デジタル大辞泉
「主」の意味・読み・例文・類語
おも︻主/重︼
﹇形動﹈﹇文﹈﹇ナリ﹈重要なさま。中心になるさま。﹁この地方の―な産物﹂﹁―なメンバー﹂
﹇名﹈︵ふつう﹁オモ﹂と書く︶狂言用語。
1 主役のこと。現在はシテという。
2 ﹁主(おも)あど﹂の略。
[類語]主(しゅ)・主要
しゅう【▽主】
《「しゅ」の音変化》主人。主君。
「―の気に入らぬからといって」〈鴎外・阿部一族〉
[補説]江戸時代以前の表記は「しう」がほとんど。
す︻主/子︼
﹇接尾﹈人名または人を表す名詞に付いて、親愛の気持ちや軽い敬意を表す。特に遊里で用いる。
﹁ああ、是(これ)々(これ)太夫―、待って貰(もら)はう﹂︿伎・韓人漢文﹀
にし︻▽主︼
﹇代﹈︽﹁ぬし﹂の音変化︾二人称の人代名詞。あんた。おまえ。
﹁これさ―たち、物さ問ひ申すべい﹂︿浄・碁盤太平記﹀
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ぬし【主】
(一)[1] 〘 名詞 〙
(一)[ 一 ] ある物事を主宰し、支配し、所有するなどして、その代表、あるいは中心となる人。
(一)① 国や家など、ある社会、地域、集団などを治める首長。また、一般にある事柄を中心になってつかさどる人。君主。主人。あるじ。神名﹁天之御中主神﹂﹁大国主神﹂などに見られ、また、﹁あがたぬし︵県主︶﹂﹁みやぬし︵宮主︶﹂﹁かんぬし︵神主︶﹂などと複合して用いる。
(一)[初出の実例]﹁神祇に主(ヌシ)乏(とも)しかる可(へ)からず。宇宙(あめのした)には君(きみ)無かる可からず﹂(出典‥日本書紀︵720︶継体元年三月︵寛文版訓︶)
(二)② 主従関係における、主人、主君。しゅう。あるじ。また、従者から主を尊んでいう。
(一)[初出の実例]﹁吾(あ)が農斯(ヌシ)の御魂賜ひて春さらば奈良の都に召さげ給はね﹂(出典‥万葉集︵8C後︶五・八八二)
(三)③ 男女関係における夫や情夫。また、女から自分の男を尊び親しんでいう。
(一)[初出の実例]﹁ほととぎす初声聞けばあぢきなくぬし定まらぬ恋せらるはた︿素性﹀﹂(出典‥古今和歌集︵905‐914︶夏・一四三)
(四)④ 所有者。持ちぬし。﹁家主﹂﹁地主﹂などと複合しても用いる。
(一)[初出の実例]﹁ぬししらぬ香こそにほへれ秋の野にたがぬぎかけしふぢばかまぞも︿素性﹀﹂(出典‥古今和歌集︵905‐914︶秋上・二四一)
(五)⑤ 動作、または動作の結果生じた物事の主体。また、事の当人。本人。﹁歌主﹂﹁拾い主﹂などと複合しても用いる。
(一)[初出の実例]﹁人の手本書かせ奉りけるを、ぬしはたれぞとありけるを、名のりもせで﹂(出典‥経信集︵1097頃︶)
(六)⑥ 山、川、池、家屋などにすみつき、劫(こう)を経た、なみはずれて大きい動物。その動物が霊力をもち、その場所を支配していると考えられる。また転じて、同じところに長年居住、勤務、または出入りしている人をたとえていう。﹁この学校の主﹂など。
(一)[初出の実例]﹁此の沼の主(ヌシ)に申す﹂(出典‥米沢本沙石集︵1283︶九)
(二)[ 二 ] 貴人を尊び親しんでいう語。殿(との)。君(きみ)。﹁…のぬし﹂の形で、人名などに添えて敬称としても用いる。
(一)[初出の実例]﹁これをみてぞ、なかまろのぬし﹂(出典‥土左日記︵935頃︶承平五年一月二〇日)
(二)[2] 〘 代名詞詞 〙
(一)[ 一 ] 自称。わたし。
(一)[初出の実例]﹁わうはらたてて、ぬしがとらふといふ﹂(出典‥虎明本狂言・唐相撲︵室町末‐近世初︶)
