デジタル大辞泉
「運命」の意味・読み・例文・類語
うんめい︻運命︼﹇書名・曲名﹈
楽2帝の生涯を、漢文調の名文で描いた作品。
ベートーベン作曲の交響曲第5番の通称。1808年完成。第1楽章冒頭の主題を、作者が﹁運命はかく戸をたたく﹂と説明したと伝えられることからの名。
︽原題、︿フランス﹀Les Destineées︾ビニーによる詩集。著者没後の1864年に刊行。運命詩集。
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うん‐めい【運命】
(一)[1] 〘 名詞 〙 人間の意志を超えて、幸福や不幸、喜びや悲しみをもたらす超越的な力。また、その善悪吉凶の現象。巡り合わせ。運。命運。転じて、幸運、寿命、今後の成り行き。
(一)[初出の実例]﹁身体尤吉也、運命必可レ余二七十一﹂(出典‥中右記‐寛治七年︵1093︶一二月四日)
(二)﹁人の運命の傾かんとては、必ず悪事を思ひ立ち候ふ也﹂(出典‥平家物語︵13C前︶二)
(三)[その他の文献]︹南史‐羊玄保伝︺
(二)[2]
(一)[ 一 ] ベートーベン作曲の交響曲第五番ハ短調の日本での通称。作曲者が冒頭の第一主題を﹁運命はこうして扉(とびら)をたたく﹂と説明したと伝えられることによる。
(二)[ 二 ] 小説集。国木田独歩作。明治三九年︵一九〇六︶刊。﹁運命論者﹂﹁酒中日記﹂﹁巡査﹂﹁馬上の友﹂﹁画の悲み﹂﹁悪魔﹂﹁非凡なる凡人﹂﹁空知川の岸辺﹂﹁日の出﹂の九編を収める。
(三)[ 三 ] 歴史小説。幸田露伴作。大正八年︵一九一九︶発表。中国明朝の建文帝の史実に基づく、歴史文学の傑作。
運命の語誌
(1)漢籍にある﹁運命﹂は、﹁めぐりあわせ﹂﹁うまれつき﹂﹁天命﹂などの意味を持つが、日本では、挙例の﹁中右記‐寛治七年一二月四日﹂にある﹁寿命﹂の意の用法のように、独自の意味変化も見られる。
(2)﹁平家物語﹂では﹁運命ひらく﹂﹁運命かたぶく﹂など、﹁幸運﹂の意の用法が優勢である。
(3)西洋からもたらされた運命論と結び付き、現代では、﹁宿命﹂か﹁行く末﹂の意味で用いられる。
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運命 (うんめい)
fate
destiny
一般に,人間に与えられた逃れることのできないさだめを意味する語。宿命とほぼ同義。ラテン語の運命は︿ファトゥムfatum﹀だが,そのもとの意味は︿言われたこと﹀であり,運命という考えは予言や言葉の魔力に対する信仰に裏づけられて発生したらしい。例えば誕生をつかさどる女神は生まれた子どもの︿未来に﹀ついて発言し,その未来を︿定める﹀のであった。だが,なんといっても運命の観念を発展させ,展開したのはギリシア人たちであった。ギリシア語では運命は︿モイラmoira﹀と呼ばれたが,その古い意味はおのおのに︿割り当てられた分けまえ,持ち分﹀である。ちなみにこの語と関係のある動詞︿メイレスタイmeiresthai﹀は︿分かちもつ,割り当てられる﹀を意味する。例えばホメロスでは,全宇宙の配分のときに抽籤によって天空と海原と地下の国は,それぞれゼウスとポセイドンとハデスに割り当てられ,それぞれの神に特有のモイラ︵持ち分︶となった。こうしたモイラにもとづいて神々3者は同等の権能をもつことになったが,もしその権能をそれぞれのモイラを越えて駆使することがあれば,それは越権行為である。神々もおのおのに固有の領分,すなわちモイラの中に身を保持しなければならなかったのである︵︽イーリアス︾︶。
モイラにつきまとうこうした倫理的義務のニュアンスは,モイラが逃れることのできない人の︿さだめ﹀,つまり運命を意味するようになってからも完全にぬぐい去られなかったようである。さだめとしてのモイラは絶対的意味での不可避性を意味しなかったと思われるのである。例えばヘロドトスによると,クーデタによって成立したリュディア王朝は第5代のクロイソス王の時代に先祖の罪を償い,没落するさだめになっていた。だがデルフォイの神殿に多額の寄進をしたこの王の敬虔な志を認めたためか,アポロンはリュディアの都サルディスの陥落を既定の時期よりも3年間延期した。しかも殺されるはずであった王は命を救われ,ペルシア王に仕える賢臣となった。すなわち,︿さだめられしモイラ︵運命︶なれば,神とても逃るるあたわず﹀というのがたてまえではあったが,アポロンはクロイソスの運命を大幅に緩和したのであった︵︽歴史︾︶。