ヒトやサルの「見る」能力の特徴は、遠近感を有し、かつ遠隔視ができ、立体視が可能なことであり、さらにもう一つ特筆すべきことは色覚をもつことである。「見る」ということに関する限り、ヒトとサルは、嗅覚優位の哺乳(ほにゅう)類のなかにあって、とりわけ鳥類に近い。
ヒト、サル(旧世界ザル)の色覚は三原色の組合せ(三色視)によるものである。これに対し、ほかの哺乳類は、従来は色の識別はできないといわれていたが、そうではなく、二色視が一般的と考えられるようになってきた。
ヒトが遠近感を有し、立体視ができるのは、目が顔の正面についていて視野が広く、かつ両眼の視野の重なる部分が大きいことによる。視野とは、1点を注視したとき、目を動かさずに見ることのできる範囲を視線からの角度で表したもので、ヒトの正常単眼視野は、水平方向では外方に約100度、内方に約60度、上下方向では上方約60度、下方70度くらいである。左右の単眼視野の合作が両眼視野で、ヒトの場合には水平方向約200度になるが、遠近感にとって重要なのは、両眼視野の広さより単眼視野が重なり合う範囲、つまり、両眼視を形づくる部分の大きさである。
ヒトの場合、その範囲は、顔の中心線から左右60度、合計約120度であり、類人猿を含め高等なサルではほぼ同じである。目の位置が顔の側面に移るほど外方への単眼視野が広くなり、したがって両眼視野は広くなる。しかし、逆に内方への単眼視野は狭くなり、当然、両眼視を形づくる部分は小さくなる。より原始的な特性を残す原猿類のサルであるキツネザルではこの部分は約90度、ツパイではさらに狭く約30度で、それだけ遠近感がとらえにくくなっている。
[山口雅弘]
ヒト、サルの「見る」ことの特徴として、もう一つあげなくてはならないのは、近接視が生活のうえできわめて重要な要素になっていることである。動物にとってもっとも基本的な行動である摂食を例にとると、多くの哺乳類が食物の良否を主として嗅覚で吟味するのに対して、ヒトやサルは、手にとって近くに引き寄せてその性状を判断する。食物に限らず、物を手にとって詳細に観察する行為はヒトやサルにとっては基本的な行動で、近接視がいかに重要かを物語っている。近接視を可能にしたのは、目そのものの機能とともに、手指が物を握るのに適するよう発達したことも大きくあずかっている。
ヒトは、道具をつくり、それを使ってさまざまな仕事を行うために、サルよりもいっそう近接視が重要である。旧石器時代から新石器時代、さらに鉄器時代と文明が進むにしたがって、ヒトの道具への依存度は高まり、遠隔視より近接視の比重がはるかに重くなってきた。ことに、文字の発明が近接視の重要性を決定的にしたといってよい。現代社会において、近接視がいままで以上に要求されていることは、職場における日常の仕事を考えればすぐに納得できるし、現在ではこれが過度に傾き、目の酷使につながっていることはすでに述べたとおりである。ヒトの目は、遠方の風景をぼんやりと眺めているときがもっともリラックスした状態にあり、逆に近くのものを詳細に観察するときもっとも緊張し、頻繁な調節を強要される。これが目の酷使の原因になるのである。
ヒトは年齢を経るにしたがい、一般に近接視の能力が衰えてくる。いわゆる老眼で、これは目のレンズ(水晶体)の曲率を調節する毛様体筋の働きが弱くなるためにおこる。現在は老眼鏡があるので、この衰えを容易に矯正することができる。
[山口雅弘]
ヒトの目は、百数十種に及ぶ色を見分けることができるが、これはすべて、青、緑、赤の三原色の混じりぐあいによって識別している。
[山口雅弘]
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