(二)[ 二 ] 対称。
(一)① 敬意をもって、相手をさす語。多く男に対して用いるが、時には女に対しても用いる。あなた。貴殿。お前さん。尊敬の度はさほど高くなく、同輩以下のものに対して用いることが多い。中世末期以後、尊敬の度は一段と低くなる。
(一)[初出の実例]﹁縦様(たたさ)にも彼にも横様(よこさ)も奴とそ吾(あ)れはありける奴之(ヌシ)の殿門に﹂(出典‥万葉集︵8C後︶一八・四一三二)
(二)﹁まことや、仲頼いと興ある事を承はりて、ぬしに聞えんとてなり﹂(出典‥宇津保物語︵970‐999頃︶吹上上)
(二)② 女から、夫、恋人など特定の男をさして親愛の意をこめていう語。また、近世、遊里のことばとして、遊女から客をさしていう。
(一)[初出の実例]﹁先お茶一つと茶碗をしほに立寄って、ぬしの新地通ひも﹂(出典‥浄瑠璃・心中天の網島︵1720︶中)
(三)[3] 〘 接尾語 〙 男の呼称のあとに付けて敬意を表わす語。まれに、女に対しても用いる。尊敬の度はさほど高くない。
(一)[初出の実例]﹁源氏木曾冠者義仲主者。帯刀先生義賢二男也﹂(出典‥吾妻鏡‐治承四年︵1180︶九月七日)
(二)﹁片山照子ぬしは工学博士東熊君の室にて、同じ博士田辺朔郎ぬしが姉君なり﹂(出典‥筆すさび︿樋口一葉﹀明治二四年︵1891︶)
あるじ︻主︼
(一)〘 名詞 〙
(二)① 国、家などの長。あろじ。
(一)(イ) 一国の最高責任者。主君。
(一)[初出の実例]﹁国に二の君非(あらず)、民に両の主(アルジ)無し。率土(くにのうち)の非民(おほむたから)は王(きみ)を以て主(アるじ)と為﹂(出典‥日本書紀︵720︶推古一二年四月︵岩崎本訓︶)
(二)(ロ) 家や店の主人。また、主婦。
(一)[初出の実例]﹁あるじききつけて、その通ひ路に、夜ごとに人をすゑてまもらせければ﹂(出典‥伊勢物語︵10C前︶五)
(二)﹁こち吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな︿菅原道真﹀﹂(出典‥拾遺和歌集︵1005‐07頃か︶雑春・一〇〇六)
(三)﹁あるじに酒すすめられて﹂(出典‥俳諧・奥の細道︵1693‐94頃︶敦賀)
(三)② ( ━する ) 主人として客をもてなすこと。饗応。あるじもうけ。また、接待役の人。
(一)[初出の実例]﹁さて仕うまつる百官人々、あるじいかめしう仕うまつる﹂(出典‥竹取物語︵9C末‐10C初︶)
(二)﹁方たがへにいきたるに、あるじせぬ所﹂(出典‥枕草子︵10C終︶二五)
(三)﹁南谷の別院に舎(やど)して憐愍の情こまやかにあるじせらる﹂(出典‥俳諧・奥の細道︵1693‐94頃︶出羽三山)
(四)③ 持ち主。所有している人。
(一)[初出の実例]﹁この局(つぼね)のあるじも、見ぐるし。さのみやはこもりたらんとする﹂(出典‥枕草子︵10C終︶一八四)
(二)﹁そのあるじとすみかと無常をあらそふさま、いはばあさがほの露にことならず﹂(出典‥方丈記︵1212︶)
(五)④ ( 比喩的に ) ある物事に熟達している人。
(一)[初出の実例]﹁さだかに弁へしらずなどいひたるは、なほまことに道のあるじとも覚えぬべし﹂(出典‥徒然草︵1331頃︶一六八)
(六)⑤ 住居。
(一)[初出の実例]﹁再び叔父の家を東道(アルジ)とするやうに成ったからまづ一安心と﹂(出典‥浮雲︵1887‐89︶︿二葉亭四迷﹀一)
主の語誌
