セミオートマチックトランスミッション
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セミオートマチックトランスミッション︵英: Semi-automatic transmission、セミAT︶は、車両のトランスミッションの一種で、その操作の一部︵典型的にはクラッチの動作︶が自動化されているが、停止からの発進や手動でのギア変更のために運転手の入力が必要である。セミオートマチックトランスミッションはもっぱらオートバイで使われた。従来型のマニュアルトランスミッションやシーケンシャルマニュアルトランスミッションに基づいているが、自動クラッチシステムを使用する。しかし、セミオートマチックトランスミッションの中には、トルクコンバータと遊星歯車機構を使用する標準的な油圧制御式オートマチックトランスミッションに基づくものもある[1][2]。
特定の種類のセミオートマチックトランスミッションを指す名称として、クラッチレスマニュアル[3]、オートクラッチ[4]、2ペダルMT[注釈 1]などがある。これらのシステムで、クラッチはアクチュエータあるいはサーボを始動させるスイッチを介して自動的に操作されるが、運転手はまだ手動でギアをシフトさせる必要がある。レーシングカーなどで発進、停車時に限定的にクラッチ操作が必要な物も含まれる。これは、運転手がクラッチを操作して次にギア比を選択するが、トランスミッション内部のギア変更は自動的実行されるプリセレクタ・ギアボックスと対照的である。
最初にセミオートマチックトランスミッションが使用されたのは自動車においてであり、1930年代中頃に複数のアメリカの車メーカーが提供し始めて人気が高まった。伝統的な油圧制御式オートマチックトランスミッションよりも一般的ではないにもかかわらず、セミオートマチックトランスミッションは様々な車やオートバイのモデルで利用可能であり、21世紀に入っても生産され続けている。パドルシフト操作付きのセミオートマチックトランスミッションは様々なレーシングカーで使用されてきており、1989年にF1カーのフェラーリ・640の電気油圧ギアシフト機構を制御するために初めて導入された。これらのシステムは現在フォーミュラ1、IndyCar、ツーリングカーレースなど様々なレーシングカーのクラスで使用されている。その他には、オートバイ、トラック、バス、鉄道車両でも使用されている。
概要[編集]
走行時にクラッチ操作が必要ないトランスミッションはオートマチックトランスミッションに分類され、日本の道路交通法でもオートマチック限定免許︵AT限定免許)で運転できることが規定されている。このなかで、ギア選択までも自動化したフルオートマチックトランスミッション︵以下、フルAT︶[注釈 2]と区別して、運転者がギヤ選択操作をしなければならないものがセミATと呼ばれる。 しかし1980年代以降、NAVi5やデュアルクラッチトランスミッションのように、本来は2ペダルMTに分類される機構であったものが全自動変速機能を備えるようになったり、INVECS-IIのように本来はフルATであったものが、ギアの全段をシーケンシャル変速できるシフトゲートやパドルシフト付きステアリング・ホイールを備えるようになったりした[注釈 3]ため、セミATとフルATの境目は次第に曖昧になってきている。 そのため、英語圏では便宜上前者に相当する2ペダルMTは電磁油圧式手動変速機、後者に相当するマニュアルモード付きフルATまたはCVTはマニュアルとオートマのかばん語であるマニュマチックという名称で呼び分けられている。設計と操作[編集]
セミオートマチックトランスミッションは、ギアを変更すると同時にクラッチペダルあるいはレバーを踏む必要性を取り除くことによって、ギアシフトがより容易になっている。機械の型、設計、車両の時代に依って、油圧式、空気圧式、または電気式アクチュエータ、電気スイッチ、モーター、プロセッサ、あるいはこういったシステムを組み合わせて使って、運転手が要求した時︵大抵はギアスティックを動かす︶にギアシフトを実行する。セミオートマチックトランスミッションを搭載するほとんどの車は、クラッチが遠隔で制御されるため標準的なクラッチペダルが取り付けられていない。同様に、セミオートマチックトランスミッションを搭載するほとんどのオートバイはハンドルバー上の従来型のクラッチレバーが取り付けられていない。クラッチレスマニュアルトランスミッション[編集]
