タンパク質(読み)たんぱくしつ(英語表記)protein

翻訳|protein

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タンパク質」の意味・わかりやすい解説

タンパク質
たんぱくしつ
protein


20L-α()-50Eiweißproteinproteios1839Gerardus J. Mulder18021882


存在

タンパク質は細胞の乾燥重量の約60%を占め、ヒト細胞にはほぼ1万種類のタンパク質があると考えられている。ヒトゲノムの解析結果ではヒトの遺伝子は約3万個、それから読み取られるタンパク質は5~10万種類程度と推定されている。

 細胞の生活機能は物質代謝、エネルギー代謝によって営まれているが、これらの代謝系を構成するたくさんの化学反応を触媒して円滑に進めている酵素は、そのほとんどがタンパク質を主体としている。一般に酵素は、特定の物質の特定の反応だけを触媒する特異性をもつため、その種類は非常に多い。血液の輸送機能をはじめ、細胞の生理機能を調整するシグナル伝達、ホルモン受容体作用、遺伝子の発現調節、免疫、毒性など酵素以外の生物学的活性を備えたタンパク質や、これらの生物機能が発現される場を形成する構造タンパク質も細胞には含まれている。また、種子、卵、血液などに含まれるある種のタンパク質や乳汁のタンパク質のように、特別の機能をもたない貯蔵用のタンパク質もある。さらに動物の毛、つめなどのように保護作用をしているタンパク質もある。

[内田庸子]

分類


使

1 ()

2 (1) α-(2) (3) 

3 

4 

5 

6 調

7 漿()


構造


50556.97.315161924()1250005000101970SDSsodium dodecyl sulfate()便

 


一次構造

約20種のアミノ酸がペプチド結合(図A)で結合し、1本の紐(ひも)状のポリペプチド鎖(図B)を形成する。タンパク質により構成アミノ酸の残基数、組成、結合順序は固有でまったく異なっている。またペプチド鎖中のシステイン残基間でジスルフィド結合(-S-S-)をつくり、ペプチド鎖内部またはペプチド鎖間に架橋構造を形成する。タンパク質分子中のアミノ酸の結合順序(配列)は、その合成を支配しているDNA鋳型により遺伝的に定められている。このアミノ酸の配列順序と、-S-S-結合が存在するときはその結合位置も含めた一次元的化学構造を一次構造という。一次構造の決定法は、1954年イギリスのF・サンガーが51個のアミノ酸からなるホルモン、インスリンの配列決定に成功してほぼ確立された。その後、1959年にウシの膵臓(すいぞう)のリボヌクレアーゼ(124個)、1961年にタバコモザイクウイルスのタンパク質(158個)、ヘモグロビン(574個)などの一次構造が相次いで決定され、DNAの塩基配列決定法が確立された1978年までに250種類に近いタンパク質について、また起源を異にする同種タンパク質を含めると1100個を超える数の完全一次構造が決定された。DNAの塩基配列が容易に決定されるようになり、その結果からタンパク質の一次構造が推定されるので、一次構造既知のタンパク質の数は急激に増加している(2003年6月の時点で、タンパク質のデータバンクSwiss-Protには11万9866配列が登録されている)。1990年代に入ると、質量分析法も有力な手段となってきた。

[内田庸子]

二次構造

1(1)L(2)B(3)Aα-2

 1951(1)α-()α-(2)2β()-Xα-β-β-β-α-7080


三次構造

1α-β-

 -S-S-pHUVCD

 X19581980NMR1985NMRNMR1990XNMR20036PDB21248


四次構造

調

 200020tRNARNAtRNAXRNA


性質


(1) 

(2) pH

(3) salting-in殿salting-outpH

(4) 殿殿

(5) 280

(6) α-1980N-in vivo

(7) 6NL-α-

(8) 尿()X1SDS

 1990

(9) 

(10) 

 (a)(b)(c)(d)(e)5


分離・精製


殿殿殿1990mRNARNAcDNADNAcomplementaryDNAmRNARNA1DNA便SDS


化学合成

一定配列のタンパク質の合成法としては、液相法と固相法の2方法がおもに使われている。

(1)液相法 カルボキシ基(カルボキシル基)を保護したアミノ酸にアミノ基を保護したアミノ酸を縮合させ、生じたペプチドのアミノ基の保護を外して次のアミノ基保護アミノ酸を縮合させるという方法で、C末端からN末端に向かって一つずつ延長していく。この方法は確実ではあるが手数がかかり、あまり長いペプチドは合成できない。

