ロシア連邦軍参謀本部情報総局
ロシア連邦軍参謀本部情報総局 GRU Generalnogo Shtaba | |
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Glavnoje Razvedyvatel'noje Upravlenije Главное Разведывательное Управление | |
ソ連時代からの連邦軍参謀本部情報総局の紋章 | |
組織の概要 | |
設立年月日 | 1918年 |
管轄 | ロシア連邦政府 |
行政官 |
ロシア連邦軍参謀本部情報総局︵ロシアれんぽうぐんさんぼうほんぶじょうほうそうきょく、ロシア語: Главное разведывательное управление, ラテン文字転写: Glavnoye Razvedyvatelnoye Upravleniye、英: Main Intelligence Directorate of the General Staff︶は、ロシア連邦軍における情報機関。略してGRU︵発音は英語でグルー、ロシア語の場合はゲーエルウー、ロシア語での略称はГРУ︶と呼ばれる。ソ連時代から存続している組織である。
ロシア連邦軍参謀本部情報総局の現在の紋章
以下の機構はドミトリー・プロホロフ著の"Империя ГРУ"︵GRU帝国、2000年︶を参照した。ただし、同書もヴィクトル・スヴォーロフの著書︵1970年代の情報︶を参考にしている。
概要[編集]
組織上は、他国と同様に参謀本部の一部署に過ぎないが、参謀系統を通した情報の収集のほか、スパイ活動、SIGINT、偵察衛星や特殊部隊︵スペツナズ︶の運用も管轄しており、旧KGBや現在のSVRなどと並ぶ強力な情報機関である。第二次世界大戦中のスパイ、リヒャルト・ゾルゲはGRUの管理下にあった。 GRUの総局長は参謀総長及び国防相に従属し、ロシア対外情報庁 (SVR)とは異なり、大統領に直接報告することはない。GRUの本部庁舎はモスクワの旧ホドゥンキ地区、ホロシェフスコエ通りに位置するガラス張りの9階建ての建物である。GRU職員からはステクリャーシュカ︵Стекляшка‥ガラスビル︶と呼ばれているが、一般にはアクワリウム︵Аквариум‥水族館︶として知られている。組織[編集]
中央機構[編集]
GRU総局長は上級大将で、参謀次長を兼任する。局長は中将、副局長や課長は少将。副課長、班長及び副班長は大佐。一般班員は、先任作戦将校と作戦将校職から成り、先任作戦将校は大佐、作戦将校は中佐。 ●GRU総局長/参謀次長 ●GRU指揮所 ●特別重要エージェント及びイリーガル・グループ ●第一副総局長 - 全情報収集︵エージェント諜報︶部門を管掌 ●第1局 - 西欧諸国。5課を有し、各課は国ごとの班を有する。 ●第2局 - 北米・南米諸国 ●第3局 - アジア諸国 ●第4局 - アフリカ及び中東諸国 ●第5局 - 作戦・戦術情報。通常の参謀系統は、この局が管轄する。スペツナズを管理する特殊情報班が存在する。 ●第1課 - モスクワ ●第2課 - 東西ベルリン ●第3課 - 民族解放運動及びテロ組織 ●第4課 - キューバ ●副総局長/第6局長 ●第6局 - 電子偵察局。SIGINT。特殊部隊OSNAZが存在する。 ●副総局長/情報部長 - 情報の処理・分析部門を管掌 ●第7局 - NATO担当。6課を有する。 ●第8局 - 特別指定国に関する業務 ●第9局 - 軍事技術 ●第10局 - 軍事経済、軍事生産及び売却、経済保安 ●第11局 - 戦略核戦力 ●第12局 - 不明︵情報戦?︶ ●副総局長/艦隊情報部長 - 各艦隊本部の情報局を管掌 ●副総局長/宇宙偵察局長 ●宇宙偵察局 - 偵察衛星によるIMINT ●支援部署 ●運用・技術局 ●行政局 ●通信局 ●会計課 ●第1特殊課 - パスポート、身分証明書等の偽造 ●第8課 - 暗号及び暗号解読 教育施設としては、軍事外交アカデミーが存在し、スパイや駐在武官、情報参謀が教育を受ける。スペツナズは、2万5千人・24個大隊相当が存在する。各国のロシア大使館にはGRUの支局が存在し、駐在武官もGRUの所属である。キューバのルールデスには無線傍受センターが維持されている。部隊の情報機関[編集]
