スープカレー
スープカレーは、日本のカレー料理のひとつ。スパイスの香り・刺激・辛みのきいたスープと、大振りの具が特徴である。2000年代に札幌市でブームとなり、その後全国に広まった。
スープカレーの例
︵マジックスパイスのもの︶
スープカレーの例
︵はれる屋︵倶知安町のもの︶︶
1971年に札幌市に開店した喫茶店﹃アジャンタ﹄が1975年︵昭和50年︶ごろに発売した﹁薬膳カリィ﹂が原型と言われている[2][3]。同市で徐々に人気が広まり、2000年代には大ブームというべき状況になった[4]。
札幌市では﹃アジャンタ﹄以外にも﹃スリランカ共我国﹄︵1984年開店︶、﹃木多郎﹄︵1985年開店︶が個性的なカレーを提供していた[5]。後発だが自分の店のカレーを﹁スープカレー﹂と命名し、元祖スープカレーの店と称したのは1993年︵平成5年︶に札幌市白石に開店した﹃マジックスパイス﹄である[6][5][7]。これらの店は﹁スープカレー第1世代﹂と呼ばれている[5]。
スープカレー第1世代の各店にはそれぞれ熱狂的なファンがついたものの、飲食業界の中ではまだまだマイナーな存在だった[5]。﹃北海道新聞﹄の掲載記事をたどってみると﹁スープカレー﹂の語が紙面で初めて確認されるのは、1996年︵平成8年︶に道東部で限定開催されたカレー教室の告知記事においてであり、1998年︵平成10年︶にスープカレーのレシピがコラム記事として掲載され、翌1999年︵平成11年︶ころになって札幌市内のスープカレー専門店の記事が目立つようになっている[8]。スープカレーのバイブル的な本﹃北海道スープカレー読本﹄︵2004年︶の著書・樺沢紫苑は1999年を﹁乱立元年﹂としている[8]。
第1世代の店をリスペクトしつつ、より親しみやすい味にした﹁スープカレー第2世代﹂の﹁らっきょ﹂や﹁心﹂は、2000年代のスープカレーブームの中心を担ったといえる[8]。
2000年代、樺沢の﹃札幌激辛カレー批評﹄、﹃仏太のカレー修行﹄などのスープカレー情報を発信するウェブページが人気を集めた[8]。2002年には札幌市を中心とするカレー店100店を紹介するガイドブック﹃カレー賛昧﹄が刊行され、3万3千部を売り上げた[8]。インターネットアクセスがまだまだマニアのものだった時代、ガイドブックで食べ歩きを容易にし、スープカレーブームを加速した[8]。
2003年には﹃マジックスパイス﹄が神奈川県の﹁横濱カレーミュージアム﹂に出店して大評判になり、札幌発のスープカレーが全国に知られるきっかけになった[9]。その後、札幌発のスープカレー店が各都市に進出し、大手牛丼チェーンやファミリーレストラン、コンビニエンスストアでもスープカレーが販売された[10]。
また、人気タレントの大泉洋が﹁スープカレーファン﹂を標榜したこともブームを大きく後押しした[1]。大泉は、2004年︵平成16年︶にベル食品から発売された﹁本日のスープカレーのスープ﹂︵スープカレーの素︶の監修を務めるとともにエッセイ写真集﹃本日のスープカレー﹄︵2006年、HAJ出版︶、ISBN 978-4902882001︶を上梓、﹃100%スープカレー﹄と題するDVDをリリースしている[1]。
2012年︵平成24年︶時点では札幌市内にはスープカレーの専門店が200店以上あり、日本全国規模の商品にもスープカレー関連商品があり、文化として定着したことがうかがえる[1]。さらに2014年から2017年の3年間には、札幌市内だけで200店舗以上のスープカレー店が開店したとされる[11]。
2017年︵平成29年︶の﹃ミシュランガイド北海道 2017 特別版﹄に﹃カレー食堂 心﹄ほか7店が掲載された[12]。
概要[編集]
札幌市には2000年代のブームの後もスープカレーを提供する店が200店以上存在する}[1]。各店は個性を競い合っており、多様なバリエーションがある。札幌発祥の店が北海道内、全国、さらに海外にも進出している。札幌スープカレー[編集]
特徴[編集]
・スパイスの効いた旨みのあるスープと、大ぶりの具。
・煮込み料理と違って、スープと具は別々に調理する。メインの具はもともとチキンレッグが基本だったが、現在ではほかに豚角煮・ラムチョップ・魚介類などを選択できる店が増えている。これに茹でたり素揚げしたジャガイモ、ニンジン、ナス、ピーマン、オクラ、カボチャ、ゴボウ、ヤングコーン、ブロッコリー、レンコンなどの野菜が組み合わされる。
・﹁トマト系スープカレー﹂では、フォン・ド・ボー︵仔牛のダシ︶を使ったり、炒めたバジルとその香味オイルをたっぷり浮かべることが多い。
源流店[編集]