(2)固相法 1963年メリフィールドによりペプチド合成法として開発された。C末端の保護基として不溶性高分子担体(支持体)を用い、これにアミノ基を保護したアミノ酸を順次ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、縮合剤)法で延長させていき、最終的に生じたペプチドをフッ化水素で樹脂から切り離し、得られたペプチドを高速逆相クロマトグラフィーなどで精製する。1990年ごろからはこの方法に基づくペプチド合成機の開発により迅速に数十残基のペプチドが合成されるようになった。(1)と(2)の方法で得られた部分ペプチドを化学的に(たとえばDCC)結合させて完全タンパク質を合成することができる。これまでにインスリン、リボヌクレアーゼA、リボヌクレアーゼT1などが完全合成されている。

 化学合成は構造の確認、構造と機能の相関関係の解明などに利用されてきた。1990年ごろからはタンパク質分子の表面に出ていると思われるペプチドを合成して、それに対する抗体を作製することができるようになった。その抗体が天然タンパク質と特異的に反応する場合に限り、mRNA(メッセンジャーRNA)の取得や、遺伝子工学で合成されたタンパク質の精製などに使用される。

[内田庸子]

生合成


DNA4

(1) 20tRNARNA3'-ATPMg2+tRNAtRNAtRNA

(2) DNAmRNAAUGN-tRNAtRNAIFGTPMg2+ATPtRNAtRNAEPAP

(3) mRNAtRNA2aa2-tRNA2EF-Tu-GTPMg2+ArRNARNAPaa1-tRNA1aa2EF-G-GTPMg2+mRNA13tRNA2aa1-aa2-tRNA2APtRNA1EAaa3-tRNA3tRNAP

(4) APtRNAtRNArRNAUAAUAGUGA3UAAUAGRF-1UAAUGARF-2RF-33eRFSmRNAtRNArun off

 -S-S--S-S-ADPN

 tRNA()tRNAArRNA

 調調調


局在化

タンパク質はそのアミノ酸配列中にその行き先を示す選別シグナル配列をもっている。真核細胞ではそのシグナルにしたがって各細胞内小器官、核、ミトコンドリア、葉緑体(植物)、ペルオキシソーム(一層の膜に囲まれた細胞内小器官。有毒分子の酸化を行うための隔離された場所)、小胞体へと運ばれていく。一例をあげれば、結合型ポリリボソームで合成される分泌タンパク質や膜タンパク質は、そのN末端に存在するシグナル配列を認識する識別粒子(SRP)により小胞体膜上の輸送チャンネルに誘導され、小胞体内腔(ないこう)に送り込まれる。合成終了とともに小胞体内部のシグナルペプチダーゼでシグナルペプチドが切断されて小胞体内腔に放出される。新生タンパク質は-S-S-架橋の形成、糖鎖の付加など小胞体特有の化学修飾を受け、さらに小胞体内の分子シャペロンの介助で正しい高次構造に折り畳まれる。この際、誤ってフォールディングしたタンパク質やストレスによる変性タンパク質が小胞体内に蓄積することがある。その場合は、小胞体内の分子シャペロンの発現増量、新たな新生タンパク質の翻訳抑制などで小胞体内を調整するとともに、変性タンパク質をサイトゾルに引き出し、後述のユビキチン‐プロテアソーム系で分解して除去する。正しくできあがったタンパク質はゴルジ体に送られ、種々の修飾酵素によりさらに糖鎖、リン脂質が付加されるなどにより選別操作がより進められ、リソソーム、細胞膜、細胞外へとそれぞれ輸送されていく。原核細胞でも、細胞膜や細胞膜外で機能するタンパク質はシグナルペプチドをもち、同様の機構で膜を通過していく。ミトコンドリア(葉緑体)内膜で機能するタンパク質は遊離型リボソームで前駆体として合成されるが、N末端にやはり特有のシグナル配列をもつ。分子シャペロン(HSP70)とATPの介助で高次構造を崩し、内膜、外膜の二重層膜を透過する。ミトコンドリア内のペプチダーゼでシグナル配列除去後、内部に存在する分子シャペロン(HSP60)により複合体の高次構造に組み込まれる。

[内田庸子]

タンパク質の寿命と分解


寿200寿2寿

 寿寿7626ssSvedberg unit26s1990()26s200ATP

 21寿B.C.H.K.L.S.D調

 ()()()AB


栄養


100()

 尿尿尿()


