デロリアン・DMC-12
(DMC-12から転送)
DMC・デロリアン | |
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DMC-12(トヨタ博物館所蔵) | |
ガルウイングドアを開放したDMC-12 | |
概要 | |
販売期間 | 1981年1月21日 - 1982年12月24日 |
デザイン | イタルデザイン・ジウジアーロ |
ボディ | |
ボディタイプ | 2ドアクーペ |
駆動方式 | RR |
パワートレイン | |
エンジン |
2,849 cc PRV ZMJ-159型 ライトアロイ90度V6 SOHC 12バルブチェーン駆動 150 hp (EUR)/5,500 rpm 130 hp (US)/5,500 rpm |
変速機 | 5速MT/3速AT |
前 |
前:不等長ダブルウィッシュボーン 後:ダイアゴナルトレーリングラジアスアーム |
後 |
前:不等長ダブルウィッシュボーン 後:ダイアゴナルトレーリングラジアスアーム |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,408 mm |
全長 | 4,267 mm |
全幅 | 1,988 mm |
全高 | 1,140 mm |
車両重量 | 1,233 kg[1] |
デロリアン・DMC-12︵DeLorean DMC-12︶は、1981年から1982年にかけてアメリカ合衆国のデロリアン・モーター・カンパニー︵DMC︶が生産したスポーツカーである。
DMC-12の呼称は、当初計画されていた12,000ドルという販売価格に由来する[2]。本来は開発段階での仮称であり正式な車種名ではないが、俗用されることが多い。
映画﹃バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズ﹄に登場するタイムマシンの改造ベースとなった車両として知られている[3]。
リアに積まれるエンジン。
バックボーンフレーム上にFRPボディーを載せる構造はロータスが得意とした手法であるが、メンテナンスフリーをも狙って外部全体を無塗装ステンレスで覆った。表面は加工時のサンドペーパーの傷をそのまま残したヘアラインとなっている。なお車高や最低地上高が高いのは、当時の法的基準におけるヘッドランプの高さを満たすためと、北米の道路事情を配慮した実用性確保のためである。
エンジンはプジョー・ルノー・ボルボが乗用車用に共同開発した排気量2,849 ccのPRVV型6気筒SOHCをフランスで製造したもので、これを後部に搭載するリアエンジンレイアウト︵RR︶を採った。このパワートレインとレイアウトは、トランスミッションの歯車比やエンジンのチューニングは異なるものの、アルピーヌ・ルノーA310・V6とも共通する。このエンジンは当初90°バンクのV型8気筒として設計されていたが、1973年のオイルショックの影響で出力よりも経済性を重視せざるを得なくなり、そのままのバンク角で2気筒を切り落とした経緯を持つ実用型である。後に位相クランクピンの採用で60°ずつの等間隔爆発となるが、この当時は不等間隔爆発のままであった。
デロリアンは4輪独立懸架を備えている。フロントにはダブルウィッシュボーン式サスペンション、リアにはマルチリンク式サスペンションがある。4輪すべてにディスクブレーキが付いている。
概要[編集]
DMC創業者のジョン・デロリアンによる“EthicalCar”︵商業道徳に適った車︶"[4]を作ろうという発想のもと、ゼネラルモーターズ︵GM︶の役員を辞任して新会社を立ち上げたところから始まった。1976年10月、DMCのチーフエンジニアであるウィリアムT.コリンズは、デロリアンの最初のプロトタイプを完成させた[5]。このプロトタイプはDSV-1またはDeLorean Safety Vehicle︵デロリアンセーフビークル︶として知られており[6]、シトロエン・CXの直列4気筒エンジンを搭載していた[7]が、パワー不足のためV型6気筒PRVエンジンに変更された。 ボディはイタルデザインのジョルジェット・ジウジアーロがデザインし、ロータス・カーズが機構面を請け負った。 製造はイギリス・北アイルランドのベルファスト郊外、アントリム県ダンマリー村にある工場で行われ、量産第1号車は1981年1月21日にラインオフした[8]。製造スタッフの経験不足ゆえ、当初は品質について多くの苦情が寄せられていた。特にエンジントラブルは悩みの種であった[9]が、1982年頃までにこの問題は多くが解決された[10]。 前宣伝の効果も手伝って、DMC-12は多くのバックオーダーを抱える中での発売となり、初年度は約6,500台を販売するなど売り上げは好調であった。この時期はターボチャージャーの搭載や、4枚ガルウイングドアの4シーター仕様などの追加計画もあったが、販売価格が2万5,000ドル[11]︵現在の価値で$83,785ドル[12]︶と高額であったことや、大量の受注キャンセルなどから、発売翌年以降はたちまち販売不振に陥った。 その後も諸問題は続き、北アイルランドへの工場誘致の条件として交付されていたイギリス政府からの補助金発給が停止された。後にエンロンの会計監査も行ったアーサー・アンダーセンが、デロリアン社の資金を社長のジョン・デロリアンが私的に流用するなどしたことを黙認していたこと、﹁北アイルランドに雇用を創出する﹂という謳い文句がでたらめだったことが、マスメディアの調査などで明らかになっている。 1982年10月19日にはジョン・デロリアンがコカイン所持容疑で逮捕され、会社は資金繰りが立ち行かなくなり倒産した[13][14]。なお、デロリアンは1984年8月に無罪判決を受けている[15]。 DMC-12は1981年1月21日から1982年12月24日までの間に推定8,975台が製造され[16]、うち約6,500台が現存するものと考えられている[17]。デザインと力学[編集]
