改訂新版 世界大百科事典 「カニシカ」の意味・わかりやすい解説
カニシカ
Kaniṣka
古代インド,クシャーナ朝最盛期の王。在位は一説によると130-155年ころ。生没年不詳。即位年については,78年説,128年説,144年説など異説が多い。クシャーナ朝初期の両カドフィセース王とは家系を異にしていたらしいが,両王のあとを受けて領土を広げ,ガンダーラ地方を本拠とし中央アジアから中部インドに及ぶ大帝国を建設した。この王の治績は主として仏教の伝説のなかに伝えられている。それによると,王ははじめ仏法を軽視していたが,のちに熱心な仏教信者となり,首都プルシャプラ︵現,ペシャーワル︶の郊外に大塔を建て,またカシミールにおける仏典編集事業︵いわゆる第4結集︶を援助したという。さらに中部インドを征服したさいに,この地の王から万金と交換に仏教詩人アシュバゴーシャ︵馬鳴︵めみよう︶︶を獲得したと伝えられ,また名医として名高いチャラカCarakaが王の宮廷で活躍したともいわれる。このうち大塔建立は,王の名を刻んだ舎利容器の発見によって史実であることが判明している。しかし,貨幣に刻まれた神像や遺跡から,王とその一族は,イラン系の神々やヒンドゥー教のシバ神なども信仰していたことがわかる。帝国の経済的発展を背景に,カニシカは大量の金貨を発行した。この王の即位年を紀元とする暦が,約1世紀の間,後継諸王によって用いられた。
執筆者‥山崎 元一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報