キャブレター
概要[編集]
種類[編集]
ベンチュリの数[編集]
ベンチュリの方向[編集]
- ホリゾンタルドラフト(サイドドラフト)
- 吸入空気がキャブレター側面より入り、反対側へ混合気が送り出される。オートバイや船舶用船外機でもこの形式が多い。
- アップドラフト
- 吸入空気がキャブレター下部より入り、上方へ混合気が送り出される。自動車用としては1930年代以前の古いエンジンで多く利用された。当時は直列式サイドバルブエンジンに高い位置のタンクからポンプなしで燃料を重力供給する手法が多く採られており、エンジン脇の低位置にキャブレターを置き、サイドバルブエンジンのインテークに混合気を送るレイアウトが多く、これにアップドラフト式の構造が適していたことによる。気化効率やレスポンスにおいてサイドドラフトやダウンドラフトに大きく劣るため、1940年代以降は自動車用としては廃れていった。現在は、一部の航空機用エンジンでこの形式が使われている。
- ダウンドラフト
- 吸入空気がキャブレター上部より入り、下方へ混合気が送り出される。キャブレターの配置はエンジン直上または側面高位置となり、燃料ポンプを要するが、効率やレスポンスに優れることから、V型8気筒エンジンやOHV方式の普及が進んだ1940年代以降のアメリカ製乗用車に広く採用され、20世紀後半における自動車用の世界的主流となった。1980年代以降は燃料噴射装置が一般化したため姿を消していったが、軽自動車の廉価グレードでは1990年代の中盤まで、小型普通自動車のごく一部の商用車では2000年代の初頭まで、それぞれキャブレター仕様が存在していた。
ベンチュリ形式の種類[編集]
- 固定ベンチュリ式
- スロットル操作によらずベンチュリの開口面積が常に一定の方式である。
- 自動車用としては高性能エンジン用のウェーバーやソレックスをはじめ、多くのアメリカ車と日本車の一部のダウンドラフトキャブレターにみられる。今日ではこのタイプのキャブレターを製造するメーカーは少なくなっているが、日本国内ではオーイーアール(OER)が旧式のソレックスなどの更新向けにこのタイプのキャブレターの製造販売を続けている。オートバイにおいては、ハーレーダビッドソンが1989年までこの形式のキャブレターを使用し続けていた。また、戦前から戦後間もなくにかけて使用されたリンカート(Linkart)キャブレターは、日本製の陸王でも日本気化器のライセンス生産品が搭載されていた。しかし、陸王が倒産した1960年代からは、日本製オートバイではこの形式のキャブレターが採用されることはなくなった。(四輪では固定ベンチュリー式、二輪では可変ベンチュリー式が一般的)
- 可変ベンチュリ式
燃料チャンバーの種類[編集]
電子制御式キャブレター[編集]
アメリカや日本では1980年代前半から、O2センサーの空燃比信号に合わせて、ECUによって制御される電子制御式キャブレター(ECC)[6]が比較的安価なNA車を中心に広まった。 きっかけとなったのは、アメリカでのマスキー法の改正やCAFE(企業別平均燃費規制)の開始、および昭和53年排出ガス規制が1978年︵昭和53年︶に日本で施行されたことであった。それまでの排ガス浄化装置はペレット触媒に比べると高価で耐久性に劣り、排気効率が悪い方式(サーマルリアクターなど)が主流であった。日本では翌1979年︵昭和54年︶に省エネ法が制定され、自動車各社は三元触媒を基礎にO2センサーによるフィードバック制御を行う方式に転換し、燃費と排ガス対策を両立できるようになった。 ECCよりも以前に電子制御式燃料噴射装置(EFI)は登場していたが、ECCは既存のキャブレター仕様の部品構成を大きく変える必要がなく、インジェクターや燃料ポンプなどの高価な電子機器も必要ないため、EFIと比較して安価であった。また、ECUが故障しても走行不能には陥らないことも長所であった[7]。ECCはこうした長所を背景に、1980年代の各国の排ガス規制に十分対応できたことから、廉価な車両を中心に幅広く採用された。しかし、1990年代中盤以降になると燃料噴射装置の価格が量産効果により大幅に低下し、排ガス規制も更に強化される傾向となったことから、こうした電子制御式キャブレターは現在では採用されなくなった。自動車等[編集]
メカニズム[編集]
自動車やオートバイに用いられるキャブレターは広い範囲のエンジン回転速度、あるいは広い範囲の負荷に対応するため、複雑な機能が求められる。スロットル開度に応じて適正な量の混合気を生成するだけでなく、エンジンの負荷や状態に応じて空気と燃料の混合比︵空燃比︶を適切に調整する機構が組み込まれる。また、排出ガス規制が適用されるようになると、排ガス中の有害成分の濃度を抑えるように補正する機能も付け加えられるようになった。 キャブレターの基本構造の1つである﹁ジェット﹂は、機能に応じて異なる位置や径のものが備えられていて、﹁アイドリング系統﹂や﹁スロットル系統﹂などと呼び分けられている。一部の機構はスロットル開度に応じて動作するように、リンク機構や吸入負圧を用いたダイヤフラムアクチュエータで作動するほか、電子制御キャブレターではサーボ機構により作動する。メイン系統[編集]
