締役会、常務会・経営会議および代表取締役等による決議・決定等の自己決定されたもの(内部要因・自律要因) ●新株発行、合併・会社分割・株式交換等、解散、自己株式取得および固定資産譲渡・譲受等 (二)発生事実‥災害、事件、事故、訴訟提起および行政処分等の自己の意思と無関係に発生したもの(外部要因・他律要因) ●訴訟の提起、行政処分、災害による損害、業務遂行の過程で生じた損害、上場廃止の原因となる事実等 (三)決算情報‥ ●決算短信、業績予想の修正および配当予想の修正等業績に及ぼす影響による区分[編集]
軽微基準‥内容により、以下の3つに区分される。なお、上場会社・子会社とも企業グループ(連結決算上)の財務諸表の数値を参照し、軽微基準の判定を行う。ただし、上場会社については、インサイダー取引規制上の重要事実に該当する場合は、上場会社の財務諸表の数値を参照する。(2010年6月28日までは、上場会社は、一律、上場会社の財務諸表の数値を参照することとされていた。) (一)軽微基準なし‥必ず開示しなければならない。 (二)軽微基準あり‥財務諸表の情報に基づき算出される﹁軽微基準﹂のいずれかに該当した場合には、必ず開示しなければならない(=全てに該当しない場合のみ、開示不要)。軽微基準として使用されるもののうち、代表的なものは以下のとおり。 ●売上高基準:当該事実により、売上高が10%以上増減する場合など。 ●資産基準:当該事実により、純資産が3%以上増減する場合など。(30%以上増減もある。) ●利益基準:当該事実により、経常利益または当期純利益が30%以上増減する場合など。 (三)任意開示など‥軽微基準とは無関係に会社が任意で行う開示。なお、PR情報と呼ばれる報道機関へのみ伝達される手段も存在する。発生源による区分[編集]
会社情報の発生源によっても開示基準が異なる。
(一)上場会社‥上場会社の最終事業年度の財務諸表に基づき、開示基準が決定される。
(二)子会社‥上場会社グループの最終事業年度の連結財務諸表に基づき、開示基準が決定される。
(三)非上場親会社‥親会社が国内外いずれの金融商品取引所にも上場していない場合に、当該非上場親会社に関する事項の開示が義務付けられる。
開示の求められる会社情報[編集]
●上場会社に係る情報・子会社に係る情報・非上場親会社等に係る情報の3表に列挙されているものが開示の求められる会社情報になる。各々の末尾には﹁その他~会社の運営、業務、若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事項・事実﹂というものがあり、これをバスケット条項と呼ぶ。インサイダー取引規制上の重要事実にも同様のものがあり、﹁列挙されたものに限定して開示すればよいというものではない﹂ことに十分注意する必要がある。ただし、インサイダー取引規制上の重要事実と異なる点は、一部軽微基準が設けられていることである。 ●有名な重要事実としては、裁判の結果、薬の副作用に関する情報がインサイダー取引規制上の重要事実に該当するとされた例があり、現行制度では、適時開示を行うべき事実に該当するといえる。また、社債の発行は通常、重要事実に該当しないとされているものの、D/Eレシオを大幅に変動させるような規模で発行がなされた場合については、重要事実に該当する可能性があるとされる。他に、発行済株式総数の10%以上の自己株式を消却する場合や反対株主買取請求を受けた場合なども、重要事実に該当する可能性があると考えられる。共通して開示すべき内容[編集]
●2009年12月に、原則として共通して開示すべき内容が、以下のとおり明確化された。(有価証券上場規程施行規則第402条の2) (一)上場会社が決定事実を決定した﹁理由﹂または発生事実が発生した﹁経緯﹂ (二)決定事実または発生事実の﹁概要﹂ (三)決定事実または発生事実に関する﹁今後の見通し﹂ (四)その他東京証券取引所が﹁投資者の投資判断上重要と認める事項﹂ ●なお、上記内容が明確化される以前から、開示様式例がファイルで公開されている。 (一)上場会社の決定事実 (二)上場会社の発生事実 (三)上記以外の様式例 (四)決算短信の作成要領 (PDF)上場会社に係る情報[編集]
決定事実 :有価証券上場規程第402条1号 |
発生事実 :有価証券上場規程第402条2号 |
決算情報・その他 |
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決算情報
その他の情報
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- (※1)軽微基準あり
- (※2)インサイダー取引規制上の重要事実(金融商品取引法)であるため、上場会社の個別決算数値も開示義務の判断材料となる。
- (※3)インサイダー取引規制上の重要事実(金融商品取引法施行令)であるため、上場会社の個別決算数値も開示義務の判断材料となる。
- (※4)臨時報告書提出義務のある事実
子会社に係る情報[編集]
決定事実 | 発生事実 | 決算情報・その他 |
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非上場親会社等に係る情報[編集]
決定事実 | 発生事実 | 決算情報・その他 |
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- (※1)軽微基準あり
不適正開示に対する処分[編集]
従来から、不適正開示があった場合には口頭注意処分・改善報告書の提出等の制裁的措置を行っていた。しかしながら上場会社の情報開示全般において不正が横行したことを受け、2005年より﹁宣誓書制度﹂と﹁有価証券報告書等の適正性に関する確認書制度﹂が開始された。さらには、市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと取引所が認めたときには、上場契約違約金を求めることができるようになっている。(制度変更に伴い、経緯書が廃止となった)