サンドイッチ
パンで具材を挟み込んだ料理
サンドイッチ | |
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ウィーンのシーフードサンドイッチ群 | |
別名 | サンドウィッチ |
発祥地 | イギリス |
主な材料 | パン |
ウィキメディア・コモンズ |
代表的なものはティーサンドイッチのようにパンの間に具を挟んだクローズドサンドイッチが一般的なものであるが、パンではなくパイやラテンアメリカのプランテインのようにパンに代わる食材で挟んだものもある[1]。また、ヨーロッパのオープンサンドイッチや中近東のピタポケットなども含めて広く定義されることもある[1]。
日本においては挟まれる具材や挟み込むパンの名称を前に付して﹁○○サンド﹂の略称で呼ばれることがある[注1]が、これは和製英語で、日本語圏外では通じない。
なお、サンドウィッチとサンドイッチの明確な違いはなく、単なる表記ゆれであるが、本項では固有名詞や誰かの発言以外については﹁サンドイッチ﹂に統一する。
概要
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簡単に調理でき、気軽に食べることができ、工夫次第で栄養バランスも良くなるので、世界中のいたるところでよく食されている。
食べる時に食卓やカトラリー︵フォークやナイフ︶あるいは箸などを必要とせず、手でつかんで簡単に食べられるので重宝されている。欧米では職場や外出先で食べる昼食︵弁当︶として自宅で作って紙袋に詰めて持参したり、ピクニックなどに持って行くことが多い。サンドイッチ店もあり、ファストフードの一種としても食べられている。アメリカのデリカテッセンや日本のコンビニなどでも売られている。列車の駅弁や、航空機の機内食として提供されることもある。アメリカ軍の戦闘糧食の一種であるファースト・ストライク・レーションは、ポケットサンドイッチ類を主体として構成されている。
様々なタイプがある。具を挟まずにパンに乗せただけのタイプは﹁オープンサンドイッチ﹂と呼ばれる。例えばライ麦パンの上に多彩な具材を乗せたデンマーク料理・スモーブローがある。細切りした耳なし食パンに、薄切りにした具を乗せ、端から円筒状に巻いたものはロールサンドイッチやロールサンドと呼ばれる。棒状︵長楕円状︶のパンを厚く二つにスライスして具材を挟んだものは潜水艦に見立てられて﹁サブマリンサンドイッチ︵サブ︶﹂と呼ばれている。サブウェイやクイズノス・サブがファストフードとして世界的に普及させた。
また、加温調理したものは﹁ホットサンドイッチ﹂に分類される。例えばフランスのクロックムッシュや、専用器具で両面を焼いたものなどがある。それに対して冷たいパンや具材だけで作るサンドイッチを﹁コールドサンドイッチ﹂と分類することがある。バリエーションとして、パンに具材を挟んだものに溶き卵を絡めて油で揚げたモンテクリストサンドイッチ等もある。
各国の特徴のある食べ物や独特の食べ物と認知されているもの中には、サンドイッチの一種に分類されるものもある。例えばイタリア料理のパニーノもサンドイッチの一種である。フランス料理における前菜には、食パンをベースにしたカナッペが供されることがあるが、これもサンドイッチの一種である。また米国人が好み世界に広まったハンバーガーやホットドッグもサンドイッチの一種と言えるだろう[注2]。
ビー・ウィルソンが﹃サンドイッチの歴史﹄︵日本語訳は月谷真紀訳で原書房から︶の序章﹁サンドイッチとは何か﹂で定義したサンドイッチは、﹁パンで食物の両側をはさんだもの﹂であり、上述のオープンサンドイッチやカナッペはサンドイッチには含まれないことになる。
日本では食パンに具を挟んだものが主流である。
アイスクリームをクッキーなどで挟んだものをアイスクリームサンドイッチ、クッキーサンドイッチなどとも称される。
歴史
編集発祥と発展
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パンに類する食材に適宜の具を挟んで食べるという料理法は、古代ローマのオッフラ (offula)、インドのナン、中東のピタ、メキシコのタコスやブリート等、世界各地で古くから自然に発祥したものである。
1世紀のユダヤ教の律法学者︵ラビ︶ヒレルは、過越の際に、犠牲の仔羊の肉と苦い香草とを、昔風の柔らかいマッツァー︵種無し、つまり酵母を入れない平たいパン︶に包んだと言われている[2][3][1]。ヒレルが作ったマッツァーのロールは﹁コレフ﹂と呼ばれ、肉の代わりに甘い木の実のペーストであるハロセットを、マーロールの代わりにホースラディッシュを詰めて食されている[4]。西アジアから北アフリカにいたる地域では昔から、食べものを大皿から口へ運ぶのに、このような大きくは膨張させないパンを使い、すくったり、包んだりして食べた。モロッコからエチオピアやインドにかけては、ヨーロッパの厚みのあるパンとは対照的に、円形に平たく焼かれた。
