秋夜長物語
秋夜長物語︵あきのよながものがたり︶は、僧侶と稚児との男色を主題とする稚児物語の代表作。男色物の初めとも言う。1巻。著者は不詳。詞章に﹃太平記﹄︵1370年代成立︶の影響がみられること、最古写本が永和三年︵1377年︶であることから[1]、14世紀中頃の成立か[2]。
あらすじは、後堀河天皇の時代、瞻西上人︵せんさい・せんせい、? - 1127年[2]︶がまだ叡山で桂海律師であったころ、花園左大臣の子で、三井寺聖護院の稚児、梅若とちぎりをむすぶが、これが原因で延暦寺と三井寺の抗争が起こる。生家・三井寺を焼かれた梅若は入水自殺し、これを知った桂海は悲しむが、梅若が実は石山観音の化身で、逆縁により桂海を発心に導くことが目的であったと知り、菩提心を深め、雲居寺を開く[3]。瞻西上人は実在の人物で、雲居寺大仏を造立したことで知られる。
最後の場面を描いた断簡 ﹃秋夜長物語絵巻断簡﹄ メトロポリタン美 術館蔵
14世紀以降の写本が複数伝わっているほか、15世紀以降には絵巻や絵本も複数作成された。現在伝わる絵巻には以下がある。
●メトロポリタン美術館所蔵︵幸節静彦旧蔵︶、3巻‥上巻詞・絵各6段、中巻詞・絵各7段、下巻詞・絵各7段、1400年代頃
●永青文庫所蔵、2巻 - 15世紀中頃
●東京大学文学部国文学研究室所蔵、3巻 - 寛文~元禄期︵17世紀後半から18世紀初頭︶
●田中親美氏旧蔵、1巻︵現在は所在不明︶
更に江戸時代には刊本としても流布した。
●古活字本 - 元和の頃︵17世紀前半︶か。複数種あり。
●古印本 - 寛永19年︵1642年︶。
●絵入本 - 年号不載、書風から考えるに万治、寛文の頃︵17世紀後半︶
●絵入新版 - 正徳6年︵1716年︶
天正以前︵16世紀後半︶の写本を持っていた柳亭種彦は、﹃群書類従﹄が拠った寛永本は誤りが多いのに対し、正徳本は古態を残していると評している。活字本も﹃群書類従﹄をはじめ、複数刊行されている。
参考文献[編集]
- 金有珍 (2021-03-29). “『秋夜長物語』論――石山観音信仰圏の物語として――”. 国文学研究資料館紀要 文学研究篇 (47): 147 - 171. ISSN 2436-3316.
- 藤田紗樹 (2018-02-28). “メトロポリタン美術館所蔵「秋夜長物語絵巻」の基礎的考察”. 千葉大学大学院人文公共学府研究プロジェクト報告書 (千葉大学大学院人文公共学府) (333): 52-64. ISSN 1881-7165 .
- 柳亭種彦「好色本目録」(国書刊行会編 『新群書類従』第七書目、所収)
脚注[編集]
外部リンク[編集]
- 国文学研究資料館・高乗勲文庫蔵、永和3年写本(最古写本)
- 慶應義塾大学蔵・松寿丸天文9年(1540)写)
- 慶應義塾大学蔵・古活字本
- 東京大学総合図書館所蔵 霞亭文庫(寛永本)
- メトロポリタン美術館蔵・絵巻物(15世紀)