﹁東道﹂という表記は、﹁春秋左伝‐僖公三〇年﹂の﹁以為二東道主一、行李之往来、共二其乏困一﹂による。近世から﹁俺(われ)復(また)那裡(かしこ)に赴きて、東道(アルジ)をせん﹂︹読本・近世説美少年録‐三︺のように用いられている。
しゅ︻主︼
(一)〘 名詞 〙
(二)① 身分的な上下関係で上位にある者。自分が仕える人。主君。しゅう。
(一)[初出の実例]﹁凡家人奴婢、謀レ殺レ主者皆斬﹂(出典‥律︵718︶賊盗)
(二)﹁主(シュ)ある人は、主の目をぬき﹂(出典‥評判記・難波物語︵1655︶)
(三)② 一国の統治者。きみ。君主。
(一)[初出の実例]﹁犯二主逆鱗一思レ報レ国、為二朝骨鯁一未レ営レ居﹂(出典‥田氏家集︵892頃︶下・奉傷致仕藤御史)
(二)﹁其主たりし頼朝すら二世をば過ぎず﹂(出典‥神皇正統記︵1339‐43︶下)
(三)[その他の文献]︹老子‐六五︺
(四)③ 集団の中心となる者。頭。つかさ。主宰。
(一)[初出の実例]﹁或東方浄瑠璃医王の主(シュ)衆病悉除の如来也﹂(出典‥高野本平家︵13C前︶二)
(五)④ 一家の主人。また、武家社会で一族の惣領をもいう。あるじ。
(一)[初出の実例]﹁イヤこのしゅは、モウ塵劫記(じんこうき)じゃアうりましない﹂(出典‥滑稽本・東海道中膝栗毛︵1802‐09︶二)
(二)[その他の文献]︹春秋左伝‐僖公三〇年︺
(六)⑤ 所有者。持ち主。ぬし。
(一)[初出の実例]﹁私田三年還レ主﹂(出典‥令義解︵718︶田)
(二)[その他の文献]︹書経‐咸有一徳︺
(七)⑥ 中心となること。また、そのもの。重要な点。おもな物事。眼目。中心。⇔客。
(一)[初出の実例]﹁舞・はたらきは態(わざ)也。主に成る物は心なり﹂(出典‥花鏡︵1424︶上手之知感事)
(二)[その他の文献]︹史記‐自序︺
(八)⑦ 行動をおこす者。働きかける方の者。主動者。
(九)⑧ キリスト教において、父なる神またはキリストのこと。
(一)[初出の実例]﹁主(シュ)ヱホバよ我いかにして我之を有(たも)つことを知るべきや﹂(出典‥旧約全書︵1888︶創世記)
(十)⑨ ( ﹁じゅ﹂とも ) 謡曲をうたう時の音声の一つ。細く弱い女性的な声をいう。律の声が主の声にあたる。︹風曲集︵1423頃︶︺
おも︻主・重︼
(一)( ﹁重﹂の意から )
(二)[1] 〘 名詞 〙 ( 形動 )
(一)① 最も重要なこと。また、そのさま。物事の中心をなしていること。主(しゅ)となっていること。→おもに︵主━︶。
(一)[初出の実例]﹁まあ此身がおものあやまり。けらいはかくべつわたしをふびんとおぼしめし﹂(出典‥浄瑠璃・狭夜衣鴛鴦剣翅︵1739︶一)
(二)﹁われらがやうな福人は、ぬす人の用心がおもじゃ﹂(出典‥咄本・鯛の味噌津︵1779︶番太郎)
(二)② ( ﹁オモ﹂と書く ) 能狂言の主役の呼び名。現在はふつうシテと呼ぶ。⇔あど。
(一)[初出の実例]﹁大蔵狂言に壱番の狂言の長する者を仕手と言、余流にては重と云と聞﹂(出典‥狂言不審紙︵1827︶春)
(三)③ 主人。旦那。
(一)[初出の実例]﹁だんなをおも﹂(出典‥新ぱん普請方おどけ替詞︵1818‐30頃か︶)
(三)[2] 〘 造語要素 〙
(一)① 重要な、中心をなすなどの意を表わす。﹁おも役﹂﹁おもだつ﹂など。
(二)② 重いの意を表わす。
あろじ【主】
- 〘 名詞 〙 ( 「あるじ」の古形か ) 主人。その家の主。
- [初出の実例]「談連の従人(ともひと)同姓(かばね)津麻呂、後に軍の中に入りて其の主(アロジ)を尋ね覓(もと)む」(出典:日本書紀(720)雄略九年三月(前田本訓))