中世ヨーロッパでは、古く硬くなった粗末なパンを、食べ物の下に敷く皿代わり︵トレンチャー︶に使っていた。下敷きのパンは食べ物の汁を吸う。これを食事の最後に食べたり、満腹の場合には、乞食や犬に与えた[5]。このトレンチャーは﹁中世のサンドイッチ﹂と言われることもあるが、パンと具を一緒に食べるサンドイッチと違い、トレンチャーと上に載せた食べ物を一緒に食べることは無い[6]。英国風サンドイッチのより直接な前身は、例えば17世紀ネーデルラントに見ることが出来る。博物学者ジョン・レイは、居酒屋の垂木に吊るされている牛肉を、﹁薄くスライスされ、バターを塗ったパンの上にのせて食べられる﹂と記している[7]。このような詳細な記述は、その頃のイギリスにおいては、オランダの belegde broodje︵オープンサンドイッチ、直訳すると﹁︵具材を︶乗せられたパン﹂︶のような食べ方が未だに一般的でなかったことを示している。
始めは、夜の賭博や酒を飲む際の食べ物であったが、その後、ゆっくりと上流階級にも広がり始め、貴族の間で遅い夜食としても食べられるようになった。19世紀には、スペインやイングランドにおいて、爆発的に人気が高まった。この時代は工業社会の擡頭があり、労働者階級の間で、早い・安い・携帯できる食べ物としてサンドイッチは不可欠なものとなった[8]。
同時期に、ヨーロッパの外でもサンドイッチは広まりはじめたが、アメリカでは、大陸とは異なり夕食に供される手の込んだ料理となった。20世紀初期までには、地中海地方と同様に、アメリカでもサンドイッチは人気のある手軽な食べ物となった。
語源
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M. モートンの調査によれば、16世紀から17世紀イギリスでは﹁サンドイッチ﹂はただ単に “bread and meat” または “bread and cheese” などと呼ばれていたという[5][9]。食べ物としての﹁サンドイッチ﹂の語の初出は、エドワード・ギボンの日記︵1762年11月24日︶にある[10]。
ココア・ツリーで食事をした。この立派な場所は、毎晩、本当に英国的な光景を見せてくれる。二、三十人のこの国の一流の男たちが……テーブルで少しずつ食べる……わずかな冷たい肉、あるいはサンドイッチを[5]。
この名は、当時のイギリスの貴族︵国会議員、閣僚︶、第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューにちなんで︵恐らくはマスコミなどの第三者によって︶付けられたものであるが[注3]、モンタギュー自身がサンドイッチを発明したわけでも推奨したわけでもないどころか、彼がその食べ物を愛好した証拠すら無い。しかし、1760年代から1770年代にかけて、﹁サンドイッチ﹂という名称は一般に普及し、定着していた[11]。サンドウィッチ伯爵の評伝を著したニコラス・ロジャーによれば、その理由について唯一の情報源は、ピエール=ジャン・グロスレによる、1765年のロンドン滞在の印象をまとめた著作﹃ロンドン Londres﹄︵1770年。英訳はA Tour to London 1772年︶の中の次のゴシップだという。
国務大臣は公衆の賭博台で24時間を過ごし、終始ゲームに夢中になっていたので、二枚の焼いたパンにはさんだ少しの牛肉を食べる他に生きてはおられず、ゲームを続けながらこれを食べる。この新しい食べものは、私のロンドン滞在中に大流行した。発明した大臣の名前で呼ばれた[5]。
しかし、ロジャーはグロスレの記述について、﹁1765年当時のモンタギューは要職にあって多忙を極めていたために、徹夜の賭博に割くような時間は無い﹂と疑問を呈している[12]。
各国のサンドイッチのパンと具
編集構成
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ドイツ
もっぱら硬い︵ハード系︶パンが用いられ、薄くスライスした田舎パンや、水平に切れ目を入れて上下に二分割した小麦の丸パンが主流。オープンサンドイッチ (belegtes Brot) の形でも喫食される。
イギリス
柔らかい︵ソフト系︶パン︵日本人が﹁食パン﹂と呼ぶもの︶をスライスしたものを用いるサンドイッチがあり、パン耳を切り落とすものも、パン耳をつけたままのものもある。他にもベーグル、ロールパン等を使うこともある。
日本
食パンから耳を切り落としたやわらかい部分等、柔らかいパンを使ったタイプ︵イギリスのいくつかあるタイプのひとつに倣ったもの︶が主流である。 詳細後述。
