学力偏差値
定義[編集]
学力偏差値は、統計学に基づいて定義される。標準得点の一種であり、学力試験の得点の分布は正規分布に従うとしたときの、受験者の得点が受験生全体の中でどれくらい高い・低いかを表す指標である。 データを標準化する︵平均と標準偏差を一律にする︶ことで、満点点数や母集団が異なる試験同士でも一律に比較でき、﹁個々の学力試験の学習到達度﹂﹁受験における合格可能性の判定﹂に利用される[2][3]。計算式 | 偏差値 = A × {(得点 − 平均点) / 標準偏差} + B |
平均偏差値とボーダー偏差値[編集]
大学受験などにおいて、大手予備校が公表しているものには﹁平均偏差値﹂と﹁ボーダー偏差値﹂が存在する。どちらも各予備校が模試を受けた受験生に対し、追跡調査を行い﹁模試の成績﹂と﹁各大学の受験結果︵合否︶﹂を照らし合わせ算出するが、両者が示すものは全くの別物である[4]。平均偏差値 | ボーダー偏差値 | |
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意味・用途 |
「当該大学合格者」の「前年の模試における偏差値」の平均値。 |
「当該大学の入試」において「合否確率が半々 (50%)」になる偏差値。 |
主な使用機関 |
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留意・注意点 |
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① 合格者の学力を示したものではない
﹁学力平均値﹂とは乖離がある
特に平均学力が同じだとしても、競争率︵倍率︶が上がれば、ボーダー偏差値は上昇しやすい[4]。
︵例︶大学A︵競争率3倍︶と 大学B︵競争率1.5倍︶の比較[7]
大学A︵合格者平均︶57→︵50%ボーダー︶57.4
大学B︵合格者平均︶57.6→︵50%ボーダー︶52.5
② 正確に算出するのは困難
(一)不合格者のデータを、合格者のデータと同等の精度で集める必要があるが、サンプルが集めにくい[6]。
(二)統計学的に合否確率が50%になる地点を算出するのは困難[4]。河合塾においては、算出方法が公開されていない[5]。
③ 偏差値操作
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問題点 |
ボーダー偏差値を利用したネットにおける誹謗中傷
合否の分かれ目となる偏差値のボーダーラインが設定できないような大学を、河合塾が﹁ボーダー・フリーの大学﹂と呼んだことに由来し、
ネット掲示板やブログで、特定の大学︵※︶のことを﹁Fランク大学﹂または﹁Fラン﹂と呼んで、馬鹿にしたような書き込みが行われるようになった。
※﹁低偏差値﹂﹁低知名度﹂の大学として、一般的には﹁日東駒専﹂﹁産近甲龍﹂以下の大学を指す事が多く、本来の﹁ボーダー・フリーの大学﹂とは異なる これらの行為は、人に対して﹃バカ﹄﹃アホ﹄と言っているのと同様といえ、名誉毀損罪︵230条︶もしくは侮辱罪︵231条︶に抵触する可能性がある[9][10][11]。 |
偏差値操作[編集]
日本において「各学校の学力偏差値」は単に学校への入学難易度という意味でなく、「偏差値の高い学校=良い学校」という「偏差値の高さ=ブランド」としての意味合いを持つ。受験生が学校を選ぶ指標として「ブランドとしての学力偏差値」が使用される実態があり、多くの学校が「偏差値操作」を行っている実態がある[12]。
- 基本原理
「受験予備校が各大学の偏差値比較に用いる偏差値・メディアに掲載される偏差値を『意図的に操作し高くする』こと」である。大学が「複数ある入試回・方式」を用意していても、受験予備校やメディアが注目・掲載するのは「メイン方式」や「偏差値の最高値」のみなので、それらの方式の偏差値を「意図的に上げる」ことで「レベルの高い大学・人気のある大学」と受験生などに認識されることで宣伝になり、大学の価値を上げようとする企みである。
合格者数を高いレベルの受験生に絞り込むことで「合格者平均偏差値」においても「ボーダー偏差値」においても、実態より高い数値に操作できる。その「合格者」は、より高いレベルの大学に合格しているため、当該大学には入学しないが、他の方法(メディア掲載や予備校が大学比較に用いない方式)で学生を確保する。対外的に示す「偏差値を出すこと」と「実際の学生確保」を別個に行っている。[13] [14][15]。
偏差値操作の方法 | 効果 |
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入試方式の多様化・複雑化[12] |
メイン方式以外にも、非常に多くの入試方式を設け、それらの方式で合格者を多く出すことで、メイン方式の合格者数を絞り込むことが可能であり、これを利用した悪質な偏差値操作が、一部の学校により行われている。
︻例︼[16]
①. 複数回の入試日程を設定し、各回の募集人数に傾斜をつける。
②. 特定の回︵メディアに掲載される偏差値︶の合格者を極端に絞り込む。
③. 意図的に、高い学力をもっていると思われる受験生のみに合格を出す。
④. 不合格になった受験生を、他の回の入試を受けるように誘導する︵受験料優遇措置などの制度を用意するなど︶。
⑤. そこで合格を出し、入学者数を確保する。
この方法による偏差値操作は、特に﹁ボーダー偏差値﹂で効果が現れやすい[17]。
※入試日においても、たとえば、2月1日にはたくさんの入試が実施される為、それだけ人気が分散し、1校あたりの入試難易度は低く出る傾向にあり、逆に競合校が少ない日程では人気が集中しやすく、入試難易度が高くなる傾向がある[18]。
