デジタル大辞泉 「全然」の意味・読み・例文・類語 ぜん‐ぜん【全然】 ﹇ト・タル﹈﹇文﹈﹇形動タリ﹈余すところのないさま。まったくそうであるさま。 ﹁―たるスパルタ国の属邦にあらずと雖も﹂︿竜渓・経国美談﹀ ﹇副﹈ 1 ︵あとに打消しの語や否定的な表現を伴って︶まるで。少しも。﹁全然食欲がない﹂﹁その話は全然知らない﹂﹁スポーツは全然だめです﹂ 2 残りなく。すっかり。 ﹁結婚の問題は―僕に任せるという愛子の言葉を﹂︿志賀・暗夜行路﹀ 3 ︵俗な言い方︶非常に。とても。﹁全然愉快だ﹂ [類語]︵1︶まったく・まるきり・まるで・さっぱり・一(いっ)向(こう)・皆(かい)目(もく)・からきし・とんと・ちっとも・少しも・何ら・いささかも・微(みじ)塵(ん)も・毫(ごう)も・毛(もう)頭(とう)・露(つゆ)ほども・露(つゆ)・更に・更(さら)更(さら)・一向に・一切・まるっきり・何も・何(なん)にも・何一つ・一つとして・到底・とても・全くもって・どだい・てんで・寸分・一寸・寸毫・毫末・夢にも・元元・元来・本来・大体・自体・そもそも・元より・根っから・今まで・従来・年来・旧来・これまで・在来・従前・古来・かねがね・かねて・常(つね)常(づね)・間(かん)断(だん)・延延・連綿・長(なが)長(なが)・脈脈・綿綿・縷(る)縷(る)・前前・ずっと・生まれつき・生来 出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
精選版 日本国語大辞典 「全然」の意味・読み・例文・類語 ぜん‐ぜん【全然】 (一)[1] 〘 形容動詞ナリ活用タリ 〙 余すところのないさま。全くそうであるさま。 (一)[初出の実例]﹁陽明に至っては程朱にも輪を掛けた全然たる教門でござって﹂(出典‥百一新論︵1874︶︿西周﹀下) (二)[2] 〘 副詞 〙 (一)① 残るところなく。すべてにわたって。ことごとく。すっかり。全部。 (一)[初出の実例]﹁匹似余飲憎二甜赤一、臭味全然異二女児一﹂(出典‥黄葉夕陽邨舎詩‐後編︵1823︶八・頼子成連恵伊丹酒前此見示西遊草賦此併謝) (二)﹁僕は全然(ゼンゼン)恋の奴隷(やっこ)であったから﹂(出典‥牛肉と馬鈴薯︵1901︶︿国木田独歩﹀) (二)② ( 下に打消を伴って ) ちっとも。少しも。 (一)[初出の実例]﹁全然似寄らぬマドンナを双幅見せろと逼ると同じく﹂(出典‥吾輩は猫である︵1905‐06︶︿夏目漱石﹀五) (三)③ ( 口頭語で肯定表現を強める ) 非常に。 (一)[初出の実例]﹁アプレゲールは全然エライよ﹂(出典‥安吾巷談︵1950︶︿坂口安吾﹀田園ハレム) 全然の語誌 (1)近世後期に中国の白話小説から取り入れられ、﹁まったく﹂というルビを付けて用いられていた。 (2)明治期に入っても、小説では﹁すっかり﹂﹁そっくり﹂﹁まるで﹂﹁まるきり﹂などのルビ付きで用いられていることが多い。二葉亭四迷﹁浮雲‐二﹂の﹁全然(スッカリ)咄して笑ッて仕舞はう﹂、尾崎紅葉﹁金色夜叉‐前﹂の﹁此家は全然(ソックリ)お前に譲るのだ﹂、島崎藤村﹁破戒‐三﹂の﹁全然(マルデ)師範校時代の瀬川君とは違ふ﹂、坪内逍遙﹁当世書生気質‐一〇﹂の﹁先刻桐山から聞いた事をば、全然(マルキリ)鸚鵡石で喋口(しゃべ)りたてる﹂など。漢語﹁ぜんぜん﹂が一般化するのは明治三〇年から四〇年にかけてである。 (3)(2)に挙げた例のルビでもわかるように、﹁全然﹂は﹁すべてにわたって﹂﹁残るところなく﹂﹁全部﹂というような意味で、[ 二 ]①②のように、もともとは肯定表現にも否定表現にも使うことができた。否定表現との結びつきが強まるのは大正末から昭和にかけてである。 (4)[ 二 ]③は、昭和二〇年以後に現われた用法で、肯定表現を伴う点では[ 二 ]①と似ているが、①のように﹁残らず﹂﹁全部﹂の意味は含まず、ある状態の程度を強調するだけの働きである点が異なる。多くの人がこれを奇異な使い方に感じたのは、否定表現を伴わないということだけではなく、[ 二 ]①とは違って、﹁とても﹂﹁非常に﹂と同様、単なる程度強調に使われたということが大きな理由である。 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例