部隊レベルの作戦・戦術情報は、GRU第5局の統制を受ける。 軍管区レベルでは、以下の主要5科から成る軍管区本部第2局︵情報局︶が担当する。 ●第1科‥管区配属の軍級その他の部隊の情報科の業務を指導 ●第2科‥管区担当地域のエージェント諜報 ●第3科‥管区の偵察・破壊工作部隊の活動を指導 ●第4科‥諜報情報の処理 ●第5科‥電波偵察 軍級レベルでは、5班から成る軍本部第2科︵情報科︶が担当する。名称の変遷[編集]
GRUは、軍政又は軍令機関の一部署であるため、その名称は目まぐるしく変わっている。- 参謀本部総局第2補給総監課(1917年11月~1918年5月)
- 最高司令官本営附属革命野戦本部扇動・情報課(1917年11月~1918年3月)
- 最高軍事会議作戦局情報班(1918年3月~1918年9月)
- 軍事問題人民委員部作戦課情報班、全ロシア参謀本部作戦局軍事統計課(1918年5月~1918年9月)
- ロシア革命軍事会議本部情報課(1918年9月~10月)
- ロシア革命軍事会議野戦本部登録局、ロシア革命軍事会議野戦本部作戦局情報班(1918年11月~1920年)
- ロシア革命軍事会議野戦本部作戦局第1課情報班、労農赤軍本部作戦局情報部隊、労農赤軍本部情報課(1919年~1920年)
- 労農赤軍情報局(1922年~1924年)
- 労農赤軍本部第4局(1926年~1934年8月)
- 労農赤軍情報・統計局(1934年8月~11月)
- 労農赤軍情報局(1934年11月~1939年5月)
- 国防人民委員部第5局(1939年5月~1940年6月)
- 赤軍参謀本部情報局(1940年6月~1942年2月)
- 赤軍参謀本部情報総局(1942年2月~9月)
- 赤軍参謀本部部隊情報局(1942年9月~1943年2月)
- 赤軍参謀本部情報局、赤軍情報総局(国防人民委員部情報総局)(1943年2月~1945年6月)
- 赤軍参謀本部情報総局(1945年6月~1946年)
- 軍参謀本部情報総局(1946年~1947年)
- ソ連閣僚会議附属情報委員会(1947年~1949年)
- 軍参謀本部情報総局(1949年~1950年)
- ソビエト軍参謀本部情報総局(1950年~1955年)
- ソ連軍参謀本部情報総局(1955年~1991年)
- ロシア連邦軍参謀本部情報総局(1991年~)
歴代軍情報部長[編集]
職名 | 氏名 | 階級 | 在任期間 | 出身校 | 前職 |
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登録局長 | セミョーン・アラロフ | 1918.11-1919.6 | ロシア帝国軍の将校 | 軍事委員 | |
セルゲイ・グセフ | 1919.6-1919.12 | 共産党員 | 共和国革命軍事会議議員 | ||
ゲオルギー・ピャタコフ | 1920.1-1920.2 | ||||
登録局長 | ウラジーミル・アウセム | 1920.2-1920.6 | 共産党員 | 登録局副局長 | |
登録局長 | ヤン・レンツマン | 1920.6-1921 | 共産党員 | 第15軍革命軍事会議議員 | |
情報局長 | アルヴィド・ゼイボト | 1921-1924 | 共産党員 | 登録局長代行 | |
情報局長 | ヤン・ベルジン | 1924.3-1935.4 | 共産党員 | 情報局副局長 | |
情報局長 | セミョーン・ウリツキー | 1935.4-1937.6 | 共産党員 | 自動車装甲戦車局副局長 | |