このようにギリシア人の運命についての考えは,現代人から見ればあいまいだということになるだろうが,モイラの類似語で︿必然﹀と訳されるギリシア語の︿クレオンchreōn﹀や︿アナンケanankē﹀の場合も事情は同じであって,︿ソクラテス以前の哲学者たち﹀の用例を見ると,これらの語は絶対的必然性absolute necessityではなくて一定のきまり,規準を意味している。したがって,しいて必然という訳を与えるにしても,それはあいまいな意味での必然と見なすべきである。ある現代の学者の説によれば,︿クレオン﹀にはドイツ語のsollen︵べきである︶,brauchbar sein︵必要である︶という意味が含まれているのである。ところで,あいまいさの問題はまだある。モイラは早くもヘシオドスにおいて複数の女神︵モイライMoirai︶として神格化され,それぞれクロトKlōthō︵紡ぐ者︶,ラケシスLachesis︵籤の配置者︶,アトロポスAtropos︵曲げることのできぬ者,動かしがたい者︶と呼ばれているが,問題は運命,あるいは運命の女神たちと神々との関係,とくに主神ゼウスとの関係である。ゼウスもときには運命の力に従わざるをえないようにも見えるが,ヘシオドスやピンダロス,悲劇詩人アイスキュロスなどは運命の女神たちとゼウスとの同盟を歌った。そしてこうした傾向の中から運命の女神たちと︿運命の女神たちの指導者Moiragetēs﹀としてのゼウスをともにあがめる祭式が前5世紀に発生した。
運命は前4世紀以後になると主として︿へイマルメネheimarmenē﹀︵hē heimarmenē moira,さだめられた運命の意︶という語によって表現されるようになり,同時に決定論的な色彩を強めた。それは必然的な原因の連鎖と見なされるようになった。個人の全生涯も,世界全体のなりゆきも,この鉄のような必然の鎖から脱れられないようにさだめられていると人々は考えたが,この考えを代表したのはストア学派の哲学者たちであった。彼らの手によって初めて運命にまつわりついていたあいまいさが一掃されたとも,ある意味では言えるかもしれない。だが,にもかかわらず彼らはこの非人間的な,非情な運命を積極的に甘受し,それに自発的に耐え抜こうとした。そして,そこに人間の自主独立を,すなわち自由を見いだそうとした。ストアの徒ほど自由を強調した哲学者はギリシアには見当たらないのである。現代人はこうした運命と自由との両立は不可解だろうが,われわれとしては,この両立の場面にモイラの最初からのあいまいさ,あるいはそのもともとの倫理的意味の痕跡を認めるべきだろう。ギリシア研究者としてのニーチェはギリシア悲劇やヘラクレイトスの哲学により強く触発されたのだろうが,その︿運命愛︵アモル・ファティamor fati︶﹀の思想にはストアの思想と同じ型が見いだされるのではあるまいか。
→偶然 →決定論
執筆者‥斎藤 忍随
運命 (うんめい)
幸田露伴の歴史小説。1919年(大正8)《改造》に発表。中国の明朝2代皇帝の建文帝が,叔父の燕王に攻められて都を捨て,燕王が3代永楽帝となる政変劇の経緯を,史書にもとづいて精細にあとづけた歴史小説。作者が過去の資料を任意に取捨し,過去の人物に思いつきのせりふをしゃべらせるのが歴史小説の常道だとすれば,これはその客観的な叙述においていわゆる小説らしい趣向をほとんど欠いている。しかし歴史の虚実に対する作者の包括的でしかも透徹した認識が,雄大な漢文脈の行文を通じて一貫して輝き続けており,その輝きはなまじいな歴史書や小説のとうてい及びがたいほどに強烈な文学的感銘を与える。露伴の博識と精神力との結合が生みだした,もっとも緊張度の高い作である。
執筆者:川村 二郎
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運命【うんめい】
ベートーベンの交響曲第5番ハ短調。4楽章より成り1808年完成。同年,︽田園交響曲︾とともにウィーンで作曲者の指揮により初演。標題は,冒頭のモティーフについて作曲者が︿このように運命は扉をたたく﹀と言ったという逸話に由来し,同様のモティーフは同時期の傑作︽ピアノ・ソナタ第23番・熱情︵アパッショナータ︶︾︵熱情ソナタ。1805年︶でも用いられている。→トロンボーン
→関連項目フォルトゥナ
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運命
うんめい
