飾緒
飾緒︵しょくしょ/しょくちょ/かざりお、英: aiguillette フランス語発音: [ɛɡɥijɛt] ( 音声ファイル)、エギュイエット︶は、一般に軍服の片肩から前部にかけて吊るされる飾り紐のことをいう。材質に金銀糸が使用されることからモールとも呼ばれている。
軍人以外でも、国境警備隊や沿岸警備隊といった準軍事組織の構成員、或いは警察官や消防官等の公務員の制服にも使用され、民間でも制服や舞台衣装の飾りとして用いられる事がある。
陸海軍の参謀飾緒。右肩端部に飾緒を取り付ける為の切込孔が見られる
以下に海上自衛官の副官飾緒装着要領を海上幕僚監部からの通知文書︵海幕総第3603号︵昭和56年8月6日︶︶[1]に基づき以下に示す。
(一)上衣の右肩袖付上部を約4センチメートル切り開き、内側でボタンにより飾緒の取付部を固定する。
(二)飾緒の短い細ひもの輪に右腕を通す。
(三)飾緒の長い三つ編みひもは、右肩後方から右脇下を経て上衣の前部に回す。
(四)飾緒の長い細ひも及び短い三つ編みひもの輪は、直接上衣の前部に回す。
(五)上衣の前部に回すひも類をまとめて、第1種夏服上衣︵立襟︶にあっては第1ボタンに、第2種夏服上衣︵ワイシャツ型︶にあっては第2ボタンに、その他にあっては右えり裏側に取り付ける。
旧陸海軍将官の正装・礼装用飾緒、参謀および皇族王公族附武官用飾緒、副官用飾緒︵海軍のみ︶、陸上・航空自衛隊の防衛駐在官及び副官用飾緒、陸上自衛隊将官の礼服用飾緒の着用法は上記海上自衛隊の方法と同じである。飾緒を着用する被服には右肩の袖部縫い目に切れ込を入れ、裏地部分に隠しボタンを付す。
日本はフランス軍の飾緒を参考にしたため、この装着方法はフランス式とも言える。
19世紀中頃のフランス軍将官
前記の理由から、礼装用等の飾緒は上記の#装着方法とほぼ同じである。詰襟軍服に着用する際、前部に回すひも類をまとめずに別々のボタンに取り付ける場合もある。
また勲章的なものとして、表彰を受けた部隊の将兵が着用する飾緒状のフラジェール︵Fourragère︶がある。例えば、レジオン・ドヌール勲章受章部隊の隊員は赤色の飾緒を着ける資格を有する︵下記の写真の通り、異なる種類の勲章―例えば第二次世界大戦従軍章も―を受けている場合は色違いの複数本の飾緒が着用される︶。
概要[編集]
飾緒が示す意味は国や時代によって異なる。正装や礼装のアイテムとして着用される場合は、地位や役職、資格、所属する部隊や兵科︵兵種︶を示すこともあり、勲章の略章であることもある。役職を示すものとしては副官用と駐在武官用の飾緒が多くの国の軍隊に共通しており、これらは常装に着用されることも多い。式典時の服装に単なる装飾として着けられる場合もあり、儀仗兵や軍楽隊の式典服に多く見られる。 18世紀、ナポレオン時代のフランス陸軍で誕生したものといわれ、元は地図に書き込みをする要のある副官やメモを頻繁に取る必要のある伝令将校が、鉛筆やチョークなどの筆記具を吊るしておく為のものだったという説がある。馬上で指揮を執ることが多かったナポレオンが、鉛筆を片手でも扱いやすいように、また誤って落とすことがないようにと考案したものであるともされる︵鉛筆もまたナポレオンがコンテに命じて考案させたものである︶。その名残とされているのが、胸前部に垂らす紐の先端に付けられている石筆︵ペンシル︶と呼ばれる飾り金具であり、古い時代の飾緒では実際にこの部分が鉛筆になっている例がある。しかし、それ以外にも馬の手綱やメジャー、あるいはマスケット銃の火皿の火薬滓をかき出すための金具が起源という説もあり、詳細は判然としない。装着方法[編集]
フランス[編集]
日本[編集]
大日本帝国陸海軍[編集]
-
陸海軍の将官飾緒(礼装)
-