以下の店舗がスープカレーの源流店と考えられている。 アジャンタ薬膳カリィ店[6] スープカレー店の多くの店主が﹁大きな影響を受けた店﹂として名前を挙げている店である[13]。店主の辰尻宗男︵1934年 - 2009年︶は薬売りの行商で知られる富山県の生まれで[2]、幼少期に札幌に移り住んだ。両親は薬局を営んでいた。1971年︵昭和46年︶に札幌市中央区円山に喫茶店を開店。家に伝わっていた漢方[要曖昧さ回避]の養生食とインド料理を融合した﹁薬膳カリィ﹂を考案し、一日20食限定で出したところ、口コミで評判となった[2]。はじめは具無しのスープとライスだったが[14]、1975年︵昭和50年︶に﹁もったいないから出汁に使った鶏肉も出して﹂という客のリクエストによりチキンレッグを入れ[13]、つづいて大振りのニンジンとピーマンも加えるようになった。これがのちのスープカレーの原型となった。 スリランカ狂我国[6] 1984年に開店。インドに近い島国で出汁文化が日本と共通するスリランカのカレーを日本に紹介したごく早い例である。 木多郎[6] 1985年に開店。素揚げ野菜をトッピングするスタイルを考案。﹁トマト系スープカレー﹂のルーツでもある。 マジックスパイス[6] 1993年に開店。初めて﹁スープカレー﹂という商品名を使った。インドネシアの﹁ソトアヤム﹂の要素を取り入れた独特のカレーが人気となり、スープカレーブームを牽引する役割を担った。後続店[編集]
らっきょ[要出典] 1999年︵平成11年︶、ホテルマンだった井出剛と調理人の開賀津也により開店。以前からあったトマト系スープカレーにフランス料理のフォン・ド・ボーを取り入れ、さらに焦がしバジルを浮かべるというスタイルを広めた。開賀津也はのちに独立し、﹃カレー食堂 心﹄を開店した。 TONZI 東京に初めて出店したスープカレー専門店[3]。国立市に開店[3]。創業者のトンジ︵斉藤仁︶は﹃アジャンタ薬膳カリィ本舗﹄で修業した[15]。現在は閉店[3]。TONZIで学んだ米山幸彦は、同店の閉店するタイミングで2002年︵平成14年︶に﹃スープカリィ厨房 ガネー舎﹄を東京都港区新橋で開店した[16][3]。 奥芝商店[17] 2006年︵平成18年︶に開店。﹁エビ系スープカレー﹂のルーツとして新たな定番を作った。脚注[編集]
(一)^ abcd森田 2012, p. 257.
(二)^ abc杉浦美香 2018, p. 1.
(三)^ abcde水野仁輔・米山幸彦﹃LOVE SPICE 16 : もう死ぬまでやるしかない 米山幸彦﹄イートミー出版、2023年9月、p. 2。
(四)^ 森田 2012, p. 254.
(五)^ abcd森田 2012, p. 255.
(六)^ abcde樺沢 2004, p. 184.
(七)^ 杉浦美香 2018, p. 3.
(八)^ abcdef森田 2012, p. 256.
(九)^ 井上 2007, p. 173.
(十)^ 井上岳久﹁ブームは誰が仕掛けたか﹂﹃カレーの経営学 : 勝ち続ける驚異のしかけ・ノウハウ﹄東洋経済新報社、2012年。ISBN 9784492502334。
(11)^ 杉浦美香 2018, p. 4.
(12)^ ﹃ミシュランガイド北海道 2017 特別版﹄日本ミシュランタイヤ、2017年。ISBN 978-4904337226。
(13)^ ab樺沢 2004, p. 202.
(14)^ 杉浦美香 2018, p. 2.
(15)^ 水野仁輔・米山幸彦﹃LOVE SPICE 16 : もう死ぬまでやるしかない 米山幸彦﹄イートミー出版、2023年9月、pp. 2-3。
(16)^ 夏井誠 (2023年2月4日). “新橋﹃スープカリィ厨房 ガネー舎﹄でランチ。札幌の元祖スープカリィの味を伝えるお店”. さんたつby散歩の達人. 交通新聞社. 2024年6月9日閲覧。
(17)^ 大谷修一 (2017年7月17日). “札幌スープカレーの歴史とおすすめの名店3選”. All About. p. 2. 2018年10月16日閲覧。
参考文献[編集]
●樺沢紫苑﹃北海道スープカレー読本﹄亜璃西社、2004年。ISBN 978-4900541542。
●井上岳久﹃カレーの雑学﹄日東書院本社、2007年。ISBN 978-4528014299。
●一個人編集部 編﹃日本一のカレーグランプリ﹄KKベストセラーズ、2010年。ISBN 978-4584166123。
●森田武志﹁札幌スープカレーに見る地域ブランド構築のメカニズム﹂﹃観光学高等研究センター叢書 (CATS叢書)﹄第7号、北海道大学観光学高等研究センター、2012年3月、249-270頁、CRID 1050282677650440064、hdl:2115/49643。
●杉浦美香 (2018年1月2日). “﹁おせちもいいけどカレーもね!﹂お正月に探る札幌名物、スープカレー ルーツは“薬”だった?!”. 産経ニュース. 2018年10月2日閲覧。
関連項目[編集]
- カレー賛昧 - 2002年から2011年まで毎年発売されていた札幌スープカレー店のガイドブック。最新刊は2015年。