具材
具材は特に限定されていない。一般的な物としては次のようなものがある。
●ハムやソーセージ、ローストビーフ等の肉類
●スモークサーモン、小エビ、ツナ缶等の魚介類(マリネや油漬けなどの調理を施したものも)
●茹で卵︵スライス、もしくはみじん切りにしてマヨネーズと和える︶や薄焼き卵、オムレツなどの調理された鶏卵
●キュウリやトマトやレタスやオリーブの実やビーンズやポテトサラダ 等の野菜類︵野菜惣菜類︶
●ピクルス
●カツレツ、フライドチキン、唐揚げ、魚介類のフライ、コロッケ、フライドポテト等の揚げ物類︵フライ類︶
●チーズや生クリーム等の乳製品
●ジャムやピーナッツバター等のスプレッド類
●イチゴやバナナ等果物を使ったフルーツサンド
調理法
パンはそのまま、あるいはトーストにして、通常はバター、マーガリン、マヨネーズ、マスタードなどを塗ってから具を挟む。これにはパンが具材の水分を吸うのを防ぐ目的もある。
食パンを用いる場合、1斤を8枚から14枚の薄切りにしたものを使うのが一般的である。具を挟んだ後、布巾をかけて軽く上から重しを置き、パンと具材の密着度を高めると、食べる際にバラバラにならない。
複数の具材を挟み込むことも多く、特にベーコン・レタス・トマトの組み合わせはその頭文字を取ってBLTサンドと呼ばれ、定番サンドイッチの一つとなっている。BLTサンドは塩とマヨネーズのみで味付けするのが本来のレシピだが、日本ではトマトケチャップが用いられることが多い。
ピクルスが付け合せとして添えられたり、具材の一つとして用いられることがある。
クロックムッシュについては、原則サンドイッチの一種に分類されるものの、調理法としては独特の面もあるためその項目を参照のこと。
日本のサンドイッチ
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洋食の普及にともなってサンドイッチも認知されるようになり、軍隊のレシピ集﹃軍隊調理法﹄にも収録された。駅弁としては1892年︵明治25年︶、神奈川県鎌倉市大船の大船軒が大船駅で販売したサンドイッチが日本最初とされている。
1935年︵昭和10年︶ごろには、東京の豚カツ屋の井泉が花柳界の芸者たちのためにトンカツのサンドイッチ︵カツサンド︶を作り始めた。
三角形に切られたサンドイッチについては、1961年︵昭和36年︶、東京の茗荷谷駅近くにあった﹁フレンパン︵婦連パン小石川販売所︶[注4]﹂が﹁フレンサンドイッチ﹂という名称で販売し始めたものを発祥とする。後楽園球場にサンドイッチを売りに行っていた同店の主人が、﹁中身が見えるサンドイッチがあれば便利だな﹂という客の一言から考案したものである。同店がすぐに特許を取得したが、5年後には放棄したため、全国に広まった。以降、日本の店舗販売でよく見られるようになった。
昭和時代後期までの日本では、﹁サンドイッチ﹂と言えば耳を切り落とした白い食パンで作るものであり、他のパンを用いたものはほとんど浸透していなかった[注5]。飲食店では洋皿の上に紙ナプキンを敷き、その上にサンドイッチを配置しパセリを添えて提供することが多かった。またこの時代はまだマスタードが一般的でなかったため、もっぱら練りからしが代用として用いられたのが味の上での大きな特徴である。
デパートの大食堂や喫茶店などでは、サンドイッチも定番のひとつとしてメニューに掲載された。バリエーションは﹁野菜サンド﹂、﹁ハムサンド﹂、﹁卵サンド﹂、﹁ミックスサンド﹂などで、軽食としての扱いのため全体量も具も少なめであった。
中京圏の喫茶店で提供されるサンドイッチには、具に焼きそばやスパゲッティなどの麺類まで用いられることもあった。
1992年には日本に米国のサブウェイが進出した。サブウェイのサンドイッチは大型のバンを用いた﹁サブマリン﹂と呼ばれるもので、米国ではありふれていても、日本では一般的ではなかったタイプであった。客が具材を指定し、自分好みのサンドイッチを目の前で店員に作ってもらえるのも日本人にとって新しい体験であった。その後同チェーン店が増えるにつれ、日本でもそうしたタイプのサンドイッチが次第に定着した。ビジネス街に進出したサブウェイは、忙しいビジネスマンに手軽な昼食の選択肢を増やしたとされる。
日本ではコンビニエンスストアではおにぎりと共に定番商品のひとつとして扱っており、耳を切り落とした食パンで作られたサンドイッチがプラスチック︵ビニール︶の袋に詰められた状態で棚に並べられる。﹁卵サンドイッチ﹂﹁野菜サンドイッチ﹂﹁ツナサンドイッチ﹂などが定番で、それ以外にも様々な種類のサンドイッチが販売されている。近年では、ハード系のパンを用いたものが販売されることも増えたが、ソフト系のパンのものに比べて高価であることが多い。
こうしたタイプのサンドイッチは、製パン業界や流通業などの業務用語で﹁調理パン﹂というカテゴリに分類される。
