デジタル大辞泉 「存在」の意味・読み・例文・類語 そん‐ざい【存在】 ﹇名﹈(スル) 1 人間や事物が、あること。また、その人間や事物。﹁神の存在を信じる﹂﹁歴史上に存在する人物﹂﹁クラスの中でも目立つ存在﹂ 2 ︽being/︿ドイツ﹀Sein︾哲学で、あること。あるもの。有。 ㋐実体・基体など他のものに依存することなく、それ自体としてあるもの。 ㋑ものの本質としてあるもの。 ㋒現実存在としてあることやあるもの。特に、人間の実存。 ㋓現象として主観に現れているものや経験に与えられているもの。 ㋔判断において、主語と述語とを結合する繋(けい)辞(じ)。﹁sはpである﹂の﹁ある﹂。 [類語]︵1︶実在・実存・現存・現在・厳(げん)存(そん)・存立・所在・既存︵―する︶存(そん)する・在(あ)る・居(い)る 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「存在」の意味・読み・例文・類語 そん‐ざい【存在】 (一)〘 名詞 〙 ( ﹁ぞんざい﹂とも ) (二)① 現にそこにあること。人間や事物が、それぞれの性質や働きや価値を持ってあること。 (一)[初出の実例]﹁然りと雖も父王(ぶわう)は存在(ソンサイ)に仏光に預り、自然(じねん)増進して阿那含(あなごん)を成(しゃう)す﹂(出典‥私聚百因縁集︵1257︶二) (二)﹁高利貸と云ふ、こはいものの存在(ゾンザイ)を教へられてゐても﹂(出典‥雁︵1911‐13︶︿森鴎外﹀九) (三)[その他の文献]︹礼記疏‐仲尼燕居︺ (三)② ( [英語] being, existence [ドイツ語] Sein [ラテン語] esse の訳語 ) 哲学用語。 (一)(イ) ギリシア哲学や、一般に形而上学で、現象界の変化の根底に横たわる不変の実在。本体。本質。たとえば、パルメニデスの存在、プラトンのイデアのたぐい。︹哲学字彙︵1881︶︺ (二)(ロ) 近世のデカルト以後では、主観に対立して、外界に客観的にあるもの。客観的実在、または現象として経験に与えられているもの。 (三)(ハ) 思考作用によって考えられる観念的なもの。たとえば、数学の実数、虚数のたぐい。数理的存在。また論理学で、命題の主語と述語を結ぶ繋辞としての﹁ある﹂。 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
日本大百科全書(ニッポニカ) 「存在」の意味・わかりやすい解説 存在そんざいbeing 英語être フランス語Sein ドイツ語 ︵1︶﹁ある﹂といわれるものすべてを総括する、もっとも一般的な類としての﹁存在者﹂on︵ギリシア語︶、ens︵ラテン語︶、das Seiende︵ドイツ語︶を意味する。存在者は、実在者だけではなく、非実在者をも含む。非実在者、たとえば天馬も、それが﹁天馬であるもの﹂として思考される限りにおいては、﹁一種のあるもの︵仮想物︶﹂だからである。また、﹁あらぬもの︵非存在者︶﹂も、ある意味では存在者の一種である。なぜなら、﹁あらぬもの﹂も、﹁あらぬもの﹂である限りにおいて思考され、また︵そういうものとして︶あるからである。この意味において、存在者はいっさいのものを総括する類である。アリストテレスは、すべてのものに関する一つの知恵としての哲学を﹁存在者である限りにおける存在者についての原理、原因の知識﹂と規定した。︵2︶より厳密な意味では、存在は存在者における﹁存在の働き﹂einai︵ギリシア語︶、esse︵ラテン語︶、das Sein︵ドイツ語︶を意味する。すべて存在するものは﹁或(あ)る何か﹂であり、﹁或る何か﹂である限りにおいて、われわれに知られる。存在者におけるこの﹁或る何か﹂は、それぞれの存在者に固有なものであり、存在者の属する類と種に従って特殊化される。この﹁何か﹂の特殊性によって、存在者はそれとは異なる他の存在者から区別される︵人間にとっては人間、鉄にとっては鉄が、この﹁何か﹂である︶。﹁何か﹂は、そのものの﹁何であるか﹂を規定するもの、そのものの﹁存在本質﹂ūsiā︵ギリシア語︶、essentia︵ラテン語︶、das Wesen︵ドイツ語︶である。 これに反して、すべての存在者に述語される﹁ある﹂という述語は、すべての存在者に等しく述語される共通なものである。すべての存在本質がある一定の類のうちに限定されるのに対して、﹁ある﹂という述語は類という限定を越える。したがって、これは厳密な意味では類ではなく、類を越えるもの、﹁超越者﹂である。すべての存在者に共通な、この﹁ある﹂ということばの意味する﹁存在の働き﹂が﹁存在﹂である。すべての存在者は、特殊な存在本質と共通な存在の働きから成り立つ。存在者に向かうわれわれの認識は、それぞれの存在者について、その﹁何であるか﹂を問うとき、まず特殊な存在本質に向けられる。そして、その限りにおいて、われわれの知識は特殊化され、特殊科学の知識が生ずる。存在者が存在者である限りにおいてもつ、共通な﹁存在﹂は覆われ、﹁存在﹂への問いは忘れられる。特殊な存在者への問いにおいては忘れられている、この存在の共通の根としての存在そのものへの問いとして、哲学の問いが生ずるのである。 ﹇加藤信朗﹈ [参照項目] | 存在論 出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「存在」の意味・わかりやすい解説 存在そんざいbeing; être; Sein 有ともいう。哲学における最も根本的な概念。それゆえ十全に定義することはできない。通常,(1) 何か「がある」,(2) 「何か」がある,(3) 何かは何か「である」 (内的規定) の3様の意に用いられ,それぞれ,(1) 実存または実在,(2) 存在者,(3) 本質とも呼ばれる。中世スコラ哲学では可能態である (3) が,現実態である (1) によって現実化され (2) となると説明される。 (3) の観点から主語となって述語とはならない実体と,その逆の偶有が区別されている。また (1) と (3) との間には現実的な区別が存するか否かが大論争された。近世以後,存在は客観的に存してこれを主観がとらえるとする立場と,主観が構成するものとする立場とに分れた。 M.ハイデガーは存在者とその規定根拠としての存在を峻別する。 出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報