先（読み）サキ

デジタル大辞泉 「先」の意味・読み・例文・類語

さき【先／▽前】

 
1元から遠い、突き出ている部分。先端。突端。﹁岬の―﹂﹁針の―で突く﹂﹁鼻の―﹂
2 長いものの末端。はし。﹁ひもの―﹂
3 続いているものなどの一番はじめ。先頭。﹁列の―﹂﹁みんなの―に立って歩く﹂
4 ある点や線を基準にして、その前方。﹁仙台から―は不通﹂﹁三軒―の家﹂﹁駅は目と鼻の―だ﹂﹁―を行く車に追いつく﹂
5 金額・数量などが、ある額・量を超えること。﹁千円から―の品はない﹂
6 継続している物事の残りの部分。﹁話の―を聞こう﹂﹁―を急いでいる﹂
7 行き着く所。目的の場所。﹁―へ着いてからのことだ﹂﹁行く―﹂
8 未来のある時点。将来。前途。﹁―を見通しての計画﹂﹁―の楽しみな青年﹂
9 時間的に前。あることより前。﹁代金を払うのが―だ﹂﹁ひと足―に帰る﹂⇔あと。
10 現在からそう遠くない過去。以前。﹁―の台風の被害﹂﹁―の大臣﹂
11 順序の前の方。﹁名簿の―の方に出ている﹂﹁だれが―に入りますか﹂﹁お―にどうぞ﹂⇔あと。
12 優先すべき事柄。﹁地震のときは何より火を消すのが―だ﹂﹁あいさつより用件が―だ﹂
13 交渉の相手方。先方。﹁―の出方しだいだ﹂
14 相場で、﹁先物﹂の略。
15 行列の先導をする役。さきおい。さきばらい。
﹁―なるをのこども、疾(と)う、促せや、など行ふ﹂︿かげろふ・上﹀
16 ﹁先駆け﹂の略。先陣。
﹁内々は―に心を掛けたりければ﹂︿平家・九﹀
17 ﹁幸(さい)先(さき)﹂の略。
﹁其様な―の悪い事をおしゃるぞ﹂︿虎寛狂・河原太郎﹀
[下接語]明かり先・宛(あて)先・後(あと)先・売り先・売れ先・襟先・縁先・生い先・老い先・衽(おくみ)先・櫂(かい)先・肩先・門(かど)先・気先・切っ先・口先・下馬先・玄関先・剣先・小手先・此(こ)の先・幸(さい)先・潮先・仕事先・舌先・正(しょう)先・太刀先・旅先・使い先・筒先・勤め先・爪(つま)先・褄(つま)先・手先・出先・手羽先・得意先・嫁ぎ先・突(とつ)先・届け先・供先・取引先・庭先・軒先・刃先・鼻先・鼻の先・馬場先・春先・筆先・舳(へ)先・ペン先・棒先・矛(ほこ)先・火(ほ)先・穂先・真っ先・水先・店先・胸(むな)先・目先・矢先・槍(やり)先・行き先・行く先・指先︵ざき︶先先
[類語]︵1︶先端・突端・端・頭(あたま)・末・末端・先っぽ・ヘッド・端(はな)・端(はし)っこ・突(とっ)先(さき)・突(とっ)端(ぱな)・一(いっ)端(たん)／︵4︶前(まえ)／︵8︶後(あと)・後(のち)・後(あと)後(あと)・後(のち)後(のち)・先先・直後・後(ご)・事後・その後(ご)・以後・爾(じ)後(ご)・以降・今後・将来・未来・近未来・末・行く末・末末・前途・向後・自今・来たる・目先・行く先・行く手・行く行く・行方・先行き・生い先・後年・他年・この後・これから・向こう  
 