タンパク質の所要量

4

 0.70g/kg/110.70903018690.70×(100/90)×1.3200017055121418570


食品タンパク質の栄養価

1985FAOWHOUNU621001006239

 10035100404050

 NPUPER



124319761977197819811983198719873 19872 19881 171990199319911992 1992Carl Branden1992199419941997199819981998199819981998 1 11998X199819981998PM199819981998199819981998199819981998199819981999西199919991999C1999西19991999  199919991999199919991999 199912319991999199919991999George Malacinski1999X1999Peck Ritter1999199919992000200020002000620002000200020002000 20001 2 2001姿2001 200132001H2200220021 2 調3 200220022003200320032003William H. Elliott2003200320032003西 20032003Bruce AlbertsEssential6200320032003

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改訂新版 世界大百科事典 「タンパク質」の意味・わかりやすい解説

タンパク(蛋白)質 (たんぱくしつ)
protein


1

 ︿2

 DNA20DNADNA3

 100protein1prōteios1920︿︿︿︿

 1

1

CONHNHCHRiCORiRiRiαCαn3001205055%6.97.3%1319%2530%02.5%

 2-aNHCαCαCOφψ2-bCONH180φψ2-cα-β--L-3α-β-β-β-β-φψ467

 1Xα4-b-4-b-51000256044-b-8-b

 246

 pH殿

 26-a0.690.75cm3/g20pH

 HSGGHTST

DNA1RNAmRNA︿mRNA53︿

 

 調cSHSS5

simple proteinconjugated protein3-13-23-4X3-33-5

18-d6

 2SerHisCysAspGluNHOHCO6-cd

 3induced fit

 4使14S7

 使

4調DNA調X

9-ac9-b

99%10063%30095%1011Boct-Boc-2Boc



 3002030010400


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栄養・生化学辞典 「タンパク質」の解説

タンパク質

 
 

 1001121A30B251

 

 20

 DNARNARNA10kg300g

 9  

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

化学辞典 第2版 「タンパク質」の解説

タンパク質
タンパクシツ
protein


α-50 20104 106 (5000)30005×106 1α-α-(fibrous protein)(globular protein)1970A.L. Lehninger( )
(1)()
(2)()
(3)(β1)
(4)()
(5)()
(6)()
(7)()
(8)()

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「タンパク質」の意味・わかりやすい解説

タンパク(蛋白)質【たんぱくしつ】

 
20L-αCONH1() 1g4.3kcal尿尿DNADNARNAmRNAmRNAmRNARNAtRNA
 

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世界大百科事典(旧版)内のタンパク質の言及

【栄養】より

… 摂取する栄養素の質によって栄養型が分類される。緑色植物はクロロフィル(葉緑素)のはたらきで,太陽光線のエネルギーによって二酸化炭素と水から炭水化物であるブドウ糖を合成することができ(光合成),これが体内で分解するときに生じるエネルギーによって,根から吸収した窒素,硫黄,リン,カリウム,マグネシウムなどの無機化合物を材料として,タンパク質,核酸,その他あらゆる生体構成成分を合成する。このような栄養型を独立栄養(無機栄養,自栄養)という。…

【加水分解】より

…水による分解反応を広く加水分解といい,酢酸ナトリウムのような塩(えん)の加水分解,酢酸エチルのようなエステルの加水分解,デンプンやタンパク質の加水分解など,化学反応には加水分解の例が多い。強酸と強塩基との中和によりできた塩,たとえば食塩は,水に溶かすとナトリウムイオンと塩素イオンに電離するだけであるが,酢酸ナトリウムや炭酸ナトリウムのように弱酸と強塩基からできた塩,塩化アンモニウムや硫酸アルミニウムのような強酸と弱塩基からできた塩,さらに酢酸アンモニウムのように弱酸と弱塩基からできた塩は,それを水に溶かすと加水分解が起こる。…

【高分子】より

…しかし互いに類似の化学構造の分子からなる物質でも,分子量が1000程度のものと1万以上のものとではとくに物理的性質に大きな差異があり,一般には分子量が数千以上のものを高分子と呼ぶ。天然に存在する高分子にはセルロース,タンパク質,核酸などがあり,それぞれ生物にとって必須の役割を担っている。そのなかでもセルロースは古くから人類によって被服の材料などとして利用されてきた。…

【ジケトピペラジン】より

酸またはアルカリによって加水分解され,ジペプチドを経由してアミノ酸となる。ジケトピペラジンは,α‐アミノ酸あるいはそのエステルなどを放置したり,加熱したりすると容易に生成し,またタンパク質の高温加水分解の際にも生成しやすい。このためかつて,これがタンパク質の構成単位であるという〈ジケトピペラジン説〉があったが,現在では否定されている。…

【分子生物学】より


 DNA,RNA

※「タンパク質」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」