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概要
作品番号
初演
蘇演
日本初演
楽器編成
ピッコロ 、フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、コルネット 2、トランペット 2、トロンボーン 3、チューバ 、ティンパニ (4個)、大太鼓 、小太鼓 、タンブリン 、シンバル 、カスタネット 、タムタム 、トライアングル 、グロッケンシュピール 、ハープ 、弦五部
演奏時間
全曲版は約2時間半(各55分、30分、45分、20分、23分)、組曲版は約23分。
作品の背景
ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウス
リヒャルト・ワーグナー
ド イ ツ の 作 家 ヨ ハ ン ・ カ ー ル ・ ア ウ グ ス ト ・ ム ゼ ー ウ ス に よ る 童 話 ﹃ 奪 わ れ た ヴ ェ ー ル ﹄ を 元 に 構 想 が 練 ら れ 、 1 8 7 5 年 、 ボ リ シ ョ イ 劇 場 の 依 頼 に よ り 作 曲 。 1 8 7 6 年 に 完 成 し た 。 バ レ エ が 作 ら れ た の は ロ シ ア だ が 、 物 語 の 舞 台 は ﹃ く る み 割 り 人 形 ﹄ と 同 じ く ド イ ツ で あ る 。
チ ャ イ コ フ ス キ ー に と っ て 初 め て の バ レ エ 音 楽 で あ る が 、 初 演 当 時 は 踊 り 手 、 振 付 師 、 指 揮 者 に 恵 ま れ ず 、 評 価 を 得 ら れ な か っ た 。 そ れ で も し ば ら く は 再 演 さ れ て い た が 、 衣 装 ・ 舞 台 装 置 の 破 損 な ど か ら い つ し か お 蔵 入 り と な り 、 そ の 後 作 曲 者 の 書 斎 に 埋 も れ て い た 。 し か し 、 プ テ ィ パ と そ の 弟 子 イ ワ ノ フ に よ っ て 改 造 が な さ れ 、 チ ャ イ コ フ ス キ ー の 没 後 2 年 目 の 1 8 9 5 年 に 蘇 演 さ れ た 。
本作品にはワーグナー のオペラ 『ローエングリン 』(1850年 初演)からの影響が指摘されている[7] [8] [9] 。両作品で白鳥が象徴的な意味を持つこと[7] 、『ローエングリン』の第1幕第3場で現れる「禁問の動機」と『白鳥の湖』の「白鳥のテーマ」との類似性[8] [9] (右図の譜例と試聴用サウンドファイル参照)、そしてチャイコフスキーがワーグナー作品の中で『ローエングリン』を特に高く評価していたこと[7] が根拠として挙げられている。
あらすじ
オデット(白鳥)役を演じるゼナイダ・ヤノウスキー《左側;英国ロイヤル・バレエ団 》
おおまかには以下に示すとおり。ただし、振付家や使用する版(後記 参照)によって異なることが多く、また下記のうち序奏部は省かれることも多く、更にラストもハッピーエンドとなるか悲劇で終わるか等、さまざまである。
序奏
オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロットバルトが現れ白鳥 に変えてしまう。
第1幕
王宮の前庭
今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母(王妃又は女王)が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり、友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。
第2幕
静かな湖のほとり
白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。
第3幕
王宮の舞踏会
世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔が魔法を使ってオデットに似せた、娘オディールが現われる。王子はオデットとの違いに気づかず、彼女を花嫁として選ぶ。その様子を見ていたオデットは、王子の偽りを白鳥達に伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。
第4幕
もとの湖のほとり
破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。
メッセレル版以降、オデットの呪いが解けてハッピーエンドで終わる演出も出てきたが、原典とは異なる。
主要曲
序奏
ワルツ〔第1幕〕
情景〔第2幕〕
四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
ナポリの踊り〔第3幕〕
スペインの踊り〔第3幕〕