せん︻先︼﹇漢字項目﹈

 
﹇音﹈セン︵呉︶︵漢︶　﹇訓﹈さき　まず
﹇学習漢字﹈1年
︿セン﹀
1 空間的にいちばん前の方。﹁先端・先頭・先導・先方﹂
2 時間的に早い方。ある時点より前。また、最初。﹁先客・先刻・先妻・先日・先生・先祖・先着・先輩・先発／機先・祖先﹂
3 今の一つ前。﹁先月・先週・先先代﹂
4 碁・将棋で、先番。﹁先(せん)手(て)／互(たが)先(いせん)﹂
5 さきにする。さきんずる。﹁率先・優先﹂
6 ︵﹁尖﹂の代用字︶突出している。﹁先鋭﹂
︿さき﹀﹁先棒・先程／後先﹂
﹇名のり﹈すすむ・ひろ・ゆき
﹇難読﹈幸(さい)先(さき)・先(せん)蹤(しょう)・舳(へさ)先(き)  

さっき【▽先】

《「さき」の促音添加》時間的に少し前であること。先刻。さきほど。「さっきのことは謝る」「さっきから電話が鳴っている」「さっき聞いたばかりの話」
[類語]先程・今しがた・先刻・最前・先に・今今・たった今・今時分・今頃・今どき・今さら・ナウ
 

せん︻先︼

 
1まえ。以前。昔。もと。﹁先に会った人﹂﹁その話は先から知っていた﹂
2 現在のものの前のもの。さき。﹁先の場所から移した﹂
3 人よりさきに事を行うこと。さきがけ。
﹁―と仰せらるるに依って、愚僧から参らうか﹂︿虎寛狂・宗論﹀
4 囲碁・将棋で、さきに打ちはじめるほう。先手。
5 剣道で、機先を制すること。  

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精選版 日本国語大辞典 「先」の意味・読み・例文・類語

さき【先・前】

 