- 「千町田のあろじが植ゑし黄菊かな〈八重桜〉」(出典:続春夏秋冬(1906‐07)〈河東碧梧桐選〉秋)
す︻主・子︼
(一)〘 接尾語 〙 人名または人を表わす名詞に付いて、親愛や軽い尊敬の気持を表わす語。江戸中期、上方の遊郭で言いはじめて、通人の間で一時流行した。さま。
(一)[初出の実例]﹁青蜉す、其たばこ入御見せ被レ成、ムウとろめんじゃの﹂(出典‥洒落本・穿当珍話︵1756︶)
(二)﹁コリャしま主(ス)が無調法、ナントこういたしましょかいな﹂(出典‥滑稽本・東海道中膝栗毛︵1802‐09︶八)
しゅう︻主︼
(一)〘 名詞 〙 ( ﹁しゅ﹂の変化した語 ) 自分が仕える人。雇用関係における雇い主。主人。主君。あるじ。
(一)[初出の実例]﹁しうどもは、︿略﹀とて、うち泣き給ふもあり﹂(出典‥宇津保物語︵970‐999頃︶蔵開中)
(二)﹁下人の主(シウ)をなひがしろにせば﹂(出典‥仮名草子・身の鏡︵1659︶上)
主の補助注記
本項関連の子見出し項目は﹁しゅ︵主︶﹂の項にまとめた。
のし︻主︼
(一)〘 代名詞詞 〙 ( ﹁ぬし︵主︶﹂の変化した語 ) 対称。敬意はほとんどなくなっている。おまえ。
(一)[初出の実例]﹁ヒャアのし︵主︶やアうへのの長太じゃないか﹂(出典‥滑稽本・東海道中膝栗毛︵1802‐09︶五)
にし︻主︼
(一)〘 代名詞詞 〙 ( ﹁ぬし︵主︶﹂の変化した語 ) 対称。おまえ。きさま。おにし。
(一)[初出の実例]﹁孫八孫八、にしがはなし、おもしろひぞ﹂(出典‥雑兵物語︵1683頃︶下)
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主
しゅ
kyrios ギリシア語
﹃旧約聖書﹄では神は主であるという場合、それは神が万物の創造主、宇宙と全人類の唯一の主権者、生と死との支配者であることを意味する。ヘブライ人は神の名ヤーウェを唱えず︵﹁出エジプト記﹂20章7︶、これを主︵アドーナーイ︶とよび、ギリシア語訳﹃旧約聖書﹄では、ヤーウェを主︵キュリオス︶と訳している。﹃新約聖書﹄では初代教会は十字架の死と復活のイエスへの信仰から﹁イエスは主︵キュリオス︶である﹂︵﹁コリント書Ⅰ﹂12章3、﹁ピリピ書﹂2章11、﹁ロマ書﹂10章9など︶と告白した。これはイエスを神と告白することと同じであって、初代教会以来の基本的信仰である︵﹁コリント書Ⅰ﹂16章22︶。
﹇野口 誠﹈
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
主
しゅ
'Ādōn; Kyrios; Lord
ユダヤ教徒やキリスト教徒が至高神をさして呼ぶ言葉。古来ユダヤ人は神の名を口にすることを恐れはばかって,アドナイ (わが主) と呼び,旧約聖書中の神名もそのまま読まず,アドナイと読み替えた。そのため,神の名は一般にヤハウェといわれているが,正確な読み方はわからない。セプトゥアギンタではそのまま主を意味するギリシア語のキュリオスに訳され,これが新約聖書にも受継がれた。そこでは主はおもに神であるキリストをさす。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ぬーし【主】
沖縄の泡盛。原酒を素焼きの大甕に入れ、地下蔵で5年熟成させる古酒。原料はタイ米、黒麹。アルコール度数30%、43%。蔵元の﹁ヘリオス酒造﹂は昭和36年(1961)創業。所在地は名護市字許田。
出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報