明治最初期の陸軍の参謀飾緒。フランス軍に倣った物でのちの飾緒とは体裁が異なる
-
陸軍の参謀飾緒
-
海軍の参謀飾緒
-
陸海軍の参謀飾緒(中列)と高等官衙副官懸章/副官飾緒(後列)
-
高等官衙副官懸章を着用した陸軍の副官(左端)と副官飾緒を着用した海軍の副官(右端)
自衛隊[編集]
陸海空自衛隊で共通の飾緒[編集]
陸海空で共通の飾緒としては、防衛駐在官と副官の飾緒がある。防衛駐在官の飾緒︵南厚1等海佐︶ 防衛駐在官たる自衛官の飾緒 防衛駐在官たる自衛官がその職務を行うため必要がある場合に着用する[2]。黄色の丸打ひもに金色の金属細線をかぶせたものを三つ編みにし、その両端に金色の金属製金具︵陸上自衛官のものには桜花及び桜葉を、海上自衛官のものには錨を、航空自衛官のものには鷲をつけたものとする。以下同じ。︶をつける。 副官の飾緒 副官飾緒の着用者は、防衛省訓令により以下に掲げる者とされている[3]。 (一)統合幕僚監部、陸上幕僚監部、海上幕僚監部及び航空幕僚監部の副官 (二)陸上総隊司令部、方面総監部、師団司令部及び旅団司令部の副官 (三)自衛艦隊司令部、護衛艦隊司令部、航空集団司令部、潜水艦隊司令部、地方総監部、教育航空集団司令部、練習艦隊司令部、護衛隊群司令部及び掃海隊群司令部の副官 (四)航空総隊司令部、航空支援集団司令部、航空教育集団司令部、航空開発実験集団司令部、航空方面隊司令部、航空団司令部及び航空警戒管制団司令部の副官 上記の者が日本国外に出張する場合並びに日本国内において日本国以外の国の軍隊、軍艦又は大使館若しくは公使館との連絡業務に従事する場合並びにそのほか、渉外事務を行うため必要がある場合に着用する。白色の丸打ひもを三つ編みにし、両端に銀色の金属製金具をつける。防衛駐在官の飾緒 左から佐藤一郎2等空佐、平塚弘司1等空佐 嘉手納基地にて -
(上)防衛大臣政務官の着任式に侍立する副官。(下)防衛大臣政務官の補佐を行う副官(航空自衛官)
各自衛隊特有の飾緒[編集]
●陸上自衛隊第1種礼装乙姿の松尾幸弘陸将 礼服用飾緒 陸将補以上が礼装を着用する場合に着用する。金色の丸打ひも︵綿心の金線、絹、化学繊維又はこれらの混紡とする。︶を三つ編みにし、両端に、桜星及び桜葉の模様を施した金属製金具をつける。 儀仗隊員の飾緒 特別儀仗隊︵第302保安警務中隊︶で着用される。礼服用飾緒と同様のものを左肩に着用する。 第1種飾緒 音楽隊員が着用する。第2種飾緒と同様のものを大小二つの環状にして大きな環を左腕に通し、小さな環は左肩側面に垂らし、端部は大きい環に沿って前に垂らす。 第2種飾緒 音楽隊員が特別儀じょう演奏服装の際に着用する。着用方法は儀仗隊員の飾緒と同様で、両端が金属製金具ではなく総となっている。特別儀仗隊の飾緒。取付は肩の縫い目ではなく、肩章に穴を開け、その下にあるボタンに留めている -
音楽隊員の第2種飾緒●海上自衛隊 特定の渉外事務を行う幹部自衛官の飾緒 ●練習艦隊の最先任の幕僚が、練習艦隊の遠洋練習航海中、日本国外において渉外事務を行うために必要のある場合に、副官に準じて飾緒を着用する[4]。 ●米国派遣訓練︵リムパック︶に参加する部隊の最先任の幕僚が、米国派遣部隊の派遣期間中、渉外事務を行うために必要のある場合に、副官に準じて飾緒を着用する[5]。 音楽隊員の飾緒 黄色と白の丸打ひもを三つ編みにし、両端に金色及び銀色の金属製金具をつける。着用方法は陸上自衛隊の第1種飾緒と同じ。また航空学生が基地祭等でファンシードリルを披露する際に専用の制服に着用する。音楽隊員の飾緒
-