(一)〘 名詞 〙
 (二)① ものの先端や末端。つきでてとがっている部分。はし。
(一)[初出の実例]﹁則ち、十握の劔を抜きて倒(さかしま)に地(つち)に植(つきた)てて其の鋒端(サキ)に踞(うちひくみにゐ)て大己貴(をほなむち)の神に問ひて曰(のたま)はく﹂(出典‥日本書紀︵720︶神代下︵兼方本訓︶)
 (二)﹁さきの方すこし垂りて、色づきたる事、ことのほかに、うたてあり﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶末摘花)
 (三)② 空間的にまえ。⇔あと。
(一)(イ) 進んでいく前方。まえ。
(一)[初出の実例]﹁︿本﹀あかがり踏むな 後なる子 我も目はあり 佐支(サキ)なる子﹂(出典‥神楽歌︵9Ｃ後︶早歌)
 (二)(ロ) 貴人の行列の先頭にたつこと。先導するもの。道をひらくもの。先駆。さきばらい。→さきを追う。
(一)[初出の実例]﹁時(とき)に、熊之凝(くまのこり)といふ者有(あ)り。忍熊王(をしくまのきみ)の軍(いくさ)の先鋒(サキ)と為(し)て﹂(出典‥日本書紀︵720︶神功摂政元年三月︵北野本南北朝期訓︶)
 (三)(ハ) 本陣の前にある部隊。さきがけ。先陣。先鋒。
(一)[初出の実例]﹁其の将智尊精兵を率て先鋒(サキ)として距く﹂(出典‥日本書紀︵720︶天武元年七月︵北野本訓︶)
 (四)③ 時間的にそれより前。その時より前。⇔あと。
(一)(イ) それが行なわれる前、また、直前。
(一)[初出の実例]﹁是(これ)より先(サキ)天稚彦と味耜高彦神(あちすきたかひこねのかみ)と友善(うるは)し﹂(出典‥日本書紀︵720︶神代下︵寛文版訓︶)
 (二)(ロ) 今に近い過去のある時。現在より以前。さっき。
(一)[初出の実例]﹁故、其の八上比売は、先(さき)の期(ちぎり)の如く美刀阿多波志都(みとあたはしつ)︿此の七字は音を以ゐる﹀﹂(出典‥古事記︵712︶上)
 (三)(ハ) 今の世から遠くへだたった過去。むかし。→いんさき。
(一)[初出の実例]﹁さきの世の契しらるる身のうさに行末かねて頼みがたさよ﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶夕顔)
 (四)(ニ) ﹁先の﹂の形で、かつて、また現任者の前に、ある官職にあったことをいう。先代。前任。前(ぜん)。
(一)[初出の実例]﹁かへるさきのかみのよめりける﹂(出典‥土左日記︵935頃︶承平四年一二月二六日)
 (五)④ 時間的にそれより後。その時よりあと。
(一)(イ) 今に近い将来。今度。
(一)[初出の実例]﹁さきの朔日の御礼までは余程日かずもあり﹂(出典‥滑稽本・人情穴探意の裡外︵1863‐65頃︶三)
 (二)(ロ) 現在より以後。将来。未来。前途。ゆくすえ。
(一)[初出の実例]﹁正長元年よりさき者、かんへ四かんかうに、をゐめあるへからす﹂(出典‥柳生徳政碑文︵1428頃︶)
 (二)﹁イヤ坊様精が出るよ。したが先(さキ)の知ぬ後生願ふより施餓鬼かおんぞうでもじろかい﹂(出典‥浄瑠璃・神霊矢口渡︵1770︶四)
 (六)⑤ 順番や序列が前であること。また、上であること。
(一)(イ) 上位にあるもの。また、上位の場所。
(一)[初出の実例]﹁年兄は遅くともさきに着くべし。同じ年は鬮(くじ)に取るべし﹂(出典‥申楽談儀︵1430︶附載・魚崎御座之事)
 (二)(ロ) 一番初めにしなければならない、重要なこと。専らとすること。→先とする。
(一)[初出の実例]﹁如来の法はいづれをもみな同けれど、とく仏の位にいたる事はこの道よりさきなるはなし﹂(出典‥観智院本三宝絵︵984︶下)
 (七)⑥ その行為の目的や相手となる人、あるいは場所。先方。相手。
(一)[初出の実例]﹁是も能いかへ物では御座れども、先に鷹が御座らぬに依て、鷹のない犬斗りは入りますまい﹂(出典‥虎寛本狂言・富士松︵室町末‐近世初︶)
 (八)⑦ 数量などが、ある基準より多いこと。それ以上であること。
(一)[初出の実例]﹁六十円から以上(サキ)ぢゃ有りませんか﹂(出典‥魔風恋風︵1903︶︿小杉天外﹀前)
 (九)⑧ ﹁さいさき︵幸先︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁こなたは此酒を誰が物じゃと思ふて、其様なさきのわるい事をおしやるぞ﹂(出典‥虎寛本狂言・河原太郎︵室町末‐近世初︶)
 (十)⑨ ﹁さきもの︵先物︶﹂の略。
  
 

せん︻先︼

 