メイン系統はスロットル系統とも呼ばれ、中速回転︵部分負荷域︶から高速回転︵高負荷域︶で燃料を送り出す経路で、メインジェット、ニードルジェットホルダ︵メインエアブリードと一体︶、ジェットニードル、ニードルジェットおよびメインエアジェットで構成される。ジェットニードルは細い円錐状の部品で、円筒形のニードルジェットホルダに差し込まれている。スロットルバルブの開閉に応じて、ジェットニードルが上下してニードルジェットホルダとの隙間が変化し、送り出される燃料の量が変わる。 キャブレターによっては、1個以上の小径なブースターベンチュリ︵追加ベンチュリ︶が、メインベンチュリの内部に設置され、スロットルバルブ微動時におけるメインベンチュリ流速変化の鈍さを補っている。アイドリング系統[編集]
スロー系統とも呼ばれ、アイドリングなどの低速回転時に燃料を送り出す経路で、スロージェット︵アイドリングジェット、パイロットジェット︶、スロージェットホルダ、バイパスポート、アイドルポート、スローエアジェットで構成される。スロットルバルブが完全に閉じている位置からわずかに開かれるとき、スロットルバルブの下流に高速な気流が発生するため、スロージェットはこの位置に設けられる。 スロージェットの流路面積は変化しないが、スロットルバルブが開かれるとスロージェット付近の流速が低下して、燃料が吸い出される作用が小さくなる。すなわち、中高速回転ではアイドリング系統は働かなくなる。 スロットルバルブをアイドリングに適した開度に固定するための機構として、アイドリングアジャストスクリューと呼ばれるネジが備え付けられている。このネジを締め込むことでスロットルバルブはより開き︵アイドリング回転数が上がる︶、緩めることでスロットルバルブはより閉じる︵アイドリング回転数が下がる︶。パワージェット[編集]
パワージェット︵パワーバルブ︶は、高回転高負荷時にメインジェットからの燃料供給を補助する機構である。スロットルバルブ全開付近の領域で空燃比を濃くして出力を高くする。同時に、空燃比を高くすると混合気の比熱比が小さくなるうえ、燃料の気化熱が増えるので燃焼室の過熱を防ぐ︵燃料冷却という︶。これにより、プレイグニッションやデトネーションを防ぐ働きがある。パワージェットは、吸気管内の圧力とスプリングで開閉制御されるバルブで、吸気管内の負圧が強い時は閉じており、スロットルバルブが開いて負圧が弱くなると開くようになっている。 パワージェットはそのエンジンの特性に応じて補正する燃料量が厳密に設定されるため、オートバイ用キャブレターなどの場合にはあらかじめ設定が固定されており、一部の市販レーサー車両[8]を除いて調整が不可能な場合が多い。 初期の2ストロークエンジンに用いられたパワージェットの中には、4ストロークエンジンのパワージェットとは逆に、吸気管内が強い負圧状態のときに開き、弱くなると閉じる設定のものが用いられているキャブレターが存在した。これは、全開領域で混合比がやや薄めになることで、より高回転まで回転が伸びていく2ストロークエンジンの特性を活かしたものである。このような動作をするキャブレターの場合には、常用回転域では常にパワージェットから燃料が供給されるため、メインジェットはパワージェットがない同サイズのキャブレターよりもやや薄めの番手が選択される。しかし、エンジン高回転域で過度にパワージェットからの燃料供給を減らすとエンジン焼き付きのリスクが大きくなる。近年の2ストロークエンジンのパワージェットはもっとシンプルな構成であり、バルブはなく、フロート室から上流側の天井部分にバイパスが設けられているだけである。これにより、吸入負圧が大きくなったときのみ、燃料が吸い出される。 いくつかの固定ベンチュリー型キャブレターではパワージェットの代わりとなる高回転高負荷時の増量機構として、可変ベンチュリー型のジェットニードルと同じメータリングロッドやステップアップロッドと呼ばれる機構を用いるものもある。メータリングロッドとは全体がテーパー状に加工されている棒であり、メインジェットにある燃料通路孔に差し込まれている。メインジェットの流路面積は不変であるため、メータリングロッドを出入りさせると燃料通路の断面積を変化させることができる。メータリングロッドは吸入負圧により上下するバキュームピストン︵ダイアフラム︶もしくはスロットルリンケージに取り付けられており、スロットルバルブを開くとメインジェットから強制的に引き抜かれて、メインジェットの燃料流量を次第に増量していく。加速ポンプ[編集]