終曲〔第4幕〕
な ど
ハ ー プ の 短 い 序 奏 の あ と 、 オ ー ボ エ が ソ ロ で 主 旋 律 を 吹 く ﹁ 情 景 ﹂ ︵ 第 2 幕 ・ 第 10 曲 、 第 14 曲 ︶ が 、 本 作 品 を 代 表 す る 曲 と し て 、 特 に よ く 知 ら れ て い る 。
演 奏 会 用 組 曲 と し て し ば し ば 演 奏 さ れ る 。 曲 目 に つ い て は チ ャ イ コ フ ス キ ー 没 後 の 1 9 0 0 年 に 、 出 版 社 の ユ ル ゲ ン ソ ン が
(一) 情 景 ︹ 第 2 幕 ︺
(二) ワ ル ツ ︹ 第 1 幕 ︺
(三) 四 羽 の 白 鳥 の 踊 り ︹ 第 2 幕 ︺
(四) 王 子 と オ デ ッ ト の グ ラ ン ・ ア ダ ー ジ ョ ︹ 第 2 幕 ︺
(五) ハ ン ガ リ ー の 踊 り ︵ チ ャ ー ル ダ ー シ ュ ︶ ︹ 第 3 幕 ︺
(六) 終 曲 ︹ 第 4 幕 ︺
を 取 り 出 し て 出 版 し た 組 曲 版 の セ レ ク ト 以 外 に も 、 指 揮 者 に よ っ て は ま た 別 の 曲 を 加 え た 形 で 演 奏 さ れ る 。
チ ャ イ コ フ ス キ ー 本 人 も 、 1 8 8 2 年 に は ﹁ 出 来 が 良 い も の と 考 え た 曲 を 選 ん で 組 曲 を 作 る ﹂ と い う 意 思 を ユ ル ゲ ン ソ ン 宛 の 手 紙 で 表 明 し て い た が 、 そ の 中 で は 具 体 的 な 曲 を 挙 げ る こ と は し て い な い 。 そ の 後 実 際 に チ ャ イ コ フ ス キ ー が そ の 作 業 に 取 り 組 ん だ か 、 ま た ユ ル ゲ ン ソ ン の 組 曲 版 の 選 択 に 彼 の 意 思 が 反 映 さ れ て い る の か な ど の 具 体 的 な 証 拠 は 残 さ れ て い な い 。
な お ク ロ ー ド ・ ド ビ ュ ッ シ ー は そ の 少 年 時 代 、 チ ャ イ コ フ ス キ ー の パ ト ロ ン だ っ た ナ ジ ェ ジ ダ ・ フ ォ ン ・ メ ッ ク の お 抱 え ピ ア ニ ス ト を 務 め 、 そ の 際 に こ の ﹃ 白 鳥 の 湖 ﹄ 組 曲 の ピ ア ノ 連 弾 版 を 編 曲 し て 、 フ ォ ン ・ メ ッ ク 夫 人 の 子 供 た ち と 共 に 演 奏 し た 。
たくさんの版
1 8 9 5 年 の 蘇 演 以 降 、 多 く の 演 出 家 に よ っ て 様 々 な 版 が 作 ら れ た 。 多 く は プ テ ィ パ = イ ワ ノ フ 版 を も と に 改 訂 を 施 し た も の だ が 、 ス ト ー リ ー 、 登 場 人 物 、 曲 順 な ど は 版 に よ っ て は か な り 異 な る 。 た だ し 白 鳥 た ち の 登 場 す る 第 2 幕 は プ テ ィ パ = イ ワ ノ フ 版 が 決 定 的 な 影 響 力 を 持 っ て お り 、 イ ワ ノ フ の 振 付 が ほ と ん ど 原 形 の ま ま 見 ら れ る 版 が 多 い 。
● ゴ ー ル ス キ ー 版 ︵ 1 9 3 3 年 ︶
● ニ コ ラ イ ・ セ ル ゲ イ エ フ 版 ︵ 1 9 3 4 年 ︶
● メ ッ セ レ ル 版 ︵ 1 9 3 7 年 ︶
● バ ラ ン シ ン 版 ︵ 1 9 5 1 年 ︶
● ブ ル メ イ ス テ ル 版 ︵ 1 9 5 3 年 ︶
● ヌ レ エ フ 版 ︵ 1 9 6 4 年 、 1 9 8 4 年 ︶
● プ テ ィ パ 版 ︵ 1 9 5 2 年 ︶
● グ リ ゴ ロ ー ヴ ィ チ 版 ︵ 1 9 6 9 年 、 2 0 0 1 年 ︶
● 清 水 哲 太 郎 版 新 ・ 白 鳥 の 湖 ( 1 9 9 4 年 )
● マ ッ ケ ン ジ ー 版 ︵ 2 0 0 0 年 ︶
● マ シ ュ ー ・ ボ ー ン の ﹁ 白 鳥 の 湖 ﹂ ︵ 1 9 9 5 年 ︶
な ど
一人二役
通 常 オ デ ッ ト ︵ 白 鳥 ︶ と オ デ ィ ー ル ︵ 黒 鳥 ︶ は 同 じ バ レ リ ー ナ が 演 じ る 。 見 た 目 で は オ デ ッ ト と オ デ ィ ー ル で は 衣 装 ︵ オ デ ッ ト = 白 、 オ デ ィ ー ル = 黒 ︶ が 違 う が 二 人 の 性 格 は 正 反 対 で あ り 、 全 く 性 格 の 違 う 2 つ の 役 を 一 人 で 踊 り 分 け る の は バ レ リ ー ナ に と っ て 大 変 な こ と で あ る 。 オ デ ッ ト / オ デ ィ ー ル 役 は 32 回 連 続 の フ ェ ッ テ ︵ 黒 鳥 の パ ・ ド ・ ド ゥ ︶ な ど 超 技 巧 も 含 ま れ て 、 優 雅 さ と 演 技 力 、 表 現 力 、 技 術 、 体 力 、 ス ピ ー ド す べ て に 高 い レ ベ ル が 要 求 さ れ る 役 で あ る 。