製造時の変更[編集]
年代によってボンネットの意匠が異なり、81年型はボンネット脇に2本のプレスラインが入り給油口がある、82年型は給油口がなくなっており、ボンネットを開けて給油することとなる︵なお、BTTFで用いられたのもこのタイプ︶。83年型は2本のプレスラインが消え、一番右下に﹁DeLorean﹂のエンブレムがある、という特徴がある[18]。もともと、デロリアンのリムは灰色で描かれていた。これらのリムは、エンボス加工されたDMCロゴが付いた灰色のセンターキャップが特徴であった。1981年に生産が開始されてから数か月後、灰色のリムは、洗練されたシルバーの外観と黒いセンターキャップを備えたリムに置き換えられた。センターキャップのDMCロゴはコントラストを出すためにシルバーに塗装されている。
金メッキデロリアン[編集]
1981年モデルの最後を締めくくった2台のDMC-12は、車体を金メッキで覆った特別仕様車である︵1台125,000ドル。現在の価値でおよそ$418,924ドル︶。1台はネバダ州リノのNational Automobile Museumに展示され、もう1台はテキサス州のSnyder National Bankに展示された︵後者は2004年頃に撤去済︶。
なお、モデルライフを通じて最後に製造された車も金メッキであったが、これは宝くじのような富くじ方式で民間人の手に渡った。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン[編集]
詳細は「デロリアン (タイムマシン)」を参照
デロリアン・DMC-12が世界的に有名になったのは、1985年に公開されたSFアドベンチャー映画﹃バック・トゥ・ザ・フューチャー﹄に登場したことが大きい。劇中ではタイムマシンに改造された車として登場した。
ガルウイングドアを装備していたことがタイムマシンのベースに採用された大きな理由だと監督は語っている。劇中ではエメット・ブラウン博士がデロリアンを選んだ理由として﹁見た目がかっこいい﹂ことなどを挙げている。制作サイドは当初、タイムマシンに冷蔵庫を使う予定だったが、映画を観た子供が中に入って真似をして事故になるのを避けるために、最終的に自動車を選んだとのことである。
改造には3台のDMC-12が用意された。1985年時点では既にメーカー倒産で生産されていなかった車種だが、劇中ではマイケル・J・フォックス演じる主人公マーティ・マクフライらがよく知る車として登場している。映画は大ヒットし、DMC-12は世界的に有名になった。
三部作の撮影中に合計6台のDMC-12が使用され、そのうち一台は第三部において列車に衝突してバラバラになっている。﹃バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2﹄の飛行をシミュレートするために、等身大のガラス繊維モデルも使用された[19]。
イタリア、ミラノの電気デロリアン︵2012年︶。
DMC-12の修理などを行っているスティーブン・ウィンは2007年8月、DMC-12を再生産することを明らかにした。
しかし、近年の衝突安全基準や排出ガス規制などに合わせて設計を変更することは困難であり、再生産車では車検に適応し一般道を走らせることはほぼ不可能なため、展示用や富裕層のコレクターズアイテム的な目的で出荷されている。
スティーブン・ウィンは、アメリカのテキサス州ヒューストン郊外に約3,700平方メートルの工場を建設し、そこで新DMC-12を再生産することを計画している。オリジナルのDMC-12には電装系や配線などにトラブルがあったが、新バージョンではそれらは改善される予定である。生産台数は、月20台とデロリアン社時代と比べて減るものの、ファンからの期待は高いようである[20]。
現在、全ての補給部品と現行品による新車もテキサス州のデロリアン・モーター・カンパニーに注文できる。また整備、中古車の売買の仲介なども行なっているようである。
2011年10月、スティーブン・ウィンはベンチャーEVメーカー・Epic EVと協力し、DMC-12を2013年までに電気自動車化して生産する計画を発表していた[21]。
DMCevのプロトタイプは、ヒンジで開閉するフロントのダミーグリルの奥に充電用プラグインソケットを持ち、フロントトランク内の左右と旧エンジンルーム前側にリチウムイオンバッテリーを搭載する。交流240 V電源による3.5時間充電で、約100マイルの市街地走行が可能とされ、バッテリーの予想寿命は7年もしくは10万マイルとされている。ラゲッジスペースの両側約2/3がバッテリーに占領されているが、燃料タンクやスペアタイヤが無いため、中央部はある程度の長さと深さが確保されている。
電動機は1基で、水冷、直流400 V、出力215 kW︵260 hp︶/5,000 - 6,000 rpm、トルク488 Nm︵49.7 kgf・m︶/0 - 7,200 rpm、最高回転数14,000 rpmの仕様のものをリアオーバーハングの低い位置に搭載し後輪駆動する。組み合わされる変速機はギア比2.65‥1の1速永久固定、ファイナルドライブのギア比は3.12‥1で、最高速度201 km/h、0 - 60 mph︵≒0 – 100 km/h、いわゆる﹁ゼロヒャク﹂︶加速は4.9秒と発表されている。
後述する既存のデロリアンをハンドメイドでEV化するものとは異なり、当初からEVとして販売を予定していた[22]。