パワージェットが高回転域での全般的な燃料増量補正を行うのに対して、加速ポンプは加速時などでスロットルバルブが急速に開かれた際に補正する。
チョーク系統[編集]
スターター系統とも呼ばれ、エンジン始動時に空燃比を濃くする機構である。チョークの代わりにティクラーが用いられる場合もある。自動車用のキャブレターではオートチョーク機構が組み込まれている場合もあり、オートチョークを動作させる操作としてエンジンを始動する前にアクセルを数回踏むことがユーザーマニュアルに記載されていた。
その他[編集]
一部の車両は冷間始動時の始動性向上を目的に初期燃料気化促進装置(EFE)と呼ばれる機構を持つものがある。これはインテークマニホールドとキャブレターの間に挟み込まれる格子状の電熱ヒーターであり、燃料の気化をより促進する効果がある。
キャブレターと過給器(キャブターボ)[編集]
キャブレターに過給器を取り付ける場合には、スロットルバタフライがキャブレター本体に内蔵されている関係上、通常は過給器とインテークマニホールドの間にキャブレターが置かれる。キャブレターのフロートチャンバーにもブーストが掛かれば、ベンチュリにブーストが掛かってもフロートの動作には問題はない
V型8気筒エンジンにスーパーチャージャーを搭載する場合は過給器の後ろにキャブレターを取り付けるレイアウトに比べて構成上バックタービンが発生しないメリットがあるとされるが、過給器内部に混合気が吹き込まれ圧縮される。
キャブレターの調整[編集]
混合気における空気と燃料の比率は空燃比と呼ばれ、たとえばガソリンの場合は14.7が理論空燃比であるが、環境条件によって異なる空気密度に応じて燃料を送る量を調整したり、運転条件によっては理論空燃比とは異なる空燃比の混合気を送る必要がある。キャブレターでは燃料や空気の流路を調整することで状況に応じて空燃比を調整できる。航空機の場合は高度によって空気密度が変化するため、操縦室内に空燃比計と共にキャブレターを調整する操作盤が設けられていることも多い。メイン系統ではジェットニードルの固定位置を変化させてニードルジェットホルダとの隙間を変化させたり、メインジェットを内径の大きな物に交換したりする。アイドリング系統ではパイロットスクリュなどのニードルバルブで流量が調整される。場合によってはブースターベンチュリを交換したり、フロート油面の調整が行われる。1つのエンジンに複数の負圧型キャブレターが装備されている場合は負圧計を用いて、すべてのキャブレターでスロットルバルブが同調するように調整される。
キャブレターの空燃比が最適かどうかを確認するためには、ガス分析装置を使用して排気ガスに含まれる一酸化炭素、炭化水素および酸素含有量を測定する方法があるが、点火プラグの碍子や電極の焼け色を見ることである程度まで空燃比を推測することが可能である。もしもプラグの碍子が乾燥して黒く煤けている場合には燃調が濃すぎることを示し、白か薄いグレーを示している場合には燃調が薄すぎることを示していて、狐色か茶色に近いグレーが最適な燃焼状態とされている。あるいはガラス状の透明な碍子を持つ点火プラグを通して燃焼室の炎を直接目視する方法がある[9]。
特有の不具合[編集]
主なキャブレター製造メーカー[編集]
日本[編集]
●愛三工業 ●主にトヨタ向け︵ソレックスなど特殊品を除き全量︶ ●ニッキ ︵旧 日本気化器製作所︶ ●リンカート式カーブレーター︵米国Linkertのライセンス生産品、陸王OEM向け。︶ ●ケーヒン ●FCR-MX モトクロス・エンデューロ用 ●FCR ●PE / PJ / PWK / PWM 2サイクルエンジン ●PD ●PC ●PB ●NCV 小型二輪車用CVキャブレター ●CV CVK 中、大型二輪車用CVキャブレター ●CVHD/ハーレー・ダビッドソンOEM。⌀32, ⌀30︶ ●固定ベンチュリ ●KEIHIN H-D︵1989年までのハーレー・ダビッドソンOEM︶ ●ミクニ ●TM ●TMR ●VM ●BW / BV 産業用・汎用 ●BS / BST / BSR 二輪・ATV用 ●BNフロートレス 水上バイク用 ●ミクニ・ソレックス︵自動車向け固定ベンチュリキャブレター︶ ●ヨシムラ︵ミクニ製やケーヒン製を改造したもの︶ ●TM-MJN︵⌀28, ⌀26, ⌀24︶ ●TMR-MJN ●FCR-MJN︵⌀39, ⌀28︶ ●日立製作所︵現・日立オートモティブシステムズ、主に日本車向けSUキャブレターを製造していた︶ ●テイケイ気化器︵TKキャブレターの商品名でオートバイや自動車の純正キャブレターを製造している︶ ●オーイーアール(OER) ︵現在でも自動車向け固定ベンチュリキャブを製造販売する数少ない国産メーカー︶ヨーロッパ[編集]
