出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「もんじ」ともいい、言語を点や線の組合せで単位ごとに記号化するもの。
[日下部文夫]
ヒトは、言語とともに生きてきたすえに、ここほんの5、6000年前に、文字を手にした。そこで初めて言語単位を客体としてつかまえた。文字は、いまも人類社会にしみわたりつつあり、変容しつつあり、意識的に操作される新しい文化財として文明を開きつつある。ことばが対人関係の現場から放たれて、記録をもつことになった。主観が客観に移され、歴史時代の扉があき、文明への幕が開かれた。(1)語意識の定着も、音韻単位の抽出も文字表記が呼び覚ました。同時に、識字対非識字および固有文化対文明化の課題が芽生えた。(2)文字以前は情感共有の韻文時代、それ以後に情報集積の散文時代に入った。かつて文化に結晶して生活の場によみがえっていた伝承は、記録となって時代を刻み、個別の事例を跡づける資料となって、文明を築く手段となった。文字は、まず記帳や契約や記念の用具であり、神殿や行事の管理者、暦や倉庫の番人として、書記が生まれるのにつれて育った。神話や英雄譚(たん)は、それまでは歌い継がれて人々の間で理想化していった。しかし、文字記録は、ときには書き手自身に迫るほどの遡及(そきゅう)性があり、個別の時や所や人を記しとどめて跡づけることになった。(3)文字には、記録とともに伝達の働きがあり、ことばを限りない空間と時間に広げ、死んだ言語にも再生の機会を与えた。(4)文字表記は、また、その原本の保存に加え、早くから複製技術を発達させた。個々の筆写から筆耕生の組織、そして、印刷術から今日のコンピュータ・メモリーに至る。いずれにせよ、作者の名もとどめながら、文書・書籍は、独自の社会性を獲得して、読者においてよみがえる。読みは無声化し、やがて内面化する。(5)文献は、統制をもたらし、広い地域をまとめ、時を隔てて、一つの政治・経済のもとに運営する中央集権をたやすくする。漢字は官僚組織を固め、ギリシア文字やローマ字も古代帝国を内から支えた。(6)地縁・血縁に強く結び付いていた民俗信仰が世界宗教に置き換わるときにも、それを推進する用具となった。仏教における梵字や漢字、原始キリスト教とギリシア文字、ローマ正教とラテン字母、ギリシア正教とキリル文字、エジプトのコプト教とコプト文字、イスラム教とアラビア文字。それぞれに強く結び付いている。(7)共同体の習俗・伝承が、文字を媒体として、教育者の指導を仰ぐ学習に譲るようになった。宮廷をめぐる史官や僧による読み書き・算盤(そろばん)の教育から写字生養成に及び、やがて、寺子屋を経て、近代の学校制度につながった。(8)言語は民族文化の基盤である。そのうえに方言の別さえあって、地域性が強い。文字は、文明流布の用具として諸言語の表記に奉仕する国際性をもつ。いくつかの言語の間でもまれながら文字体系は進化を促され、字母文字として結晶する。そこで、語形分析の道が開かれ、言語ごとの独自性に沿う表記が可能になった。いずれの言語、いずこの方言にもそれにふさわしい表記が許されて、民族語の自立が一定の文字表で保証される。(9)聴覚に障害のある人に文字はそのまま有効であり、視覚の障害には、字母で設計された点字が用意されている。書記言語は、健常者と障害者とを結び付ける媒体となって、社会を支えている。
文字は、かならず公共性をもち、天文、気象、地誌、統計を扱い、戸籍、履歴、辞令、病歴、業績、諸契約から著作、特許に及ぶ登録によって個人を社会的に確認させる。そこには、人権の尊重と抑圧との両面の働きがみられるが、近代的自我は読み書きの普遍化によってしか確立しない。文字にとって、個我の客体化と、時間・空間の超克、多文化包括および語形への消え去らない遡及性こそ本質的な機能といえよう。
[日下部文夫]
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…絵文字が発展して象形文字になり,ついで1字形が言葉の一つの概念あるいは一つの意味単位に対応する段階になって,表意文字は成立した。漢字は代表的な表意文字であるが,多くの場合1字形が1単語を表記するため,表語文字logogramとも呼ばれる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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