愛知県豊橋市に DMC Japan があり、DMCからのライセンス供与を受け、修理や輸入代行を行っている。DMCevの輸入代行と国内適合も行なう予定である。
2017年のドキュメンタリー番組﹃スーパーカー大改造﹄シーズン2エピソード7話でスティーブン・ウィンから番組に新生デロリアンの参考となるプロトタイプの製作を依頼された。このエピソードではスティーブン・ウィンが所持するDMC-12をベース車として外装と内装デザインのアレンジが行われた[23]。
DMC-12の再生産計画[編集]
変更されたメカニズムを備えたデロリアン[編集]
変わったエンジンスワップが行われたケースもある。
●現時点において米国と日本で電気自動車に改造する事例が確認されており、日本においては、日本EVクラブ広島支部が広島国際学院大学自動車短期大学部内に場所を借り、DMC-12を電気自動車に改造するプロジェクトを実行。リチウムイオンバッテリーを搭載し、2009年3月11日に車検を通してナンバーを取得した[24]。
●また、電気自動車の他にも、ロータリーエンジンを搭載したケースなどもある。
●映画﹃バック・トゥ・ザ・フューチャー﹄の未来へのタイムスリップ記念に、DMC-12を衣服などから生成したバイオエタノール燃料で走行できるようにしたケースもある。映画のシーンのようにごみを直接投入することで稼働することはないが、リサイクル工場にて生成されたものを利用するものである[25][26]。
展示されている博物館[編集]
●トヨタ博物館 ●栃木県那須郡那須町にある 那須PSガレージ にもノーマル状態とタイムマシン仕様の2台が展示されており、タイムマシン仕様のDMC-12としてはUSJ内に展示されているものよりも精巧である。那須PSガレージは2020年6月に閉店した。タイムマシン仕様の車両は東京コミコンで展示されることが多い。脚注[編集]
(一)^ James Espey (2014)。The Illustrated Buyer's Guide to DeLorean Automobiles, ページ16。
(二)^ DMC DeLorean: The troubled past of the car that went back to the future。www.cnn.com。
(三)^ “﹁デロリアン﹂電気自動車となって40年ぶり復活 バック・トゥ・ザ・フューチャーに登場”. 日刊スポーツ (2022年9月1日). 2022年9月1日閲覧。
(四)^ 晴れた日にはGMが見える
(五)^ The Car: History。 www.deloreanmuseum.org。
(六)^ John Lamm (2003). DeLorean Stainless Steel Illusion, ページ23。
(七)^ Back in '77, we were amazed by the DeLorean prototype。 www.roadandtrack.com。
(八)^ John Lamm (2003)。DeLorean Stainless Steel Illusion, ページ 112。
(九)^ HARD DRIVING - MY YEARS WITH JOHN DELOREAN Willam Haddad著
(十)^ John Lamm (2003)。DeLorean Stainless Steel Illusion, pp. 83–84。
(11)^ 日本円では当時の為替レート換算で約1,600万円相当。
(12)^ “What is a dollar worth?”. The Federal Reserve Bank of Minneapolis. 2007年5月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月9日閲覧。
(13)^ デロリアンの歴史
(14)^ 5分で分かるデロリアンの歴史
(15)^ DeLorean is freed of cocaine charge by a Federal jury (1984年8月17日)。 ニューヨーク・タイムズ。
(16)^ James Espey (2014). The Illustrated Buyer's Guide to DeLorean Automobiles, p. 115–117.
(17)^ “DeLoreans still ply the roads -- and memories”. USA Today. 2021年4月2日閲覧。
(18)^ デロリアン(DMC-12)について
(19)^ Here's Where The Car From Back To The Future Is Now。 www.hotcars.com。
(20)^ “デロリアン、時を超えた﹁復活﹂”. Wired. 2016年1月29日閲覧。
(21)^ “﹁バック・トゥ・ザ・フューチャー﹂でおなじみの﹁デロリアン﹂が電気自動車になって復活 - ねとらぼ”. ITmedia. 2014年7月10日閲覧。 - なお、この記事によるとスティーブン・ウィンは現在DMCの商標を取得しているとあり、プレスリリースもDMC名義で発表されている。
(22)^ Delorean .com DMC ev[リンク切れ]
(23)^ “スーパーカー大改造2”. ナショナルジオグラフィック. 2021年11月5日閲覧。
(24)^ 公式ブログ﹁デロリアンEV化計画﹂
(25)^ FUKU-FUKU×BTTF Go!デロリアン走行プロジェクト
(26)^ そもそも映画であってもPart3で明かされるように通常走行ではガソリンを利用している。