情報局長 | ヤン・ベルジン | 1937.7-1937.11 | 共産党員 | スペイン共和国軍主任軍事顧問 | |
情報局長 | セミョーン・ゲンディン | 国家保安上級少佐 | 1937.11-1938.10 | モスクワ指揮砲兵課程 | 情報局長代行 |
情報局長 | A.オルロフ | 1938.10-1939 | |||
第5局長 | イワン・プロスクロフ | 1939-1940.6 | |||
情報局長 | フィリップ・ゴリコフ | 中将 | 1940.6-1941.10 | 共産党員 | 第6軍司令官 |
情報局長 | アレクセイ・パンフィーロフ | 中将 | 1941.10-1942.8 | 共産党員 | 情報局副局長 |
情報総局長 | イワン・イリイチェフ | 中将 | 1942.8-1945.7 | 共産党員 | 情報局政治課長 |
情報総局長 | フョードル・クズネツォフ | 中将 | 1945.7-1947.9 | 共産党員 | 戦線情報局長 |
N.トルソフ | 1947-1949 | ||||
情報総局長 | マトヴェイ・ザハロフ | 1949-1952 | ペトログラード砲兵指揮官課程 | 参謀本部軍事アカデミー校長 | |
情報総局長 | M.シャリン | 大将 | 1952-1956 | ||
情報総局長 | セルゲイ・シュテメンコ | 大将 | 1956-1957 | セヴァストポリ軍事砲兵学校 | |
情報総局長 | M.シャリン | 1957-1958.12 | |||
情報総局長 | イワン・セーロフ | 1958.12-1963.1 | 共産党員 | KGB議長 | |
情報総局長 | ピョートル・イワシュチン | 上級大将 | 1963.1-1987.7 | 軍事飛行士学校 | KGB第一副議長 |
情報総局長 | V.ミハイロフ | 大将 | 1987.7-1991 | ||
情報総局長 | エフゲニー・チモーヒン | 大将 | 1991-1992.8 | ||
情報総局長 | フョードル・ラドゥイギン | 大将 | 1992.9-1997.5 | ハリコフ空軍学校 | 条約・法務局長 |
情報総局長 | ワレンチン・コラベリニコフ | 上級大将 | 1997.5-2009.4 | ミンスク高等技術高射ミサイル学校 | 情報総局副総局長 |
情報総局長 | アレクサンドル・シュリャフトゥロフ | 中将 | 2009.4-2011.12 | 情報総局第一副総局長 | |
情報総局長 | イーゴリ・セルグン | 上級大将 | 2011.12-2016.1 | ||
情報総局長 | イーゴリ・コロボフ | 上級大将 | 2016.2-2018.11 |
現状[編集]
●2006年4月、参謀総長ユーリー・バルエフスキー上級大将は、軍情報機関の改編について表明した。国防省筋によれば、地上軍・海軍・空軍の軍種情報局が廃止され、各軍種情報局の機能は参謀本部情報総局に移管される。各軍種には情報局に基づき、大佐を長とする佐官6人から成る情報課が創設される︵情報局時代は定数20人未満、局長は中将︶。 ●アメリカの連邦捜査局 (FBI) などは、2016年のアメリカ大統領選挙におけるヒラリー・クリントン陣営に対するサイバー攻撃︵2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるロシアの干渉︶にGRUが関与していると断定。この報告に基づき、オバマ大統領は2016年12月、駐米ロシア外交官35人を国外追放する報復措置をとった[1]。 ●2020年2月20日、英国の外務省と米国の国務省は、2019年10月にジョージア政府や企業などのWebサイトが改ざんされ、国営放送局のサービスにも支障が出たサイバー攻撃について、ロシア軍の情報機関、参謀本部情報局︵GRU︶が攻撃に関与したと断定し、ロシアを非難する声明を発表した[2]。 ●2020年10月19日、アメリカ合衆国司法省はGRUの工作員6人を起訴したことを発表した。彼らはウクライナの送電網や2017年フランス大統領選挙、2018年平昌オリンピックなどを妨害する目的でサイバー攻撃を行った疑いが持たれている[3][4]。また、同日にイギリス外務省も声明を発表し、GRUが2020年東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会や関係者などに対して、サイバー攻撃を行っていたことを明らかにした[3][4]。英政府によると2020年夏の五輪開催の延期が決定した3月より前に、GRUのサイバー部隊は主催団体や関係者、スポンサー、輸送関連の情報システムに対して、インターネットを通じて偵察活動を実施していたという。システムの全体像を把握した上で、弱点を突くサイバー攻撃によって、開催中に障害を発生させるなどの妨害を計画していたと見られる[5]。 ●チェコ政府は2021年、同国で2014年に発生したヴルビェティツェ弾薬庫爆発事件にGRUメンバー2人が関与したとして国際指名手配するとともに、チェコ駐在のロシア外交官18人の追放を発表した。この2人は2018年にイギリスで起きた元GRU大佐父娘毒殺未遂事件と同名だと報道されている[6]。 ●2022年2月18日、ニューバーガー米国家安全保障担当副補佐官︵サイバー・先端技術担当︶は、2月15日に発生したウクライナ国防省や銀行などを標的とした﹁DDoS攻撃﹂と呼ばれるサイバー攻撃について、攻撃に使われたIPアドレスを分析した結果、GRUに結びつく情報を確認したことを明らかにし、そのサイバー攻撃の背後にロシア軍の情報機関当局が関係しているとして、ロシア政府の責任を追及する声明を出した[7]。英外務省も、ロシア軍の情報機関であるロシア連邦軍参謀本部情報総局︵GRU︶がウクライナに対するサイバー攻撃に関与していたことはほぼ確実という認識を示した[8]。2月15日のネット被害は、サーバーに大量のデータを送りつける﹁DDoS攻撃﹂によるもので、ウクライナの国防省と軍のサイトは10時間以上も機能が停止し、銀行でも数時間、オンライン取引が利用できなくなった[9]。所属したことがある人物[編集]
●セルゲイ・スクリパリ - スパイ容疑で逮捕された後、ロシアを出国。脚注[編集]
(一)^ 点検トランプ政権(4)火種﹁ロシアゲート﹂﹃読売新聞﹄朝刊2017年5月3日
(二)^ “ジョージアを狙ったサイバー攻撃、ロシア軍の情報機関GRUが関与と米英が断定”. ITmedia エンタープライズ. 2022年12月18日閲覧。
(三)^ ab“ロシアがサイバー攻撃、東京五輪など標的 英政府発表”. AFP通信 (2020年10月20日). 2020年11月7日閲覧。
(四)^ ab“東京五輪の妨害狙い、ロシアがサイバー攻撃 英政府が発表”. BBC NEWS. (2020年10月20日) 2020年11月7日閲覧。
(五)^ 日経ビジネス電子版. “東京五輪でサイバー攻撃謀ったロシアに何も言えない日本”. 日経ビジネス電子版. 2022年12月18日閲覧。
(六)^ ﹁露情報員 欧州で暗躍?英・毒殺未遂容疑の2人 チェコ爆発でも関与疑い﹂﹃毎日新聞﹄朝刊2021年4月26日︵国際面︶同日閲覧
(七)^ ﹁ロシア軍情報機関、ウクライナへのサイバー攻撃に関与 米英指摘﹂﹃Reuters﹄、2022年2月18日。2022年12月18日閲覧。
(八)^ ﹁ロシア軍情報機関、ウクライナへのサイバー攻撃に関与 米英指摘﹂﹃Reuters﹄、2022年2月18日。2022年12月18日閲覧。
(九)^ “ウクライナへのサイバー攻撃、ロシア軍情報機関が実行…米英政府が分析”. 読売新聞オンライン (2022年2月19日). 2022年12月18日閲覧。