︵対策︶﹁偏差値﹂を見る際には、その方式の﹁募集定員﹂や﹁合格者数﹂などを確認する必要がある[15]。
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AO入試や推薦入試で学生を確保することで一般入試の倍率を意図的に操作しやすくなる[20]。2017年度時点では、私立大入学者の半数以上が推薦・AO︵推薦40.5%、AO入試10.7%︶で大学に入学している[21]。中堅以下の私大では約7割に上る[22]。
︵問題点︶﹁英語の音読をすれば一発でAO入試組だと分かるほど基礎学力が低いケースが多い︵川成洋[23]︶﹂﹁受験による、挫折も大きな成功体験もないまま学生生活を送ることでの精神的未熟さ[24]﹂などが挙げられている。少子化で受験生が減っている現状を受け、学生確保・偏差値維持のために、学生の質が落ちることを承知していながら、多くの大学が推薦やAO入試を拡充している[19]。
︵事例︶文部科学省による2017年度調査の調査では、推薦入試で定員の5割以上の合格者を出していることが発覚した武蔵大学に対し、是正意見︵早急な改善を求める︶が出された[25]。また、AO入試による入学者が多い大学・学部の学生の採用を避けている企業がある[24]。
︵対策︶AOや推薦入試には良い面もあるが、各大学は推薦入試の割合や基準を公表するなど﹁透明性﹂を高める必要がある[26]。上記の様な要因により、学生の学力低下を憂慮した文部科学省は、2009年に﹁推薦入試やAO入試には、応募に際し各種条件を課す﹂ように促す通達を出したが、あくまでガイドラインのため効力は薄いとされている[22]。
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付属校からのエスカレーター入学[12] |
AO入試や推薦入試と同じ理由で、一般入試の倍率を意図的に操作しやすくなる。学生が就職活動を行う際、採用側は付属出身者に対して警戒しており、出身高校をチェックしているケースがある[22]。 |
日本における誕生と歴史[編集]
日本での使用状況[編集]
現在の日本では、学力偏差値は中学受験、高校受験、大学受験などを含む学力試験で広く用いられている。中学受験では、大手塾は、模試での得点分布を元に、各中学校の﹁合格可能性80%偏差値﹂を算出し、公開している[32]。 国公立中学においては、前節で述べた通り、1993年2月の文部省︵当時︶の通達[31]により、業者テスト︵模試︶の実施、および生徒の希望や適性を無視し、その学力偏差値によって受験校を決めるのは禁止となっており、実施されていない。 ●森口朗︵教育評論家︶は、﹃偏差値は子どもを救う﹄(森口 1999)で偏差値で学力を測定することの妥当性と限界を示した。 ●桑田昭三︵開発者︶は、生徒の能力を決めてしまうことにつながりかねないため、開発当初も、啓蒙時も、偏差値は生徒に知らせるべきでないと考えていた。しかし、偏差値は生徒に努力目標を明確にさせるのに便利であり、多くの学校教員は、生徒に自分の偏差値を知らせた。結果、学力偏差値が悪者扱いされてしまったことを、心底残念に思っている[33]。 ●朝比奈一郎︵元通産省官僚︶は、昭和の後半から平成の時代にかけて顕著だった偏差値教育について、科挙と同じような弊害を日本にもたらしたのではないかと指摘している[34][35]。海外での使用状況[編集]
海外では、あまり使われておらず[36]、入試が非常に厳しい台湾、中国、韓国、インドなどでも偏差値は使われていない。桑田は、上級学校に合格することは、海外では自己責任であり、親も子も学校の教員に頼り、教員もそれに応えるのが職務であるかのように思っている国は、日本しかないのではないか、とインタビューで答えている[37]。- その他の考察
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脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
参考文献[編集]
- 森口朗『偏差値は子どもを救う』草思社、1999年10月。ISBN 4794209223。
- Lodico, Marguerite G.; Spaulding, Dean T.; Voegtle, Katherine H. (2010). Methods in Educational Research: From Theory to Practice (2nd ed.). John Wiley& Sons. p. 91. ISBN 9780470436806. OCLC 495547194 . "Many standardized measures report student scores as standard scores, allowing a direct comparison of student performance."
関連項目[編集]
- 偏差値操作 - 大学などの教育機関が、推薦入試等で大量の入学者確保、一般入試の募集人数削減、受験方式増加増、受験科目数減、複数回受験可能などをすることで一般入試の競争率を高めて実態以上に高い偏差値へと工作すること。
- 知能指数 (IQ) - ボーダーフリー(通称:Fラン)
- 業者テスト/模擬試験 - 学習塾/予備校
- ゆとり教育 - 学習指導要領
- 入学試験 - 小学校受験/中学受験/高校受験/大学受験 - 大学入学共通テスト
- 学歴/学歴信仰/学歴フィルター/スクリーニング