ほとんどのセミオートマチックトランスミッションは従来型のマニュアルトランスミッションを基にしているが、大抵は自動クラッチあるいは別の種類の部分的に自動化されたトランスミッション機構を使って操作される。クラッチが自動化されると、トランスミッションはセミオートマチックとなる。この種類のトランスミッションは﹁クラッチレスマニュアル﹂と呼ばれる。 旧式の乗用車におけるほとんどのセミオートマチックトランスミッションはマニュアルトランスミッションのHパターンシフターを引き継いでいる。同様に、旧式のオートバイは従来型のフットシフトレバーを引き継いでいる。しかしながら、最新のオートバイ、レーシングカー等におけるセミオートマチックシステムは、ステアリングホイール近くのシフトパドルやハンドルバー近くのトリガーといったギア選択法を使用することが多い[5][6][7][8][9][10][11]。 クラッチ作動の自動化には油圧式、空気圧式、電気機械式クラッチから真空式[12]、電磁式、遠心クラッチまで様々な形式が長年にわたって使われてきた。流体継手︵初期のオートマチックトランスミッションで最もよく見られる︶も、大抵はある種の機械摩擦クラッチと一緒に、停止に近付いた時やアイドル時に車両がストールするのを防ぐために、様々なメーカーによって使われてきた。 典型的なセミオートマチックトランスミッションの設計では、ギアスティックが操作された時に要求されたシフトの方向を検出するためにホール効果センサやマイクロスイッチを使用する。これらのセンサの出力と、現在のギアとその速度を計測するセンサからの出力が組み合わされて、トランスミッションコントロールユニット、エレクトロニックコントロールユニット、エンジンコントロールユニット、マイクロプロセッサ[13][14]、あるいは別の種類の電子制御システムに送られる。この制御システムが次に滑らかなクラッチ締結に要する最適な時期とトルクを決定する。 電子制御ユニットはアクチュエータに動力を供給し、アクチュエータはクラッチを滑らかに締結、離合させる。サーボモータによってクラッチが作動するものもある。また、内部クラッチアクチュエータが電気モーターあるいはレノイドによって動力を得る完全な電気式の場合や、主クラッチアクチュエータが空気圧式アクチュエータの場合もある。 ﹁オートスティック﹂と命名されたクラッチレスマニュアルシステムは1968年度にフォルクスワーゲンによって導入されたセミオートマチックトランスミッションである。﹁Volkswagen Automatic Stickshift﹂という商品名で販売されたこのシステムは、従来型の3速マニュアルトランスミッションが負圧動作式自動クラッチシステムに接続されていた。ギアスティックの頂部は、運転手の手で触れた時に容易に押し下げられて電気スイッチが入るように設計された。押されると、スイッチは12ボルトソレノイドを作動させ、ソレノイドが次に真空クラッチアクチュエータが操作し、クラッチが離合され、ギア間のシフトが可能になる。運転手の手がギアシフトから離れると、クラッチが自動的に再締結する。オートスティックはトルクコンバータとも組み合わされ、これによってオートマティック車と同様にギアを入れたままのアイドルや、どのギアでも停止や発進が可能になった[15][16][17]。オートメイテッドマニュアルトランスミッション[編集]
詳細は「オートメイテッドマニュアルトランスミッション」を参照
1990年代末から、自動車メーカー各社は現在オートメイテッドマニュアルトランスミッション︵AMT︶と呼ばれているトランスミッションを導入し始めた。AMTは機械的にはそれ以前のクラッチレスマニュアルトランスミッションシステムと類似している。AMTは旧式のセミオートマチックトランスミッションやクラッチレスマニュアルトランスミッションと同じように機能するが、2つの例外がある。1つはAMTがクラッチとシフトの両方を自動的に操作できること、もう1つはトルクコンバータを使用していないことである。ギアシフトはトランスミッションコントロールユニット︵TCU︶から自動的に行われるか、シフトノブあるいはステアリングホイール背後に取り付けられたシフトパドルを使って手動で行われるかのいずれかである。AMTはマニュアルトランスミッションの燃費の良さとオートマチックトランスミッションの変速の容易さは兼ね備えている。最大の短所はTCUによって機械クラッチが離合されるためシフトが心地良くないことである。乗用車において、現代のAMTは一般的に6速︵7速のものもある︶で、やや長い歯車装置を持つ。賢いシフトプログラムと組み合わることで、燃費を大幅に向上することができる。一般に、AMTには一体型AMTと拡張型AMTの2種類が存在する。一体型AMTはAMT専用に設計されているが、拡張型AMTは標準的なマニュアルトランスミッションをAMTへ変換したものである[要出典]。
オートメイテッドマニュアルトランスミッションには、運転手が全くギア変更をする必要がない全自動︵フルオートマチック︶モードを含むものがある[18]。これらのトランスミッションは、自動化クラッチと自動化ギアシフト制御を備えた標準のマニュアルトランスミッションを説明することができる。このAMTは伝統的なオートマチックトランスミッションと同じように動作できる。例えば、エンジンが最高回転数に達するとTCUが自動的にギアをシフトする。AMTにはクラッチレスマニュアルモードもあり、センターコンソールに取り付けられたシフトセレクターやパドルシフターを使ってシフトアップやシフトダウンができる[19]。AMTは従来型のオートマチックトランスミッションよりも費用が低い[20]。
これらのトランスミッションは﹁マニュマチック︵マニュアルモード付き︶﹂オートマチックトランスミッションと混同してはいけない。マニュアルモード付きオートマチックトランスミッションは﹁ティプトロニック﹂や﹁ステップトロニック﹂、﹁スポルトマティック﹂、﹁ギアトロニック﹂といった商標で販売されている。これらのシステムはAMTと表面上は似ているように見えるが、機構としては遊星歯車式オートマチックトランスミッションそのものである[18]。