(一)〘 名詞 〙
 (二)① 進んでゆく方向でまえに位置すること。また、順序でまえ。さきに立ってみちびくこと。先頭。さき。
(一)[初出の実例]﹁是為二朝敵之最一為レ臣之道不レ致レ命乎。又為二神敵之先一。為レ天之理不レ下レ誅乎﹂(出典‥太平記︵14Ｃ後︶九)
 (二)[その他の文献]︹詩経‐小雅・正月︺
 (三)② 他よりさきんじて行なうこと。さきがけ。
(一)[初出の実例]﹁機早なる若大衆共、武士に先をせられじとや思けん﹂(出典‥太平記︵14Ｃ後︶一五)
 (二)[その他の文献]︹漢書‐英布伝︺
 (四)③ 先祖。祖先。父祖。
(一)[初出の実例]﹁契は薛殷の先ぞ。后稷は周の先ぞ。伯夷は斉太公の先祖也﹂(出典‥史記抄︵1477︶三)
 (二)[その他の文献]︹書経‐太甲中︺
 (五)④ 囲碁・将棋などで、相手よりさきに始める方。または、囲碁で下手が常に黒を持ち先に打つ手合割。先手。
(一)[初出の実例]﹁盤、取りにやりて、われはと思ひて、せんせさせたてまつりたるに﹂(出典‥源氏物語︵1001‐14頃︶手習)
 (二)[その他の文献]︹酉陽雑俎‐語資︺
 (六)⑤ 現在のもののまえにその位置を占めたもの。さき。
(一)[初出の実例]﹁妙喜の神(しん)たくをききましたら、せんの女房の死霊だと申ました﹂(出典‥咄本・喜美賀楽寿︵1777︶法力)
 (二)﹁先(セン)の場所(ところ)へ列ぶのだ、先の場所へ﹂(出典‥足跡︵1909︶︿石川啄木﹀)
 (七)⑥ 今は過去になっている時。まえかた。以前。
(一)[初出の実例]﹁せんはさかねだりなる口舌(くぜ)御申かけ余りなる御事﹂(出典‥浮世草子・小夜衣︵1683︶五)
 (八)⑦ ﹁せんせい︵先生︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁せんの仰せらるるからは、正筆にいつわりあるべからず﹂(出典‥黄表紙・高漫斉行脚日記︵1776︶上)
 (九)⑧ ﹁せんど︵先途︶﹂の略。
(一)[初出の実例]﹁さる程にここをせんとぞ吹き給ふ。姫君は聞召、中納言の笛の音と、聞知給へば﹂(出典‥御伽草子・梵天国︵室町末︶)
  
 

まずまづ︻先︼

 

(一)〘 副詞 〙
 (二)① 他のもの、他の事態より先んずるさまを表わす語。最初に。まっさきに。いちはやく。
(一)[初出の実例]﹁春されば麻豆(マヅ)咲く宿の梅の花ひとり見つつや春日暮さむ﹂(出典‥万葉集︵8Ｃ後︶五・八一八)
 (三)② 一つの意志・判断を、他のことをさしおいて表明しようとする気持を表わす語。何はさておき。ともかく。文頭に用いて、推量や命令の表現を伴ったり、以下の記述を略して用いたりする。
(一)[初出の実例]﹁まづかくなんと物し侍らむ、とて立てば﹂(出典‥落窪物語︵10Ｃ後︶四)
 (二)﹁すでにさしちがへんせし所に︿略﹀これは何事をしたまふぞ、まづとどまり給へと申ければ﹂(出典‥狂言記・七騎落︵1660︶)
 (四)③ 自分の判断や主張を、恐らく正確であろう、そのような言い方で表現して大過あるまいと、吟味肯定する気持を表わす語。まあ大体。おおよそ。多分。
(一)[初出の実例]﹁やまざくら瓦ふくもの先ふたつ︿芭蕉﹀﹂(出典‥俳諧・笈日記︵1695︶中)
 (二)﹁まづ損はしねへつもりサ﹂(出典‥安愚楽鍋︵1871‐72︶︿仮名垣魯文﹀三)
 (三)﹁どこへ行っても仕事に追われ、ゆっくり市内御見物などということはまずない﹂(出典‥マイクとともに︵1952︶︿藤倉修一﹀アメリカさん)
 (五)④ ( 特に、否定的な表現を伴って ) その事態が動かしがたいことを、いやだ、困ったことだ、などの気持を込めて強調する語。どうにもこうにも。いかにも。
(一)[初出の実例]﹁先づ心も得ぬ事なれば﹂(出典‥今昔物語集︵1120頃か︶二八)
  

さっき【先】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「さき（先）」の変化した語 ) 時間的に少し前であることを表わす語。副詞的にも用いる。さきほど。今しがた。先刻。
    1. [初出の実例]「扨はさっきは熊谷の直家とそれ程くさりあふたよな」(出典：浄瑠璃・大原御幸（1681）二)

まんずまんづ【先】

  1. 〘 副詞 〙 「まず（先）」の変化した語。やや、俗っぽい言い方。
    1. [初出の実例]「おしゃう人はこのよしをきこしめし、まんすはみたりまさゆめを」(出典：説経節・説経苅萱（1631）中)

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