近年、日本人の味覚に合わせて様々なサンドイッチが作られている。前述のスパゲティなどの麺類、コロッケ、メンチカツなどだけでなく、和風食材の海苔やじゃこを具として用いるものもある。つぶあん、こしあん、うぐいすあん、白あんなどの餡類を用いたものもある。
サンドイッチ店
編集派生的・比喩的用法
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サンドイッチに挟むという意味は無いが、パンで挟む調理法に因んで、両側から挟まれた状態を﹁サンドイッチ︵された︶﹂ということがある。このことより、広告を書いた板に挟まれた格好で街中で宣伝を行う者をサンドイッチマンと呼ぶ。また、プロレスのタッグマッチで前後から相手選手を挟む連係攻撃を﹁サンドイッチ︵式︶○○﹂と呼ぶ︵サンドイッチラリアットなど︶。経済分野でも、日本、中国の両経済大国の間に位置し、低賃金の中国、高い技術力の日本の間に挟まれた状態で身動きが取れない韓国経済の状況をサムスングループの総帥である李健熙[15][16]らは﹁サンドイッチ﹂と呼んだ。
なお、英語では﹁sandwich﹂を﹁sand.﹂と略すことはあるが、日本のように﹁サンドする﹂﹁○○サンド﹂の意味で﹁sand﹂を使うことはなく、いずれの意味でも﹁sandwich﹂を用いる。︵ちなみに﹁sand﹂は﹁砂﹂のこと。︶
脚注
編集注釈
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(一)^ 例として﹁カツサンド﹂はカツを挟んだもの、﹁カイザーサンド﹂はカイザーロールと呼ばれるパンで挟んだものである。
(二)^ マクドナルドの社内規定では、自社の、スライスした円形バンズに具を挟む方式の製品を、あくまで﹁サンドウィッチ﹂に分類している。
(三)^ この爵名自体は、領地であった Sandwich︵現在のイングランド・サンドウィッチ︶に由来する。古英語: Sandwicæ。入り江や河口付近の砂の多い地を意味する。
(四)^ 店名は、同店がテナントとして入っていた同潤会大塚女子アパートから。なお、この建物は2003年に解体され、現在は同店も存在しない。
(五)^ コッペパンやバターロールなどを用いたサンドイッチも存在していたが、それらは﹁サンドイッチ﹂ではなく﹁◯◯パン﹂という調理パンとして認識されていた。
出典
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(一)^ abc佐藤政人﹃世界のサンドイッチ図鑑﹄誠文堂新光社、2017年。
(二)^ バビロニア・タルムード、ペサヒーム、115a
(三)^ ウィルソン 2015, p. 33.
(四)^ ウィルソン 2015, pp. 34–35.
(五)^ abcdWhat's Cooking America, Sandwiches, History of Sandwiches.
(六)^ ウィルソン 2015, pp. 32–33.
(七)^ Ray, Observations topographical, moral, & physiological; made in a journey through part of the Low Countries, Germany, Italy, and France... (vol. I, 1673) Simon Schama, The Embarrassment of Riches (1987:152) で引用。
(八)^ Encyclopedia of Food and Culture, Solomon H. Katz, editor (Charles Scribner's Sons: New York) 2003
(九)^ ウィルソン 2015, p. 39.
(十)^ ウィルソン 2015, p. 27.
(11)^ ウィルソン 2015, p. 22.
(12)^ ウィルソン 2015, p. 26.
(13)^ sandwich — Wiktionnaire
(14)^ ハンバーガーチェーンとして知られるが、日本マクドナルドはそれらをサンドイッチと呼称している。︵株主優待券の表記より︶
(15)^ “李健熙三星会長が﹁サンドイッチ論﹂取り上げたわけは”. 中央日報. (2007年1月27日) 2017年11月29日閲覧。
(16)^ “﹁天才育てることのできない教育制度が問題﹂三星李健熙会長”. 中央日報. (2007年6月2日) 2017年11月29日閲覧。
参考文献
編集- ビー・ウィルソン『サンドイッチの歴史』月谷真紀 訳、原書房〈「食」の図書館〉、2015年7月27日(原著2010年)。ISBN 978-4-5620-5169-4。