シーケンシャルマニュアルトランスミッション[編集]
詳細は「シーケンシャルマニュアルトランスミッション」を参照
オートバイやレーシングカーで使われているいくつかのセミオートマチックトランスミッションは実際に機械的にはシーケンシャルマニュアルトランスミッションに基づいている。オートバイ用セミオートマチックトランスミッションは一般的にクラッチレバーが除かれているが、従来型のヒール・アンド・トウ式のフットシフトレバーは保持している[21][22][23][24][25]。
オートバイ用のセミオートマチックトランスミッションは通常遠心クラッチを使用する[26]。アイドリング時のエンジン回転数では、エンジンはギアボックスのインプットシャフトから切り離される。トルクコンバータ式オートマチックトランスミッションとは異なり、適切に調性された遠心クラッチを使うとクリープ現象が生じない。エンジン回転数が上昇するにつれて、クラッチアセンブリ内部の錘が次第に外向きに旋回し、外側のハウジングの内側と接触し始めると、伝達されるエンジンパワーとトルクが増えていく。
歴史[編集]
フォード・モデルTの2段変速機[編集]
1908年から製造されたフォードの大衆車﹁モデルT﹂︵いわゆる﹁T型フォード﹂︶は、ペダル操作による2段の遊星歯車式変速機を搭載していた。クラッチは半自動式で、パーキングブレーキをかけている間はクラッチが切断され、パーキングブレーキを緩めることでクラッチが接続される。変速はペダルで行われ、ペダルを踏んでいる間はローギアであり、足を離すとハイギアとなる。また、後進の際には停止中に別のバックギア用ペダルを踏む。当時主流だったギヤそのものを選択摺動する方式に対し、遊星歯車を用いて複雑な操作を不要にした変速システムであり[27]、日本では大正時代の一時期、モデルT専用の運転免許が存在した[要出典]。この容易な変速システムはモデルTが世界的に普及した一因であると共に、後にアメリカにおいてATが普及する素地を作ったとも言われている。
BMW・7速SMGのセレクター
アルファロメオ・156の5速セレスピード
以下は乗用車のセミATの一覧である。このリストに掲載されている名称であってもフルオートマチックの製品もある。
●アルファロメオ - セレスピード
●BMW - SMG︵シーケンシャル・マニュアル・ギアボックス︶
●シトロエン - センソドライブ、EGS、ETG
●フェラーリ - F1システム
●フィアット - デュアロジック
●本田技研工業 - ホンダマチック︵フルオート式とセミオート式とが存在した︶、i-SHIFT
●いすゞ自動車 - NAVi5、NAVi6
●ランボルギーニ - eギア
●ランチア - ドルチェ・ファール・ニエンテ︵D.F.N.﹁何もしなくても良い甘美さ﹂の意︶/ セレクトロニック︵2008年のデルタから︶
●三菱自動車工業 - INVECS-III︵同名のCVTもある︶
●三菱自動車工業 - TC-SST︵ツインクラッチSST︶
●日産自動車 - GR6型デュアルクラッチトランスミッション、7M-ATx、9M-ATx
●マセラティ - カンビオコルサ︵﹁レース用装備﹂の意︶、デュオセレクト
●オペル - イージートロニック
●プジョー - 2トロニック︵﹁マニュアルとオートの2モード﹂の意︶、ETG
●ポルシェ - スポルトマチック︵流体継手/乾板併用式︶、ティプトロニック、ポルシェ・ドッペルクップルング︵PDK︶
●ルノー - イージーシステム︵油圧式︶、クイックシフト
●スマート - ソフタッチ、ソフタッチ・プラス
●スズキ - AGS︵オートギヤシフト︶
●ダイハツ工業 - イージードライブ︵負圧式︶
●フォルクスワーゲン - オートマチック・スティック・シフト︵流体継手/乾板併用式︶、DSG︵ダイレクト・シフト・ギアボックス︶、ASG︵Automatisiertes Schaltgetriebe︶
●トヨタ自動車 - SMT︵シーケンシャル・マニュアル・トランスミッションの略︶、MMT︵マルチモード・マニュアル・トランスミッションの略︶
パドルシフトの、ダラーラ・SF14のコスワース製ステアリングホイー ル
戦前からセミATを採用したレーシングカーは存在していたが、ロータス・76やアウディ・スポーツ・クワトロS1などで採用されたのみで、通常の3ペダルMTに比べると少数派であった。
しかし、フェラーリが1989年のF1でフェラーリ・640にセミATを投入して3勝の戦果を挙げてからは状況は一変。デビュー年は信頼性不足でリタイア多数だったものの、信頼性が確保されるとコックピット設計やシフトチェンジの迅速さ、シフトミスをしてもコンピューター制御によってオーバーレブが回避できる等のメリットから採用例が増え、現在フォーミュラカーやスポーツカーをはじめとするプロフェッショナルなレーシングカーでは、セミATが多数派となっている。
スタート時、停車時のみ手動でクラッチを操作する車両もある。その場合フットボックス(足下)にクラッチペダルが設けられているか、クラッチペダルが無く、ステアリングホイール裏にあるクラッチ用のパドルで操作する。