プ テ ィ パ 版 初 演 時 、 マ リ イ ン ス キ ー ・ バ レ エ 団 ︵ キ ー ロ フ ・ バ レ エ 団 ︶ の プ リ マ 、 ピ エ リ ー ナ ・ レ ニ ャ ー ニ が 両 方 踊 っ た の が 定 着 し た 。
物語の最後
版 に よ っ て 様 々 だ が 大 き く 2 つ に 分 け ら れ る 。 一 つ は 、 王 子 と オ デ ッ ト が と も に 死 ん で し ま う 悲 劇 的 な 最 後 。 も う 一 つ は 、 オ デ ッ ト の 魔 法 が 解 け 王 子 と 2 人 で 幸 せ に 暮 ら す と い う ハ ッ ピ ー エ ン ド 。
初 版 や プ テ ィ パ 版 は 悲 劇 で 終 わ っ て お り 、 2 人 は 永 遠 の 世 界 へ 旅 立 っ て い く ︵ 昇 天 す る ︶ 。 も っ と も 、 悪 魔 や 魔 法 が 実 在 す る 世 界 に お い て は 、 こ れ も 一 種 の ハ ッ ピ ー エ ン ド と し て 捉 え る こ と も 可 能 で あ る 。 現 世 で 解 決 す る ハ ッ ピ ー エ ン ド は 1 9 3 7 年 の メ ッ セ レ ル 版 で 採 用 さ れ 、 ソ 連 を 中 心 に 広 ま っ た 。
「白鳥」のモデルについて
タ イ ト ル の 通 り 、 ハ ク チ ョ ウ が ﹁ 白 鳥 ﹂ の モ デ ル で あ る と 思 わ れ が ち だ が 、 大 阪 音 楽 大 学 学 長 の 西 岡 信 雄 は 本 作 の 白 鳥 の モ デ ル に つ い て 、 ﹁ ハ ク チ ョ ウ は ダ ン ス を 踊 る こ と は で き な い 。 白 鳥 の モ デ ル は 求 愛 の ダ ン ス を 踊 る ツ ル で あ り 、 タ ン チ ョ ウ が 存 在 す る 日 本 と 違 っ て 白 い ツ ル が い な か っ た ヨ ー ロ ッ パ だ っ た の で 、 ツ ル の ダ ン ス に ハ ク チ ョ ウ の 白 い イ メ ー ジ を あ わ せ た の で は な い か ﹂ と い う 意 見 を 述 べ 、 実 際 に ツ ル の 求 愛 の ダ ン ス と 本 作 の ダ ン ス の 刻 む リ ズ ム が 同 じ で あ る と の 研 究 成 果 を 述 べ た [ 1 0 ] 。
その他
● プ テ ィ パ に よ る 初 演 に 際 し …
● 第 1 幕 の グ ラ ン ・ パ ・ ド ・ ド ゥ の 第 3 幕 の 王 子 と オ デ ィ ー ル の グ ラ ン ・ パ ・ ド ・ ド ゥ へ の 転 用
● 第 2 幕 の 白 鳥 た ち の 踊 り の 曲 順 の 変 更
● 第 3 幕 か ら 婚 約 者 の 姫 た ち の パ ・ ド ・ シ ス の 省 略
● 第 4 幕 へ の チ ャ イ コ フ ス キ ー の ピ ア ノ 曲 を 管 弦 楽 編 曲 し た 曲 の 挿 入
な ど の 曲 の 構 成 変 更 が 行 わ れ て い る 。 そ の た め 、 全 曲 版 の CD と 実 際 に 舞 台 に 使 わ れ て い る 音 楽 と で 構 成 が 異 な る 場 合 が あ る の で 注 意 が 必 要 で あ る 。
● 中 国 に は 、 広 州 軍 政 治 部 戦 士 雑 技 団 に よ る ア ク ロ バ ッ ト ・ バ レ エ の ﹃ 白 鳥 の 湖 ﹄ が あ り 、 1 9 9 9 年 か ら 日 本 を 含 む 世 界 各 地 で 公 演 し て い る [ 1 1 ] 。
● 茨 城 県 龍 ケ 崎 市 に あ る 東 日 本 旅 客 鉄 道 ︵ JR 東 日 本 ︶ 常 磐 線 龍 ケ 崎 市 駅 で は 、 同 駅 が 最 寄 り 駅 で あ る 牛 久 沼 と 、 そ の 水 面 を 優 雅 に 泳 ぐ 同 市 の 市 の 鳥 で あ る ハ ク チ ョ ウ を 連 想 さ せ る 曲 と し て 、 2 0 1 7 年 6 月 3 日 か ら 発 車 メ ロ デ ィ と し て 使 用 し て い る [ 1 2 ] 。 メ ロ デ ィ は ス イ ッ チ の 制 作 で 、 編 曲 は 福 嶋 尚 哉 が 手 掛 け た [ 1 3 ] 。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク
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