航空学生によるファンシードリル●航空自衛隊 音楽隊員の飾緒 銀色の丸打ひもを三つ編みにし、両端に銀色の金属製金具をつける。着用方法は陸上自衛隊の第1種飾緒と同じ。また航空学生が基地祭等でファンシードリルを披露する際に専用の制服に着用する。 儀仗用飾緒 儀仗の場合に白色の顎紐、白色の拳銃帯及び白色の脚絆と共に着用される。:銀色の丸打ひもを三つ編みにし、両端に銀色の金属製金具をつける。作りは陸上自衛隊儀仗隊員と同様だが、三つ編みのひもが長短2本の他に環状のものが大小2個ある。着用方法は陸上自衛隊儀仗隊員と同様だが、短い細ひもの輪と三つ編みの環2個を左肩側面に垂らす。音楽隊員の飾緒
その他の組織[編集]
警視庁と皇宮警察の騎馬警官及び宮内庁の車馬課の御者。先頭の警視庁 警察官の飾緒は細紐を腕に通さない。明治21年制定の御者の制服にも飾緒が付く。信任状を天皇に提出しに行く駐日大使を護衛中皇宮護衛官を示す臙脂色の飾緒 -
旭川市消防本部音楽隊員
ドイツ[編集]
-
副官飾緒を着用した総統付高級副官。
-
射撃徽章を着けたプロイセン下士官。
イギリス[編集]
イギリス軍の飾緒は殆どが金色で、他国に比べて石筆が大きく、紐の編み方が粗い。部隊、階級、役職により着用基準や装着位置が異なり、付ける飾緒も太さや石筆の大きさが異なる。また、細紐が無いものもある。着用法はドイツの礼装用飾緒と同じで、副官用等は左肩に付ける。
-
コールドストリームガーズの連隊長代理と下馬正装のライフガーズ連隊員。手前のライフガーズ連隊員は近衛騎兵伍長用の細紐が無いタイプを着用。
-
下馬正装の近衛騎兵。階級や役職により飾緒の種類や装着位置が異なる。
-
ライフガーズ連隊長の正装を着用したルイス・マウントバッテン伯爵。
-
正装のクライヴ・ローダー空軍大将。
-
礼装のグレン・トーピー空軍大将。
-
常装に将官用飾緒を付けたグレン・トーピー空軍大将。
-
常装に駐在武官用飾緒を付けたマイケル・ハーウッド空軍少将。
アメリカ[編集]
-
アーリントン国立墓地で任務中の陸軍儀仗兵。歩兵課程修了の飾緒。
-
礼装の陸軍軍曹達。
-
5軍合同儀仗隊。隊長の陸軍将校は歩兵課程修了の飾緒を着けている。その両側に儀仗飾緒を着けた沿岸警備隊兵士、その後には同じく空軍兵士。
-
海軍儀仗隊。
その他の国[編集]
-
パリでパレード中のオーストリア軍部隊のフランス式飾緒。
-
ロシア軍のパレード用礼装。
-
タイ王国軍首脳(2010年)。手前左から海、陸、空軍の司令官。
-
オーストラリア空軍将官。
-
韓国空軍駐在武官。
-
トルコ軍駐在武官。
脚注[編集]
- ^ 『副官飾緒着用の細部要領等について』(通知)昭和56年8月6日 海幕総第3603号〔第1次改正〕平成8年7月24日 海幕総務第3466 号
- ^ 防衛駐在官たる自衛官の飾緒に関する訓令(防衛庁訓令第87号)
- ^ 渉外事務を行う際に着用する副官の飾緒に関する訓令(防衛庁訓令第74号)
- ^ 練習艦隊の遠洋練習航海に際し渉外事務を行う幹部自衛官の飾緒の着用について(通達)海幕総務第4976号(平成7年11月29日)
- ^ 米国派遣訓練(リムパック)に参加する部隊の渉外事務を行う幹部自衛官の飾緒の着用について(通達)海幕総務第2866号(平成8年6月20日)
参考資料[編集]
書籍[編集]
- Brian L Davis; Pierre Turner (1986). German uniforms of the Third Reich : 1933 - 1945 : in colour. Poole u.a.: Blandford Pr.. ISBN 978-0-7137-1927-7.
- 太田臨一郎 『日本の軍服-幕末から現代まで-』 国書刊行会、昭和55年。
- Ronald Pawly; Patrice Courcelle (2003). The Kaiser's warlords. Oxford: Osprey. ISBN 978-1-84176-558-7.