●Pierburg︵ボルボ、フォルクスワーゲン、アウディの純正キャブレターを製造していた︶ ●Villiers︵英国のオートバイや小型エンジン向けキャブレターメーカー︶ ●ウェーバー︵イタリアのメーカー。現在はスペインで製造。マニエッティ・マレリ傘下︶ ●アマル︵英国のオートバイ向けキャブレターメーカー ︶ ●ゼニス︵英国のメーカー。ストロンバーグ式キャブレターの元祖でもある︶ ●スキナーズ・ユニオン︵英連邦及びヨーロッパ圏で幅広く使用されたSU式キャブレターの本家本元︶ ●デロルト︵イタリアのメーカー。イタリア製自動車やオートバイに広く採用される︶ ●ソレックス︵フランスのメーカー。日本では高性能キャブレターの代名詞的な存在だが、現在は消滅︶アメリカ[編集]
●エーデルブロック ︵高性能キャブレターを独自開発するチューニングメーカー︶ ●Rochester︵ウエーバー、マニエッティ・マレリのアンダーライセンスの元でゼネラルモーターズ向けキャブレターを製造︶ ●Carter ︵クライスラー、フォード、GM、IHC、アメリカン・モーターズ、スチュードベーカーなどの多数のメーカーの純正キャブレターを製造していた︶ ●Bendix︵Carterと同じく米国の多数のメーカーの純正キャブレターを製造していた︶ ●Bing Power Systems︵オートバイ、モペッド、ボート、航空機用のキャブレターを製造するメーカー︶ ●テカムセ・プロダクツ︵草刈機・除雪機などの小型エンジン用キャブレターを製造︶ ●Briggs & Stratton︵草刈機・除雪機などの小型エンジン用キャブレターを製造︶ ●Walbro and Tillotson︵小型エンジン用キャブレターを製造︶ ●ホーリー︵フォードやオールズモビルにキャブレターを供給した米国の老舗メーカー︶ ●Demon Carburetion︵高性能ダウンドラフトキャブレターを製造するメーカー︶ ●Lectron Fuel Systems︵独自のフラットバルブキャブレター[10]を製造するメーカー︶ ●Autolite︵フォードに1967年から1973年までキャブレターを供給︶その他[編集]
●Argelite︵ホーリーとマニエッティ・マレリのアンダーライセンスの元で、アルゼンチン市場にキャブレターを出荷するメーカー︶脚注[編集]
特許関係[編集]
アメリカ[編集]
- アメリカ合衆国特許第 610,040号 — Carburetor — Henry Ford
- アメリカ合衆国特許第 1,750,354号 — Carburetor — Charles Nelson Pogue
- アメリカ合衆国特許第 1,938,497号 — Carburetor — Charles Nelson Pogue
- アメリカ合衆国特許第 1,997,497号 — Carburetor — Charles Nelson Pogue
- アメリカ合衆国特許第 2,026,798号 — Carburetor — Charles Nelson Pogue
- アメリカ合衆国特許第 2,214,273号 — Carburetor — J. R. Fish
- アメリカ合衆国特許第 2,982,528号 — Vapor fuel system — Robert S. Shelton
- アメリカ合衆国特許第 4,177,779号 — Fuel economy system for an internal combustion engine — Thomas H. W.
その他[編集]
- G.B. Рatent 11119 — Mixing chamber — Donát Bánki
参考文献[編集]
- Know Your Carburetor. Popular Mechanics, Jul 1953.
- American Technical Society. (1921). Automobile engineering; A general reference work. Chicago: American technical society.
- Lind, W. L. (1920). Internal-combustion engines; Their principles and applications to automobile, aircraft, and marine purposes. Boston: Ginn.
- Hutton, F. R. (1908). The gas-engine. A treatise on the internal-combustion engine using gas, gasoline, kerosene, alcohol, or other hydrocarbon as source of energy. New York: Wiley.