幸田露伴の長編小説。 1919年発表。中国の明史に取材した壮大な構想の歴史小説。明の太祖朱元璋の死後,孫の建文帝が即位するが,伝承を信じた叔父燕王は武力によって帝位を奪い永楽帝となる。しかし,永楽帝は国内の治安と外敵の脅威に苦しんで心の休まる日もなく,ついに戦場で討たれて死ぬ。他方,帝位を追われた建文は僧となって山野を放浪するが,ついには高僧と仰がれ,悠々自適の生涯を過して90歳の天寿をまっとうする。両者の生の対照を鮮かに描き分けながら,その間に,人知をこえた﹁数﹂のはからいを探り,天命の帰趨を彷彿する。漢文脈を多用した文体も雄渾で,露伴独自の東洋的な人間観,宇宙観を集大成して,大正文壇にこの作家の健在を示した傑作である。
運命
うんめい
fate
われわれの意志をこえたところでわれわれの行為や存在を支配している力。ギリシア語 moiraは各人の分け前,ラテン語 fatumは神によっていわれたこと,フランス語 destinは定められたこと,ドイツ語 Schicksalは送られたことを意味する。その超越的力はギリシアやローマの神話で神格化され,人間の熟慮を裏切る不条理性は自由との葛藤として悲劇のテーマを形成してきた。またこの不条理性は,人間に対して先在的なものであるキリスト教の神の摂理から運命を区別する徴表である。
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普及版 字通
「運命」の読み・字形・画数・意味
【運命】うんめい
うん。︹宋書、羊玄保伝︺人の仕宦は唯だ才に須(ま)つのみに非ず。然れども亦た
命に須つ。
字通﹁運﹂の項目を見る。
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運命〔交響曲〕
ドイツの作曲家L・v・ベートーヴェンの交響曲第5番(1807-1808)。原題《Schicksal》。名称はベートーヴェン自身が第1楽章の冒頭部について「運命はこのように扉をたたく」と語ったという逸話に由来する。交響曲第6番『田園』とほぼ同時期に作曲された。
運命︹J-POP︺
日本のポピュラー音楽。作詞と歌は女性歌手、倖田來未(くみ)。2006年発売。作曲‥日比野裕史。同年公開の映画﹁大奥﹂の主題歌。
運命〔戯曲〕
堀田善衛(よしえ)による戯曲。初演は劇団民芸(1959年)。同年、第5回新劇戯曲賞(のちの岸田国士戯曲賞)の候補作品となる。
運命︹小説︺
米国の作家ロス・マクドナルドの長編小説︵1958︶。原題︽The Doomsters︾。﹁リュウ・アーチャー﹂シリーズ。
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運命
個人の人生に訪れる、見えない大きな流れのこと。一般的に、個人の努力や行いで変えられる流れを「運命」と呼び、前世からのカルマとして変えることができない流れを「宿命」と呼ぶ。
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世界大百科事典(旧版)内の運命の言及
【偶然】より
…つまり,ある偶発的な出遇いがその系列によって内面化され,その系列の新たな展開の出発点となり,いわば必然に転じられるようなとき,特にそれが偶然として意識されるのである。偶然とは〈運命の先駆形態〉(W.vonショルツ)であるとか,運命とは〈内的に同化された偶然〉(ヤスパース)であるといったふうに,しばしば偶然が運命の意識と結びつけて論じられるのもそのゆえである。しかも,偶然の出遇いを内的に同化し運命に転じるには,その当事者が他に開かれた自由な存在でなければならない。…
【天命】より
…運命をいう。原義は天の神の命令という意味であったが,天の命令は人力ではいかんともしがたいものであるところから,人間の外にあって,人間のあり方を規定する力を意味するようになった。…
【星】より
…また中国でも,黄道を月の毎月の旅から[二十八宿]に区分し,全天の星をそれぞれに付属させて,皇帝,后妃︵こうき︶を初め多く宮廷関係の名をつけた。こうして五惑星がめぐっていく星座,[星宿]を観察し,またその通路にあたらぬ部分でもそこの星々の光,またたきなどを見て,国家,国君および個人の運命をも占った。西洋の天文学はやがて占星術を母胎として生まれたが,中国では久しく迷信から脱しきれず,日本へもこれが陰陽道として伝わり,天文学の発達を妨げた。…
【モイラ】より
…ギリシア神話の運命の女神。その名は〈割当て〉の意で,一般に3人の老女神とされ,複数形はモイライMoirai。…
※「運命」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」