トーチカ
トーチカ︵ロシア語: точка︶は、鉄筋コンクリート製の防御陣地を指す軍事用語。
日本語では特火点︵ らピルボックス ︵pillbox、錠剤ケースの意︶と呼ばれ、掩体壕︵バンカー︶の一種に分類される。
偽の屋根や、描かれた窓など、一般家屋に擬装されたスイスのトーチカ
海岸の岸壁に作られた穹窖式の砲台︵佐田岬砲台︶
トーチカが城塞と区別される点は機関銃やそれに準ずる自動火器、あるいは小型高性能火砲の登場でごく小規模な単位で、敵部隊の攻撃を阻止できるようになった事である。
トーチカは、一般に円形や方形などの単純な外形で、全長が数メートルから十数メートル程度、銃眼となる開口部を除いて壁でよく保護された防御施設である。土嚢で作った壁の上に丸太類を渡して土を盛り天蓋とするだけでも簡易トーチカとすることができる。特筆すべきはコンクリート製の本格的なもので、榴弾砲の直撃にも耐えうるため、排除が困難を極めるところであり、資材が不十分な場合でも、必要とあれば現地部隊の努力で石やサンゴ礁の硬い砂、廃材など、あらゆるものが利用される。一般の家屋を改造してトーチカとすることもある。トーチカの壁には視察用と銃眼を兼ねた必要最小限の穴が設けられている。また、戦車を埋め、砲塔のみを露出させて即席トーチカとすることもある。初めから余剰の戦車/海軍艦艇の砲塔を利用して建築されたトーチカも見られた。
構造の大部分が地面より下になっており、他のトーチカなどに接続される場合の通路は掘り下げられた溝状の塹壕︵トレンチ︶や、地上からの直接の出入り口がなく地下道によって接続されるもの、さらにはその地下道によって後方の大きな保塁や要塞とつながっているものもある。
トーチカは、正面を向いた銃眼以外にはほとんど穴が空いていないため、視察観測が不能となる死角が多く生じる。このため、通常は複数のトーチカを並べて互いにカバーしあい、敵に対して十字砲火を浴びせられるように配置される。﹁大西洋の壁﹂のドイツ軍の一部の機関銃トーチカのように、海岸と正対する位置に︵敵の艦砲射撃の的になる︶銃眼を設けず、左右斜め前方に射線を形成できるようにしたものを組み合わせ、上陸してくる敵兵を十字砲火で制圧するように設計されているものもあった。
日本においても、遺構として北海道の根室市-苫小牧市にかけての太平洋岸に複数のトーチカ群が残されており、硫黄島では、破壊された一式陸上攻撃機を活用した掩体壕の残骸を現在も見ることができる。北方領土には、ソ連がトーチカとして設置したIS-3重戦車が放置されている。また、トーチカは演習場内に監的壕として造られることもあり、山田野演習場︵青森県︶や強首陸軍演習場︵秋田県︶などに遺構が残る。
現在でもシリアなど砂漠・平野での戦車戦が予想される中近東諸国では、旧式化した戦車を固定陣地化しているケースもある。
サン・マロに残る鋳鋼製トーチカ。ドイツ軍が使用したもので、同地を 攻囲する連合国軍によって直射砲撃を受けている
ラ・ロシェルのUボート・ブンカー跡。連合軍の空襲に備えたものだが、 これに対して貫通可能な新型航空爆弾も開発された
戦車や航空機といった兵器が登場したばかりの第一次世界大戦当時までは、人間が接近して銃眼から爆薬を投げ込むといった攻撃方法しかなかったため、多数のトーチカ、砲兵陣地、地雷原などが有機的に結合する要塞の制圧は難しかった。しかし、各種兵器がより強力に発達した第二次世界大戦では、いくつかの有効な制圧方法が編み出された。