人間は生まれながら心身両面にわたってきわめて大きな可能性を潜在的にもっており、この可能性を自ら伸ばそうとするのは、人間の本性である。こうした可能性を実態化することによって、より有利な条件を獲得しようとする個人または集団の行為を、その個人または集団に付随する特性、または架空につくられた特性に基づいて他者が阻止する行為、これが差別である。
こうして、差別のよりどころないし口実とされる特性には、自然的カテゴリーとして、性、年齢、身体的特徴ないし人種、心身障害などがあり、社会的・歴史的カテゴリーとして、出自、民族、国籍、身分、宗教、言語、社会的地位、貧富、職業、学歴、思想などがある。この両カテゴリーは分析的には区別されるが、たとえば障害者差別や人種差別にみられるように、自然的カテゴリーは、それが現実の歴史的社会に作用するときには、社会的・歴史的カテゴリーとして機能している。また実在しないにもかかわらず、たとえば特定集団の残虐性、犯罪性、劣等な知能というような形で、架空に、しばしば政治的につくられるカテゴリーがあり、これがときには生命や生存を脅かす重大な差別に通じている。こうした差別の仕組みを女性とユダヤ人についてみるならば、その大部分は個人の資質や能力とは無関係に、ただ女性でありユダヤ人であるというだけの理由で、生存、教育、結婚、就職、政治参加などに関する諸権利を制限ないし剥奪(はくだつ)され、男性や非ユダヤ人に比べて不利益な扱いを受けるのである。
[鈴木二郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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